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サムライトリップ・イノグランド  作者: TKG
第1部 伝説のサムライ編
25/88

第25話 テルミア平原の死闘 後編


──ゲオルグ──




 せまる『闇人』の軍勢。


 無謀にも立ち向かおうとしてしまった騎士達。



 乱戦になろうとしているそこへ、サムライ殿が救援に走るが、後一歩、間に合わない……



 敵対する我等の命さえ救おうとするサムライを、我々は危機におとしいれようとしている。


 しかし私はなにもできない。


 唇を噛み、この無力さをかみ締めることしかできなかった。



 サムライの助けなど、一体誰ができよう……!



「ほーっほほっほー」



 しかし、私の絶望に反し、助けは空からやってきた。


 突然そんな女性の笑い声が響いたのだ。



 その声は、どこかで聞いたことがあるような気がしたが、よくは思い出せない。声の主を追い、空を見上げたところでそれが誰なのか私は思い出した。



 あれは王国魔法研究所所長のアーリマン導師の二番弟子にして最悪の魔女と恐れられたマリン女史!



 そんな彼女がなぜここに!


 空に浮かんだ彼女の周囲に、十二個の光点が舞い、彼女を中心にして一つの魔方陣が現れた。


 十二の光点にも小さな魔方陣が現れ、さらに我々の立つ大地にも巨大な魔方陣が生成される。



 一体なにをするというのだ。『闇人』に魔法は効かないのだから、この場で魔法を発動させる意味はないというのに!



 私と同じように空を見上げた者は誰もが思った。



「効かないのくらい知ってるわよ! でも今はそれがいいんじゃない。さあ、跳びなさい!」



 我々の疑問の視線を受けたせいか、マリン女史はそう叫んだ。


 すると、地面に広がった巨大な魔方陣が光を放つ。



「こ、これ、転移魔法!?」



 部下の一人が驚いた。


 それを聞いて、私もはじめてこれがとんでもない物だと気づいた。こんなに大きな転移魔方陣をこれほど短い時間で作り出すなんて、あのアーリマン導師にさえできぬ荒業だ。


 この大きさは、ここに集まった一軍全てを覆うほどの大きさ。この一団をこの短時間で転移させられるとすれば、また戦の概念が変わってしまう。


 人知を超えた力。ダークソードならば先ほどの『闇人』の一団を転移させるということならば可能だろうが、彼女は魔女とはいえ仮にも人間。そんなことが本当に……



 頭の中に走る疑問の中、答えはすぐにやってきた。



 光が瞬き、私達は次の瞬間、村の反対側へと移動していた。


 しかも、移動したのは我々足手まといの騎士のみ。村を挟んで向こう側に見える我々が先ほどまでいた平原には、残されたサムライ殿と、転移を無効化した『闇人』達のみが残されている。



 なんということだ。神にも等しいような魔法を実現させてしまうなんて。なんて方なのだ。



 理屈は範囲内にいる者全て。もしくはサムライ殿一人のみを範囲からはずし、残りの者すべてをここに転移させるというものなのだろうが、その規模と必要な魔力がどれほど膨大なのか、想像もつかないほどだ。


 いや、今はそんなことはどうでもいい。


 サムライ殿の足を引っ張る我々があの戦場からいなくなった。



 すなわちこれで、サムライ殿は全力が出せる……っ!



 我々は村の向こう側で『闇人』の軍勢と対峙するサムライ殿を見て、思わず拳を握ってしまった。




──マリン──




 先生に背中を蹴られて大急ぎでその現場に転移してみたら、先生の予感的中な状況に出くわしてしまったわ。


 大量の『闇人』に蹂躙されそうになっている騎士団ご一行。しかも相手はダークソードを手にしているときたもんだわ。


 こんなのに蹂躙されたら、生き残るのはサムライだけ。それ以外は間違いなく全滅ね。



 これだけの人数を助けるためにはもう、転移で一度に逃がすしかない。



 でも、これだけの人数だと、それ専用のダークソードや神器に近い魔法具じゃなければ無理。一から魔力を練り上げて魔法として形にして転移させるのは、神か悪魔の魔力がなければ不可能だ。



 その不可能を、今、この世界で唯一実現できるのは、この私。世紀の魔女である私、マリン様だけ!



 これをなんとかできるのは、間違いなく私だけ。オンリーワンにしてナンバーワンの魔女である私だけ!



 ……てか、ひょっとしてあの子、こんな危機に備えて私にあの超協力魔力触媒のプレートを渡してきたのかしら。

 考えすぎかもしれないけど、ひょっとするとと考えてしまう不思議ななにかがあるわ。あのサムライボーヤなら、それくらいやってもおかしくないという雰囲気があった。



 ともかく、私は飛翔する自分の周囲にあのプレートをばら撒いた。



 一枚一枚に魔力を通し、それぞれを共鳴させる。


 千人全ての騎士団員を覆うだけの広さの転移魔方陣を形成し、唯一この場に残しておきたいサムライ君のところだけ穴を開けた。



 敵である『闇人』はどうせ魔法を無効化するから相手にはしない。範囲内にいたままで、無視を決めこむ。



 この術式を一瞬で作り上げられるのは、アーリマン先生を除けば世界であと一人いるかいないかくらいだろう。でも、これに実際に魔力を流し、発動できるのは世界で私だけだ!


