第68話 サンスナンナの賞金稼ぎ
──ツカサ──
馬車を乗り継ぎ、てってこてってこと歩いてしばし。丘をこえた先の入り江に、その港町はあった。
入り江の先には灯台があり、入り江には砂浜と大きな港が見える。
街の周囲には陸からの襲撃に備えたレンガ造りの壁が作られており、丘から見下ろすその姿は、ヨーロッパのリゾート地を思わせる姿だった。
そんなリゾート地、実際行ったことないけどね。俺。
テレビや漫画で見たイメージってことね。
「この地は、海洋貿易の要の港というだけでなく、いわゆるリゾート地としても名をはせております。海産物も絶品ですから、帝国への出発前には一度食することをお勧めいたします」
「ほー」
マックスの説明に、思わず声をあげた。
ご飯が美味しいってのはいいことだよね。
そんな説明を受けながら、俺達はひとまずの目的地。グラスナンナ領の港町。サンスナンナの街に入るのだった。
ずーん。
なんか、そんな音が聞こえそうなほど、街の空気が重い。
入ってみて、そんな雰囲気が感じられた。
リゾート地と聞いていたけど、とてもそうは思えない、活気どころか人気もさっぱりな街が、俺達をおでむかえしてくれたのだった。
通りにある土産物屋や出店なんかは軒並みシャッター(比喩的表現)を降ろし、家々はその扉を硬く閉ざしている。
その窓からは、俺達を見下ろし、どこか厳しい目をむけているような視線さえ感じる。
とてもじゃないが、名をはせたリゾート地とは思えない、ぴりぴりした雰囲気が感じられた。
「これは、一体……」
マックスが、どこか困惑したような表情を浮かべている。
つまり、この状況はマックスが知る街の様子とはまったく違うってことなわけだ。
「おいら達が地獄行ってる間に、なんかあったのかね」
「かもしれんな。いずれにせよ、誰かに話を聞かねばわかるまい」
ということで、まずは開いている店を探し、そこで情報収集に当たることになった。
ひとまず、この街の目抜き通りとなる、両側に商店や出店が並ぶ、大通りを目指して歩く。
「うわあぁぁぁ!!」
T字路にさしかかった時、カドから一人の男が転がり出てきた。
なにごとっ!?
びくっとして、マックスとリオが身構える。
俺は、びくっとしたけど、反応さえ出来ず、ただびっくりしただけだった。
転がった男は即座に体勢を立て直し、膝立ちになって腰のナイフを……
ヒュンッ!
抜いて自分が転がってきた先へむけようとしたが、道の奥からなにかが風を切り、そのナイフを弾いた。
ナイフを弾いたそれ。それは、鞭のようにも見えた。
だが、音は金属がぶつかった音だった。
「ちくしょう。捕まって。捕まってたまるか!」
男は弾かれた衝撃で尻餅をつき、怯えたようにそのままあとずさる。
「ったく。往生際が悪いんだから」
ちゃらん。ちゃらんと、なにか金属を引きずるような音と共に、道のカドから一人の女性が姿を現した。
二十代中盤から後半くらいだろうか?
燃えるような赤髪が印象的で、手には金属のプレートらしきものがワイヤーのようなもので数珠繋ぎに連結されている剣のような、鞭のようなものを手にしている。
それが、さっきあの男のナイフを吹き飛ばしたに違いない。
彼女が手首をくん。と動かすと、そのワイヤーがじゃららと縮み、プレートが集まり、一本の刃となった。
鞭のようなものが、剣に変わったのだ!
あ、これ、漫画とかで見たことある。
蛇腹剣とか、鞭剣とか言われるファンタジー武器だ!
地球じゃ実用性まったくないロマン武器って聞いたことあるけど、魔法もあるこの世界じゃああいうのも可能なんだ。さすが異世界ファンタジー世界!
思わず、すげぇ! と心の中でうなっちまったよ。
「さあ、観念しな」
尻餅をついた男の前に立った赤髪の女の人は、剣状態にした蛇腹剣──この世界ではウィップソードと呼ばれるようだ──を男の眼前につきつけ、そう宣言する。
そうして、相手の動きを牽制しながら、今度は俺達の方へ視線をむけた。
「先に言っとくよあんた達。あたしは賞金稼ぎ。こいつは賞金首だ。間違ってもあたしのエモノを狙おうとなんて考えるんじゃないよ。ちなみに、こいつが賞金首だって証拠は、すぐ横にはってあるからそいつで確認しな」
そううながされ、横を見ると壁にいくつか手配書がはってあった。
街の掲示板なのだろうか。もの凄い数の手配書がある。
その中に、確かにそこで震える男の似顔絵が描いてある手配書があった。
なぜか二人並べて描いてあり……
「ダヌス兄弟か」
上に書いてあった文字を、マックスが読み上げる。
……二人ある理由がわかった気がした。
似顔絵の特徴と、尻餅をついている男の特徴は確かに一致している。
なにをやったのかまでは、文字が読めないのでわからないが、つまりはそういうことなんだろう。
なら、俺達がなにかを言う必要性はない。
ぶっちゃけ喧嘩にまきこまれたくないからな!
君子危うきに近寄らず。世の中安全平和が一番!
「だからさがってな」
もちろんですとも!
その言葉に従い、素直にさがろうとしたとの時。
「ざけんなぁ!」
自称賞金稼ぎの人が出てきた方から、剣を手にした、もう一人の男。
あの手配書に描かれていたもう一人の男が飛び出してきた。
つまりあれは、ダヌス兄弟の片割れ!
「ちっ」
舌打ちをしたものの、振り下ろされた剣を易々と受け止める。
ギィン! と、金属がぶつかる音が鳴り響いた。
「おい、大丈夫なのかよ」
リオが心配そうな声をあげた。
「問題ない。不意打ちで二人で同時にかかったとしても、あの娘の方が腕は上だ。奴等に勝ち目などない」
『その通りだな』
『ええ。二対一でも彼女の勝利は揺るぎません。私達が手を貸すまでもありませんよ、リオ』
マックスどころか、オーマとソウラもそれに同意する。
つまり、心配する必要は欠片もないってことだった。
なら安心と、俺はさも知ってますという体を装ってその戦いを見守ることにした。
だが、次に起こった動きに、俺達は度肝を抜かれることになる。
「今だ、背中からヤツを……! きょうだ……」
「うおおおぉぉ!」
尻餅をついていた方は、その隙を見逃さなかった。
勢いよく立ち上がり、駆け出す。
……俺達の方に。
「……いぃぃ!?」
「なにっ!?」
ダヌスの片割れも、賞金稼ぎのおねーさんも驚いた。
そりゃそうだ。兄弟を見捨てて逃げたんだから。
「こいつらを、人質にして! 俺は、俺だけは、逃げるんだっ!」
最低の発想だった。
これで、疑うまでもなく、この人は手配書の悪い人だってはっきりした。
男はもう一本隠し持っていたナイフを抜き、こちらに迫る。
「子供づれの、逃げな! そいつはそこそこ……」
賞金稼ぎのおねーさんの言葉も、そこまでだった。
おねーさんの忠告がこちらに届く前に、マックスがすでに行動を起こしていたからだ。
「ここは拙者にお任せあれ!」
そう言い、腰の刀でなく、前からさげているロングソードの方を抜いて、その刃の側面でこっちに迫ってきた男を殴り飛ばしたのだ。
見事なフルスイング。
男はマックスの一撃にまともな反応も返せぬまま宙を舞い、空中を何回転もして、そのままぼぐしゃぁ! と石畳の地面に落下した。
ぴくぴくと痙攣しているが、意識は見事にない。
相変わらず、つっえー。
さすがこの国の武闘大会優勝した男だよ。
「貴様のような輩、刀を抜くまでもない」
無駄にカッコよくロングソードを腰に戻し、ちらちらと俺の方を見てくる。
なにを期待してアッピールしているのだろうか。
とりあえず……
「ご苦労様」
……無難にねぎらっておいた。
「ありがたき幸せ!」
こんな一言なのに、大喜びされた。
小躍りまでしてる。
いいのか、コレで。
横ではリオが呆れている。
「ぐわっ!」
むこうも決着がついたようだ。
男の腹に、ウィップソードの柄がめりこみ、泡を吹いて倒れるのが見えた。
賞金稼ぎのおねーさんは、ふう。と一息つき、こちらをむく。
「あんた、やるじゃないか。ダヌスのヤツを一撃だなんて」
石畳に倒れ、気絶した男を見て、感心する。
「こっちに来てくれりゃ、同時に返り討ちにしてやったんだけど、残念だよ」
マックス達が言ったとおり、あそこで攻撃されても問題なかったようだ。
彼女は手早く二人を縛り上げてゆく。
「そうそう。あたしの名前はアマンダ。アマンダ・アケーノ。さっき言ったとおり、賞金稼ぎさ。そっちは?」
「拙者はマックス。見ての通り、サムライにござる!」
「マックス!? その格好。確かに。あんたが、あの……!」
マックスの名を聞き、姿を見てアマンダさんが驚きつつも、どこか感心したようにうなずいた。
さすが武闘大会優勝経験もある男。賞金稼ぎにも名が売れてるってことか。
「てことは……」
俺を見る。
「てことは……!」
リオを見た。
「……いや、さすがに名を騙るなら、他のもちゃんとしたヤツ用意しときなよ」
やれやれと、彼女は呆れたように肩をすくめた。
うんうん。信じなくてけっこう。俺、噂の人とは違うから。もうその噂の人、原形とどめないほど誇張されてて絶対俺じゃないから!
