第75話 アリガマと四十人の盗賊
────
カッ!!
そんな音が聞こえそうなほど快晴な空。
今日も今日とて、この地域は容赦ない太陽の光が大地に降り注いでいた。
灼熱の太陽が大地を焼き、むき出しの岩を熱している。
この地のかつてを知る者はもうほとんどいないが、そのかつてを知る者が見れば、この地は大きく様変わりしてしまったと嘆くだろう。
魔法帝国崩壊。
マナが失われ、大地が死んだその日から、この地方の気候は大きく変貌してしまった。
中央部が完全に砂漠化しただけでなく、失われたマナの地に、マナの存在する空気が流れこみ、その大気をかき回しはじめたのである。
そうして生まれた渇き、マナを失った砂と空気により、その周囲に残された緑も徐々に数を減らしていった。
かつては森と大地の帝国とまで言われたその地も、今や岩と土の荒れた荒野が砂漠を囲むのみである。
そうしてむき出しとなった大地に突き出た岩の上。
街道を見張るようにして、一つの影があった。
「んー。港町から帝都を目指すって話が本当なら、この道を必ず通るはずなんすけどねー」
布と棒を立て、暴君のように照り付ける日光を避け、街道にある者達が通るのを今か今かと待ち構えている。
「っ! 来たっ!」
街道を歩く三つの影を確認し、岩の上にいた影は傘にしていた布をとり、大きく傘のように広げ、岩の上から飛び降りた。
「絶対絶対。あの人達っす!」
──ツカサ──
カッ!!
今日も今日とて見事に照りつける太陽の下、俺達は帝都にむけて歩いております。
次、街についたら馬車を使うキャラバンとか、もういっそ馬車を買ってそれに乗っていこうと心に決めながら、歩いている俺達であります。
乾燥していても、暑いとこ歩くのはやっぱつれぇわ。
……って、ん?
心の中で悪態をつきながら歩いていると、道に変化があったのに気づいた。
なにもない道の上に、なにかが転がっているのだ。
「なんだ?」
「……人? かな?」
俺の問いに、リオが答えてくれた。
『人、だな』
『人ですね』
「人にござるな。ござるが……」
道に人が倒れていた。
最初行き倒れかと思ったんだけど、その倒れ方が、なんかおかしい。
確かにその人はうつぶせに倒れてはいる。
でも、その人は腕と足をぴんと伸ばし。なんというか、水に飛びこんで身体を伸ばしているかのようなポーズで倒れているのだ。
ただの行き倒れなら、こんな倒れ方はしない。
もっと脱力して、力なく倒れているはずだ。
なのにその人は、身体をピンと伸ばして、道の真ん中に倒れている。
『ちなみに普通に生きてんぜ』
オーマが皆の興味事項の一つを答えてくれた。
本格的に行き倒れではないようだ。
そういえば、宗教の中にはあんな感じに地面に身体を投げ出して神様だか仏様にお祈りを捧げる方法があったようななかったような。
そんな宗教上の理由の行為なんだろうか。
この世界には、そんな感じの宗教行事が……いや、ないな。
あったら俺以外の誰かが知ってるだろ。
「とりあえず、拙者がまいりましょう」
ひゅー。さすがマックス。頼りになるぜ!
お前なら行き倒れに見せかけ、近寄ってきたら襲い掛かる強盗の類だったとしても問題なく撃退出来るだろうからな!
だから、任せた!
マックスが近づき、倒れたその人の肩へ手を伸ばす。
「もし。一体なにを目的に……」
「そこのお方々っ!」
びくっ!
突然の発声。
肩を叩こうと近づいたマックスも驚いて、思わず自分の肩を震わせた。
「あなた方の港町でのご活躍、そのお噂、しかとお聞きいたしました! そのお姿、そのたたずまい。その見事な腕前にほれこみました! どうか、自分のお願いをお聞き下さい!」
そのまま、打ち上げられた魚のように、両手をすり合わせたままびちびちと動く。
「どうか、どうか自分を、皆さんの弟子にしてほしいっす!! ですのでこうしてお願いの儀を執り行っております。どうか、どうかお願いしますっす!」
どうやら、日本でいうところの土下座をしてお願いするのと同じようなモンらしい。
なんか昔マックスが間違った知識でお願いして来たのを思い出した。
「ほほう。そうか、拙者達の。いや、ツカサ殿の偉業を聞きつけ、弟子になりたいと」
「はいっ! そのご偉業、まさに伝説! ぜひともその御業を自分にも伝授して欲しい次第っす、です!」
「ツカサ殿、弟子入り志願にござる。拙者以来の弟子にございますよ!」
なんで君そんなに嬉しそうなの?
言っとくけど俺、弟子をとった覚えないからね? 勝手に君が名乗ってるだけだからね?
まあ、免許皆伝でサムライ名乗れとか言ったりはしたけど。
「ついに拙者以外にもツカサ殿の偉大さに気づき、その技を学びに参る者が現れるとは、実に感慨深こうございますな!」
「いや、だから……」
「そうっす! とっても偉大っす! だから、どうか、自分を立派な盗賊にしてください!」
びしっ。
笑っていたマックスが固まった。ついでに身体にヒビが入ったように見えた。
「い、今、なんと?」
「はい。自分を、遺跡も完全踏破出来る、立派な盗賊にしてほしいっす!!」
「せっ、拙者達が盗賊なわけあるわけなかろうがーっ!!」
「ちっ、違うんすか!?」
なんか驚いた声をあげたのは、ダイナミックお願いしている弟子入り志願者の人だった。
驚いて顔をあげ、こっちを見る。
息継ぎみたいな格好だ。
顔があらわになる。
その顔は、少年といって差し支えのない若さだった。
「だって港町で、区長に遺跡のお宝を届けたってもっぱらの噂っすよ! 区長は博物館作るって張り切ってるっすし」
……確かにそれは、間違ってない。
「それは間違ってはいないが、拙者達は盗賊ではない!」
「ええっ!? じゃあなんで、遺跡からお宝を? 今時そんなことするのは、盗賊か道楽モンくらいっすよ!」
「それは、その時たまたまそこに遺跡があったからだ」
まあ、あの時(第71話)遺跡に入ったのも、暇だったとかそういうレベルの話だからなぁ。
だから、俺達は後者の道楽モンにあたるよね。
「た、たまたま入って、それで遺跡のお宝を手に入れた。なおすげーっす!」
息継ぎをおえ、少年はまた地面に顔を伏せた。
「ますます自分にその極意を教えて欲しいっす! どうか、お願いしますっす!」
うねうねと動き、地面に頭をこすりつける。
「自分は、どうしても踏破しなきゃならない遺跡があるっす! だから、どうか!!」
「……なにやらワケありのようだな。その理由次第では考えないでもないぞ。このツカサ殿がな!」
え? なんでそこで俺にふるの!?