 魔力触媒となるプレートに魔力を流しこみ、大規模転移の魔法を発動させた。


 範囲内にいる生き物すべてが、村を基点としてこの場から反対側へと転移してゆく。唯一穴を開けて範囲からはずしたサムライ君と、そして魔法の効かない『闇人』達だけをそのままその場に残して。



 人がいなくなった平原で、この場の『闇人』を束ねる存在。あれはダークロードね。それが私へ顔を上げた。



「まさか、人間がこれほどの魔法を使うとは……!」



 のっぺりとした闇の顔が、驚きに歪んだように見えた。


 ふふっ。魔法が通じないヤツ等を驚かせることができるなんて、私も光栄だわ。



「ふふっ。残念ね。これはサムライ君にもらってできるようになった私だけのスペシャルなのよ。だからあなた達がどれだけ策を労しようと、サムライ君には勝てないわ」


「くっ……!」


 ダークロードが悔しがる。



「というわけだから、あとは任せたわ!」



 とはいえ、こっちが狙われたらたまらない。私は魔女。魔法使いなのだ。魔法を無効化するヤツ等に狙われたら、正直ひとたまりもない。だからあとはサムライ君にまかせ、村の方へとさがることにした。



「サンキュー。あとはまかせて、おばさん!」


「おばっ!」


 な、なんてことを言うのよあの子! 前にあった時は礼儀正しいと思ったけど、ちょっと親しくなったらこれとか、あとで覚えてなさい!




──ソウシ──




 隠れ潜んでいたダークロードを引っ張り出したのはよかったけど、狙いが騎士団を盾にすることだった。


 まさか僕に全力を出させないためにあの人達を集めていたなんて、ちょっと考えがいたらなかったよ。



 別に僕が守ってあげる義理もないし、相手は仮にも騎士なんだから守る理由は欠片もない。でも、相手がこれを使ってくるってことは、ツカサには有効だってことなんだろう。



 だから、ツカサに義理立てしてどうにか守ってあげなきゃいけないと思ったんだけど、ダークロード以外の増援はちょっと予想外だった。


 これはまずい。と何人かの犠牲も覚悟した時、空に魔法使いが現れて、僕以外の邪魔者を全員どこかに跳ばしてくれた。



 話を聞く限り、こういう時のためにツカサが保険をかけておいてくれたらしい。



 まさかこんなことを想定していただなんて、ツカサはすごいね。

 おかげで今から全力が出せる。



「サンキュー。あとはまかせて、おばさん!」


「おばっ!」



 あ、やべっ。悪いツカサ。



 終わったあと、ダークロードより怖い人敵に回したかも……



 ま、それはツカサに任せよう。


 今の問題は、目の前のこいつらだ。



 ヤツ等は一斉にダークソードを持ち上げ、それを天にかかげた。


 直後『闇人』もどきの頭上に力が集まり、空に闇の炎がともった。



 それは、日食により生まれた黒い太陽のように天に瞬いた。




 ──その黒い太陽の光を見て、村はずれに飛ばされた騎士団は驚愕の声をあげた。



「な、なんだあれは……」

 エニエスも、空に浮かぶ闇の太陽を見て怯えの声を上げてしまった。


 その闇の炎から発せられた熱風が、村からはるか離れた場所にいる彼等の元に到達している。それだけでも、その力のすさまじさが感じ取れた。その炎は、いかなる者も耐えられないと確信させるだけの威力を感じさせたのだ。


 千本のダークソードの力があわさり、今まで知るどの力より強大な力が発動したのがわかった。



(こんなもの、いかなサムライとて防げるものなのか……)



 唯一の希望であるサムライ。その希望にさえ不安に感じるほどの威力が、そこにあった。



 ──しかしその目の前に身をさらす肝心のサムライは、どこか楽しそうに笑っていた。




 先頭にいるのは、ダークロードと呼ばれる『闇人』が一体。


 あの船の主、ダークカイザーに次ぐ位にいて、三体しかいないと言われる存在で、四本のダークソードを同時に操り、その強さは僕達サムライにも匹敵する。


 さらにそれにつきしたがうのは、ダークソードを持った約千体の一糸乱れぬ動きをする『闇人』……いや、あれは『闇人』じゃない。



 気配も、動きも全てが同じだ。でもあれは、手に持つダークソードの力を無理矢理発動させるため、剣に肉体も魂も喰われてしまった人間の成れの果てだ。


 サムライに対抗するため、ダークソードの力を引き出すためだけに集められた悲しい生贄達。



 目の前から感じる、『闇人』に匹敵する力を引き出したというのなら、彼等はもう人間には戻れない。いや、もう人間ですらない……


 僕がしてやれることは、彼等を安らかな眠りへいざなってあげることだけだ。



 目の前から感じられるのは、かつて戦場に現れた『ダークナイト』約百体分の強さがあるように感じられる。


 ダークロードとダークナイト百体に匹敵するだけの敵。並のサムライなら、人質がいなくともたった一人じゃ厳しいところだね。



 そこにさらに騎士団の盾を用意しておいたんだから、あのダークロードの用意周到さには舌を巻くよ。



 その百体分の力が、黒い炎となって空から降り注いでくる。


 近づくその力に、びりびりと大地が揺れているのがわかった。

 あぁ、この肌がひりつくような間隔。頬を撫でる嫌な風。すべてが懐かしい。


 こんなものが直撃すればいくらサムライといえどもひとたまりはないだろう。



 でもね……




 ゴアッ!!




