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異世界召喚されし俺、美少女が変身したロボに乗り努力無双してしまう!?─竜の姫に俺は乗る!─  作者: 三丈夕六


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第22話 女王様、とぶ

 翌日。


 俺達はヨルムンガンドに乗ってトルテリア周辺の草原地帯へと来ていた。


 広い草原に、突如現れる断崖。何も無い空間に隆起したような場所……あれ、どれだけ高いんだ? トルテリアといいこの草原といい、俺の知ってる世界と全く違う光景だな。トルテリアは断崖と草原に囲まれた国。アシュタリアが大森林にあるし、国によって地形がかなり違うみたいだ。


 ブリッジのみんなも緊張してるな……。俺も一緒か。ツィルニトラとユウがどこまでの力を持っているのか。俺達との差が今から分かるんだから。


「すみません! 遅くなりました!」


 ブリッジの扉が開きティアマトが入ってくる。ティアマト、部屋に呼びに行った時にもいなかったしどこに行ってたんだ?


 ……ん?


 あれ、昨日付けてた髪飾り……。


 ティアマトは、渡した髪飾りを付けていなかった。


「? どうしましたショウゴ?」


 不思議そうな顔をするティアマト。もしかしてあれか? 真面目な場だからか? そう、だよな。何を気にしてんだよ俺。いつも付ける訳じゃねぇだろ。そんなの気にするとかキモいって普通に。


 ……昨日あんなに喜んでくれた訳だし。それでいいじゃん。


「あ、もしかしてショウゴ」


「来ました。トルテリアの部隊です」


 アシュタルの一言で会話が打ち切られてしまう。全員の視線がモニターへ集まる。モニターのに映った草原。その先から漆黒の竜が現れた。


 トルテリアの弩級戦艦竜「レビアタン」が。


 昨日はしっかり確認できなかったから、レビアタンをよく観察してみる。


 漆黒の体に機械製の翼。胴体に艦首と格納庫があるのはヨルムンガンドと同じだが、頭部は違う。金属製の額当てがあるくらいで、大きな瞳や口は生身のままだ。


 全身がツルリとした表面……昨日、市場で綺麗だと言っていた人がいるのも頷ける。人間の俺から見ても明らかに美人だって分かるよな、竜なのに。


"オッスオッス! ヨルちゃん久しぶりだねぇ〜"


 レビアタンの甲高い声。ヨルムンガンドはフンと鼻を鳴らした。


"相変わらず威厳もクソも無いヤツじゃのう。そんな振る舞いをしておったら余計年増に見えんか?"


"ダイジョブよ〜! レビアタンは美魔女で通ってるの! 人も竜もファンがめちゃくちゃいるしぃ!"


 口元に手を当ててクククと笑うレビアタン。その様子は巨大な竜なのに妙に小動物っぽい。


 にしても、2体はどういう関係性なんだ? お互い打ち解けてはいるみたいだから悪い仲じゃないと思うけど……。


「この前お話したのを覚えておりますか? レビアタンは元々、ヨルムンガンドと共に戦った仲間なのです」


 ティアマトが教えてくれる。そういや、言ってたな……ヨルムンガンドを含めた4体の竜がドレッドノートってヤツと戦って倒した。だからみんなはヨルムンガンド達の事を「弩級(・・)戦艦竜」って呼んでるって。そりゃ仲いいか。



"じゃ、そろそろ始めるよ〜!"



 レビアタンが呪文を唱えながらクルクルと空中を飛び回る。彼女の尻尾からマナ粒子が降り注ぎ、膜のようにゆっくりと草原一体を包み込んでいく。それが地面へ降り注ぐと、虹色のドームを作った。


"投影魔法!"