「サムライのことならば拙者でも指導は可能でありますが、遺跡を踏破するとなると、ツカサ殿にお願いするしかございませんから!」
いや、なに言ってんのマックス。
そもそも俺達が遺跡の奥までいけたのはあそこは未完成で罠もなく、オーマの指示があったりしたからだろ。
だから、聞くとすればオーマに聞くべきだろ!(責任転嫁)
「はえー。そちらのお方が頭目だったんすか。自分とほとんど年も変わらないというのに、人は見かけによらないっすねー」
いや、感心されても困るっす。
俺は見かけどおりの少年でしかないんすから。
「ともかく、ワケ有ならそのわけを聞かせてもらおうか」
「は、はいっす!」
いや、その前に道でその格好はやめようね。誰に教わったのか知らないけど、話しにくいだろうし、聞きにくいから。
というわけで、ひとまず日影に移動しましたのさ。
「では、改めて」
こほんと、咳払いをして少年が話をはじめた。
「自分、名前をサノフって言うっす。こう見えて、かの大盗賊、アリガマ様の孫なんす!」
「アリガマとなっ!」
その名を聞いて、マックスが驚きの声をあげた。
『知ってんのかマックス』
「知ってんの、マックス?」
マックスの驚きように、オーマとリオが聞いた。
前も同じような驚きパターン見た気がする。
「はい。今より五、六十年ほど前のことでしょうか。この帝国を荒らしまわった義賊と聞いております。盗むのは不当にもうけた商人や役人からのみ。しかも盗んだ金は、貧しい人々に分け与えていたとか。その時代、たいそう人気を博したようで、その噂はこうして海をこえ、王国北方のマクスウェル領にまで届き、語られているほどです」
「へー」
『そりゃすげえ』
「てへへ」
言われ、サノフが照れた。
「そのアリガマに孫がおりましたとは。初耳にございます。まあ、帝国のことにございますから、正確な情報は入ってきていないだけかもしれませんが」
確かに、前の伝説の海賊ほど時間はたっていないし、帝国としてはあまり誇れたことじゃないから、国外にちゃんと伝えたくないってのもあるだろう。
「ちなみに唯一正確なのは、仲間は四十人いたことらしいです」
「へー」
……なんか、どっかのおとぎ話に出てきそうな話になってきたな。
感心しながら、そんな関係ないことを思った。
「ふーん。なら、踏破したい遺跡ってのは、そのアリガマに関係あるとこなのか?」
リオが聞く。
「そうっす。アリガマ様は、かつての魔法帝国の遺跡を再利用して、ご自分の墓を作られたんす」
……さっきから気になってたんだけど。
この人、自分のおじいさんのことを様づけしてるんだよね。アリガマ様って。
このへんじゃ尊敬する肉親をそう呼ぶ文化なのかな。
文化だったら下手に聞くと恥をかくな。
そう思い、思っただけで問いかけはしなかった。
ついでに聞いて話の腰をぽっきりと折って微妙な空気を作り出すのを避けたというのもある。
大丈夫。俺、空気読めた!
「そしてアリガマ様は、死ぬ際こういい残したっす。我が墓の扉を開き、その証を得たものこそ、我が宝と跡を継ぐに相応しい。すなわち、我が盗賊王の名を継ぐ者ぞ。と」
「お宝!」
宝という言葉に、こちらの少女が反応し、目を輝かせた。
そういや結局、遺跡からマトモなお宝手に入ったためしないからなぁ。
「アリガマ様の死後からすでに五十年。あまたの盗賊がその称号を目指しその墓に挑戦してきたっすが、いまだ誰もその扉を開けたものはいないっす」
『その称号は、そこまで求めるほどのものなのですか?』
ソウラが問う。
その声が聞こえた瞬間、サノフは首を捻って周囲を見た。
剣の形をしているオーマはともかく、ペンダントになっているソウラの声は、そこにインテリジェンスソードがあるとはすぐにわからなかったみたいだ。
リオが首元からソウラを引っ張り出し、見せるとそれがどういうものか理解したらしく、驚きつつもうなずいた。
「盗賊王は、帝国の盗賊すべての憧れっす。その称号が手に入れば、帝国内にいる盗賊全てがひれ伏し、従うとさえ言われているんす。だから、誰もがそれを手にいれようと虎視眈々とそこを狙っているんすよ!」
「その盗賊の中に、お前もふくまれるということか」
「いえ。自分、盗賊王の称号には興味ないっす。アリガマ様の墓の踏破にも」
「? ならばなぜ、遺跡破りの技を学びたいと? アリガマと関係があると言ったのはどういうことだ?」
「はいっす。実は、盗賊王の称号を狙うある盗賊団が、アリガマ様の墓を狙っているんす。そいつは遺言の扉を開けるのでなく、墓の壁に穴を開けて、そこから侵入して盗賊王の証をとろうとしてるんすよ!」
サノフは、悔しそうに拳を握った。
「そいつらは盗賊の矜持もなく、今まで墓にいどみ破れていった盗賊達も愚弄することを平気で行おうとしているっす。ただ盗賊王の称号とお宝が欲しいだけの、墓荒らし。そんな奴等に、アリガマ様の誇りを渡すわけにはいかないんす!」
「ほう。つまり、そいつ等が墓の中に不当に入れなければいい。ということにござるな?」
「その通りっすが、奴等は王国からやって来た悪党も吸収して、とんでもない勢力になってるっす。すでに集まった有志の盗賊団は壊滅させられ、残ったのは自分みたいな個人のみ。だから、出来るのは先に証を手に入れて、アリガマ様の誇りを守ることだけなんす……!」
「なんだ。ならばむしろ、話が早いではないか!」
あ、マックスが生き生きしはじめた。
なにを考えてるのか、手にとるようにわかるぞう。
「わざわざ墓を荒らすまでもない。その不敬な輩をまとめて潰してしまえば万事解決! むしろ拙者達はそちらの方が得意にござる!」
自信満々に、マックスは胸を叩いた。
いや、マックスさん? ご自身がお強くて自信があるのはわかりますが、『達』ってそこに俺もいれるのやめてもらえません?
俺、か弱い普通の男子高校生なんですけど。
とんでもない勢力になってるって人達と喧嘩したくないんですけど!
「ええっ!? 奴等、三桁を越える人数がいる上、何人もの用心棒、魔法使いを抱えているっすよ!」
「その程度今の拙者ならば戦い方でどうとでもなる! 遺跡探索で拙者は力になれぬが、不敬の輩に天誅をくだすのなら手伝ってもよい。盗賊の誇りを守るというのはひとまず置いといてもな!」
「いやいや、マックス。そんな物騒なことしなくてもさ、その扉ってヤツをぱぱっと開けて、盗賊王の証ってヤツを手に入れちまえば、無駄な争いする必要なくなるだろ。だろ?」
リオがわって入ってきた。
「はいっす。証を手に入れて誰かが盗賊王になれば、むこうもアリガマ様の墓を荒らす理由はなくなるっす」
「そうなりゃ、あとは盗賊王の権力でそいつらを従えれば、穏便に解決。万々歳ってわけだ」
「言いたいことはわかるが、貴様の場合証などより宝が目的であろう」
「そんなことないさ。穏便、サイコーだろ?」
リオ、そう言ってるけど、お目目にお宝ってかいてあるぞ。
キラキラ輝いてるぞ。
でも、確かにリオの言った方なら、穏便に話が進む。
百人単位の集団と戦うなんて、強いマックスや聖剣がついてるリオはいいとしても、俺にはキツイ。
数が多くなればなるほど、討ちもらしてこっちに来る可能性が高まるんだから、俺としては絶対に戦いたくないに決まっている。
最も安全なのは、このまま知らんぷりしてはいさよならすることだけど、さすがにそんな薄情なことは言えない。
だもんだから……
「じゃあ、まずはリオの言う正攻法を試して、ダメならその時そいつ等と相対するってのはどうだろう?」
意見の対立によりにらみ合った二人の間に入り、提案してみた。
これのいいところは、相対するパターンになっても、俺は最後の望みをかけ正攻法を行うって体で扉の前に残れるという安全策があるということ!
扉のよほど近くで掘ってなければ、ここが一番の安全地帯に違いない!
自身の安全を一番に考える。
それが俺さ!
「ツカサ殿がそう言うのならば、わかりもうした」
「じゃあ、あとはその扉ってヤツを開けるだけだな! 任せたぜ、オーマ!」
『結局おれっちだよりかよ……』
と、口では言うけど、頼りにされて嬉しそうだぞオーマ。
「そ、それじゃあ……」
「うむ。サノフよ。乗りかかった船だ。盗賊の矜持、守らせてもらおう!」
「あ、ありがとうございますっす!」
俺達の申し出に、サノフはぱぁっと笑顔になった。
こうして俺達は、大盗賊アリガマが眠るという、かつての遺跡を再利用したという墓へとむかう。
──リオ──
サノフの案内で、おいら達はその盗賊王。アリガマの墓にむかう。
サノフが他に企んでいるって可能性も捨てきれはしないけど、こっちにはツカサとマックス。それにソウラとおまけにオーマもいるんだから、罠とか企みなんかは全部返り討ちだ。
むしろツカサならそんなのもお見通しでついていってるに違いない。
街道をはずれ、道なき荒野をさらに奥へ。
緑はほぼなくなり、大きな岩がいくつも突き出し、土と砂しか見えない場所にやってきた。
岩と岩の隙間を抜け、大きく広がる荒野に出ると、前方にどでかい岩が見えた。
周囲の岩より一回り大きく、待ち合わせの場所に指定するにはうってつけの大岩だった。
「見えてきたっす。あの岩に見える遺跡が、アリガマ様の墓っす」
「岩に見えるって、あれ岩じゃねーのか?」
「岩なことは岩っすけど、遺跡を作って、岩を被せてるって聞いたっす。だから、岩も遺跡の一部で間違いないとか」
「へー」
遺跡とぱっと見わからないよう、偽装してあるってわけだな。
こういう風に偽装された遺跡もあるってことは、他にも見付からずに残ってる遺跡があっても不思議はないってことだよな。
南の島の例もあるし!