むしろ、信じてくれなくてありがとうございます!
「なっ!? 失礼な! この方をどなたと心得る! その隣はどうでもよいが。どーでもよいが!」
「どうでもいいをそんな強調するんじゃねえ!」
マックスの太ももが、パーンと蹴られた。リオに。
「ほあっ! くうぅ……!」
あまりの痛さに、太ももをおさえ、うずくまる。マックスが。
完全に油断してたな。今。
それでもよく蹴れたな。と思ったけど、リオはソウラ持ってるから、その補助もあった可能性あるのか。
すっげえいいのが入った。あそこ、なぜか凄く痛いんだよな。まだ袴の上からだから、そこまでダメージは残らないだろうけど。
「なんだってんだい、あんた等は……」
ますます呆れられてしまった。
でも、これでいい。このまま「ひかえおろー。この方こそ、世を救ったうんぬん」とか言い出されなくなってほっとしている。
暴力はダメだけど、リオ、ナイスアシスト。
「ふん。なんだってんなら教えてやるよ。ここに居る人こそな、二度世界を救った救世のサムライ、ツカサなんだぞ!」
リオおぉぉぉ!?
結局言うの? 言っちゃうの!?
なんで言っちゃうの!? そんなふんぞり返って、なんで満足げなの!?
「ええー」
あ、よかった。超疑いの目で見てる。
全然信じてない。
「うっそだー」
『ふふふっ。なら、証拠を……』
「いや、もういいわ」
二人を縛り終わり、よいしょっと立ち上がった。
口を開こうとしたオーマ、しょんぼりである。
アマンダさん、刀が喋りはじめたことさえ気づいてないし。
「さ、準備出来たから行くよ。ついてきな」
アマンダさんが、縛ったダヌス兄弟に気付けをし、目を覚まさせてその背中を蹴りながら、俺達を呼ぶ。
「む? いきなりなんだ? 共に行く理由など……」
痛みに耐えつつ、マックスが立ち上がった。
どうやら復活したようだ。
「あるだろ。こいつをぶっ倒したのはあんただ。なら、賞金の半分もあんたのもの。今からこいつ等を引き換えに行くから、ついて来いって言ってんだよ」
「いや、拙者は別に、金など……」
「ダメだね。あたしの賞金稼ぎとしてのプライドが許さない。あんたが倒したんだから、あんたのもんだ。これは譲れないよ」
ギラリと睨まれ、今度はマックスが肩をすくめる番になってしまった。
こういう人は、言い出したら聞かない。
そういう頑固な雰囲気がある。
「ついでに、街も案内してやるよ。さ、ついてきな」
俺達の反応も聞かず、彼女は二人の賞金首を蹴飛ばしながら歩き出してしまった。
「むう……」
マックスは、困惑しながらアマンダさんの背中を見送るしか出来ない。
「せっかくだから、好意にあずかろうか。賞金はともかく、この街のこと、教えてもらえそうだし」
「そうですな、わかりもうした」
俺の提案に、マックスもしぶしぶながら承諾する。
こうして俺達は、サンスナンナの賞金稼ぎ、アマンダさんを追って歩き出すのだった。
──リオ──
二人の賞金首をつれたアマンダと一緒に、サンスナンナの街を歩く。
目指しているのは、この賞金首、ダヌス兄弟を引き渡すこの街の衛兵が集まる詰め所だ。
その道中、おいら達は、大通りにさしかかった。
いわゆる目抜き通りと呼ばれる場所で、マックスが言うには前に来た時は通りの左右どちらも店が開き、多くの観光客でごった返していたのだという。
今はそういう観光客はこの街の人の姿はなく、アマンダと同じように武器を持った賞金稼ぎ風の奴等と、周囲を警戒するようにして歩く衛兵達の姿しかない。
腕に覚えのあるヤツ以外はみんな、家や宿屋で息を殺し、外に出ないようにしているみたいだ。
この状況、どういうことか。とアマンダに聞こうと思ったら、大通りから一本裏に入ったところで、大きな喧騒が起きた。
すかさず衛兵達がそっちの方へ走っていく。ついでに、賞金稼ぎ風の奴等も。
アマンダが走る衛兵を一人捕まえて事情を聞いたら、裏通りで賞金稼ぎ同士が睨んだ睨まない。当たった当たらないの喧嘩をはじめたんだと聞かされ、がくりと肩を落とした。
「バカ同士の喧嘩じゃ金にならないじゃないか」
「まったくだよ。こんな時にふざけやがって」
衛兵の方も、アマンダが呆れるのに同意しながら、ピリピリしているのがわかった。
「なあ、この街、これがいつもの風景ってわけじゃないんだろ? なんでこんなに、ピリピリしてんだ?」
もうさっぱりわからない。
だから、アマンダに聞く。
「やっぱあんたら、この街の状況知らずにきたんだね。まあ、こうなったのもここ最近の話だから、しかたないけど」
「そっか。最近の話か」
まあ、おいら達ここしばらく地獄に行ってたから、最近どころかこの半年くらいの事情は疎いんだけどさ。
むしろなんで知らないんだい? なんて馬鹿にされなくてよかったとしとこう。
「といっても、この状況だ。だいぶ知られてるとは思ったんだけど、まあいいか」
「あはは」
思わずおいらは、乾いた笑いを浮かべる。
「それもしかたのないことだ。拙者達は事情があり、ここしばらくこの国にいなかったからな」
「なんだそうなのかい。北の方にでも行ってたのかい?」
「まあ、そんなところだ」
「あっちにゃ賞金首さえ近づかないってのに、難儀なもんだね」
北の大地は遊牧民が暮らす広大な平原と、氷に覆われた大地が広がっている場所だ。
街なんてまともにないから、悪党が行っても意味のないところだからな。
おいら達には行く意味があったけど。
地獄に行くって。
ま、それはいいとして。
「おいら達のことはいいから、この街のこと教えてくれよ。おいら達、行くとこがあるんだ」
「そう。我等は帝国へ行かねばならぬ」
「帝国へ? それはそれは、ご愁傷様。今、ここから帝国行きの船は出てないよ。帝国どころか、漁にさえね」
「なんだって!?」
「なんと!!?」
「わお」
一人、ツカサだけのんびりした声を出した。
「ま、順を追って説明するよ。まず、今の状況は、二つの事情が重なり合って起きているのさ」
「二つ?」
「そう。悪党の流入と、船の出港停止って二つの事態がね」
「悪党の流入と」
「船の出港停止って、船が出れないのか?」
「そうさ。沖合いは今、荒れに荒れてて沈没祭りになってるのさ。大嵐が起きてるらしくて、こっちから帝国に行く船も、帝国からこっちに来る船もすべてストップしちまっている。行こうとすれば沈むんだから、当然の話さね」
「おいおい」
「マジかよ」
流石のツカサも、おいおいと言うしかないようだ。
あとに続いたのは、おいら。
「拙者達はどうしても帝国に行かねばならんのだ。事故が相次いでいるからと言って、船の一隻や二隻はあるだろう。それを動かせば……」
「そうもいかないのさ。定期船が動かない今、この街では別のことが起きている。それが、今の状況を引き起こしてるもう一つの事態さ」
「悪党の流入ってヤツか?」
「そ。こいつらとか、あっちのヤツとか」