 せまる闇の炎に向け強大な『シリョク』の放出させ、それを吹き飛ばす。



 刀を振るうまでもない。


 ツカサの体を通し、僕の『シリョク』をただ放つだけで、それは一瞬で消し飛んだ。



 誰も彼もが唖然としているのがわかった。



 ははっ。そりゃ驚くかもね。


 でも、僕の『シリョク』ならこれくらいのことは楽勝なんだよ。



 僕は、体こそとても弱かったけど、剣技と『シリョク』に関しては誰にも負けなかったんだから……!



 心技体全てがそろってこそのサムライだというのに、僕はその体なくしてサムライのみんなについて行ったんだよ。


 その僕が今、欠けていた体を手に入れたんだから、これくらい楽勝なのは当たり前じゃないか……!



「オーマ。少し本気で暴れるから、今は黙っててよ」

『お、おう』


 いつもと雰囲気の違う彼に戸惑いつつも、彼の相棒であるオーマ君は承諾してくれた。



 悪いね。この最高のひと時を、誰にも邪魔されたくないんだ。



 今は、僕だけのためにある時間なのだから……!


 オーマ君を握りなおして僕の『シリョク』をその刀身へ流す。


 さっき無意味に大量の『シリョク』を放出してしまったから、少しだけ節約しないと。よく考えてみて、僕はもう肉体がないのだから、生み出せる『シリョク』はなく、僕についてきて残っていた分だけで有限なのだから。


 刀とは、ただの武器ではなく、『シリョク』を効率よくあつかうための道具でもある。



 僕は刀身に『シリョク』を収束させ、火、水、土、風、雷、光、そして闇。全ての属性を混ぜ合わせ、混沌という名の別の属性を作り出す。


 これは、一振りするたびどんな斬撃が出るか僕にも予想できない一撃が放てる、ホント楽しい刀撃になるんだ!



 地を蹴った僕にむけ、ダークロードを守るようにして軍勢が僕へと群がってきた。



 刀を振るう。



 刃が白く輝き、闇の軍勢を切り裂いた。


 次は炎と風が混ざり、炎の竜巻がおき、その次は氷と風が混じった氷の嵐が起きた。


 刀を振るたび、大地は弾け、光と雷が降り注ぎ、闇が収束する。


 一振りで数十体の『闇人』もどきが吹き飛び、返す刃でもう数十体が消滅してゆく。



 ははっ。あははははは!



 歓喜の歌が僕の心の中に響いた。


 すごい。すごいよツカサの体! こんなに体が軽いのははじめてだ! これが、普通の体! こんなにも、こんなにも僕の体とは違うものなのか!



 僕の体は『シリョク』を使って身体能力を底上げしても、すぐに息切れをして逆にガタが広がったくらいだけど、ツカサの体はそんなことはない! 僕のか弱い体とは大違いで、『シリョク』を注ぎこめばいくらでもパワーアップできる。いいねすごいねツカサの体! こんな体があれば、僕は間違いなくみんなと一緒に最後まで戦えた!



 刀に『シリョク』をこめ、力を集める。


 それを思いっきり振りかぶり、横になぎ払った。


 一撃で百体近い『闇人』もどきが光に消えてゆく。一振り刀を振るっても息切れをすることもなく、全力で大地を蹴っても足が折れることはない。


 普通のサムライの体とはこんなにも凄かったのか! 僕はなんてハンデを背負って戦っていたんだ。それでもみんなと互角だったんだから、すごいね僕としか言いようがない!



 闇の斥力がヤツ等を弾き飛ばし、軍勢に身を隠していたダークロードの姿があらわになった。



 そこへと突撃するが、残った『闇人』もどき達の姿が崩れ、液体と化したそれがダークロードを飲みこみそれを核として一つの塊に変貌してゆく。


 ヤツ等、量より質を選んだようだ。


 闇が集まり、それは巨大なダークソードを持った一つの巨人へと変わった。



 それを見たのだろう。村の方から悲鳴があがったのが聞こえる。



 へえ。君達はこんなこともできるんだ。


 ぺろりと唇を舐めた。


 巨人退治はさすがにはじめての経験だよ。



 巨人と化したそれが、巨大なダークソードを振り上げる。



 その圧力は、一番最初に放った闇の炎と同等だった。純粋なパワーによる振り下ろし。僕に対して下手な小細工は無駄だと気づいたみたいだ。


 いいね。でも、無駄だよ!