それも、ツカサやオーマなら見つけられる。
道中うまく見つけられれば、今度こそお宝手に入るかも!
おいらは生まれた希望に、ぐっと拳を握った。
「ここからではぱっと見遺跡とはわからんが、どうやってそれを遺跡と判別し、中に入ったのだ? 見えないところに穴でもあけたか?」
「大体の遺跡ってのは、場所が把握されてるんす。元々は魔法帝国が自分で作ったヤツっすから、位置の情報は残ってたっす。もちろん、未完成だったり、個人が秘密で作ったヤツとかのは把握されてないっすが、あれは元々その情報を元にアリガマ様が発掘したって聞いてるっす」
マックスの疑問にサノフが答え、おいらはさらに拳を強く握った。
それならやっぱり、まだ見つかってない遺跡があっても不思議はない!
きっとある。そう思った方が、夢とロマンがあるじゃないかー。
ぬふふ。
「やはり、ここにきおったか!」
「っ!?」
岩の上から、唐突に声が響いた。
笑ってたおいらのことかと思ったけど、どうやら違うらしい。
何事かと声のした方を見ると、岩から飛び降りる人影が見えた。
「危ないっ!」
マックスが声をあげた。
「とうっ!」
だが、心配はご無用だった。
その人影は空中で布を広げ、大きくブレーキをかけ、さらに一回転のおまけをつけて、ずどんと地面に降り立ったんだから。
小さく地面から砂が舞い、膝を突いて手をついたその人の姿を覆い隠す。
ゆっくりと立ち上がったその人影は、六十歳くらいの爺さんだった。
浅黒い肌をして、爺さんとは思えないくらい、ムッキムキの体つきをしている。
爺さんはすっくと立ち上がり、俺達の方。
正確には、サノフの方を見た。
「じ、じいちゃん……っ!」
立ち上がった爺さんを見て、そう驚く。
なんでここに? というような声だ。
じいちゃん?
確かサノフ、お前の爺さんは盗賊王だって言ってなかったか?
いや、爺さんは父方、母方の二人いるわけだから、もう一人出てくるのは変ではないけどさ。
なんか、変だ。
「サノフ……!」
厳つい声が、場に響く。
思わずおいら達の間にも、緊張が走る。
爺さんが、すっとこちらに手を上げた。
手のひらをこちらにむけ……
「……すまん、ちょいタンマ」
と、腰をとんとんと、叩きはじめた。
どうやら落下の衝撃に腰が耐えられなかったようだ。
「だぁっ……!」
おいら達は全員、毒気を抜かれちまった。
腰をとんとんすることしばし。
「サノフ、とりあえず、こっちこい。貴様、まさかアリガマ様の名をかたって仲間を集めようとはしておるまいな?」
「し、してないっす」
「なら、こっちへこい」
「いやっす。じいちゃんの拳骨、死ぬほど痛いっすから」
「やはり、していたか。いくら墓を守りたいからといって、アリガマ様の名をかたってどうする! そんなことをするために、お前にサノフと名づけたわけではないぞ!」
「まあまあ。御仁」
「なにかね。ワシは今、こいつを叱るので忙しいんじゃが!」
「その気持ちもわかる。わかるが、一つ質問をさせてもらいたい。名をかたるとは、どういうことにござる?」
「簡単なこと。サノフはワシの孫であるが、盗賊王。アリガマ・サノフの孫ではない。あの方には子はおらぬし、その名はワシがあの方を慕い、そう名づけただけ。こいつはそれをいいことに、その名を利用しておるのだ!」
「ああー」
それを聞き、おいら達はサノフを見た。
サノフはその視線から、もの凄い勢いで顔を背ける。
どうやら、間違いではないらしい。
そうか。だから、爺さんのはずの人に様づけなんてしてたんだな。
「しかし、ご老人はなぜ、アリガマに孫がおらぬこと。そのフルネームを知っているにござる?」
「そういえば、自己紹介がまだであったな。ワシの名はメッサー。かつてはアリガマ様の選ばれし四十人の仲間に選ばれたこともある男じゃ」
ふふん。と、爺さんが胸を張った。
つまり、盗賊王の盗賊団の一員だったってワケか。
「といっても、末席の若造じゃがな。アリガマ様が没する当時は十代じゃったし、その仮面の下のお顔も拝見したことはない」
「仮面?」
「なんじゃ、聞いておらぬのか。アリガマ様の仮面。目元を隠し、口元のみ見えるそれこそ、盗賊王の証。あの方が死を覚悟した際、その仮面と共に、みずからがご用意なされた墓へ、みずからの足で入っていったのだ。墓の扉を開き、その仮面を手に入れた者が、盗賊王を継ぐものであると宣言してな」
爺さんが、岩山の方を見た。
「それから、新たな盗賊王となるべく、皆その墓の扉に挑んだが、それから五十年あまり。その扉を開けられる者は現れなかった」
「っすが、今、アリガマ様の墓はその仮面を手にして盗賊王を名乗ろうとしている奴等に狙われているっす。じいちゃんの尊敬するアリガマ様の試練を受けるでなく、ただそれを手に入れればいいって考えのヤツっす。自分はそれが……!」
「サノフ。お前の言いたいこともわかる。じゃが、それを憂いた有志達は、返り討ちにあった。また同じことをしようとするな。このような若者に、無駄な血を流させるでない」
「違うっすよじいちゃん! この人達は、アリガマ様の扉をあける手伝いをしてくれる人達っす!」
「な、に? サムライのような格好をしているから、てっきり戦う気なのかと思ったぞ。相手は百人以上。しかも魔法使いに用心棒までいるというのに、それを説明していないのかと思うたわ」
「違うっす!」
まあ、戦うって言うヤツいるけどな。
ぶっちゃけ、そっちのが早いかもしれないレベルで。
今のマックスなら、並の戦士が百人集まっても相手にゃならねーし、ソウラを使えばおいらでもいける可能性はある。
ツカサは、言わずもなが。
「じゃが、いくらなんでも、アリガマ様の墓を開くのは無謀じゃろう。元仲間であるワシ等でさえ、開けられた者は一人としておらぬのだから」
「アリガマ様の墓といえども、元は魔法帝国の遺跡っす。この人達は、港で噂になってるエルダートグッズを集めてきた人達なんすよ!」
「なんとっ! 今盗賊界隈で話題の、遺跡の奥から発見されたという、あのエルダートグッズか!?」
メッサー爺さんがおいら達の方を見て、なるほど。とうなずいた。
「ならば、まだ希望はあるかもしれん。わかった。案内しよう……いや、それ以前に、この嘘つき小僧につきあってくれるのかの?」
「まあ、乗りかかった船だしね」
「ツカサ殿の言うとおりにございます。聞いたところ、サノフなりにアリガマの墓を守りたいと思っての行動であったようにござる。孫であるかないか。それは些細なこと。その心意気に免じて、不問にいたそう!」
「ツ、ツカサに、マックスさんっ!」
ツカサとマックスの言葉に、涙を流しそうなほどの笑顔を見せた。
ちなみにおいらが黙っていたのは、半分はお宝目当てでもあるからだ。
メッサー爺さんの案内で、おいら達はアリガマの墓が隠されてるって大岩の前までやって来た。
そこは、切り立った崖が並ぶ、ただの大きな岩にしか見えなかった。
この中に本当に墓なんてあるのか。
そう思うほど、不自然なところは見えない。
「ぱっと見、遺跡があるかなんてわからねえな」
「そうじゃろう。盗賊の目をもってしても、中々わかるものではない。ほれ、そこに扉があるが、わかるか?」
指差されたけど、さっぱりわからなかった。
マックスを見る。
マックスの方も、そこをマジマジと見ているが、さっぱりわかっていない。
『確かに、そこに遺跡らしき人工物があんな。よく出来てやがる』
ツカサの方へ視線をむけると、オーマが感心していた。
どうやら、本当みたい。
「ほう。わかりおるか」
「遺跡を走破したってのは伊達じゃないっすね!」
「ならば、本当にこの扉を開けてしまうかもしれん」
「よっし! オーマ、さっさと開けちまおうぜ!」
オーマの力なら、きっとどこにスイッチがあったりするのか、バッチリなんだろ!?
