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複雑な気分

「……ん……あれ、いつの間にか寝てたのか」


 部屋の電気は消えていて、カーテンのごく僅かな間から差し込んでくる月の光だけが部屋の中を照らす。


 昨日の夜はかなり楽しかった。プールで泳ぎ疲れた後の夕食は安定のバイキング形式で、種類が豊富で飽きることなく食べることができた。スイーツも十種類ほどあり、リアラも表情からは分かりにくいものの、目を光らせてスイーツを楽しんでいた。


 夕食の後も少しだけ自由時間があったのだが、プールで結構満足していたため、部屋で友樹とスマホゲームをしながら雑談をしていた。お土産を買うことも考えはしたのだが、東京で一気に買ってしまう方がいいと思ったため、一つだけ可愛いストラップだけを買って他は部屋で食べるお菓子しか買ってはいない。


 修学旅行といえば、就寝時間が過ぎてからの深夜雑談だが、友樹のコミュ力のおかげで部屋が同じの二人とも話をした。ちなみに名前は田辺と有澤。


 話の内容はど定番で、誰が好きなのかという俺は嫌いなテーマ。俺ははぐらかして答えていないのだが、田辺と有澤は聞かれて即答でリアラだった。何故か申し訳ない気分になってしまった。


 とまあ自慢はさておき、まだ明るくなる気配がない静かな空気の中、もう一眠りする前に水だけでも飲んでおこうとしたのだが、あることに気づく。


「……あれ?」


 やたらと下半身が重い。それはもう金縛りにあっているかのようで、足の指は動かせるものの、膝を立てようとしても何かに阻まれている。辺りを見回すが、寝相が悪くて誰かが俺の足に乗っかっているということでもない。


「だ……誰?」


 俺はゾッとして震えが止まらない。部屋にいるメンバー以外に誰がいるのだろうかと。


 俺は恐る恐る布団をめくった。


「……バレてしまいましたか」


 そこにいたのは、俺の股間近くに顔を寄せているリアラだった。


「……」


 な、なんでこんなところにリアラがいるんだよ! 寝る前は微かに覚えているが、リアラを部屋に呼ぶなんて話はしてなかったし、男嫌いのリアラが俺と友樹以外の男子が二人もいるようなところに来るわけがない!


「何を驚かれているのですか?」


 官能的な声で言いながら、リアラは布団を被りながら俺の上に跨った。そして体を俺の方に委ねてくる。目線を下にずらせば、少しはだけたパジャマから胸の谷間が見えてしまう。


「修学旅行といえば……こうやってバレないように男子の部屋に入るのが定番です」


「な、何言ってんだ!」


 耳元で囁かれて思わず身震いする。リアラがこんな積極的になるわけがない! でもこのままリアラの体を堪能していたいという矛盾が頭を駆け巡る。


「と、取り敢えず離れろ。バレたらどうするんだ」


「いいじゃありませんか。見せつけてやればいいのです」


 もう一度心の中で言う……何言ってんだこの子。息を荒くしているリアラの姿は、暗くてあまり見えていないのにも関わらずエロい。今のリアラは存在がエロだ。


「さあ、和樹様。全てを私にお任せください」


 さっきまでは顔の横にあったリアラの顔は、今ほぼゼロ距離で俺の目の前にある。そしてその距離はさらにジリジリと詰められている。


 ああ……俺も遂に――――。




  ◆




「……やっぱり夢ですか、そうですか」


 嬉しさと興奮が夢の中で一気に襲いかかってきた分、現実に戻った俺には喪失感と精神的な疲れがどっと流れ込んでくる。

 はぁ……まあ分かってたよ。リアラがこんなことをしてくるなんて、よっぽどのことがないとありえない。それこそ俺が頑張ってリアラと恋人にならない限りはな。


「はぁ……男って怖いね」


 なんて単純なのだろう、今の夢を見ただけで小さなテントが張られている。なんで立ってほしくない時でも簡単に立ってしまうのだろうか。


「みんなが起きてなくてよかった。取り敢えず静まってから歯を磨こう」


 スマホを確認すると、朝食の集合時間までまだ一時間もあった。五分もすれば収まるし、テントが畳まれるまで待つことに。


 集合時間まで三十分になった頃には俺の息子も落ち着きを取り戻し、他の皆も起きて準備を始めた。


「おい、どうしたんだ和樹、落ち着かない様子だけど」


「い、いや、なんでもない」


 やはり駄目だ。あの夢は中々脳へのダメージが大きい。下着姿のリアラは見たことがあるが、迫ってくるリアラは全く想像できなかったが故に衝撃的だった。


 ……とはいえ、思春期の男子にとっては素晴らしい夢だった。あれよりも先に進んだことを友樹と茜はしているのか……けしからん!


「お前……流石だな」


「なんのことだよ」


「あ、いや、こっちの話だ」


 気持ちを切り替えて朝食の会場に向かう。バイキング形式なのは変わらないが、勿論メニューは朝食用に変えられている。そしてどれを食べようかトレイを持ちながら悩んでいると、右隣にリアラが来た。


 ……ああっ! 折角気持ち切り替えれたと思ったのに! やっぱりリアラの顔が隣りにあると思うと、夢でのリアラがフラッシュバックしてくる。俺はリアラを避けるように左側にあるパンを取りにいく。


「あの……私は何か失礼なことをしましたか?」


「え?」


「いえ、私を避けるように動いていましたから……」


 察しがいい……って、申し訳無さそうにしてる! 不純な気持ちになってる自分が恥ずかしいじゃん!