言われてあっちを見ると、別の賞金稼ぎが男を引きずっていた。
「ちっ。ボギンズが捕まったか。あれも狙ってたんだけどね」
アマンダが舌打ちをする。どうやら、あれも賞金首らしい。
「あんたら、サムライの格好をしているんだから、サムライについては詳しいんだろ?」
「もちろんである。なにせ……」
「いや、それはもういいから」
ツカサが本物のサムライだ! とマックスが言おうとしたが、ぴしゃりと遮られた。
話の脱線はもういいって断固とした意思が見てとれる。
「そのサムライがやった中で、悪党互助組織、ビッグGを壊滅させたってのがある」
のがある。と言われたけど、肝心のツカサはまったく知らないように首を捻っていた。
でも、聞いた覚えがある。はじめて王都につく直前、それが壊滅したって噂話を。
サムライがやったって噂話だったけど、肝心のツカサは覚えてないみたいだ。
まあ、悪党いくつ潰してきたか、一緒に居るおいらも把握し切れてないし、しかたないけど。
「んで、悪党どもはその後ろ盾を失い、さらにサムライが世直しを続けた結果、こいつらは絶望の淵に叩き落されたのさ」
「絶望の淵?」
「そう。この国にいたら、いつかサムライに狩られる。次は自分の番だ。そう考えた奴等は、他所の国へ逃げようとした」
「へー」
サムライの威光が国全体に響いて、悪党どもが逃げ出すってのは凄いことだな。
威光が響いて、平和が広がってんだな。
でも、状況が大体わかってきた。
北は国らしい国はない。東が近いのなら、東へ逃げる。
だが、南の帝国が近ければ……
「そうして、帝国へ逃げるため、悪党どもがこの街へ集まってきたというわけだな?」
「そういうことさ。最初は順調に帝国側へ逃げ出していたけど、船が来なければ帝国へも渡れない。渡れなければ、悪党は集まる一方。そして、その悪党。賞金首を狙って、賞金稼ぎもやって来る。いろんな場所で捕物がはじまり、逃げ場のない悪党は必至に抵抗する上、自棄になった賞金首が立てこもり事件を起こしたり、街を歩く人間を人質。下手すりゃ無差別に攻撃したりするなどしてるわけさ」
「あー」
「逃げ延びたい賞金首と、捕まえたい賞金稼ぎの争いがそこかしこで起きて、さらに賞金稼ぎ同士の争いも勃発して、街そのものがピリピリしているってわけさ」
その結果が、今の状態ってわけか。
住人が下手に歩けば、さっきみたいに人質にされたりするわけだから、そりゃ出歩こうともしねーわ。
賞金稼ぎ相手に、その人質通じない可能性もあるし、そうなったら、怪我するだけじゃすまないからな。
観光客だって、同じだ。
しかも船も来ないんだから、商人さえこの街にいる理由がない。
「おかげで、漁に出る小さな船さえ出せない状況でもあるのさ。下手に船を出そうものなら……」
「それは、俺達の格好のエモノってわけさな」
ダヌス兄弟のアマンダにやられた方が笑う。
そして背中を蹴飛ばされた。
「そう。船の出港準備なんてはじめようとしようもんなら、この街から逃げ出したいこいつらに船が狙われる。沈む前に、船じゃなく自分が沈むことになるのさ」
生き延びようと必死の悪党は、なにをするかわからない。
だから、海に出る命知らずを集うどころの話じゃない。
そんなことをしたら、船員のほとんどが船を乗っ取ろうとする悪党なんてなりかねない。
いっそそれで悪党どもを集めて、その嵐をこえるための人手にするのもいいんじゃないかなんて思ったけど、悪党がまともに船の操作を出来るとも思えないし、言うことを聞くとも思えないから口には出さなかった。
「まあ、港の方はそうして悪党に襲われないよう、衛兵達が守りを固めているから、もう被害はないし、悪党どもも逃げ場はない。もうじき狩りつくされて、いつもの平穏が戻るだろうさね」
それは確かにそうかもしれない。でも……
「むしろ問題は、その嵐の方さ。いつになってもおさまらない。このまま交易が出来ないままじゃ、この街が干上がっちまう」
嵐か。それは確かに厄介だ。
でも……
『嵐ならば、天を司る私の力があればなんとかなるでしょう。嵐をこえるだけとしても、船を私の障壁で覆えば風も雨も防げますから』
おいらの頭にソウラの声が響いた。
今悪党が聞き耳も立ててるから、これはおいらとソウラだけの会話だ。
「なんにせよ、船を出せるようにしてもらわなきゃどうしようもないよ」
「その通りにござるな」
「あんたら、そこまでして帝国に行きたいのかい。賞金首でもないのに、なにか、よっぽどの事情があるんだね」
「ああ。あるんだよ!」
おいら達の肩には、戦争の行方がかかっているんだから!
でも、船が使えないとなると、とんでもなく遠回りせざるを得なくなるぞ。
山もいくつかこえていかなきゃならなくなるみたいだし。
「そっか。なら……っと、続きは賞金を受け取ってからだ」
話していたらいつの間にか、衛兵の詰め所となる建物についていた。
「……なにこれ?」
詰め所についたのはいいけど、その入り口や壁にはたくさん同じ落書きがあった。
「ハイン、ズシィ?」
ハインズシィターカ。かな。書いてあるのは。どれも。
「賞金首達の落書きさ。この街で使われる、いわゆるスラングで、見つけたら殺すとか、見つけ次第殺すとかそんな意味の脅しさ。転じてここから出て行け。消えろとか、警告の意味でも使われるね」
ああ。だから賞金稼ぎも集まるここに、こんなたくさん。
これを見ただけで、今この街の治安がどれだけ荒れているかがわかった。
「へっへっへ。ここのこれ、俺が書いた」
「こっちは俺だ」
「言わなくていいよそんなの」
アマンダがダヌス兄弟を蹴飛ばし、詰め所に入ってゆく。
おいら達も、一緒に来いというから、ついていった。
詰め所の中は、ピリピリしている上、喧騒は街中の比じゃなかった。
街中で散発している喧騒が、そのままここに集まってきているようなものだからだ。
「んだこらぁ! んだこらぁ!!」
「人違いなんだよー。俺じゃないんだよー」
「くそっ、俺を誰だと思ってやがる!」
詰め所の中で騒ぐ賞金稼ぎと思しき奴等。
それを力で押さえつける賞金稼ぎと衛兵。
そこに追加するように、アマンダはダヌス兄弟をロビーに転がす。
「二人、追加だよ」
「おお、アマンダか。こいつは、ダヌス兄弟か。さすがアマンダだな」
受付から出てきた衛兵の一人が、感心したようにうなずく。
もう何人も牢屋送りにしてるみたいだ。
「ん? 後ろのは?」
「ああ。あのサムライもどきはダヌス兄弟の一人を一発でのした凄腕さ。つまり、賞金の半分はこいつのもんてこと」
「ほぉ。ダヌス兄弟を一発でか。そりゃすげえ。サムライの格好してるのは伊達じゃないってことだな」
「そんなことはござらんさ」
と言いつつ、褒められて嬉しいマックスだった。
こいつガラにもなく、照れてやがる。……いや、サムライの格好を褒められたから照れてるなこいつ!