 オーマ君に『シリョク』を集中させる。


 心、技、体全てがそろった今の僕なら、このツカサの体なら、間違いなくいける!



 全力、全開、全身全霊!



 ありったけの『シリョク』を体の中で爆発させる。


 その『シリョク』をすべて、刀身へと集中させた。



 これだ。この感覚だ!



 僕が死ぬまでに一度も味わえなかった、限界を超えてその先にいたるという感覚。


 サムライの極意へいたる、カオスを超えた先にある一点の曇りもない無我の境地。



 心技体すべてがそろった今なら、それができる!



 オーマ君が光り輝いた。


 振り下ろす巨大な闇の剣にむけ、僕はそれを振り下ろす。




「奥義。天地開闢……!」




 天と地を引き剥がすという伝説の一撃が、闇の巨人を切り裂いた。



 いや、切り裂いたというのは正しくないだろう。



 光の柱が、闇の剣とごと巨人を飲みこんだという方が正しい。その光の刀身の大きさは、巨人よりも巨大だったのだから!


 弱かった僕の体じゃ使うことはできなかったけど、普通の体ならなんの問題もなく使うことができる!



 光が消えると、その平原に動くものはもう僕しかいなかった。



 なんだ。もう終わりか。


 少しさびしさも感じ、ふう。と息をはいた。



 戦いが終わって、咳きこむことも、息が苦しくてうずくまることもない。全力で動いて、息は切れているが、こんなにもすがすがしい気持ちでいられるなんて初めてだ。


 今までできなかったことが全力でできて、己の力をすべて出しきれた。



 そして、気づいた。



 自分がゆっくりと、消えてゆくのが……


 あぁ、そうか。僕は満足できたのか。



 妙に、納得した。



 足りなかった心が埋まり、僕の奇蹟が終わるのを感じる。


 指先から、僕という感覚が消えてゆくのがわかった。



 だというのに、恐怖はない。それどころか満足感と充実感さえ感じている。



 ツカサ。ありがとう。君に出会えなければ、きっと僕はいつまでたってもあの墓の上で心に穴が開いたまま座り続けることになったことだろう。


 じっと僕を見る視線に気づき、そちらに笑みを送った。



 そこには、ツカサの仲間達がいた。あの眼帯の人も、帽子の子も、ツカサの力になりたいと願って一緒にいる人達だ。



 僕はもういなくなってしまうけれど、ツカサの力になっておくれよ。


 僕がいなくなっても、サムライの戦いはまだまだ続くのだから。


 だから、頑張るんだよ。



 僕が最後に送れるのは、笑顔だけだった。



 意識が、ゆっくりと消えてゆく。


 あぁ、もう、なにも聞こえない。



 とても静かだ……




────




 闇の巨人を切り倒した直後、ツカサは宿から見ていたリオとマックスの方を微笑み、ツカサは糸の切れた人形のように崩れ落ちた。


「ツカサ!」

「ツカサ殿!」


 リオとマックスが宿の窓から叫ぶ。


 しかし、二人がいくら手を伸ばそうとツカサにその手が届くことはない。



 崩れ行くツカサの姿をただ見ていることしかできず、倒れたツカサの体を受け止めたのは、この戦場に最も近くにいた、転移魔法も使える魔女、マリンであった。


 魔法を使い自身の力をあげ、倒れるツカサの背中に手を回し、倒れるのを支える。



 ツカサの体を抱きとめたマリンは、その体のあまりの熱さに驚いた。



 額に手を乗せ、その熱さが確かな物であると確認する。


(こんな熱を抱えて戦っていたなんて……)



 驚くのと同時に、関心もする。そしてこの熱だから自分をおばナントカと呼んでしまったのかと納得し、むにっとほっぺたをつねるだけで許すことにした。



「ツカサー!」

「ツカサ殿ー!」

「サムライ殿!」



 村の方からリオとマックス。そしてゲオルグをふくめ何名かの騎士団代表達がこの場へと駆け寄る。



「ツカサ殿、ツカサ殿は無事にござるか!?」

「い、いったいなぜ敵を圧倒したサムライ殿が……!?」


 駆け寄ったマックスとゲオルグが同時に声を上げる。



 ものすごい勢いで近寄ってくるので、マリンはうへえと嫌そうな顔をしてその二人と自分の間に障壁を張り、それ以上近づけないようにした。



「ツカサ殿。ツカサ殿ー!」

「サムライ殿ー!」


 壁にへばりつき、ゲオルグもマックスもほっぺたを押し付けてツカサの無事を必死に確認しようとする。


「大丈夫だから、少し落ち着きなさいよ」


「そんな言葉だけで安心できるわけねーだろ! 熱があるのにとび出して、それで倒れたんだから!」



「「なっ!?」」


 ベッドに寝ていたツカサを知るリオの言葉に、エニエスとゲオルグが驚きの声をあげた。



「だから心配でこうしてきたのだ! 早くのけ! 誰か知らぬがそこは拙者の席にござる!」


「慌てないの。ちょっと熱はあるけど寝ているだけだから。風邪というより疲労ね。このまま休めばそのうち目を覚ますわよ」


 リオとマックスの慌てように、マリンはやれやれとため息をついた。


 マリンの言葉はまったく信じていないマックスであったが、マリンの手の中ですやすやと眠るツカサの姿を見たことにより、マックスもやっと落ち着きを取り戻し、ほっと胸を撫で下ろした。



(な、なんということだ。そんな状態であったにもかかわらず我々を怪我させぬよう圧倒し、あまつさえ『闇人』をああも容易く蹴散らした。最初から、我々のかなう相手ではなかったのだ……!)