 レビアタンが魔法名を告げる。すると虹色のドームから波動のような物が溢れ出した。それがヨルムンガンドの体に触れた瞬間、ブリッジに大きな球体が現れ?。透明な球体。その中にレビアタンの姿が映り込んだ。


「な、なんだこれ!?」


 どの角度から見ても同じように映像が見えるな……球体を色んな角度から見ていると、ハインズに肩を掴まれた。


「訓練中に教えただろ。あれは投影魔法。俺達の世界で言う中継映像を流す魔法だ」


「そうだったっけ?」


 頭の中から記憶を呼び起こす。


 あ、そういや聞いた気がする。竜闘の儀の時は、戦闘区域限定だけど、それを別の場所に投影できるって。かなりのマナを消費するから竜闘の儀の時しか使えない魔法の1つとも言っていた。


「恐らく、トルテリア国内にあれより大きな球体が現れているんだろう。国民に見せる為のデモンストレーションでもあるという事だな」


 ハインズが言った通りに国民へ見せるためなのだとしたら、ツィルニトラは相当な自信家だという事になる。


「それほどまでの力、一体どのようなものなのでしょう?」


 ティアマトも俺と全く同じ事を考えていたようだ。俺達のことなんて眼中にないってことか?


 ……いや、やめよう卑屈になるのは。俺達には今チャンスが巡ってきている。優勝候補の戦闘を事前に見る事ができるんだから。これは明らかなチャンスだ。


「……始まりますよ」


 アシュタルの声で球体へ目を向ける。その中では、漆黒の弩級戦艦竜レビアタンが優雅に空中を泳いでいた。



"よろしくぅ〜盛り上げてよねっ!"



 レビアタンの格納庫ハッチが開き、1体の竜機兵が現れる。ドレイガルに似たような細身の騎士型機体。だけど、ピンクのような……マゼンタ色をしていて、左胸に竜核付きを表す装甲がある。明らかに量産型では無い風格が漂っていた。ここからじゃ細かい造形は分からないな。


「意外だな。あの女王がああいう竜機兵になるなんて」


 ドレスも何もかもまっ黒だったからてっきり黒い竜機兵になると思ってたな。


「え……あの色、あの姿……あれは……見た事があります」


 ティアマトが息を呑む。怪訝な顔。なんでそんな顔しているんだろう? 疑問に思っていると、ハインズが俺の隣で腕を組んだ。


「あれは、前回優勝者のストールだ。まさか……ツィルニトラ女王は前回優勝者と一騎打ちするつもりなのか?」


 優勝者と一騎打ち? おい、自信家どころの話じゃないだろそれ……。


 竜機兵ストールがハッチから飛行し、虹色のドームの中心でピタリと静止する。


「だとすれば、ツィルニトラ女王はどこなのですか……?」


 アシュタルが球体とブリッジのモニターを見渡す。すると、ダーナが「あっ」と声を上げた。彼女が指した先、レビアタンの近くに小型飛竜が飛んでいるのが映る。球体内の映像が拡大し、飛竜に乗る2人の人物が映った。手綱を握る男性に、その前に座る女性が。


 それはパイロットスーツを着たユウと、体にピタリと合う機兵服を着たツィルニトラだった。生身のまま? なんでそんな事やってんだよ。


 ツィルニトラが何かを唱え、彼女の口元に魔法陣が浮かぶ。魔法陣に向かって彼女が話し出すと、球体を見ている俺達にも彼女の声が聞こえた。



『この投影魔法を見ている全ての者よ、聞くがいい。諸君らの中には次回竜闘の儀へ女王である私が参加する事に不満を抱く者もいるだろう』



 球体の映像がツィルニトラをアップで映す。黒く長い髪を風で靡かせながら、彼女が言葉を続ける。


『私の力を知らぬ者。私の衰えを恐れる者。皆不安なのだろう? このような女が国を背負って戦えるのか、と』


 その眼をギラギラと輝かせるツィルニトラ。その言葉にみんなが聞き入っていた。ダーナも、ハインズも、アシュタルも、ティアマトも。みんな球体から目が逸らせなくなっていた。