「今日も大盛況じゃないか」
「こっちとしては、余りうれしい悲鳴じゃないがね。とはいえ、今日の夜。だそうだ」
「……今日の夜かい。わかったよ。丁度いい話さ」
「今日の夜? なにかあんのか?」
「後で話すよ。ここじゃちょっとさ」
おいらの疑問に、アマンダは口元に手をあて、しーっとジェスチャーした。
どうやら、ここじゃ話せないことらしい。
「さて。さっさと賞金をおくれよ!」
「わかったわかった。少し待て」
アマンダは賞金の受け取りの手続きに入った。
今回ダヌス兄弟はここで顔が売れていた賞金首だったから捕まえての賞金はさっさと払われるみたいだけど、賞金をかけられたのが別の場所だったりすると、本当に捕まえたのがそいつなのかの確認作業で時間がかかったりすることもあるらしい。
場合によっちゃ、現地にそいつを連れていった方が早い時もあるんだとか。
今回はそういうことはなく、あっさりとダヌス兄弟の賞金。二千ゴルドが支払われた。
マックスと山分けして千ゴルド。一月百もあれば普通の暮らしが出来るから、その十か月分の儲けだ。おいらなら贅沢しないでその倍は生活出来るけど。
「よしよし。小物だったけど、そこそこの金にはなったね」
「本当によかったのか?」
同じ重さの袋を持ったマックスが、聞く。
「くどいねあんたも。それより、一ついい話があるんだけど乗らないかい?」
「いい話だと?」
「帝国を目指すあんた等にも損はない話さ。表じゃちょいと話せないから、あたしの住処に行くよ」
ついてきなと、手を振る。
「また移動すんのかよ」
「どうせ次あんた等の行くとこは宿屋だろ? なら、ウチに泊まっていけばいい。あとは、聞いてから判断しな」
「まあ、聞くだけ聞いてみようか」
ツカサの一言で、決定した。
おいら達は今度は、アマンダの住処にむかって歩き出す。
──マックス──
拙者達はアマンダの住処というところに案内された。
「ここは……」
到着し、ツカサ殿が小さく呟く。
そこは、いわゆる学校と呼ぶべき建物だった。
アマンダは堂々と校庭を横切り、入り口へ歩を進める。
建物は木製の三階建てで、築何十年といったところだろうか。とても古く、その古さに相応しいボロボロさであった。
「みんなー、帰ったよー」
「あー、アマンダおねーちゃんだー!」
彼女が外から声をかけると、建物から一斉に子供達が飛び出してきた。
その数、十六人。
下はよちよち歩きの幼子から、上はその幼子を抱えたリオと同じくらいの子まで。
おおよそこの国で子供と分類される子達が、一斉にアマンダを取り囲んだ。
わいわいきゃーきゃーと、アマンダの帰宅を歓迎する。
それは、それだけ彼女が慕われているという証であった。
「悪いねみんな。これから少し、この人達とお話ししなきゃいけないんだ」
「また、お金の話ー?」
「こらこら。子供がそんなこと気にしなくていいんだよ。さ、みんなは外で遊んでいな」
「はーい」
アマンダの言葉に皆、素直に従い、外で遊びはじめた。
「応接間はこっちだよ」
アマンダは子供達を見送り、拙者達を応接間に通した。
座れとうながされたソファーは、かなり年季のはいった代物だった。
「悪いね。これから話すことは、子供達の前でも、さっきの詰め所のところでも話せない内容だったからさ」
「それよりも、まずここのことを説明してもらおうか?」
「ん? ああ、悪い悪い。驚いたかい? ここは十年前のアレで廃校になった学校を再利用して作られた孤児院なのさ。あたしもあの時ここの世話になってね。今はあたしが、ここの責任者なのさ」
そういうことかと納得する。
十年前のアレといえば、ダークシップの襲来だろう。
あの時、サムライがこの国に現れてくれたゆえ、被害は他の国に比べ、最小で済んだ。しかし、ゼロではない。
暴れまわった闇人。空から撃ち放たれる赤き閃光。
それにより、多くの被害が出たのも事実だ。
そうして親を失った者達に手を差し伸べる者が居たのも事実。
我がマクスウェル領にも、そういった孤児院は存在している。ここも、そうして作られたものの一つなのだろう。
ただ、先の子供達の発言と、部屋の中の年季の入り具合からして、援助はほとんど得られていないのだろう。
経営そのものは、余り芳しいとはいえないように見える。
「一つ問うが、ここの経営、あまり良いとは言えないのではないか?」
「まあ、ギリギリってとこかね。なんとか子供達には不自由させないようにしているつもりだけど」
「いやいや、そう言うならばなおのこと賞金を受け取るべきであろう!」
拙者の手におさまったこの賞金。
これがあれば、多少なりとも経営の足しになる!
「それはそれ。これはこれよ。これはあたしの矜持に関わることなんだから、文句は言わせないわ」
「それで子供達にひもじい思いをさせては本末転倒だろう!」
「だからギリギリでやっていけてるって言ってんだろ」
拙者とにらみ合うが、アマンダは一歩もひくつもりはないようだった。
「頑固なヤツだぜ」
リオもそれを見て呆れている。
「頑固にもなるさ。あんただって二人も子供つれて帝国へ行こうとしているんだろ? なら、路銀は多くあってしかるべきじゃないか」
「へ?」
「え?」
「あー」
一番最初が拙者で、次がリオ。最後納得したような声をあげたのはツカサ殿だった。
「いやいや、拙者達は金に困ってはおらん。むしろこの二人を子供あつかいしては失礼というものだ」
リオはともかく! と言おうとしたが、先ほどのモモパーンがあるので自重しておいた。
「いいんだよマックス。そう言うのは仕方のないことだ。彼女の矜持を曲げてさせる理由にはならない」
「むっ、ツカサ殿がそう言うのであれば」
ならば、しかたがない!
(俺が子供なのは当然の話だからな)
──ちなみにだが、このイノグランドの成人としてあつかわれる年齢は大体十五歳くらいからである。
現代の感覚とは違うので注意が必要だぞ!※ツカサ、十六歳
「それより、どうすれば寄付を受け付けてくれるかを聞いておいた方がいい。マックスんちから、寄付するとかさ」
ついでに、拙者にそう耳打ちしてくれた。
確かに、今ここでアマンダに金を渡すより、そうした方がスムーズに行くだろう。
ツカサ殿の言うことももっともだと思い、このことは棚に置くことにした。
「大体、あたし以外にも支援してるヤツは一杯いる。ご近所さんの助けもあるし、なんとかやっていけてる。大丈夫さ」
あれからもう十年。すでに社会に出て稼いでいる者も多い。その寄付金もあるのだという。
「ともかく、金の心配はいいんだよ。それより、あんたにも利がある話をするよ。このために、わざわざここまでつれてきたんだから」
「そういえばそうであったな。一体なんなのだ?」
「この街に来た悪党どもは、ここから船で逃げたいのに、船がないって話はしたね?」
「ああ。したな」
ツカサ殿の存在に恐れをなした悪党どもが、この港から帝国へ逃げようとしているが、肝心の船が出ないので足止めをされ、賞金稼ぎに狩られているというのが今の状況だ。
袋のネズミである奴等は、沖に逃げられる船が喉から手が出るほど欲しいであろう。
「それを逆手にとって、この街の衛兵と騎士団は、罠を仕掛けることにしたんだ」
「ひょっとして、船を用意して、そこに悪党どもをおびき寄せるってのか?」
「そう。それだよ」
リオの言葉に、アマンダがうなずく。
どうやらリオも似ているがちょっと違うことを考えていたようだ。
「この地下下水道から、街の横に走る崖の中にある隠し港にいけるんだが、そこから秘密裏に船を出すと噂を流してあるのさ。その決行が、今夜なんだよ」
「あ、だからさっき」
リオが、なにか気づいたようだ。
どうやら衛兵の詰め所で話していたのが、それだったらしい。
「確かにそれじゃ、表で話すこと出来ないな」
どこで聞いているかわからないのに、罠の話など出来るわけがない。
だから、彼女は我々をここに連れてきたというわけか。