 マリンとリオ&マックスのやり取りを聞き、ゲオルグは目を大きく見開きながら驚きを隠せなかった。


 エニエスも同様である。



 あの闇の軍勢の襲撃から自分達が生き残ったのは奇蹟に近い状態だと思ったというのに、それをなしえたサムライは病をおして戦っていたのだ。

 そんな姿を見せられ、彼等は自分達のやろうとしたことに震えるしかなかった。



「なら、こんなところで寝かせているわけにもいかないから、早く宿へ運ぼうぜ」

「そうでござるな」

 リオの言葉に、マックスもうなずいた。


 ツカサを支えるマリンからツカサの体を受け取るため、消えた障壁の前からマックスが移動しようとしたその時だった……



「くくっ。ここまで予定通りに進むと笑いが止まらぬな」



「っ!?」

「!?」


 突然、先ほど闇の巨人が消滅したところの地面から声が響いた。


 響いた声に、場にいた者達は大慌てでその場所へ振り返る。



 ずるり。



 草むらが闇に割れ、そこから漆黒の塊が生え、形を作る。



 そこに現れたのは、背に四本のダークソードを背負ったダークロードだった。



「生きていたのか!」

 マックスがツカサをかばうよう前に立ち、ロングソードを引き抜いた。



 同じようにゲオルグ、エニエスもツカサとの間に入り剣を抜く。



「くくっ。そもそも私はあの中にはいない。合体したと見せかけ、地中に逃れていたのだ。すべてはサムライを消耗させ、五ミール(分)の時間を稼ぐのが目的であったのだ。これで、私の勝ちは揺るがない」


 のっぺりとした闇の顔が、笑みに歪んだように見えた。



 マックス達はかまえを崩さず、ダークロードを睨んだ。


 剣も抜いていない相手で無防備のように見えるが、まったく隙が見えなかったからだ。



 マリンがダークロードに手をむけ、そこから力強い光が走るが、その魔法の光はダークロードを欠片もひるませるどころか、体にぶつかるのと同時に弾かれ、消えてゆく。


 それはまさに『闇人』の証。全ての魔法を無効化する、その種族の特性!



「しかしまさか、肝心のサムライが倒れるほどの病にかかっているとはな。私の計算以上に消耗しているとは、人間とはまっこと不便なものよ」


 マリンの魔法のことなどまったく気にも留めず、のっぺりとしたままの顔がさらにゆがみ、笑い声だけが場に響く。


 笑いながら、それは背にあるダークソードを左右一本ずつ引き抜いた。



「しかし、サムライはまだ死んだわけではない。その気になれば立ち上がる。それまでの時間を稼ごう。お前達はそう考えているのではないか?」


「っ!」


 ダークロードの言葉に、全員がぴくりと顔をゆがめた。


 サムライに匹敵するというダークロードを相手に、この場にいる誰もが勝てるとは思っていなかった。



 魔法は効かない。強さはサムライに匹敵する。そんな存在に誰がどう勝てるというのだ。



 ゆえに、ツカサが回復するまでの時間を稼ごうと、ダークロードが無駄に話すのを邪魔していない。

 しかしそれも、ダークロードにとっては計算の上のようだ。


 むしろダークロードの方が時間を稼ぐかのように話を続ける。



「右の手に持ったこのダークソード。これこそが我が主剣。いかなるものも切断する、『切断』の特性を持つ全てを切り裂く剣」


 右の手に引き抜いたダークソードを持ち上げ、ダークロードは嗤う。


「左の手に持つこの剣。この剣こそ、今回の肝。私の持つダークソードの中で唯一使用の制限が存在する貴重な剣だ。その制限は、対象を五ミール(分)ほど観察せねばならない」


 左手に持ったそれを持ち上げ、説明を続けるダークロードは言葉を続ける。



 マックス達はこの存在の意図がわからない。



 ただ、制限がある剣であるということは、それだけ使用できるようになった時強力な力が放てるというものだ。すなわちそれは、非常に強力なダークソードという意味でもある。



「あの戦いから、じっくりと観察させてもらった。その結果、この剣の特性が発動した。この剣の特性。それは……」


 ゆっくりと語るダークロードの発したその言葉に、場の全員は一瞬理解できなかった。


 いや、理解したくなかった。



 その言葉は、まさに絶対の勝利をダークロードに約束する、無敵の特性だったのだから。




「……『模倣』」




 その一言が響いた瞬間、場が、凍った。



(模倣? つまり、まねる? コピー?)

