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してほしいこと

 素振りを終えた俺は軽く汗をかいた体で帰宅する。だが、いざとなって玄関の扉を開けようとすると、怒鳴ってしまったことを思い出して入り辛い。


「……いや、これだと一生入れないじゃん」


 自分にツッコミを入れた俺は思い切って玄関の扉を開けるのだが、そこで俺は思わぬ光景を見た。


「おかえりなさいませ」


「あ、ああ……ただいま」


 リアラは律儀に俺の帰りを待ってくれていた。別に待ってくれていなくてもよかったのだが、一応今はリアラの主人である俺を出迎える事はメイドとして当たり前なのだろう。


「夕食はできていますので」


「分かった、すぐ行く」


 手洗いうがい、そして汗を軽く流す為に顔を洗ってリビングに向かう。テーブルには、家を出る前に書き置きしていたメモ書きの通りのおかずが出揃っていた。

 野菜炒めに中華スープ、冷凍の餃子と米。オムライスとは違い、ぼろぼろな餃子以外は普通の見た目である。


「すみません、餃子は失敗してしまいました」


 完璧そうに見えるリアラが料理下手って、かなりギャップがあって寧ろいいと思うから別にいいんだけどな。


「ああ、いいよこれぐらい。リアラは食べないの?」


「私は後で食べますので」


 やはり俺とは食べたくないのだろうか。今に始まったことではないので別にいいのだが。


「……じゃあ、いただきます」


 馬鹿にしているわけではないが、中華スープをリアラが作れるのだろうかと不安に思っていたのだが、見た目は完全に中華スープである。

 これは少し期待できると思っていたのだが、いざ口にすると鶏ガラスープの素と塩胡椒を入れすぎていて中々しょっぱい仕上がりになっている。


「……」


 野菜炒めも同様、胡椒をかけすぎていてむせそうになった。

 まあポジティブに考えれば米が進むというもので、人の作ったものを残すのはできる限り避けたい。そんな思いで食べていると、


「あの……」


「う? んっ……どうした?」


 さっきまでの強張っていた表情とは違い、何処かしおらしい態度で声をかけてきた。


「──失礼な態度をとっていて申し訳ありませんでした」


 リアラはメイドらしい綺麗なお辞儀をして、俺に謝罪してきた。


「ああ……それは別にもういいよ」


 俺はリアラの態度に関してはそこまで怒っていない。男が嫌いなのであれば、それが態度に出てしまうのはまだ仕方ないと思うから。じゃあ何に俺が本当に怒っているのかというと、リアラが自分の体を安売りしたことだ。


「リアラ、これからは自分の体を簡単に売ったりするようなことはやめろよ。何をしてもいいとか、何されてもいいとか軽はずみに言うのは禁止だ」


「……はい」


「あと、俺は正直リアラの事は知らない事だらけだし、だからこれから知っていこうと思ってる。だからリアラも俺を見限るのは勝手だけど、すぐに見限るのはやめてくれ」


 初日から女の子に嫌われるほど悲しい事はない。顔だけで判断されては無理なのだが、性格も見てくれるのならすぐに決めるのはやめてほしいという、個人的な意見の押しつけだ。

 これで無理だと思われたなら諦めるのだが、


「……分かりました」


 まだまだ冷たい態度のままだが、返事はしてくれた。一歩前進といったところだ。

 

 さて、この少ししょっぱい晩ご飯を片付けるとしますか。




  ◆




「ごちそうさま」


 リアラは俺が食べ終わるまで立って待つつもりだったようで、俺は座ってテレビでも見てていいと言った。だが、リアラはテーブルの四つの席のうち、俺から斜め前の席に座り、そのまま何も喋らなかった。


 そんな会話のない気まずい雰囲気だったが、俺が食べ終わるとリアラは食器を持っていってくれた。


「あ、ごめん、ありがとう」


「当然の事ですので、お礼は言わなくていいです」


「してもらったんだからお礼を言うのは当たり前なんだ。してもらうことを当たり前にしちゃいけない」


 これは父さんと母さんに口酸っぱく言われていた事だ。高校生になって俺もようやく意味が分かってきた。お礼を言わないのを続けていると、本当にお礼を言わない人間に育ってしまう。そんな人間を俺は何人も知っている。


「後から後からって引き伸ばしてたら言いづらくなるしな。だから言える時に言うんだ」


「……そうですか」


 さっきからカッコつけていってるけど、いざ口にすると恥ずかしいなこれ。


「ふ、風呂入ってくるよ」


 逃げるように俺は脱衣所に向かい、洗濯機に服を放り込んで風呂場に入る。


「あ、風呂沸かしてくれてる……いや、メイドとしては当たり前なのか? そもそもメイドがなにするかなんて全然把握してないんだけど……」


 一人暮らしを始めてからは面倒くさくてシャワーだけで済ませがちだった為、こうして風呂が沸いているところを見るのが久しぶりである。

 すぐさま頭と体を洗い、いつからか忘れていたお湯に浸かる感覚を味わいながら、少しずつ足を入れていく。


「おぉ……」


 久しぶりに浸かるので思わず声が出てしまったが、流石に今出した声はキモすぎた。リアラがその場にいれば、ゴミを見るような目で見られていたに違いない。


「てかどうすっかな〜。友樹と茜には言うべきか……」


 友樹と茜に関しては信用している友達だ。それに普段から俺の家に遊びに来ることが多い二人には、いつかは必ずバレる。それなら早めに伝えておいた方がいいだろう。


「よし、月曜日に言おう」


 こうしてゲームの中にいたメイドが俺のもとにやって来たわけだが、これを友樹と茜に伝えるまでもない出来事が起こるなんて、俺には想像できなかった。

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