「確かに、船があるとわかれば、この街から逃げ出したい者達はそれに飛びつくだろう」
「そうさ。この街が計画し、衛兵、騎士団も参加するこの一網打尽作戦に、あたし達賞金稼ぎも参加することになっているのさ。騎士団としても、これ以上街の治安を乱してはおけないからね。実力と信頼の置けるヤツに声をかけてあるんだけど、どうだいマックス。あんたもそれに参加しないか?」
「拙者も?」
「そうさ。あんたの腕なら大歓迎だ。それに、捕まえるのに貢献すれば、それだけ賞金も出る。治安が戻れば、あんた等の望む命知らずの船乗りも動きはじめる」
確かに、悪党どもが一網打尽にされ、治安が回復すれば、船を沖に出すことが出来る。
その解決に手を貸せるのならば、願ってもないことだ。
「だが、いいのか? 拙者が参加すれば、お前の取り分も減ることになるが」
「確かに、あんたならビッグG最後の大物なんていわれる、あのヴァリー・バルボアも確保できるだろうね」
ヴァリー・バルボア。
壊滅したビッグGの中で唯一生存が確認されている大悪党。
この南部を中心に暴れまわるが、悪徳商人や貴族などしか狙わず、市民からの人気は高い悪党だ。
ただし、狙ったエモノがそういう奴等なので、かけられた賞金は驚くほどに高い。
様々な地域で賞金をかけられ、その総額は百万ゴルドに迫るという。
大物賞金首や悪党は軒並みツカサ殿に駆逐された中、唯一の生き残りと言ってもいいだろう。
その顔は、常にマスクで覆われており、素顔を知る者は誰も居ない。
彼が彼だと証明するのは、その右手にあるバルボア団を示すヴァリーの証のみだ。
この顔がわからないという点で、彼は今まで逃げ延びてきたのである。
しかし、義賊を装っていたとしてもしょせんは盗人。
このままこの国に居てもジリ貧と判断し、帝国へ逃げようとしていたようだ。
そんな大物も、ここに潜伏している。
「むしろそれが確保できれば、この財政も一気に改善されるのではないか?」
「確かにそいつを捕まえることが出来れば、建物だって建て替えられるし、子供達も不安なく暮らせるようになるかもしれないね。でも、今回絶対に捕まえたいのは別にいるのさ。あんたにはむしろ、それ以外の露払いをお願いしたいんだよ」
「露払い?」
「ああ。そいつを絶対に捕まえられるようにね」
そう言い、アマンダは一枚の手配書をテーブルの上に置いた。
「吊るしのゴルゴラスって呼ばれる押しこみ強盗さ」
聞いたことのない賞金首だった。
先の大物、バルボアとは違い、有名な存在ではないが、商家や商店に押し入り、中の者を殺し金品を強奪して行く外道だ。
その存在を示すためか、押しこんだ先で殺したものを天井から吊るしてゆくため、その『吊るし』という二つ名がついたらしい。
この南部で犯行を重ね、二桁を超える罪のない商家を潰しているという、まさに賞金首になるべくしてなったという男だった。
「あそこで一人、輪に入らずいる子がいるだろ?」
唐突に、彼女は外で遊ぶ子供の一人を指差した。
それは、先ほど彼女がここに戻った時も、一人遠巻きに見ていた少女だった。
「ヤツはね、あの子の両親を手にかけたんだ」
「っ!」
「あの時、あたしもヤツを追って現場に踏みこんだ。ギリギリのところであの子は見つからなかったけど、やつが吊るしたあの子の両親の姿……あんな地獄をあの子に見せつけたんだ。許しちゃおけないだろ……!」
彼女の拳が、硬く握られた。
それだけで、わかる。
彼女の悔しさが。
その無念が!
「そいつも今、この街に潜伏してるって情報が入った。だから、間違いなく来る。なんとかして、捕まえたいんだよ。でも、他の悪党もほっとけない。だから、あたしのかわりに、そいつらを捕まえる手伝いをしてもらえないか?」
「もちろんだ!」
むしろ、その理由を聞き、手伝わぬ理由が、断る理由がない!
なにより、ここで一網打尽に出来ねば、その先にある船出も確約されない。帝国に行くためにも、この一件は早急に解決しなければならなかった!
「助かるよ。実行は今夜だ。早速だけど、大丈夫かい?」
「もちろんにござる!」
「これで街の治安が戻れば、船を出せるようになる。この状況でも船を出す計画を立てている命知らずを知っているから、そいつも紹介させてもらうよ」
それは渡りに船である。
ゼロから探すことになるかと思ったが、どうやらそうはならなかったようだ。
「ならばなおのこと、一網打尽にせねばなりませんな! ツカサ殿! それに、リオ!」
「おいらはあくまでおまけかよ」
やれやれと、リオは肩をすくめた。
「え?」
拙者が確認すると、アマンダは首を捻った。
「その二人も、来るわけ?」
今度は拙者が首を捻る番だった。
「当然だが?」
「いやいや、うちの子供達と同じくらいの子を戦場に連れて行けるわけないだろ!」
いやいや、リオは確かにまだ子供だが、ツカサ殿は……ツカサ殿も……はて。ツカサ殿は、おいくつなのだろうか? 十代中盤というのは見ればわかるが、十五をすでに超えているのか? いないのか? いかん。童顔がすぎてわからん……!※いわゆる東洋人は、若く見られがちだから。
だが……っ!
「馬鹿を言うでない。子供だからなど関係ない。拙者など、十二の時にはすでに戦場に立っていたわ!」
「それは褒められたことじゃないだろ。今と昔は時代が違うんだよ」
「時代など関係ない。ツカサ殿は……」
「いや、マックス。張り合わなくていいから」
ツカサ殿が拙者とアマンダの口論にわって入ってきた。
「ですがツカサ殿!」
「マックス、いいんだよ。お姉さんは俺達を心配して言ってくれたんだから。感謝はしても、文句を言う筋合いはない」
「なんとっ……!」
確かに、外見からだけで判断すれば当然かと思いますが、ツカサ殿の真の実力を知る私からすれば、それは不当な考えだと……!
しかも、逆に感謝するなんて!
「俺とリオは、外で待っているから、マックスは一緒に行って、活躍してこいよ」
……はっ!
そ、そういうことか。そういうことだったのですね!
ツカサ殿のお言葉に、拙者、ぴんときたにござる。
ツカサ殿は今回、この一件を拙者に任せてくれたのだ!
そう。これは、拙者に与えられたチャンス!
ツカサ殿は、この半年でどれだけ拙者が成長したか、拙者一人でどこまで出来るのか、見せてみろと言っておられるのだ!
ツカサ殿ならば、集まった悪党などひと睨みで解決出来るような事態。
それを、拙者がどう解決して見せるのかを!
これは、拙者を信頼してくれているという証と共に、とてつもない重圧!
だが、ツカサ殿にいいところを見せるチャンスでもある!
いいところを見せられれば……
ほわほわー。
想像中。
きらきらと光る朝日が海を照らし、ツカサ殿を輝かせている。
その太陽を背にし、拙者が頑張った結果を見てツカサ殿は言う。
「凄いなマックス。半年でこんなに強くなったなんて。どれ、少し本気で相手してやろうか」
そうして、ツカサ殿は腰のオーマ殿を抜いた!
なんて、稽古をつけてもらえるかも!
(『御意っ!』)
拙者は思わず、相棒のサムライソウルと共に、心の中で拳を握ってしまった!
さらに、いざという時、自分はバックアップで待機している。
拙者の成長を見守るのと、一石二鳥のかまえ!
拙者、ツカサ殿の深い考え、今度は見逃しませんでしたぞ!
「わかりもうしたツカサ殿! 拙者、一人で立派にやりとげてみせます! 見ていてくださいね。師匠!」
「任せた。って、師匠ゆーな」
久しぶりに呆れられた気がしまする。
ですが、そのご期待、必ず答えてみせましょう!
「さあ、アマンダ、今すぐ行くぞ! 現場はどこだ!」
「いや、だから夜だって言っただろ。下手に動くと逆に怪しまれるよ。ちょっと落ち着けっての」
ええい、夜が来るのが、待ち遠しい!
「……大丈夫かねぇ」
「大丈夫。マックスはとても優秀だから」
「少なくとも、そこにおびき寄せられたのは全部捕まえられるだろうぜ。マックス、すげぇやる気だから」
あぁ、任せるでござるっ!