『そうだな。ちょっと待て。相棒、少しだけ俺をあっちにむけてくれねーか?』
「わかった」
ツカサが鞘ごとオーマを腰から抜き、さっきの扉の方へむけた。
『むむっ。むむむっ……! あぁ、そういうことか』
解析をはじめてすぐ。オーマは納得したような声をあげる。
『こいつは開けられねーわけだ。この扉は、スイッチを探したり、特別な手順で開くわけじゃぁねえ』
「なんじゃって!?」
『すげーシンプルな開け方だ。だが、もっともめんどくせぇ閉じ方でもある。こいつを開くには、どうやら合言葉が必要なようだぜ』
「合言葉!?」
「合言葉っすか!?」
おいらとサノフが同時に声をあげた。
『設定したのはそのアリガマってヤツだろうな。なにか心当たりはねぇか?』
「いや、これといっては思い浮かばんな……」
メッサー爺さんがアゴに手をあて、ううむと唸る。
「むしろ、オーマにゃわからねーのかよ」
『どうだろな。構造はサーチすりゃわかるが、合言葉は形もねぇモンだからな。だが、手がかりもねぇとなりゃ、やってみるしかねぇだろ。相棒、もうちょっと頼むぜ』
「ああ」
『さすがのおれっちでも、すぐにとはいかねえ。こいつを解析しきるのは骨が折れそうだから、ちょっと待ってろ』
むむむっと、オーマが遺跡の解析をはじめた。
どうやら、マジで時間がかかるみたいだ。
そうなると、今度はおいら達がすることなくなる。
「どうするマックス。おいら達は……」
どぉんっ!!
……なにしようか? と続けようとしたその時、岩山の後ろでなにかが爆発したような音と衝撃が響いた。
「な、なんだぁ?」
「奴等め、はじめおったな」
「前より音が奥に入ってる気がするっす」
メッサー爺さんとサノフが言う。
この二人が言うってことは、こいつは遺跡に穴を開けようとしている奴等の仕業ってことか。
「なあ、マックス。オーマの解析にゃまだ時間掛かるみたいだから、あっちの進捗状況見に行かないか?」
「確かにな。オーマ殿の解析より先に遺跡に穴を開けられるわけにはいかぬ。どのような対策をするにしても、偵察は必要か」
「なら、自分、ついていくっす。案内するっすよ!」
「ならばワシも」
「いや、じいちゃん腰が悪いんすから、いざという時邪魔になるっす」
「むう……」
孫の辛らつな意見だけど、確かにその通りだとは思う。
だからここは、大人しくオーマを動かせないツカサと留守番していてもらうべきだろう。
「その通りにござる。ご老体はここでツカサ殿のお世話をお願いいたす」
「わかったよ。あとは、若いもんに任せるとしよう」
やれやれと、メッサー爺さんは諦めてくれた。
「じゃあ、ツカサちょっと行ってくるよ」
「ああ」
「それじゃオーマ、おいら達が戻ってくるまでに、終わらせといてくれよ」
『へっ。なんなら戻って来る前に解析を終えて、一足先に扉を開けて相棒とそのお宝と証を確認しておくぜ』
「言ってろ」
こうしておいら達は、偵察をするため、岩山の反対側へむかう。
でも、まさか、相手の計画があんなに進んでいたなんて、この時のおいら達は想像もしていなかったんだ……
──サノフ──
リオとマックスさんを案内し、自分達は奴等墓荒らし団(勝手に自分命名)の奴等のいる正規入り口の裏手に来たっす。
ちなみに自分、リオと同い年っす。だからマックスさんにはさんづけで、あとはタメ口なんっす。
身を隠し、地面から突き出た岩にのぼり、そこから奴等を監視することにしたっす。
ひょこひょこひょこと、三人が岩から頭を出す。
「……こ、これはっ!」
アリガマ様の墓への正当な入り口の反対側。
そこに集まった墓荒らし団の奴等の集まる様を。そして奴等の作業の進捗状況を確認した自分は、思わず絶句させられたっす。
「そーれ!」
どぉん!!
「そーれ!」
どぉん!!
掛け声と共に振り上げられ、うちつけられる魔法のツルハシ。
その一撃は、岩山の岩ではない、人の手で作られた岩壁にうちつけられていたっす。
それが壁にぶつかるたび、ツルハシの先端が小さな爆発を起こし、壁にヒビが広がる。
その作業はすでに、岩山を削りきり、遺跡の壁を破壊する段階にまで至っていたっす。
しかも、爆発のツルハシが壁にぶつかるたび、その壁のヒビは大きくなっている。
壁の厚さがどれほどかはわからないっすが、遺跡への侵入は間近に迫っているのがわかった。
このやり方そのものは、以前から心無い盗掘者の中でとられてきたメジャーなやり方っす。
入り口を開く条件がわからなかったり、入り口そのものが封じられていたりする場合、こうして壁を破って侵入するという方法はよくとられたと教えられたっす。
でも、このやり方はいわば邪道。
こんなど派手なやり方をすれば、平時なら警備隊がすぐやってきてこの一団はみんな捕まるやり方っす。
でも今は、警備隊の人数も少なく、対処出来てないのが現状っす。
戦争が近いって噂、案外マジかもしれないっすね……
「そーれ!」
どぉん!
「そーれっ!」
どぉん!!
ツルハシを振るうのは、この墓荒らし団のリーダー。ハシムという男っす。
こいつが団をまとめ、盗賊の仁義もなく、ただ盗賊王の称号が欲しいだけの男!
でも、その欲望に忠実だからこそ、これほどの行動力とカリスマを持って昔かたぎな盗賊の皆さんを駆逐しようとしてるっす。
仁義も矜持もなにもない。
ただ奪うだけの外道。
そんなのが盗賊王になったら、とんでもないことになるっす!
『……これは、なにをするにも急いだ方がよさそうですね』
ペンダントに変身しているインテリジェンスソードが口を開いたっす。
「どういうことさ、ソウラ」
『私はオーマほどの探知力はありませんが、あの壁、このままでは破られます』
「っ!」
「マジか!?」
「時間がない。ならば仕方がないな」
マックスさんがゆっくりと立ち上がったっす。
「リオ、ここは拙者のプランでゆくぞ」
「しゃーないな」
やれやれと、リオの方も立ち上がったっす。
え? ちょっと待つっす。マックスさんのプランて、墓荒らし団に突撃してぶっ潰すとかいう、プランでもなんでもないただの突撃っすよね!?
それ、こんな少人数でマジでやるんすか!?
相手、百人以上いるっすよ!
でも、リオはまったくツッコミを入れないっす。それどころか当然というように立ち上がってるっす。
ツッコミはリオの役目じゃなかったんすか!?
一体これってどういうことなんすか!?
自分が混乱している間に、事態は進んでしまった。
「では、参る!」
掛け声一つ。
その言葉と共に、マックスさんはいきなり隠れていた岩から飛び出したっす。
纏っていた白い布を脱ぎ捨て、太陽に抜いたカタナの光を反射させながら、マックスさんは雄たけびを上げ、音頭をとる墓荒らし団のど真ん中に飛びこんでいったっす。
って、なんてジャンプ力っすか。
自分五人分くらいある岩から飛び降りて、なんぜ全然平気なんすか!!
どぉん!!