「いや、こっちの話なんだ。気にするな」


「そうですか……」


「そ、それよりどうだ。楽しめてるか?」


 無理矢理話題を変えた。これは俺の気持ちを再び切り替える意味もある。


「はい、楽しいですよ。茜さんも優しく接してくれてます。同じ部屋の人達も悪い人はいませんし」


 まだ完全には心を開ききれていないだろうが、今のリアラが浮かべている笑みは本物だ。この調子ならなんとかなりそうだな。


「そうか。茜はいいやつだからこれからも仲良くしておいたほうがいいぞ」


「はい、私もそのつもりです。では」


 何を食べるのか選び終わったリアラは席に戻っていった。俺も目当ての品は確保できたため、席に戻って急ぎ気味に食べた。


 

 朝食を食べ終わった俺はさっさと部屋に戻り、ゴミを片付けてバラけている布団を直す。部屋を出る準備を完全に済ませた俺はスマホの電源をつけて、ガルバのデイリーミッションを確認する。


 東京行くまでの時間、バスの中はアニメを見るつもりでその後もゲームをする余裕はない。夜なら大丈夫だろうが、デイリーミッションは忘れがちだし、今のうちに終わらせておきたかった。


 デイリーミッションが終わってすぐに部屋のメンバーが戻ってきた。時間に少し余裕を持って部屋を出た俺達は、先生を除いて誰よりも早くフロントに来た。


「ほう、早いな」


 白崎先生が感心したように話しかけてくる。


「ダラダラしてても仕方ないでしょう?」


「いい心がけだ。おっ、お前の彼女かメイドか奥さんか知らんがあいつも早いぞ」


 白崎先生の視線の先を見ると、リアラが他の女子と一緒にこちらに向かってくる。


「ああ、本当だ……って違う! やめてくださいよそんな言い方。まだ知ってる人友樹と茜以外いないんですから」


 白崎先生はリアラと俺が同居していることを知っている。俺がリアラと出かけた時に、白崎先生はたまたま俺達を見かけたらしい。そして詰められた、それだけである。


「そうだったな、悪い悪い。……はぁ〜羨ましい」


 聞こえちゃってるよ。心の叫びがそれはもう悲しげに。なんか本当に可哀想な人だな。


 十分ほど待つと全員集まることができたので、次の目的地である東京に行く。バスの席はリアラと少し離れてしまっているが、リアラの隣に乗っている浜辺さんはクラスの委員長だ。かなり真面目な性格をしているため、雰囲気が似ているリアラと相性はいい。


 俺は寝れるだけ寝た。日頃の疲れを取るようにそれはもう爆睡した。そして気がつくと、東京といえばこれといえるであろう東京スカイツリーが見えていた。


 しかし一旦スカイツリーはスルーして、新宿にあるホテルにチェックインをする。そして少し遅めの昼食を取ったあとは、今度こそスカイツリーに向かう。


 ……あいつ、大丈夫かな?




  ◆




「おお……まだ三時だけどこれは凄い」

 

 今俺達がいるのは地上から三百五十メートル離れたエリア。夜ならもっと綺麗だっだだろうが、やはりスカイツリーから見る景色は絶景だ。友樹も茜も興奮しながら景色を楽しんでいた。


 俺も確かに感動していたのだが、それよりも気になってるのは隣りにいるリアラの存在だ。足が普通に見てれば分からないが、プルプルと震えている。でもこれはまだマシだ。少し下に行くとガラス床があるのだが、そこを覗いたときのリアラの顔はこの世の終わりを感じているかのようなものだった。


「か、和樹様……」


 窓際はまだ人が結構いるため、ある程度人が流れていったらいこうと思っていた。しかしリアラは単純に怖くて動けないだけのようだ。そんなリアラは滅茶苦茶小さい声で話しかけてくる。


「なんだ?」


「この修学旅行というのは私への嫌がらせのためなのでしょうか? ……飛行機に乗せられて、プールで水着を着せられ、更にはこんな高いところで景色を見るなどと……」


「飛行機と今はまだしも、プールは最悪回避できただろ」


「それはそうですけど……」


 リアラは恥ずかしそうに続けた。


「茜さんが誘ってくれましたので……あれだけ純真な瞳で頼まれたら断れないです」


 茜は良くも悪くも真っ直ぐだ。今回だって、リアラをプールに誘ったのはリアラと一緒にプールに入りたかったからに違いない。リアラも前なら素っ気なく断っていたのだろうが、これも精神的に成長した証と言える。


「まあでも、プールも少しは楽しかっただろ?」


「……うるさいです」


「ツンデレ」


「怒りますよ?」


 目からハイライトが消えた。これ以上刺激してしまうと俺の命が危ない。どこから取り出したのかも分からないダガーナイフでも飛んできそうだ。


「ごめんなさい」


「……ですが、確かに楽しかったのかもしれません」


「えっ……?」


 それだけ言うとリアラは後ろを向いて茜の方に歩いていった。……ビビってるからかいつもより歩幅が小さいことは、指摘しないほうがいいのだろう。


「……素直じゃねえな本当に」


 だがこんなところもリアラの魅力なのかもしれない。素直になれないのは俺も一緒なのだから、悪い部分だとは言いたくない。


 そう自分に言い聞かせて、俺はリアラの後を追った。 


 


 

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