──ツカサ──
いやー、アマンダさん、俺のことサムライだとかまったく信じてくれなくてホント助かる。
オーマを持ってるからサムライだって断定されたら、その一網打尽作戦参加させられかねないからね。
どうやらアマンダさんは、子供を戦わせるのは反対みたいだ。
俺も見事に未成年で当てはまってるから、戦いには出さないってわけなんだね。
いつ戦えって言われるかドキドキしていたけど、そんなこともなく待っているだけで済みそうでほっとしているよ!
アマンダさん。この感謝、マジだからね!
────
夜。
サンスナンナの港町を囲む崖の中にある秘密の港。
その港に一隻の大型船がつけられ、それを見上げるように多くの悪党、賞金首が集まっていた。
誰も彼もが船を見上げ、「おおー」と感嘆の声をあげている。
それは、これで帝国に逃げられると安堵をふくんでいた。
「ここまできて。ここまできて捕まってたまるか」
「帝国にさえ行けば、逃げられる。逃げ切れるぞ。俺は!」
「やった。これで、ここで隠れて怯えて暮らすのは終わりだ!」
「……この雰囲気。まずいな」
巨大な船を前にして、興奮と安堵を浮かべる者達を尻目に、一人の男は背筋がヒヤリとする感覚を味わっていた。
この勘が働く時は、自身に良くないことが起きる前兆なのである。
この勘を信じ、彼は今までうまくやってきた。
ゆえに、今の状況は、よくないと、はっきり感じている。
ビッグGも消えうせ、後ろ盾も失い進退窮まってきたのを感じた彼は、この国から逃げ出そうとこの街へやって来た。
だが、まさか船の出入りが消えてしまうとは、予想は出来なかった。
大自然の脅威。その足止めは勘とかそういうレベルの話ではないのだから、どうしようもない。
(……囲まれている)
男は、それを確信する。
この船は、自分達賞金首を捕まえる、罠だと!
それを確信すると、男はゆっくりと動き出した。
男が行動を開始したその時。
船の甲板に、人影が現れた。
それは、鎧を纏った騎士だった。
同時に、周囲の物陰から他の騎士、衛兵、さらに賞金稼ぎの連合軍が飛び出してくる。
「もうお前達に逃げ場はないぞ! 大人しく降伏しろー!」
「確保ー!!」
「くそっ! 船があるってのは罠だったのか!」
「俺、知ってた! 知ってた!」
「くそっ、どうにかして逃げろー!」
罠と気づいた賞金首達が応戦をはじめる。
が、すでに囲まれた上、数は衛兵賞金稼ぎ連合軍の方が上。
悪党どもに、逃げ場はなかった。
そんな中……
一人地下通路へ逃げ出す人影があった。
共に苦楽を共にした仲間も見捨て、たった一人だけその囲みに覆われぬよう隠れ、囲まれた一団。賞金首達を囮とし、その場か逃げ出した男が。
その逃げ出した男を、隠し港の壁にあいた穴から見ていた二人の男女。
アマンダとマックスは見逃さなかった。
「あいつだ……!」
ある賞金首を捜し、現場を見回していたアマンダが呟く。
逃げ出した男。それこそが、彼女が捕まえようと息巻いていた賞金首。吊るしのゴルゴラスだったのだ!
「逃がしはしないよ! マックス、あとはここ、任せていいかい?」
「うむ。こちらは拙者に任せておけ。あとは全部、捕まえてしまってかまわんだろう?」
「はっ。豪気なもんだね。やれるならやってみなよ」
アマンダはウィップソードを使い、それをロープのかわりとして喧騒の上を飛び越え、ゴルゴラスが逃げた通路へ飛びこむ。
この地下通路は街の地下を網の目に走る下水道も兼ねている。
ここで見失ったりすれば、もう終わりだ。
チャンスは今しかないと、アマンダは全力でゴルゴラスを追いかけた。
「では、拙者も行くとしようか」
一方のマックスは、港全てを見おろせる壁の窓から、こともなげに飛び降りた。
サムライとして目覚め、刀を抜けるようになったマックスならば、この程度の高さ苦もない高さなのだ。
ずどんっ!
衝撃と共に、乱戦となった港の岸壁に、マックスが降り立つ。
この日、武闘大会を制し、この国随一の剣士と言われたマックスの実力は、本物であったと、再認識される……!
──ゴルゴラス──
勘に従い、俺は船を見る集団から離れ、機を見た。
そして、俺の勘どおり、この船は、罠だった。
なんとかしてこの国から逃げ出したいという気持ちをついた、巧妙な囮。
味方と思っていた仲介人さえ、街の奴等に取りこまれていたとは、サムライの威光ってのは嫌な光だぜ。
だが、俺はそいつらを囮にして、地下下水道に逃げこむことに成功した。
俺は勘が鋭い。
前にも俺に逆らった一家を皆殺しにして吊るしていた時、賞金稼ぎが迫っているのに気づいて逃げ出したのと同じだ。
ビッグG崩壊の時も、この勘を頼りに行かず、俺は生き残った。
慎重に、時に大胆に、表と裏を使い分け、危機を感じたらさっさと逃げる。
これが、今まで俺が生き残ってこられた成功の秘訣だ。
「……っ!」
まっすぐ伸びた地下通路を走っていた俺は、その勘に従い、足を止めた。
びしっ。
ゴゴゴゴゴゴッ。
ランタンを天井にむけると、破壊の音と共に、天井が崩れ落ちた。
ほら、この通り。
俺の勘をもってすれば、この突然の崩落にも巻きこまれることはない。
この勘がある限り、俺は決して捕まることは……
ぞわっ!
戻ろうと通路を振り返ったところで、俺の勘がヤバイが増加しているのを告げた。
そう、だ。
ここは一本道。
唯一の逃げ道は、今天井が落ちてきて塞がれた。
もし、今、ここに賞金稼ぎがやってきたら……?
ぞわっ。
ぞわっ。
ぞわっ!
ヤバイ。
俺の勘が、最大級のヤバイを告げている。
逃げなくては。
早く、ここから……!
だが、いくら逃げ場を探しても、そんなものはどこにもなかった。
ちらりちらりと、なにか光るものが近づいて来ているのがわかる。
俺は大慌てで、ランタンの光を消した。
消したが、もう、遅い……!
その光が、徐々にこちらに近づいてくる。
ヤバイの感覚が、どんどん膨らんでいく。
バカな。
無敵の俺が!
こんな、こんな偶然に……!
……偶然? なの、か?
地下通路の天井がいきなり崩れた。
もうこの街が作られ、何百年とたっているというのに、まだまだ現役の、この地下通路が?
ぞわわわわわっ!!
俺の勘が、これが偶然ではないと告げていた。
地上に、トンでもないバケモノがいると、教えてくれる。
なん、だ。これは……
こんなのまで、俺達を捕まえるため、来ていたのか……?
一体どんなバケモノなのか。
そんなことを考えるのは、もう無駄だった。
目の前に、光が現れ、俺の目を焼く。
じゃらりと、蛇腹となった剣が展開されたのがわかる。
はっきりと確定したことは、俺は、この賞金稼ぎに引導を渡されるだろうということだった……
──ツカサ──
夜。
俺とリオはなぜか、一網打尽作戦が行われているところから、少し離れたところで待っていた。
どうやらリオは、万一とりにがしたヤツがいた場合、捕まえる気でいるらしい。
やっぱり、子供あつかいされたのは、内心気分が良くなかったようだ。
あの時は俺がいさめたからなにも言わなかったけど、夜になってマックス達が行くとなったら、こうしてついてきてしまったのだから。
だからといって、本当に賞金首が逃げてきて、鉢合わせされても困る。
リオにはソウラがあるけど、俺にはなにもないのだから!
マックスがいない今、俺は自分の身は自分で守らなきゃならない。
でも、単なる高校生の俺が、賞金までかけられてる犯罪のエキスパートに勝てるわけがない。
えらいこっちゃ。リオになんとなくついてきたのが、こんな仇になるなんて!
いや、だからって、孤児院に一人残されても困るんだけど。
知り合いがまったく居ないところで待つなんて、なんて拷問だ!