集団のど真ん中で、ツルハシの爆発とは別の衝撃が走り、そこにいた十人以上がふっとんだっす。
いきなりの不意打ちに逃げ惑う墓荒らし団。
でも、それから立て直されたら、囲まれて反撃されるだけ。
そうなったらマックスさんは……
「やあやあ我こそは!」
って、そこで名乗りまであげちゃうんすか!?
せっかく不意打ちをして場を混乱させたのに、自分から名乗っちゃうんすか!?
立て直す時間与えちゃうんすかぁぁぁ!?
「さて。それじゃ次、おいら達も行くぞ」
「へっ?」
マックスさんが口上をはじめ、墓荒らし団の注目がそっちに集まったのを確認すると、リオの方も動き出したっす。
胸元からペンダントを取り出し、一振りして剣にかえると、それを突くように構えたっす。
その切っ先のむいた先は、ツルハシがうちつけられていたむき出しの壁。
「このままあそこに突撃するから、しっかり捕まってろよ」
「へっ?」
もう一回、同じ言葉が出たっす。
リオは反応出来ない自分の襟首をつかむ。
直後、感じる、浮遊感。
自分の身体は、飛んでいたっす。
まるで矢のように、自分とリオが飛んでいたっす。
突き出した剣に捕まり、リオが飛んでいたっす。
マックスさんに注意を持っていかれていたから、他の墓荒らし団の奴等はなんの反応も出来ず、自分達はそこへむかうっ!
それを認識したら、頭がはっきりしてきたっす。
つまり、マックスさんは囮!
自分達はそれを利用し、あのツルハシを奪って壁を壊させないようにするってことっすね!
そしてあのハシムさえぶっ飛ばしちまえば、しばらく奴等も動けなくなるっす!
そういうことっすね!
よし。この調子なら、間違いなくあのハシムをぶっ飛ばせるっす……!
その時までは、自分は確信していたっす。
でも……っ!
ぎぃんっ!!
空中を貫くように飛んだ自分達。リオの剣がツルハシを振り上げたハシムに届く目前。
杖を振り上げた男が自分達の間にわりこんできたっす。
振り上げた杖と剣の間に光の壁が現れ、リオの進行が阻まれる。
誰かは知らないっすが、何者かはわかった。
こいつこそ、あの爆破ツルハシを用立てた、助っ人魔法使い!
爆発音を立て気づいていないハシムと、注意をそらされた墓荒らし団。
その中で唯一、この魔法使いだけは自分達の動きに気づいていたっ!
進行がとめられた直後、ツルハシが振り下ろされた。
バゴンッ!!
今までで一番大きな音を立て、遺跡の壁が吹き飛んだ。
遺跡の中から光が漏れ、明るい廊下が姿を現す。
「よし、行くぞ!」
ハシムがツルハシを投げ捨て、開いた壁の穴へ飛びこもうとする。
「ソウラ、このままつっきる!」
『ええ! 力をさらにあげます!』
「っ!」
光の壁を維持していた魔法使いの額に、冷や汗が浮かんだ。
歯を食いしばり、全力でその進撃をおさえていたって表情だったっす。
「邪魔だあぁぁぁ!」
ばりんっ。
リオの気合と共に、自分達の行く手を阻んだ壁は砕け、魔法使いも吹き飛ばされた。
魔法使いを吹き飛ばした自分達は、穴に入ろうとするハシム達の一団に突撃する。
「くっ!」
ハシムが穴に飛びこみ、聖剣の一撃が遺跡に突き刺さった。
ハシム以外の飛びこもうとした奴等は遺跡の外に吹き飛ばされ、自分とリオは、穴の前に着地したっす。
でも、ハシムだけは遺跡の中にっ!
「おかしらを追わせるかー!」
穴の前に立った自分達に、残された墓荒らし団の奴等が殺到する。
「お前等の方こそ、邪魔だよ!」
リオが剣を振るうと、飛びかかろうとした数人が一度に吹き飛ばされたっす。
その一撃の威力に、殺到しようとした団員は、思わず怯む。
それどころか、マックスさんが居たところでは、小さな竜巻が巻き起こっている。
ひょっとしてこの二人、とんでもなく強いっすか!?
まさか、噂のサムライってのは、この人達のことっ!?
「サノフ、ここはおいらにまかせて、ヤツを追うんだ!」
「っ!」
「このままこいつらも中に入れるわけにはいかない。でも、一人中に入ったのも見えただろ。お前は、それをほんの少しでいいから足止めして時間を稼ぐんだ。そうすりゃこいつら全部張り倒したおいら達が追いついて、そいつもぶっ飛ばす! そのために、それが出来るのはお前しかいないだろ!」
「なに言ってるんすか。本気でこいつ等ぶっ潰すんすか!?」
「ああ。おいら達は地獄でもっと数の多い亡者を相手にしたことあるし、それより手ごわい地獄の怪物も退けてきた。こんな盗賊百人程度に負ける理由はない!」
リオが手にした剣。
自称聖剣ソウラキャリバーをかまえる。
地獄とか亡者とかよくわからなかったけど、とにかく凄い自信だというのはわかったっす。
さっきの突撃とマックスさんの竜巻のこともある。
この人達なら本当にやってのける。そんな予感が自分にもあった。
だから……!
「わ、わかったっす!」
リオに言われた直後、自分は走り出していた。
今、ここでハシムのヤツをとめられるのは、自分しかいない!
なにがなんでも、ヤツに盗賊王の証は渡しちゃいけない!
盗賊としての矜持も、誇りもない、ただの墓荒らしに!
──ツカサ──
『むむっ……むむむむむむ……っ』
大岩に偽装された墓の前でオーマが唸っている。
この岩の扉を開くっていう合言葉を必死に探しているみたいだけど、やっぱ難しいようだ。
なかなかうまくいかず、聞こえてくるのはオーマの唸り声だけだ。
あと、遠くで響く爆発音。
正直言うと、暇だ。
でも、下手に野次馬根性出すと、今度は一転危険になるに違いないから、ここは我慢してここに居るべきだろう。
俺、知ってる。好奇心俺を危険にあわすって。
『ぬぬっ。ぬぬぬぬ……!』
オーマは変わらず唸っている。
ただ、ここに居ると暇な現状は続いていく。
オーマは必死に解析作業をしているから話かけるわけにもいかないし、サノフのお爺さんはその扉を。いや、爆発音がしている方をじっと睨みつけている。
どこか祈っているようにも見えるその背中は、鬼気迫ると言ってもよくて、とてもじゃないけど話しかけられる雰囲気じゃない。
強面で厳つい顔をしているけど、孫のことを心配しているのかしらん?
さすがにコミュニケーションが得意な俺でも、こんな状態のお爺さんに声なんてかけられない。
あー、残念。俺の華麗なトーク力を披露出来なくて。ホント残念。
でもお爺さん今話しかけられるような雰囲気じゃないからしかたない。ホントしかたない。
決して知り合ったばかりだから話しかけるのに躊躇するとか、気後れするとかそんなことはないから。
空気読んでるだけだから。
現にほら、こんなにも流暢にものを考えているし。
口だって動くし。
「……ぉぅ、じ」
……うん。この話はやめよう。
これで時間を潰しても虚しくなるだけだ。
時間もたいして潰れてないし。
この思考はなかったことに。
別のことにシフトしよう。
……そういえば。
ふと、思いついた。
お爺さんといえば、さっきふと疑問に思った人数。そして、アリガマという名前。ついでに岩を開くために合言葉が必要というこの状況。
さらにお爺さんが誇らしげに言った、四十人の選ばれし仲間って称号。
ここまで状況がそろっているのだから、あのおとぎ話の合言葉が思いついても不思議はないだろう。
「──」
ぼそっ。
うっかり。
さっきまでお爺さんと話すか話さないかなんて考えていたから、その流れも引き継ぎ、うっかり言葉が漏れてしまった。
幸いなのは、岩の裏側での爆発と、オーマの集中力のおかげでその言葉を聞き取られなかったということか。
合言葉を口にした結果は……
「……」
しーん。
「……」
反応は、ない。
まあ、そりゃ、違うわな。
いくらなんでも、こんな有名な合言葉で……
ゴゴッ。
……え?
ゴゴゴゴゴッ……!
え?