(誰が? なにを? なにが?)


 場にいる者達の頭の中を様々な言葉が駆けめぐる。



 誰もがその言葉を理解することを拒絶していた。



 気づいてしまえば、自分達に勝利など欠片もなくなるからだ。



「そろそろ現実を受け止めたらどうかね? 私が誰を模倣したのか、もうわかっているのだろう? 誰の力をコピーすれば、絶対に負けないのかを。それでも理解したくないと言うなら、あえて言葉にしてやろう。私は、サムライの力を模倣した。私は今、サムライと同等の力を得たのだ!」



「~~っ!」



 声にならない悲鳴があがった。



「そうだ。その恐怖と絶望に歪んだ顔、よくぞ私に見せてくれた。私はその顔が大好きだぞ人間! 消耗し、病に倒れたそのサムライと、無傷で完璧なサムライの力、どちらが上かはっきりと理解しているな! そうだ。それでいい。その絶望をその身に刻み、絶望の中死んでゆけ!」


 皆、すでに気づいていた。


 例え『模倣』が成功しても、同じ力同士では決着はつかない。ゆえにダークロードはあの千体をぶつけ、その力を少しだけでも消耗させたのだ。



 その上で戦えば、無傷のコピーがオリジナルにも勝つ!



 勝利の確信から一転、絶望が彼等の体を襲った。



 先ほど見せたあのサムライの強さが、そのまま敵に回ったのだ。そんな相手に誰が勝てると思う!


 しかも相手は魔法も効かず、四本ものダークソードまで持っている!



「そう。これで私の勝利は揺るがない。これで、じき封じられたダークリップより復活なされる我が主ダークカイザー様へ仇成す存在はいなくなる。我が主の願い、この世界の消滅はこれで確約される! さあ、消えるがいい人間ども!」


 ダークロードが全てを切り裂くという右の剣を振り上げた。


 場にいた全ての騎士が勝てないと諦めようとしたその瞬間。



「させるものかあぁぁぁぁ!」



 誰もが絶望のふちに沈み、諦めかけた中、マックスだけが一人それにむかい飛び出した。


 しかしそれは、誰がどう見ても無謀の突撃である。



 千体もの『闇人』を圧倒し、ダークロードにこれほどまでの策を使わせるサムライの力。

 たとえ天才と呼ばれるマックスといえども、そのサムライに立ち向かうのはただの蛮勇と言うしかない!



 だがそれは、一秒でも長く。一瞬でも長く。ツカサの回復の時間を稼ぎたいという願いと、立ち上がるツカサのため、ほんの少しでも目の前の敵を消耗させるための攻撃でもあった!


 やけになっての突撃ではない。



 ほんの小さな。


 万に一つの可能性に賭けた決死の突撃であった……!



「愚かな」


 ダークロードは振り上げた剣の目標を、マックスへと変えた。



 実際、あのサムライの力ならば、マックスを斬ったのち、その背後の村ごと滅びても不思議はなかった。ゆえに、ダークロードは『切断』の特性を持つ闇の剣をそのまま振り下ろす。



「ああぁぁぁぁ!」


 叫びとともに、マックスの体とダークロードの体が交錯した。




 ザンッ!!




 二つの影の動きがとまる。


 交差し、入れ替わった二つの影に、沈黙の帳だけがその場におりた。



 誰もが、マックスが斬られたのだと思った。



 いかな稀代の天才といえども、あの無敵のサムライを模倣した最強のカイブツに一撃を与えられるなど、誰も想像もできなかったからだ。



 しかし……



「ば、かな……」



 ぐらりと体が傾ぎ、そこに切断のラインが生まれたのは、マックスではなく、ダークロードの方だった。


 ダークロードの体が、袈裟に裂け弾けた。



 斬った者も、斬られた者も、さらにそれを見ていた者も、信じられないと唖然とする。



 当然だろう。



 あのサムライが、弟子同然のマックスに斬られたのだ。


 マックスは相打ち覚悟で剣を振りぬき、迎え撃ったサムライコピーはそれを返り討ちにするため剣を振り下ろした。



 誰もがマックスの返り討ちを想像していたというのに、結果は誰もが想像だにしなかった結末だったのだから……!



 誰もが想像だにしなかった、マックスの剣が一方的にダークノードを斬るという結果に、場にいる者全員が信じられないと目を大きく見開いた。



 ダークロードの持つ四本の剣が、ぱきんと粉々に砕けた。



 よろよろと、ダークロードは剣を失った手を動かし、自身の斬られた個所を信じられないと見下ろし、手で触れる。


 なにかの間違いであると、確認するように……



 しかし、その切り裂かれた体は、見間違いでも幻覚でもなかった。


 紛れもない、現実。



「そんな、バカな……私は間違いなく、サムライの力を……」


 今度はダークロードの方が現実を受け入れられぬように、わなわなと体を震わす。



 ダークロードの行った『模倣』

 それは間違いなくツカサのコピーに成功していた。


(だというのになぜ、私が斬り負ける!)