まあ、それで怪我してたらせわないけど。
さて、どうしたもんか。
あ、いいことひらめいた!
ちょっと考えたら、ぴーんとひらめくものがあった。
「リオ、一個確認したいことが出来たんだけど、いいか?」
「んー? なにー?」
道路の隅っこで準備体操をしていたリオに問う。
「アーリマンさんにもらったその鎧さ、それって俺でも着れんの?」
リオの胸元で揺れるペンダントを指差した。
一つは、ソウラがちっちゃくなった剣型。もう一つは、黄金竜を元にした、聖剣の勇者を守るため作られた、黄金の鎧。
それは、基本的に、聖剣の勇者のみに着ることを許された、勇者の鎧だ。
通常、聖剣の勇者は世に一人。
でも、俺は例外で、女神様が特別に許可してくれたらしく、聖剣を持って振ったり出来る。
ちなみに、聖剣に認められていない者が聖剣を持とうとすると、とんでもなく重く感じ、地面に落としてしまうほどなんだとか。
俺とリオには、羽毛のように軽い剣でしかないんだけどね。
仮にも俺も、聖剣に選ばれたとされる勇者様。なら、その鎧、俺が着てもいいんじゃない!
そうすれば、リオが聖剣で戦う。俺は鎧で自分を守る。
万一賞金首がここに現れたとしても、大丈夫ってわけだ!
「どう、なんだろ?」
『ツカサ君も聖剣を抜いたのだから、着れるはずですよ。着てみる?』
「あ、いいの?」
『せっかくですし。それに、改めてこの世界に帰ってきて、資格がどうなったのか、私も気になりますから』
ああ、女神様の加護が消えてるかもしれないからか。
それじゃあと、リオが首にかかっているペンダントを外す。
そこに、小さくなった聖剣と黄金鎧が、ペンダントトップとして存在しているからだ。
「サンキュ」
そう言い、受け取ろうとしたその瞬間……
『なあ、相棒』
「ん?」
唐突にオーマが声をかけてきたから、ほんの一瞬、ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ意識がそっちにむいた。
むいた、おかげで……
つるっ。
リオから、ソウラふくめたペンダントを受け取るのを、ミスってしまった!
「あ」
『あ』
「あ」
『え?』
みんな、そんな声しかあげられなかった。
落としたらヤバイと思っているものほど落とす。
あるあるだね!
なんてことを、落下するソウラを尻目に、思った。
落下の速度はとても遅い。
スローモーションだ。
それほど、俺の感覚が研ぎ澄まされているのだろう。
残念ながら、俺程度がどれほど意識が鋭くなろうと、体の方はまったくついていかないが。
落下するソウラははっきり見えるけど、俺の体もまったく動かない。そんな状態である。
まったく動けず、ペンダントソウラは、そのまま石畳に落下した……
……メゴッ!!
なんか凄い音と共に、ソウラが地面にめりこむ。
ちゃりん。とか軽い音を立てて跳ね返ったりしない。
豆腐やプリンにでも落下したかのように、石畳にめりこんだ。
なぜか。と問われれば、ソウラは資格のある者以外にはとんでもなく重い代物なのだ。
だから、俺がこうして手から離すと、マックスさえまともにもてない重さが、地面に……
あ、これ、マジでヤバイ。
本能が、告げる。
ゆっくりと動く時間の中に、変化が現れた。
聖剣がめりこんだところから、今度は蜘蛛の巣状にヒビが広がった。
一部レンガが浮き上がり、中心部から波打っているようにも見える。
ボゴン。ボゴン。ボゴンと、段階的にそのヒビは広がり、ソウラがめりこんだ穴を中心に、段差を生み出してゆく。
いや、スローモーションでゆっくり見えているだけで、それは、穴にむかって沈みこんでいるのだ。
穴にむかって、地面が陥没しているのだ!
連鎖反応でヒビが広がり、陥没の広さも広がって行く。
ここでやっと、時間に体の反応が追いついた。
ソウラを手放し、俺と同じく反応しきれず呆然としているリオの手をとり、崩れる石畳を逆走し、陥没に飲みこまれぬよう必死に逃げる。
何度か二人で歪む地面に足元をとられかけたが、沈みこむそれにはなんとかまきこまれず、逃げ切ることに成功した。
あ、危なかった。
ギリギリである。火事場のバカ力である。
でも、まきこまれて土に飲まれるなんてことはなくて、本当によかった。
しかし、どうしよ。
「ソウラ、どうやって回収しよ……」
「ああ、それなら平気だよ」
リオが俺の心の声に反応した。
いや、声に出てたのか。
「呼べば来るからさ。ソウラ!」
リオがその名を呼んだ直後、穴の中心から一筋の光が上がり、聖剣となったソウラが飛んできた。
リオの手におさまるとまた光に包まれ、ペンダントヘッドに戻る。
ペンダントになると、ついでにペンダントのチェーンと黄金竜の鎧もついてきていた。
おおー。こりゃ便利だ。
ただ、大きくなって戻ってきた分、また崩れたけど。
「でもよ、いきなりどうしたんだよ?」
『そうですね。私も聞きたいところです』
「悪いな。手が滑った」
「滑ったぁ!?」
素直に答えた俺に、リオがたいそう驚いた。
いや、なんでそんな驚くの? アレをわざと落とすなんてありえないだろ。
『そうか。相棒がそう言うんじゃしかたねえな』
「え? そうなの?」
『そうなんだよ。リオ。相棒が滑ったってんなら、そうだろ?』
「そうそう。ホントに手が滑ったんだよ」
オーマに声をかけられたから。って言い訳も思いついたけど、オーマが俺をフォローしてくれたんじゃもう使えないな。
それに、人のせいにするのはかっこ悪いしな。
だから、素直に俺が悪いと、その非を認めよう!
「……そういうことか。そっか。なら、しかたねえな」
『わかりました』
『わかりゃあいいんだよ。わかりゃあ』
どうやら、リオもわかってくれたようだ。
そう。これはあくまで事故。偶然たまたま起きた事故なのだ!
大体、意図的にやったなんて認めたら、俺の責任になって怒られちゃうだろ。そんなの嫌だよ!
だから、あれが意図的に引き起こされたなんて事実、あってはならない!
「あれは、偶然崩れただけ。いいね?」
「もちろんだよ」
『あたりめーだ』
『わかりました』
よし。みんなの同意が得られたところで、逃げるよ!
崩落の音を聞きつけた人が、すぐやってくるだろう。
いくらなんでも、これを引き起こした原因──ソウラという聖剣を落としたから起きた──なんてのは誰もわからないだろうけど、道路陥没の現場に居たら、いらぬ疑いをかけられるかもしれない。
なにより、こんなことが起きた現場で平然としているだなんて、俺にはとても出来ない。
ああ、ここは素直に認めよう。俺は小心者さ! 疑われるんじゃないかと、心臓バクバクしてるよ!
ゆえに、俺は逃げる。この場から!
いや、でも、この逃げるってのは、犯人が逃げるのとはちょっと違うよ。これは、そう。危険な場所から避難する。そういうことだ!
わかったね!
すたこらさっさー。
──オーマ──
相棒とリオと、外で一網打尽作戦の経過を見守っていると、足の下の地下通路からなにかが近づいてくるのがわかった。
さらにそれを、誰かが追いかけていやがる。
追いかけているのは、ああ、データベースにあった。こいつはアマンダだ。
てことは、逃げてんのは賞金首か。
どうやら早速取り逃がしているらしい。相棒やリオが出張ってて正解だったな。
しかも、あのアマンダが必死に追いかけてるってことは、この逃げてるヤツは、例の吊るしのゴルゴラスってやつなんだろう。
しっかし、なんんだこの足の速さ。このままじゃ、間違いなくアマンダ振り切って逃げ切っちまうぞ。
しかたねえ。
あいつの矜持からして、おれっち達が力を貸すとあまりいい顔はしねぇかもしれないが、事態が事態だ。
下手するとさっきみたいに賞金はこっちだとか言い出しかねねぇが、取り逃がすよりかはマシだろ。
『なあ、相棒』
どうにかしてやれねえかと、声をかけた。
すると相棒は、手にしたソウラを足元に落としちまった。
「あ」
『あ』
「あ」
『え?』
最後ソウラが、間抜けな声をあげる。
あれがどういうもんなのかは、散々説明しているから省略するぜ。
ソウラのヤツが意図的に多少の重量は増減出来るみてえだが、今回のは不意打ち過ぎた。
ま、あとから思い返してみりゃ、それが相棒の狙いだったんだろうけどな。
地面に落ちたソウラのおかげで、道路は陥没。
逃げてたヤツの眼前に、この地面が落ちた!