『故に私はこれより前回優勝者たるストールと決闘を行う!! 竜闘の儀への参加を賭けた実戦だ!! 私に闘う力があるか否か……しかと見届けよ!!!』



 マジかよ……俺とティアマトがハインズと戦ったような事を、自分からやるって事か? しかも国民や他国の俺達の見る前で? なんでそんなこと……。


「彼女の言葉には絶大な意思と力があります。同じ王族として……己が恥ずかしくなるほどの」


 アシュタルがポツリと呟く。もしかして、この決闘はアシュタルに対しても見せつけてるのか? どちらが国として格上なのかを。


「見て下さいショウゴ!!」


 ティアマトに腕を掴まれる。画面の先では女王が飛竜の上に立ち上がっていた。



『我が父よ。竜神イァク・ザァドよ。我に真の力を。我が名はツィルニトラ・ジル・トルテリア。今、彼の者の鎧へ』



 ツィルニトラが詠唱しながら天を仰ぐ。そして……そのまま飛竜の上から倒れるように宙へと飛び出した。



「な!? 何をされているのですかあの方は……!?」



 ティアマトが困惑した声を上げる。ブリッジ内で上がる悲鳴。ユウが、落下するツィルニトラを追うように飛竜を急降下させた。



 ユウを迎えるように両手を開くツィルニトラ。彼女は、落下しながら魔法名を告げた。ティアマトが竜機兵へ変身する時に使う魔法を。



回帰魔法・竜機兵リグナリオ・オブ・ドラゴレギス



 瞬間、彼女の体がマナ粒子へと変わり、巨大な人の形を形成していく。



 それが眩いほどの光を放つ。



「うっ……!?」


 

 あまりの眩しさに画面から目を背けそうになる。だけど絶対に見逃したくなくて、目を細めてなんとかその様子を見守った。光の中から、漆黒の巨人が現れる。



 騎士のヘルムのような頭部。バイザータイプの眼に、真横一筋の赤い光が灯る。竜核を守る左胸の装甲。所々あしらわれた紫色の装飾に、女性的な細身のシルエット。そして、腰から伸びるスカートのような装甲。



 「黒騎士」のような竜機兵が、そこにいた。



 腰の装甲が開き、翼の形になる。ティアマトと全く違う……腰から翼が生えてるなんて……。



『来るがいい! ユウ!!』



 漆黒の竜機兵の下腹部に魔法陣が浮かび上がる。飛竜を蹴って飛び降りたユウが、魔法陣に吸い込まれた。



『んっ……』



 小さな声でツィルニトラの艶っぽい声が聞こえた。他のみんなは気付いていないみたいだ。あの反応、竜機兵には起こる反応なのか。ティアマトは特に過敏なようだけど……。


 数秒後、ツィルニトラのバイザーが赤く光を放ち、腰の翼をはためかせる。


 ブリッジの中では兵士達が感嘆の声を上げていた。その気持ちも分かる。あの変身はパフォーマンスの域を超えてる……ツィルニトラの覚悟、ユウの信頼、2人の関係性をあれだけで完全に示してみせた。竜機兵としての2人の仕上がりは完璧だと。



 天高く飛翔するツィルニトラ。太陽を背にした機体から、声が聞こえる。



『いやぁ〜死ぬかと思ったぜ〜……無茶させるよなぁツィルは……』


『ふふっ。良い覚悟であったぞ、ユウ』



 ツィルニトラが優雅に空中を舞う。軽口を叩くユウの声すら、俺には風格に見えた。


 彼女がゆっくりとストールの元へ舞い降りる。ストールは、空中で敬礼するような仕草をする。


『女王様。このストール、全身全霊を持って勝ちにいかせて頂きます』


 マゼンタの機体から女性の声が聞こえる。ストールが一礼して剣を構えた直後、機体全体からマナ粒子が溢れ出し、周囲を染め上げた。


「周囲のマナ粒子にまで影響を与えるなんて……あの機体の精神接続もとてつもなく強いです……」


 ティアマトのこの動揺の仕方……やっぱりストールの方も只者じゃないか。


 映像の中で、ツィルニトラが腕を組む。


『それでいいストール。それでこそトルテリアが誇る騎士だ』


 ツィルニトラが両腰から細身の実体剣を引き抜く。二対の剣を構えた彼女が叫ぶ。



『皆の者!! 竜闘の儀に挑む前哨戦だ!! 存分にその魂……焦がすが良い!!!』



 前回優勝者・竜機兵ストール。


 女王・竜機兵ツィルニトラ。



 2人の決闘が、始まった──。






〜ティアマト〜


まさかトルテリア最強の2人が闘うなんて……!?


次回、闘いが始まり、ストール卿が女王を押して始めます。しかし、女王の体に光の線が現れて……?


次回、「女王様ってこんなに……!?」


絶対見て下さいね♡

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