──サノフ──
「このままこいつらも中に入れるわけにはいかない。でも、一人中に入ったのも見えただろ。お前は、それをほんの少しでいいから足止めして時間を稼ぐんだ。そうすりゃこいつら全部張り倒したおいら達が追いついて、そいつもぶっ飛ばす! そのために、それが出来るのはお前しかいないだろ!」
あの二人は本当に盗賊集団をやっつけて来てくれる。
そう確信し、おいらはハシムを足止めするため駆け出した。
問題は、この足止めする方法。
単純な強さで言えば、まだガキでしかない自分より盗賊団をまとめあげるハシムの方が圧倒的に強い。
盗賊見習いの自分と実践派リーダーとでは、経験もパワーもすべてが勝てていない。
なら、逆転の発想っす。
直接戦っては勝てない。
でも、相手の目的はわかっている。
なら、ヤツより先に玄室にむかい、盗賊王の証をかすめとり、どこかに隠す!
そうすれば、時間も稼げるし、ヤツの野望も防げるっす!
あとは、ヤツより先に……
「いいや。そいつは甘いな」
「っ!」
壁のくぼみ。そこに、ハシムがいた。
「おらぁ!」
ハシムの前蹴りが自分のわき腹に決まり、そのまま壁に打ち付けられた。
「ぐっ……」
「なんだ。誰が追ってきてるのかと思えば、一度ぶっ潰した盗賊どものガキのガキか」
ハシムがやれやれと、肩をすくめ、自分を見おろす。
警備隊が来ないから、墓荒らし団の奴等に爺ちゃんの元仲間達は戦いを挑んだ。
でも、一度返り討ちにあい、義賊のみんなは壊滅的被害を出した。
だから自分は、正攻法ではなく、アリガマ様の墓を攻略出来る人を探していた。
なのに、それ、間に合わなかった……っ!
いや、まだ、間に合う!
今、ここで、こいつをどうにかすれば!
そう考え、自分は痛むわき腹を無視して殴りかかったっ!
「はっ」
ハシムは鼻で笑い、自分の拳を軽くいなし、挙句腕をねじ上げた。
背中に腕を回され、ハシムは腰の短剣を引き抜き、自分の喉元にそれを突き出してきた……っす。
「く。そ……」
顔の横に近づいたハシムの顔を睨みつける。
いっそ、殺せっす!
睨むしか出来ない自分を見て、ヤツはにやりと笑った。
「ガキ、丁度いい。取り巻きが誰も居なくて、俺の伝説を語り継ぐべきヤツがいないと嘆いていたところだ。光栄に思え。お前を、この俺が盗賊王となる瞬間の語り部としてやる。栄光と栄誉を得る俺の姿をその目に焼きつけ、それを永遠に語り継げ!」
口元が、さらにいやらしく上がった。
こ、こいつ……っ!
自分の一番嫌だと思うことを、見せつけるつもりっすか!
「さあ、来い! ここで殺さない俺様の慈愛をしっかりと受け止め、盗賊王の証を天に掲げるその様を、永劫に語り継ぐのだ!」
「くっ、くそっ! 止めろっ!」
必死に抵抗するが、抵抗は意味をなさなかったっす。
腕をさらにねじられ、そのままアリガマ様の眠る、玄室へと歩かされる。
そこが玄室であるというのは、すぐわかった。
廊下よりさらに眩い。まるで太陽の光が外からさしこんでいるように光が漏れていたからだ。
ここに、盗賊王の証がある。
そう確信させるほど、神々しい光が、その部屋から漏れていたから……
くそっ。
自分の弱さ、不甲斐なさが嫌になるっす。
尊敬する爺ちゃんが。その仲間達があれほど敬愛した盗賊王。
盗賊でありながら、悪人からしか盗まず、弱きものに施しさえする心優しき義賊。
そんな人を語る爺ちゃんを見て、自分もいつかそうなりたいと思った。
墓に挑戦した人も、そんなアリガマ様に憧れ、そして謎が解けず、敗れてもさわやかに去っていった。
なのにこいつは、今の時勢を利用し、誰にも褒められないやり方で、その場に立とうとしている。
全員が認めなくとも、こいつはその証を持って、みずからを盗賊王と、その力で名乗り続けるに違いない!
爺ちゃんの尊敬を。みんなの敬意を踏みにじる。
そんなの、許せない。許したくない……!
だからこそ、お前は自分と、死んでもらうっ!
覚悟を、決めた。
こんなヤツにアリガマ様の宝を渡すくらいなら、自分は自爆してやる!
爺ちゃんの倉庫から持ってきたこの炎晶石を使い、こいつもろとも爆裂してやる!
「さあ、ここが……!」
玄室から漏れる光に、自分達の足が踏みこもうとしたその時……
懐の魔法石を発動させようとしたその時……!
──それは、いかん。
「っ!」
どこからか、爺ちゃんの声が聞こえた気がした。
思わず、思いとどまる。
「俺の栄光のはじま……へ?」
玄室に足を踏み入れようとしたハシムが、変な声をあげた。
不意に、予想外の出来事に出くわしたかのような驚きの声。
「……?」
いったいなにが。と、自分も思わず炎晶石のある懐から、そちらに視線をむける。
「……え?」
そこには、信じられない光景が、あった。
ぺらり。
玄室の中を見て、自分も唖然とする。
ぺらっ。
玄室となった部屋には、棺の前に、玉座を模したかのような椅子があった。
きっと、盗賊王となった者がそこに座り、皆から祝福を受けるためなんだろう。
その椅子に、座るものがいた。
盗賊王の証とされる、アリガマの仮面を、まるで王冠のようにのせ、古ぼけた手紙を読み上げている。
さっきからする、ぺらりぺらりという紙のすれる音は、それをめくる音だ。
そう。信じられなかった。
だって、すでに、盗賊王の証を手に入れた者がそこにいたんすから!!
椅子に座っていたのは、正式な扉の前に居た、ツカサ。
なぜ、ツカサがここにっ!?
視線を部屋の奥にずらすと、玄室の奥。正確には、本来の入り口のある方。
そこから、日の光が差し込んでいるのが見えた。
答えは、簡単だった。
自分達が遺跡を走り回っている間に、ツカサは正式な扉を開き、ここにやって来たのだ!
「なっ……なっ!?」
ハシムが信じられないと、うめき声のような声をあげる。
自分にいたっては、声さえあげられないっす。
「そんな、バカな。この俺様が、有り余る知性を振り絞り考え抜いても開けられなかったあの扉を、こいつが、こんなガキが開けたというのか!?」
「ん? ああ、来たか。中々戻ってこないから、悪いと思ったけど先に確保させてもらったよ」
自分達の視線に気づいたツカサは、こっちを見て、頭に乗せた仮面を小さく持ち上げた。
まるで、帽子を持ち上げて挨拶でもするかのように。
きらきらと太陽の光を背もたれに浴び、こちらを見るそれは、まさに、王という名にふさわしい風格だった。
「くっ。くははっ。真正面の扉を開け、その証を手に入れやがったか。どうやったのかは知らねぇが、まだだ。まだ終わっちゃいねえ! お前、こいつの命が惜しければ、その頭の上のモノをよこせ! 俺が、俺こそが盗賊王だ! 盗賊王ハシム様だ!」
『残念だが、そいつは無理な話だな。今だぜ!』
「っ!」
ツカサの腰にあるインテリジェンスソードが言う。
直後、自分達の後ろに一つ、気配を感じた。
「この、愚かモンがーっ!」
気配に気づき振りむいたハシムのアゴに、物陰から飛び出した爺ちゃんの拳が決まった。
めがごしゃっ。
と、異様な音がハシムから発せられ、そのまま自分から手を離し、ぶっ飛んでいく。
二度ほど空中で回転し、そのままごしゃりと嫌な音を立て、床に落ちた。
少し遅れて、手にした短剣も落ちる。
歯は何本か折れ、意識を失ってピクピクと身体を痙攣させていたっす。
「ふん。他愛ない。なんの矜持もなく、仮面を求めるだけの輩に、アリガマ様の魂をわたせるものか! なにより、ワシの孫になにをする!」
じいちゃんが拳を握り、吼えた。
ぐぎっ。
直後、腰からいやーな音が響き、そのまま崩れるように膝から落ちていく。
「っと!」
とっさに自分が、爺ちゃんの身体を支えた。
「ぬぐぅ。や、やはり、ちと無理をしすぎたか。じゃが……」
支えた自分を見て、爺ちゃんが微笑む。
「大切なものは守れた。なら、万事オッケーじゃ!」
「いや、無茶しすぎっすよ、爺ちゃん」
「お前に言われとうない。勝手に炎晶石持ち出しおって」
ぽこんと、叩かれた。
ばれてたっすか。
「その気持ちだけで、十分じゃよ」
そのあと、撫でられたっす。
悪い気分じゃ、ないっすね。
「でも、じいちゃん。なんでここに?」
どうやって? 合言葉、そんなに簡単にわかったもんなんすか?