押し潰されはしなかったが、その逃げ道が塞がれる。
道はちょうど一本道。これから引き返しても、アマンダと鉢合わせするしかない。
これで、詰みだ。
どうやら相棒も、下の騒動に気づいてたみてえだな。
おれっちが声をかける必要もなかったようだぜ。
しかし、なんでわざわざソウラを落としたんだ?
相棒なら、足を振り下ろすだけで、これより効率のいいこと出来ただろうに。
「いきなりどうしたんだよ?」
逃げ切って、ソウラも回収したのはいいが、なにも知らねえリオが、当然の疑問を口にする。
そりゃ、下で賞金首が逃げ切ろうとしていたことを知らなきゃ、ただの破壊行為だからな。
すると相棒は……
「手が滑った」
しれっと言いやがった。
それはまるで、誤って手を滑らせて、落としてしまったと言っているかのようだ。
わざとじゃない。偶然だという……
ぴーんっ。
その答えを聞き、おれっちはぴーんときたね。
はっはーん。
そういうことか。相棒はあくまで、アマンダに手助けしたと気づかれないようにしたいんだな。
アマンダの目的は、吊るしのゴルゴラスを自分の手で捕まえること。
そのために、マックスも味方に引き入れた。
下手に手助けをすりゃあ、昼間のマックスと同じように、その手柄をこっちに譲ってくる。
だからこれは、事故。偶然起きた崩落ってことにしておきたいってわけだ。
地面を蹴った衝撃波で下で逃げるヤツを倒すとか、地面を崩すとかは明らかに意図的に起こしたものだとわかっちまう。
だが、ソウラを落としての崩落は、誰もその原因にゃ気づけねえ。
まさか、あの小さいのがトンでもない質量で、地面を突き抜けたなんて、聖剣を知らなきゃ想像も出来ねえ事態だ。
となりゃ、これは偶然起きた崩落だと、誰もが結論づける。
そうなりゃ、手柄はすべてアマンダのもんだ。
賞金も、アマンダの手元に入る。
だから、偶然に見えるよう手助けしてやった。
相棒なりの、気づかいってヤツだな
そのために、わざと偶然崩落したように装った。
相変わらず、相棒は優しい男だな。
『そうか。相棒がそう言うんじゃしかたねえな』
「え? そうなの?」
『そうなんだよ。リオ。相棒が滑ったってんなら、そうだろ?』
「そうそう。ホントに手が滑ったんだよ」
相棒がもう一度主張したところで、リオもなにかに気づいたようだ。
今の状況を思い出し、下になにかあると気づいて、相棒の意図に気づいたようだ。
「……そういうことか。そっか。なら、しかたねえな」
『わかりました』
リオもソウラも、納得した声をあげる。
そりゃ、相棒がなんの考えもなくこんなことするわきゃねえからな。
『わかりゃあいいんだよ。わかりゃあ』
「あれは、偶然崩れただけ。いいね?」
「もちろんだよ」
『あたりめーだ』
『わかりました』
相棒の言葉に、おれっち達全員がうなずく。
ソウラを知らねえヤツに、なぜここが崩落したかわかるヤツはいねえだろう。
普通に考えりゃ、自然に崩落したとしか思えねえ。
あくまでコレは事故。
そういうこった!
おれっち達は、その場から撤退した。
下手にここにとどまり、手助けしたと疑われたら面倒だからな。わかるぜ、相棒。
すたこらさっさ。だぜ。
だが、全てが終わってから判明した事実に、おれっち達は愕然とさせられる。
相棒は、ここまでのことを、あの一瞬で考え、実行していたんだな。
だから、アマンダにその矜持を主張させないため、ここまで完璧に偶然を主張出来るようにしておいたわけだ。
確かにここまでやられたら、疑ったとしても素直に受け止めるしかあるめえ。例え落としたところまで勘付かれたとしても、手が滑ったと言われりゃそれ以上の追求も不可能。文句なんてつけられるわけがねえや。
やっぱ相棒は、トンでもないお方だぜ……
──アマンダ──
偶然の崩落により逃げ道をふさがれ、立ち往生していたゴルゴラスを無事確保することが出来た。
一網打尽作戦も終わり、確保した賞金首の確認となったところで、意外な事実が明らかになった。
なんと、吊るしのゴルゴラスは、あのビッグG最後の大物、ヴァリー・バルボアでもあったのだ!
バルボアとして活動する時、都合が悪かったり、邪魔だったりする者を吊るして排除していたのが、吊るしのゴルゴラスの役割。
例えば、バルボアは義賊でなく、ただの強盗だと批判したヤツを。例えば、バルボアに協力しない、錠前師の一家を。
関係のない、ゴルゴラスとして押し入り、排除する!
そうしてヤツは、義賊としての地位を守ってきたのだ。
あの子の両親も、バルボアに批判的であったがゆえ、ゴルゴラスの被害にあった。
でも、それももう終わりだ。
正体を暴かれ、バルボアを擁護する者はもう現われないだろう。
一網打尽作戦も無事終わり、そこに現われた悪党どもは、全員確保された。
あたしがゴルゴラスを追ってあの場からいなくなったあと、残ったマックスが獅子奮迅の働きをして、ほとんどの悪党を戦闘不能に追いこんだというのだから、驚くってもんだよ。
あたしが予想するより、数段上の実力を、あいつは持ってた。あのマックスは、本当に本物のマックスなのかもしれないね。
作戦前、賞金稼ぎ仲間の集合場所に行った時、マックスを見つけた何人かが驚いたような顔をしていた。
そいつらに確認をとったら、どうやらあいつは、本物のマックスらしい。
とはいえ、知っているのは『闇人』の襲撃から十年、各地を放浪していた、サムライかぶれの剣士マックスであり、この前サイドバリィの武闘大会で優勝した剣士であるのは間違いないらしい。
そりゃ、強いわけだわ。
そして噂では、そのマックスは、サムライの弟子であるということだ。
つまり、あいつは本当に、サムライの従者だってことになる。
となると、バルボアことゴルゴラスが最後に言っていた、わざと崩落を引き起こしたバケモノがいるって言葉……
もし、あのマックスが本物なら……
一応確認をとってみたけれど、「人がやった形跡はない。ただの老朽化だろ」と、現場検証をしていた者に言われてしまった。
確かにこの街は四百年以上の歴史があり、老朽化ってのは言えてるけど、今まで、こんなことはなかった。
むしろなにか大きな力が加わっていない限り、地下の下水道まで崩れることはない。
それは、ただの人間には無理な話だけど、例のサムライなら、話は別。
噂じゃ、それ以上にとんでもないことをやっているんだから。
マックスが噂どおりの男で、あの子が本当のサムライなら……
……いや、ないない。
マックスが本物だとしても、あの子は違う。
実物を実際に見たあたしが言うんだから、間違いない。
きっとあたしの勘違い。気のせいさね。
ともかく、これにて一件落着。
これでこの街の治安も戻って、観光客も安心して表を歩けるようになるってもんだ。
ついでに、ウチの経営もバルボアの賞金で立て直せて、バッチリ安心にもなったし。
いよいよあとは、街を悩ませる嵐の方。ってことになるけど、こっちはしがない賞金稼ぎのあたしにはどうしようもない事態さ。
さっそく命知らずの船乗りが出航の準備をはじめているけど、無事帝国までたどりつけるといいね。
そっちは、あたしには祈ることしか出来ないよ。
でも、このあとすぐ、あたしは知ることとなる。
あの子が、本物のサムライである証明を。
この目で、目の当たりにするんだ……
おしまい