『はっ。残念だったな三下。お前こそ、相棒を侮ったな。相棒はかつて、とんでもない制限のあるダークソードの洗脳を受けても平気だった。相棒は、格上の相手にはそういうのは通じねえとあの時から気づいていたのさ。だからあえて模倣の発動を許した。お前は相棒の策にまんまと乗せられたってことさ。自分よりスゲェ力は真似できない。そんな発想にいたれなかったお前の負けさ』


 オーマの言葉に、ダークロードの体が大きく震えた。



「そっ、んなっ……私は、まちがいな、く、サムライの力の模倣に成功していたというのに……!」


『だから浅はかだってんだ。そう、思わされたのさ。なにせ相棒は、サムライだからな!』


「バカ、な……!」


 信じられぬと、ダークロードはつぶきながら、地面に崩れ落ちてゆく。



(ありえん! 確実に条件を満たし、私はヤツの力を模倣した。だというのに、その弟子に容易く斬られるなんて……!)



 しかし、ダークロードも気づいていた。模倣したその力が、どこにでもいる少年くらいの力でしかなかったことに。


 模倣した結果、一般人程度のパワーとスピード、テクニックしかなかったことに……!


 千体の『ダークサーバント』を容易く屠ったサムライの力がそれだけということはありえない。ならば、あの力の模倣はサムライがわざとしむけたという証に他ならない。



(これが、カイザー様を抹殺するために用意された、最強の……)



 ごとり。と地に倒れふすと、その体はそのまま、塵へと帰っていった……



 しん。と誰もが声を発しなかった。息さえも。



 風だけが吹きぬけ、地面に崩れた塵をすべて無へと吹き飛ばしてゆく。

 しばらく誰もが声を出せなかった。


 自分達が助かったことが信じられず、息をするのも忘れたまま、その視線は寝息を立てるツカサへ向けられる。



 この戦いにおいて、全てを背負い、倒れてなお勝利の道筋を作っていた、偉大なサムライを。


 マックスが剣を取り落とし、こぶしを握って涙を流す。



 それがきっかけとなり、彼等の時は動き出した。


 ほっと息をつく者、安心してへたりこむ者。圧倒的な強さに感動を覚える者など、様々だった。



 こうして、ダークロードの計略によりはじまったテルミア平原での戦いは、ダークロードみずからがその策に溺れるという結果で終わりを告げた。


 ダークロードを討ち取った者こそはマックスという名の青年であったが、全ての立役者はツカサと呼ばれるサムライであると、全ての者はささやきあった……




──リオ──




 戦いは、終わった。


 熱を出して倒れたツカサをベッドに運び、一体なにが起きたのか、どうしてあの騎士団がきたのかなどなど、あのゲオルグのにーさんとマクマホン騎士団の副官(名前忘れた)に説明をしてもらった。


 他の騎士団の人達は街の外で待機してもらっている。話をするのは宿の食堂だからそんなに人は入れないし、説明するのにそんな人は必要ないから。


 でも、おまけのあの一千万をぽんと支払った魔法使いのおねーさんは来るなと言っても無視してやってきた。あの人は騎士団とは別口なんだって。



 簡単に事情を説明してもらって、おいらは呆れてモノが言えなくなった。



 騎士団二人にむかって、すげぇ視線をむけていたと思う。呆れとさげすみが混ざったような感じの視線を。


「つまり、おいらが王様の子で、王位継承権を持っているから、命を狙いにきたってこと?」


「私達がここに来た理由ならば、そうなるな」


「ですがそれも、大臣に化けたダークロードの策略であったわけですが……」



 ゲオルグにーちゃんとエニエス(名前教えてもらった)が肩を落として申し訳なさそうにつぶやく。



「つーかなんでおいらがそうなるんだよ。そもそもツカサの旅についていきたいって言ったのはおいらの方だぜ」


『ああ、確かにそうだな。こいつが強引についてきたんだ。その王位継承権を持つヤツを相棒が護衛しているってのは明らかに考えすぎだぜ』


 おいらの話を、その時一緒にいたオーマが補足してくれた。


 それを聞いて、二人はさらにがくりと肩を落とす。



 完全に大臣。もといあのダークロードってヤツに騙されたんだよあんたら。



「大体おいらが王様の血を引いているなんてあるわけねーだろ」


 おいらはケタケタと笑い、そんな与太話を笑い飛ばした。


 ちょっと考えればわかることだろ。こんなおいらが王様みてーな高貴な血をひいてるわけねーよ。


 でも、ゲオルグにーちゃんとエニエスはおいらをじっと見て、どこか納得したような、していないような、とても複雑な感じで首をひねっていた。



「やはり、ダークロードの謀略で利用されたということなのか……」

 ゲオルグにーさんがううむとうなっていた。


 それを見て、マリンが首をひねっているように見えたけど、そっちに声をかける前に、ゲオルグにーさんがテーブルへ身を乗り出してきた。



「ともかく、ダークロードに騙され利用されたとはいえ、私はみずからのエゴのため君を殺そうとした。例え騙されていたとしてもこれは拭い去れぬ事実。君の手で私を煮るなり焼くなり好きにしてくれてかまわない!」