「それは、おいら達も聞きたいね」
「うむ。まあ、ツカサ殿がどうにかしたと確信しているが!」
「リオ、マックスさん!?」
玄室に二人が姿を現した。
「あれだけの人数の墓荒らし団、一体どうしたんすか!?」
「もちろん、全部倒した! 最初からこうしておればよかったのだ!」
『御意っ!』
「そいつはあくまで結果論だろ。説明聞いて、やっぱツカサにまかせとくべきだったと後悔すんなよ?」
「き、きっとしないにござる……」
ここにいるということは、本当にどうにかしたということなんだろう。
しかも正面に居たツカサは誰も開けなかった扉を開けて、盗賊王の証を手に入れてしまっている。
こんな結果になるとは思わなかった。この人達、本当にすごいっす! まさかとは思ってたけど、本当にサムライなんすか!?
「ともかく、急いで追ってきてみれば、表の扉も開いている。いかようなことが起きたのか、拙者達も知りたいにござる!」
「オーマが解析したのか違うのか。どうなんだよ!」
「え? いや、自分に聞かれても……」
先に到着していたからって、自分も事態を把握してるわけじゃないんすよ!
自分を問い詰めてもラチが開かないと感じたのか、二人の視線は自分から外れる。
そして、その視線を、自分も追う。
視線が集まるのは、当然、その当人であるツカサ……
でも、肝心のツカサは、椅子に座って手紙を読むのに集中してしまい、こちらの視線などまるで気にとめていなかったっす。
そういえば、自分がここに入ってきた時から読んでたっすけど、あれ、なんなんすかね。
『しゃーねーな。おれっちが説明してやるか!』
もくもくと手紙に目を通すツカサのかわりに、腰のインテリジェンスソードが正面の扉であったコトの顛末を話しはじめたっす。
──オーマ──
そう。あれは、おめーらが偵察に行って、なにやら爆発音やらが激しくなったあとのことだった。
岩山のむこうでドンパチがはじまって、遺跡に穴が開いたのがわかって、いよいよヤベェという雰囲気がこっちにも伝わってきた。
急がねぇとやべえ。そいつはわかってんだか、やっぱ形もない言葉だ。
いくら焦っても、その答えは簡単に出せるわけがなかった。
そんな中。ぼそりと相棒がなにかを呟いたのさ。
その言葉こそが、扉を開く合言葉。
相棒は来てすぐそいつに気づいていたんだろうさ。だが、解析するおれっちに気を使い、黙っていたんだろうよ。
だが、事態が動いて、開かざるを得ない状況になっちまった。
だから相棒は、そこを開く言葉を口にした。
じゃなけりゃ今回は、おれっちに任せてくれるつもりだったに違いねえ。
期待に答えられなかったのが、悔しいもんだぜ。
あまりにあっさり扉が開いたから、爺さんとおれっちは唖然としちまったが、相棒にうながされ、慌てて中に入り、その盗賊王の証ってヤツを誰よりも早く確保し、今に至るってわけだ!
「へー。さっすがツカサ」
「さすがにござる!」
「それで、その合言葉ってなんだったんだ?」
『そいつは知らねぇ!』
「は?」
『なんて言ったのか、あんとき合言葉を解析していたおれっちは集中してて聞いてなかったし、あまりに急なことでメッサー爺さんの耳にも入らなかったからな!』
えっへん。
「最近耳が遠くなってのう」
ついでにメッサー爺さんも照れた。
「つっかえねーな!」
『しゃーねぇだろ! 大体、おめーらもおれっちを非難出来ねーぞ!』
当然、中に入る前、おれっちは相棒に聞いた。
合言葉がなんだったのかをな。
だが、相棒は入り口を軽く見回して……
「これだけこれみよがしにされたらね」
と、どこか自嘲するかのように言ったのさ。
それってつまり、合言葉はおれっち達の目の前に、しかもすげぇわかりやすい形であったってことだ。
相棒があえて口にする必要もないレベルでな!
当然おれっちはあたりを見回した。
だが、見てもさっぱりわからなかった!
逆に恥ずかしくなっちまったよ。
『おれっちに文句を言えるのは、相棒と同じく合言葉がわかるヤツだけだぞ! おめーはわかんのか!?』
「ぴーぴぴぴー」
リオがあからさまな口笛吹いて目をそらしやがった!
もちろん、マックスもサノフもだ。
まあ、言ってもしゃーねえ。
相棒は気づく猶予をくれていた。あれ以上遅れていたら、裏手から侵入した奴等が到達していたからな。
なにより相棒は、無用に墓を開く気はなかっただろうからな。
なんせ……
手紙を読み終えた相棒が立ち上がる。
相棒が読んでたのは、あの仮面と一緒にあった手紙だ。
故郷の文字に似ているが、ちと文体の違うそれを、相棒はわき目もふらず、読んでいたんだ。
それを読み終え、相棒は仮面を高々とかかげた。
「二代目盗賊王は、ここに引退を宣言します!」
「いきなりっすかー!?」
「なんじゃとー!?」
盗賊王を知る二人から驚きの声が上がった。
相棒をよく知るおれっち達からすると、まあ、当然か。という納得の反応だ。
盗賊王なんて称号、相棒にゃなんの興味もない代物だ。
今回相棒が扉を開いたのは、サノフのため。この盗賊王の証を他の悪党から守るためだ。
そのために、その証を手にした。
だが、その騒動が終わったのなら、相棒がそれを手にしている理由はねえ。
ま、相棒がこのまま盗賊王の地位に居て、この国の悪党どもを締め上げるって手もあるが、例え建前でも盗賊になんのは相棒にも抵抗があんだろうさ。
そもそも、そうやって地位について表立って誰かを管理するってんなら、こんな証なくともやれるからな。相棒は。
それこそ、世界の王の。いや、その気がありゃ、世界を管理する女神の地位にさえあっておかしくねえ器の方なんだからよ。
ある意味で、この二代目の即引退は当然の流れってヤツだ。
「というわけだから、この証の仮面、そっちで好きにして」
ぽん。と、相棒はそれをサノフに渡した。
サノフもメッサー爺さんも、その仮面を見て、目を白黒させ相棒と交互に見てやがるぜ。
ま、相棒のトンでもなさに慣れてなきゃそうもなるか。
「い、いいんすか?」
「いいんだ。俺は、その人の魂といえるものを貰い受けたから」
そう言い相棒は胸のところを触れた。
意味はわからなかったが、その心意気はわかる気がするぜ。
「……ならば、しかたないの。サノフよ、これは、おぬしが預かっておれ」
「自分がすか?」
「二代目のお達しじゃぞ。あとは、これが必要と感じた時、かぶるに相応しいものに渡すがよい。もちろん、自分が相応しいものになれたと思えば、自分でかぶるもよしじゃ」
相棒も、メッサーの言葉にうなずいた。
リオもマックスも、うなずく。
「わっ、わかったっす! 自分、精進するっす!」
「うむ、そのいきじゃ!」
こうして、盗賊王の証を巡っての争いは、終わりを告げたぜ。
ああ、あと、もう一つおまけだが、アリガマのお宝は仮面以外になかった。
どいつもこいつもハリボテで、没する直前までそいつは貧しいやつに金を分け与え、最低限の代物しか墓にもちこんでいなかったんだとよ。
見て、リオのヤツががっかりしてたぜ。
「……でも、おいらはこういう墓、嫌いじゃないよ」
墓から出る時、そう言っていたのが印象的だったな。
それと、アリガマの墓は、正面の入り口は再び閉ざされ、開けられた壁の穴も塞ぐそうだ。
扉が開いたとわかりゃ、そこに侵入しようとするヤツももういねえだろうからな。
三代目に関しちゃあ、もうアリガマとは別の話だ。
つっても、世間様に広がるのは、サムライが二代目になった。もうダメだぁ。って噂だけどよ。
──ツカサ──
あの時俺がなんとなく思いついて口に出した合言葉。
それは、『開けゴマ』だ。
アリガマって名前と四十人という数。そしてそれが盗賊で扉を開くには合言葉が必要だとくれば、あのおとぎ話が頭に浮かび、真っ先に連想されるフレーズになるだろう。
異世界だから、たまたま似ているだけ。そんなのあるわけないと思いつつも口を滑らせたら、ゴゴゴッと音を立てて扉が開いたもんだから、驚いたってもんだよ。
ビックリしているオーマ達をうながして中に入り、棺の前に設置された椅子に仮面と共に置いてあった手紙を見て、すべての謎が解けた。
それは、アリガマ・サノフが死ぬ前に記した扉を開けたものに宛てた手紙。
そこに、今回の謎がすべて書いてあった。
疑問に思うはずだ。
俺は、この世界の文字は読めない。サムライの故郷なら、漢字にひらがなも使われているかもしれないけど、その文字は戦国時代に書かれたようなうねうねとした文字。
いくら同じ言葉でも、戦国時代の書物をソラで読めといわれても無理。結局読めない。
なのに、この手紙は俺でも読めた。
それが、すべての答え。
そう。この手紙は日本語で書かれていた。
差出人の名も、漢字にしてみれば納得出来る。
『有賀正信』
ありが・まさのぶ。
盗賊王、アリガマ・サノフは、元は俺やサイモン領にいた黒須譲二さんと同じく、地球から流れ着いた異邦人だったのだ!
