表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゾンビが溢れかえった世界でのんびりスローライフに挑戦してみた  作者: アルシャピン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/21

第17章 山菜マスター

体が満身創痍のため、力仕事から除外された私、田中太郎は、今冬の枯れた山道を、ゾンビのように歩きながら、

食べられる獲物――つまり山菜を探していた。

別に感染したわけではないぞ。

ただ体が痛すぎて、関節が思うように動かず、結果として「それっぽい歩き方」になっているだけだ。

もしこの場所に生存者がいたなら、逃げられるか、あるいは「感染者と誤認」されて駆除対象として襲われるかもしれない。

だが今の俺は、獲物を見つけても、駆除対象にされても、全速力で走ることすらできない。

逃げることも、戦うこともできない。

ただの全身打撲の男だ。

この世界では、一番弱い部類に入る自信しかない。


佐藤曰く、冬でも山菜やキノコは取れるらしい。

ノビル、ふきのとう、せり。

名前だけ聞けば知っているが、それを野山で見分けられるかと言われると話は別だ。

佐藤の実家にあった山菜・キノコ図鑑を渡されたが、正直なところ、写真と実物が一致する自信はない。

それでも、ある程度の場所は教えてもらった。

だからまずは、そこに向かう。

村の近くの山の中を、慎重に歩く。


……お、これは……たぶん、せりに似ている。


正解かどうかは分からないが、一応持っていく。

他にも怪しげなキノコを見つけたが、

これは流石にやめておいた。

キノコの毒は、種類も症状も幅が広い。

しかも今の世界では、「ちょっと具合が悪くなったから救急車呼んで」などできない。

少しの毒でも命取りだ。

病院も、解毒剤も、この世界にはもう存在していないのだから。


少し移動し、川沿いを歩く。

この辺りには、ふきのとうがあるらしい。


……あった。


これは、ふきのとうっぽい。

図鑑と何度も見比べながら確認する。

かなりの数が生えているが、

佐藤から「全部取るな」と言われていた。

二人で食べる分だけ採る。

全部取らずに残すことで、来年、また収穫できるらしい。


……田舎で生きる知識ってすごいな、と感心する。


自然と共生するとは、こういう「取りすぎない」「荒らしすぎない」という行動や判断なのだろう。


そんなことを考えながら歩いていると――


ザッ、ザッ。


地面を踏みしめる音。

佐藤は、この付近にはいない。


……奴らか?


