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49 婚約者最優良物件

「オルクス公爵の意見とも一致しているようだね。オルクス公爵が国王陛下からの打診を拒否したことは聞いているよ」


 サンビジュムの確認にアリサは小さく首肯した。


『この頼もしさはなんだろうか? まるで年上に相談しているようだ』


「わたくしについては早めに公言してくださいませ」


「え? 公言は控えたいのかと思っていたよ」


「サンビジュム殿下に意中の方がいらっしゃらないのでしたらそうでございますが、わたくしが王妃にならないことをお約束いただけるのでしたら公言しても問題ありませんわ。いえ、早く公言すべきですわ」


「急ぐのはどうしてだい?」


「サンビジュム殿下の婚約者の地位を欲するあまり婚期を逃すご令嬢を少なくするためです。わたくしが相手となれば手を引く方もおりましょう。わたくしは揺るがぬ最有力候補でございますから」


 アリサがにっこりと笑った。後ろの方にいる使用人たちは黄色い声を上げたが、最も近くで見たサンビジュムは背筋を正した。


手練れ(てだれ)参謀(さんぼう)が笑ったように見えた……。恐ろしい十四歳の女性がいたものだ……。これは危険だ……』


「アリサ嬢の配慮はわかったよ。そのようにしよう。

それとは別にお願いがあるのだが」


 可愛らしく小首を傾げるとさらに歓喜の声がする。


「婚姻関係にならずとも友人として時には話し相手になってくれないだろうか?」


 アリサが顎に手を当てフムと思案する。


「友人というのは少々難しいですが、臣下としてでしたらいつでも参代いたしますわ」


『よっし! まずは信頼してもらえるように頑張ろう! 決して敵にしてはいけない……』


「ありがとう! 私からの誘いは忙しいときには断ってもらってよいからね」


「うふふふ。それは随分と高待遇でございますね。わたくしでお話相手になるのでしたらいつでも参りますわ」


「よろしく頼む」


 それからというもの月に一度は王宮で二人が逢瀬(おうせ)を重ねる様子に皆が頬を緩ませていた。

 サンビジュムの卒業パーティーでは息の合ったダンスを披露したため、最後まで王太子妃の座を狙っていた令嬢たちを黙らせることに成功した。


『殿下のお心が皆様に向くことがない以上、お早めに動きませんと良い縁談はなくなってしまうことをご理解いただきたいですわね』


 サンビジュムとアリサのダンスを唇を噛み締めて見ていた者たちへ心のなかでエールを送った。


 サンビジュムの恋のお相手である伯爵令嬢キャリーナは王妃陛下付き文官に見事採用された。


『ご本人の頑張りなくして合格できるわけはございませんもの。お相手様もサンビジュム殿下をお慕いしているということですわね。両思いなんて素敵ですわ』


 サンビジュムを(うらや)ましく思っていたアリサは前世でも今世でも恋を知らないので自分に向けれられている恋にも気が付かない。


「明日はケネシス様がお茶にいらっしゃる日ね。学園の入学までにお勉強しておくべきことを聞いておきましょう」


 ケネシスと姉エイミーと出会ってからケネシスは何度も足を運んでいるし、その度に小さな花束や美味しそうなお菓子を持参している。だが、残念ながら高位貴族としての礼儀なのだろうとしか捉えていないアリサであった。


 〰️ 〰️ 〰️


 オルクス公爵家の会議室ではユノラド男爵家を部屋に戻してから、ここ数日の慌ただしさと心痛とで皆が疲れた様子であった。


 オルクス公爵がゆっくりと立ち上がった。


「ズバニールの処遇は決まったのだ。あとはユノラド男爵家の考えに任せるしかあるまい。

わしは執務へ行く。四人はどうする?」


「我々は王宮へ参ります。メイロッテとの婚約を公言できることになりましたらすぐにでも王妃陛下との茶会をと、再三言われてきましたので」


 ルナセイラが苦笑いで答えた。メイロッテは婚約の公言と言われ頬を染め、その様子をルナセイラは破顔して見つめた。


 あまりのラブラブぶりにオルクス公爵は小さく嘆息した。


『我が息子とこうならなかったことが残念だ』


「わたくしたちはワイドン公爵様にご報告に参りますわエイミーお義姉様(おねえさま)にもご心配をおかけしておりますし」


義姉さん(ねえさん)なら大丈夫だよ。昨日もズバニールさんが退場させられたのをご覧になっているから。義父上(ちちうえ)にも報告されていると思う」


「それでも、ケニィを我が家に迎えるのですもの。きちんとご挨拶は必要だわ」


義父上(ちちうえ)義母上(ははうえ)も君の来訪は喜ぶだろうから僕は嬉しいけど」


「それならば行って来くるといい。アリサ。手土産を忘れずにな」


「はい! お父様」


「メイロッテ。王妃陛下の好きな花を持って行きなさい。

殿下。見繕ってやっていただけますかな?」


「もちろんだ」


お義父様(おとうさま)。ありがとうございます」


 五人は各々退室していった。 


 

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