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第15話

 フードとマスクで顔を隠している人物は、十字路にある電柱の下に花束を添えて手を合わせる。

 罪人が神父に手を合わせるような必死さで。


「行きましょう、青葉(あおば)さん」


「待て。終わるまで──後、碧依(あおい)は危ないから隠れてなさい」


 もしかしたらこの人物は何人も人身事故に見せかけて殺害した犯人かもしれない。

 それでも──死者への執着か懺悔(ざんげ)か分からないけど──見届けるべきである。

 数分間、そうしていた。

 過去を思い出してか数度ぴくりとこわばるような身体の震えが見えた。


 合わせていた手を解き、立ち上がる。


「夜分遅くに失礼。少しお話を聞かせてもらっても良いかな?」


 私は相手に警察手帳が見えるようにそう言った。

 顔を隠して人物は夜中に後ろから声をかけられているのに驚く様子もなく、ゆっくりとこちらを向く。

 身長180程、おそらく男性、ダボダボの服でも分かる筋肉体系。


 一瞬、揺らして──体勢を低くして私の視界から外れる。

 そして全速疾走。


「あ。──くそっ」


 負けずと走り出す。

 相手の大股は私に三歩に相当する。

 着実に距離が出来ていく。


 だから落ちている木の棒を拾い上げ、足元を狙って投げる。

 ──当たった。

 ほとんどヤケみたいな行動だったけど、クリティカルヒット。

 体勢を崩して転ぶ。


 しかし再び走りだそうと軌道修正を──。


「うぉりゃあ!!」


 そこにすかさず顔面に跳び蹴り。


「──っ」


 相手も予想外だったようで、一瞬意識を飛ばしそうになる。


 ……それにしても逃走しようとしたからといって逮捕令状も出ていない人物を蹴り飛ばしてしまった。

 これが人違いであるなら始末書じゃすまない。


倉科(くらしな) ジンパチの殺害。また過去3件のひき逃げ殺人。その犯人で間違いないか?」


「……」


 当たり前のように返事はない。

 それから相手は拳を強く握り、ファイティングポーズをとる。

 呼吸を整え、軽くジャンプする。


「ボクシングか」


 確かに復讐のはけ口に身体を動かすにはぴったりだ。

 敵の心を折る戦い。


「でも悪いね。私の武術の心得はたったひとつ。──〝柔道〟これ一本。やっぱり刑事ならスタンダードに柔道でしょうが」


 警察官なら柔道か剣道じゃなかろうか。

 柔道同士の取っ組み合いはよくするけれど対ボクシングは初めてである。

 靴を脱ぎ、裸足になる。


 異種格闘技の映像を見るのが好きだけど、この組み合わせは泥仕合(どろじあい)だ。

 掴めれば柔道の勝ち、距離を取り続けられればボクシングの勝ち。

 腕のリーチを考えれば相手に軍配が上がる。


「私、寝技得意だから覚悟して。県警の奴等にも負けんよ」


「よっ、床上手!」


「違うわ!!」


 遅れて追いついた碧依(あおい)

 息はかなり上がっている。


 離れるように目で合図する。


 相手とのにらみ合い。

 お互いに戦闘姿勢のまま微動だにしない。

 恋愛初心者の男女みたくそれはもう膠着(こうちゃく)状態である。


 仕方ない、私からアプローチを──……足を掴もうと突進したが相手の拳が目の前。

 寸止め。


「女だからって殴るのを躊躇(ちゅうちょ)したか? ひとつ言っておく、迷いのある戦いで拳を握るな」


 伸ばされた腕を掴み。

 背負い投げ。


 この体格差なら普通はこんなに綺麗に投げれることはない。

 柔道をしっかりと学び、地に足がついていればだが。


()()()()()()()()()()()。ばかもの」


 寝技に移ろうと、体勢を変えようとするが馬鹿力で逃げられてしまう。

 何発か良いパンチを食らう。

 しかし利き腕であろう右の骨は外しておいた。


 相手の身体に熱が帯びる。

 左拳のラッシュ。

 徐々に速さと威力が増していく。


 それを避け、手の甲で受け流す。


 頭に血が上ったのか大振りが来る。

 後ろに引きそれを避ける。

 そしてがら空きになった横っ腹目掛けて──。


「がっ!?」


 足が飛んできた。

 左の膝蹴りを顔面に食らう。


 相手も無意識にやってしまったことのようで「やばっ」という心の声が漏れる。


 あ、走馬灯が。

 どういうわけだか兄貴の結婚式の日の映像がフラッシュバックされた。


 なんとか意識を取り戻したが、脳が揺れて足がおぼつかない。

 鼻血まで出てきた。


「……やろぅ」


 このままでは逃げられてしまう。

 ここで逃がしたら、誰と分かっていようと逮捕出来る機会は無くなる。


「──ふぬん!?」


 〝ごきん〟とけたたましい音と共に地面に身体が転がる音。

 私が意識を飛ばして地面に伏した音かと思ったが、どうやら違う。

 意識を飛ばしたのは相手の方。

 なにやら下半身を抑えながら。


()()()()()は誰よりも理解しているつもりです!」


 そこには蹴り上げた足とぷっくり膨らんだ水色の縞々パンツ。

 〝男性の弱点〟とやらを全力キックした碧依(あおい)の姿があった。


 私は鼻血で真っ赤にさせた顔をハンカチで拭い、倒れている相手のマスクを外して素顔を確認する。

 唇は薄く色気のある日焼け気味のマッチョ坊主。

 交通課で資料確認を手伝ってくれたイケメン警察官である。


芦永(あしなが) メグル。殺人容疑。警察官への暴行。私の心を(もてあ)んだ罪で逮捕する」


「……最後のはなんですか?」

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― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます! ついに犯人?(容疑者)と対峙!! 奇跡的に木の棒がヒット!! その後飛び蹴りw 碧依w 床上手知ってるのかww 男ならではの弱点だけど……Σ(||゜Д゜)ヒィィィィ …
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