四十人の盗賊に、合言葉が必要な扉と、いかにもな状況は、あのおとぎ話を知る地球から来た人にあてたメッセージ。
知ってる人なら間違いなく口にする合言葉を設定し、この有賀さんは同胞が来るのをここでずっと待っていたんだ!
手紙には、ここに来てからの葛藤やなにがあったかなんかが軽く書いてあった。
そしてもう一つ、とても重要なことが。
五十年前、この地にやって来た異邦人は彼だけじゃなかった。
この帝国にはもう一人、地球人がいる。
有賀さんは義賊としてこの地に残ることを覚悟したみたいだけど、その人は違った。
地球に帰ることを諦めず、次元を超えて帰るため魔法使いとなり、寿命の限界も突破して研究に没頭したのだそうだ。
今はもう疎遠になっているが、もし帰る手段を持ち、その人に会えるのなら、力になって欲しいと書かれていた。
ついでにもう一つ。有賀さんは帰還を諦めているけど、万一戻れる場合、家族に自分は異国で元気にやっていると伝えて欲しいとのことも書いてあった。
どちらもお安い御用なので、その頼みを聞くことにした。
有賀さんの家族宛の手紙は持って帰れないから、携帯で写真にしてあとでプリントアウトで郵送かな(そもそも俺の地球にいる有賀さんがこの有賀さんかわかんねーけど)
もう一方は、その時考えよう。
そもそもその人生きてるかもわからないわけだから。
しかし、なんとなくノリで仮面返しちゃったけど、ちょっともったいなかったかな。
でも地球にはもって帰れないし、王様になって盗賊達を従えるなんて絶対遠慮したいし。そもそも仮面を預かったのも迫る敵(その数が1で人質ありなのはオーマがサーチした)に対しての囮としてだったんだから、これ以上持っている義理はないはずだ。
そんな責任感もない俺が持っているより、有賀さんに愛情深い人が持っていた方が仮面も幸せだろうから、それでいいのだ!
こうでも言っとかないと、あとで捨てなきゃよかったと後悔するからね。
つーわけで、いいのだ!
──メッサー──
サノフがつれてきた者の持つインテリジェンスソードにより、アリガマ様の墓に入るには合言葉が必要であるとわかった。
いくつか思いついた言葉を並べてはみたものの、どれも正解ではなかったらしく、入り口はぴくりとも反応せんかった。
偶然それを当てるというのはまずありえない。なんらかの意図があり、アリガマ様が想いをこめた合言葉に違いない。
だがそれは、アリガマ様の部下であったワシでさえ見当がつかなかった。
時間があれば、あの刀が解析するのかもしれん。
問題は、その時間がなさそうなところじゃ。
岩山の裏で鳴り響く喧騒が気になる。
嫌な予感がワシの胸をよぎる。
ひょっとすると、もう壁が破られてしまったのではなかろうかという。
もう一度合言葉の心当たりを思い浮かべるが、これだ。というのはまるでない。
アリガマ様を知るワシでわからぬとなれば、あの方を知りもしないあの少年では開けられるはずもない。
オーマ殿の解析も間に合わなければ……
気ばかりが焦る。
サノフが無茶をしていなければいいや、怪我をしていなければいいと、どんどん想像がネガティブになっていく。
「──」
ぼそっ。
オーマ殿を持つ少年。ツカサ君が、なにかを呟いた。
『相棒、今、なんて?』
集中していたオーマ殿が、声をあげようとするが、そんなこと聞いていられない事態が起きた。
ゴゴッ。
ゴゴゴゴゴゴッ。
閉ざされた扉が、開いたのだ!
それは、ツカサ君が合言葉を唱えた証。
アリガマ様とはなんの縁もゆかりもない者が、その謎を解いてしまった証拠!
『な、なんでわかったんだ、相棒』
ワシの聞きたいことを、オーマ殿が聞いてくれた。
彼は、周囲を小さく見回し、どこか気恥ずかしそうに頬をかいた。
「これだけこれみよがしにされたらね」
ワシはその姿を見て、絶句するしかなかった。
五十年間誰も解けなかった謎を、これほどあっさり解いてしまっていたという事実だけではない。
彼が言葉を口にした時、丁度太陽の光が射し、目元が影となった。
口元しか見えないが、その時の表情。
それは、ありし日のアリガマ様と重なったのだ……
姿形。年齢、雰囲気もまったく違う。
だが、光の中に立つその姿は、アリガマ様とまったく同じ。
それすなわち、盗賊王の器そのもの。
ワシはこの時、盗賊王の再臨を確信したのじゃ!
ゆえにその状況を利用し、盗賊王の証となる仮面を彼に被せたが、彼はその位をあっさりと捨ててしまった。
それもそのはず。彼は盗賊王などという小さな器におさまるような方ではなかったのだから。
生ける伝説として名高い救世のサムライ。その大人物こそ、ツカサ君その人だったのじゃから。
まったく、とんでもない方を連れてきたものじゃよ。我が孫は。
確かに彼は、即座にその座から引退したじゃろう。
しかし、二代目であるという事実は変わらない!
ならば、我等義賊アリガマ様の志を継ぐ者すべて、元二代目の味方であってなんの問題もない!
あなたがなにかお困りの時、我等は総力を結集し、必ずお力となりましょう。
帝国内でいかようなことが起ころうと、我等はあなたの味方です。どうかその時、我等の力を存分にお役立てください!
──この日、新たな盗賊王が帝国に誕生したいう情報が、裏社会を駆け巡った。
この一報に、義賊の志を持つ者は勇気づけられ、不当に財をためこむ者は恐怖を覚えた。
しかもその王の座についたものは、世の救世主であり、生ける伝説となったサムライだというのだから、その一報の衝撃はすさまじかったという。
この話を耳にしただけで、みずからの行いを悔やみ、悪事から足を洗った者さえいたといわれるほどだからだ。
同時に二代目はもう引退したという情報も錯綜したが、それはこの誕生を信じたくないと願う者達の願望だと、一瞬して廃れてしまった。
この日を境に、帝国内で暴利を貪る悪党どもは、枕を高くして眠れる日はなくなったいう。
こうして、新たなサムライの伝説が広がってゆく……
おしまい




