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45 エイミーの思惑

 茶会当日、メイドたちの気合により飛び切りの美少年にされたケネシスは義姉エイミーとともに馬車へ乗り込む。


「いい! その子があの本の発案者であることを私たちが知っていることはバレてはいけないし、当然その子が発案者であることを他の者にバレてもダメ。これは最重要ミッションだからね」


「わかりました。でも、僕はおしゃべりをする相手もいませんし本のことも詳しくはありません。気をつけるべきは義姉上(あねうえ)かと思いますが」


パーン!と小気味いい音がして、馬車内で正面に座る義姉から頭を叩かれ少し蹲る。


「本当に生意気ね。そんなんでその子を口説けるの?」


「口説く??? 僕はそのつもりはありませんよ」


「それにしては意気込みマックスな格好をしているじゃないの」


「こここれは! メイドたちが!」


 これまではメイドの説得も聞かずに支度に時間のかからないものを選ばせていたことをエイミーは知っている。


「はいはい。まずは自覚からスタートですね。了解。私のミッションは難しそうだわ」


 エイミーの呟きの意味がわからずケネシスは首を傾げていた。


 茶会の会場に入るとそこここから黄色い声が聞こえた。美少年で公爵家の後継者であると有名なケネシスが気合を入れた格好をしているのだからご令嬢たちの目が変わるのも当然である。


「あらあら。ケネシスは本当にモテるわね」


「半分は義姉上の責任かと思いますが?

痛てっ!」


 ケネシスの腕に乗せていた手を使って抓っているエイミーをケネシスは恨めしそうに見上げた。十二歳のケネシスと十六歳のエイミーではまだエイミーの方が背が高い。


「その生意気なお口は封印しなさいな」


「ご安心ください。義姉上にだけです。

 痛てっ!」


 懲りないケネシスはそれほどエイミーに心を許している。


 主催者である侯爵子息とその婚約者に挨拶を済ませると飲み物を持って一つの丸テーブルに座った。ご令嬢たちがひっきりなしに挨拶に訪れ相席を願うがエイミーが全てを蹴散らした。


『ケネシス様を養子縁組解消してエイミー様のお婿様になさるのではないかしら?』


 ケネシスにご令嬢を寄せ付けようとしないエイミーの態度にズレた想像をするご令嬢たちが増えてきた頃、やっとエイミーが笑顔になった。


「来たわ」


 エイミーの視線を追うとオレンジ色の髪のご令嬢と黄緑色の髪のご令嬢が主催者に挨拶している後ろ姿が見える。


 挨拶を終えこちらに向いた姿にケネシスは動きを止めた。


『自然を司る妖精が現れた……』


 翡翠色の髪を少女らしく左右にツーサイドアップにした少女は桃色のドレスが似合っており歩き方がとても優雅でこれまでケネシスが見てきた同年代とは格の違いを感じた。


「メイロッテ!」


 エイミーが立ち上がり手を振ると気がついたメイロッテは近くにいるメイドに何かを注文してからケネシスたちのいるテーブルへやってくる。

 可愛らしく気品に溢れ口元に笑顔を絶やさないアリサを近くで見たケネシスは着席の状態で尚更硬直する。


「エイミー様。お久しぶりでございます。まずはわたくしの義妹を紹介させてくださいませ」


「ええ。もちろんよ。

 ん! んん!」


 エイミーが呆けているケネシスを促すと慌てて立ち上がった。


「オルクス公爵家が長女アリサです。よろしくお願いいたします」


 挨拶に伏せた目を上げると長いまつげに縁取られた金色の大きな瞳がケネシスを貫く。


「私はワイドン公爵家のエイミー、こちらは私の義弟(おとうと)よ」


 まだ未就学の子女同士なので堅苦しいほどの挨拶はしない。


 またしても呆けてしまったケネシスが慌てた。


「あ、その。ふぅ。

ケネシス・ワイドンです。よろしくお願いします」


 ケネシスは小さく深呼吸して挨拶をしたが、ケネシスの緊張を察してしまったメイロッテとアリサはケネシスを安心させるように小さく笑い、エイミーは呆れ顔で軽く睨んだ。


『自覚するのは早そうでよかったわ。こんなに可愛らしいのだもの当然かな。よし! これで私はアリサ嬢との交流に集中できる!』


 思ったより一つ目のミッションが簡単にクリアーできることをエイミーが心でほくそ笑んでいるうちにメイロッテはケネシスの緊張を慮り積極的に話していく。


「わたくしは西部辺境伯コンティ家の娘メイロッテですわ。エイミー様にはとても親しくしていただいておりますの」


「北部のおじ様と交流があるお家なの。

とにかく座りましょう」


 一番年上のエイミーが仕切り四人がテーブルに座るとお菓子の乗ったトレーと冷たいジュースが運ばれてきて和やかな雰囲気となった。

 

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