音の方向を振り返り、周囲を探る。

ここは村の中だ。

入口と出口は塞いだ。


だが――自然領域から入ってくるルートは塞いでいない。


というより、広大なこの土地の中で、森や山からのルートを塞ぎ切ることなど不可能だ。

俺たちが塞いだのは、あくまで人工的に作られたいわゆる舗装された道だけだ。

これまで自然領域に感染者が入らないのは「仮説」だった。

だが佐藤の経験と、俺の放浪経験が重なり、それはほぼ確証に近いものになった。


――とはいえ、それも経験則に過ぎない。


例外は、必ず存在する。


まずい。

今の状態で奴らに出会したら、正直逃げられない。


戦うしかない――。


俺は川辺に落ちていた、手頃な石を二つ掴む。

投げて撃退できるとは思っていない。

だが、何も持たないよりはマシだ。

音が近づく。

川沿いの坂の上か……。

見上げる。


そこにいたのは――


――鹿。


立派な角を持つ雄鹿だった。

悠然とした歩き方。

夕日に照らされ、その姿はどこか神々しい。

一瞬、『もののけ姫』のシシガミ様が頭をよぎる。

こちらを見るが、特に興味は示さない。

人間がいなくなってしばらく経ち、人間を脅威として認識しなくなったのかもしれない。



そういえば、感染者は人間以外を襲わない。

犬や猫、猿や鹿。

目の前にいても、興味を示さない。

音に反応して走ってきて、それが人間でなければ、

何事もなかったかのように省エネモードに戻る。

理由は分からない。

色々な機関が研究する前に、世界が終わったからだ。

ただ、何かしらの理由はあるはずで、その理由は、この世界を変える可能性すら秘めている。

もしかしたら、どこかの研究機関が、まだ研究を続けているかもしれない。



ここに来るまでの田舎道でも、猿や鹿にはよく出会った。

今は冬だが、夏には一度、熊も見た。

人類のフィールドが消えた世界は、同時に、彼らの世界でもある。

もしかしたら、この感染は、増えすぎ、地球を壊しすぎた人間への代償なのかもしれない。


鹿はゆっくりと踵を返し、山へ帰っていった。

また会えるといいな、と思う。

狩って食べるつもりはない。

まず狩れないし、捌く知識もない。


……だが、生きるために必要になったら。


その時は、その時に考える。


そろそろ日が傾いてきたな。

ホームに戻ろう。


-----------------


しばらく歩き、村の中心に戻ると、佐藤が外の湧水の所で魚を捌いていた。


「山菜は取れたか?」


俺は籠を下ろし、見せる。


「ふきのとうは、やっぱりあったか。昔、あの場所でよく取ってたんだ」


そう言ってから、籠を覗き――


「……これは毒セリだな」


と取ってきたせりを省く。


え?


「似てるから間違えやすい。まあ仕方ない。

明日、俺も一緒に行こう」


……山の民アシタカ佐藤、さすがである。

俺一人だったら、かなりの確率で毒に当たっていた。

正直、佐藤がいなくても山菜は取りに行っていただろうし、毒だと気づかず、普通に食べていただろう……。


知識は、今この世界で生きるための武器だ。

何も考えなければ、真っ先に死んでいく。

佐藤の存在が、本当にありがたく感じる。


「そういえば、その魚ってどうやって食べるんだ?」


川魚は生で食うと危険だ。

寄生虫がかなり多い。

そして川の寄生虫は、本当に死ぬこともある危険なものだ。


「塩があるし、一旦干物にして、雨の日に家の中で焼くしかないな」


確かに、雨の日は匂いも音も立ちにくい。

だが、焼き魚の匂いは強烈だ。

奴らは必ず嗅ぎつけるだろう。

佐藤が俺の考えを察したように口を開く。


「生きるためには、今後そういうことも必要だろ?

それに、柵を作ったんだ。奴らが来ても対応できるか、試す意味もある」


確かにそうだ。

そして、焼き魚を焼く日に来ると分かっていれば、対策もできる。

そもそも拠点を作るというのは、見つからないためじゃない。

見つかっても、生き残るためだ。


「じゃあ……山菜も天ぷらにしたいな」


いいなと佐藤も同調する。

久々に、食に対する欲が湧いた。

この一年、レーションとか乾パンばかりだった。

味を楽しむ余裕なんてなかった。

食事は本来安らぎの中で取るものだが、今の世界になってからは一番危険な行為だ。

匂いが奴らを引き寄せる。


山菜の天ぷら。

焼き魚に塩。

それだけで、十分なご馳走だ。

いや、久々に食べたら昇天する自信がある。

よだれが出てきた。

はよ雨こい。


「よし、油と塩を探しに行こう」


「もう運び入れてあるぞ」


佐藤が指差した先は、メインホームになる家だった。

佐藤さん、さすがっす。


ここを中心に、今後、避難経路、第一・第二避難所を作る。

そして――畑や用水路も稼働させ、本格的に拠点としていく。


え、トイレ……?


それは山の中ですると気持ちいいですよ。

家の中のトイレは水道が止まっているので流れないし、どうしようもない。

そして、山の中でする最大の理由もある。

別に俺が変態なわけではないぞ。


放浪中、山の中で用を足したことは何度もあるが、その最中や直後に、奴らに襲われたことは一度もなかった。

それがなぜか――理由までは分からないが、推測はできる。

人間の匂いが、土や草木、獣の匂いに混ざって薄まるのだ。

奴らは嗅覚が鋭いが、「人間の匂い」として明確に認識できないと反応しない。

近くをうろうろはするが、それはまだ認識仕切っていない。

ただ、特に自然に存在しない匂いには、異常なほど敏感だ。

それは音も同じだ。

雨音や強風に紛れれば、人間の気配は薄まる。

だが、自然音以外の音には強烈に反応する。

つまり、排泄の匂いというのは、自然の匂いの中に溶け込めば、奴らには判別できないレベルまで希薄になる、ということだろう。

だから、トイレは山の中。

安全で、合理的で、ついでに気持ちいい。

これも、生き残るために身につけたサバイバル術だ。


----------------



「明日は晴れるかもしれない。畑を見に行こう」


俺は佐藤に提案する。


「ああ、それが俺の本職だしな。」


佐藤はサムズアップして笑った。


本格的なスローライフへの挑戦が、ここから始まった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