「王子!」


 テーブルに手をつき首を差し出すように頭をさげたゲオルグにーさんに、エニエスが驚いてわたわたする。



「そう言われてもなぁ」


 首を差し出されても、おいら困っちゃうよ。



 話を聞く限りサムライであるツカサと合流した誰かをその王位継承者と勘違いさせてって謀略で、おいらはそれに巻きこまれてしまった形だ。


 だけど、おいらの近くには常にツカサがいてその目を光らせてくれた。今回だってツカサが熱があるってのにとび出して守ってくれたんだから、おいらには命を狙われた。なんて感覚は欠片もない。


 というか改めて考えると、病気を押してまでツカサに守ってもらったって形じゃないか。そう意識したら、なんか頬が熱くなってきた。って、今はそれはいい!



 だから、ホントにおいらは狙われてたの? ってレベルの話だから、首を差し出されて煮るなり焼くなりなんて言われても違和感しかない。



 マックスの方に助けを求めたけど、こいつはうしろの方でマリンとなにか口論していてこっちの視線にはまったく気づいていなかった。


 なにやってんだよこんな時に!



 これじゃダメだと、マックスに頼るのは諦めた。


 一応オーマにも視線をむけたけど、オーマはこれに関しては我関せずのようだ。



「とりあえず、おいらは今回自分が襲われたという意識さえないんだから、煮るのも焼くのもする気はないよ。それに、王様の子どもとかいうのも同じで、どうでもいい話さ。そもそも本当に王様に隠し子なんているのかよ?」


「それは、本物の大臣か、王に聞かねばわからない……」



 エニエスがしょんぼりとしたように言ってきた。



 王様に子供のことは伝わらないように大臣がしていたと言っていたようだけど、実際はそれを確認されるとこの作戦が台無しになる可能性があるからだったんだな。ってエニエスは一人で納得してた。


「なら、真相とかはどうでもいいし、この話はダークロードに騙されたでいいじゃん。あんたらは騙されてツカサを倒すのに利用された。真相は闇の中でいいよ。おいら王座になんて興味ないし」



 正直言うと、自分の父親ってのには少しだけ興味がある。


 でも、それを言い出して確かめに行ったら、あの大臣が仕組んだ話じゃないけど、この国に大きな戦乱を生むのは間違いない。なら、あのダークロードが仕組んだ謀略だった。隠し子はいなかった。それで済ませるんならそれでいいじゃないか。



「だからこれは、大臣に成りすましたダークロードの計略ででたらめ。おいらもこれ以上言わないし、あんたらもごめんなさいしてくれたからおいらも満足。それでおしまい。以上!」


 どうだ! と騎士二人に言い切った。


 そうしたら、ゲオルグにーちゃんが唖然として口をぽかんと開いた。


 え? と思ったら、そのままぽろぽろと涙を流して泣き出したんだ。



「なんと、なんという……君は私なんかより、よっぽど王にふさわしいじゃないか……それなら、父に話を聞いて、真相をたし……」


「アホかアンタはー!」


 テーブルに突っ伏して泣きだしたゲオルグにーさんに、おいらはその脳天へチョップを振り下ろした。「へぷっ」という声を上げ、王子様はテーブルへと撃沈する。



「アホかこの人は。ホントにアホだ! いまさら正義感や罪悪感なんかに目覚めてるんじゃねえよ。器がたりないと思うのなら、さらにでかくなるよう努力しろ。おいらにその荷物をおしつけようとするんじゃねえ!」



 ぴくりっ。


 おいらがそう言い切ると、ゲオルグにーちゃんは泣くのをやめ、耳をぴくんと動かした。


 テーブルに突っ伏したままこぶしを握り、肩を震わす。



「そ、そうだ。確かにその通りだ。なんのためにリオ君がうやむやのままでいいと言ってくれたんだ。すまない。もう私はこんな弱音は吐かない。そうなのだ。私が、この国の王になる!」


 顔を上げ、ぐっと拳をにぎった。



 その瞳はとってもまっすぐだ。なんとなく、この人が騙された理由がわかった気がする。



 ちなみにだけど、ゲオルグにーさんの後ろにいたエニエスがほっと胸を撫で下ろしたのが見えた。そりゃそうだよな。下手するとあんたの心配がまた再燃するところだったんだから。



「じゃあ、これで手打ちってことで」


「うむ!」

 おいらは手を伸ばし、テーブルの上から横の床にきちんと立ったゲオルグにーさんと握手を交わした。


「それに、もう二度とサムライ殿と敵対はしたくないからね」


「まったくですね。あれほど肝を冷やすのは、もうごめんです……」



 ツカサと対峙した時を思い出したのか、二人とも乾いた笑いを浮かべた。


 こればっかりは、自業自得だからおいらなんとも言えねーよ。ホント。


 これでおいらとしての今回の一件は終わりだ。



 ……おいらがお姫様かもしれなかった。か。


 そんなのありえないと思いつつも、もしそうだったとしたら、ツカサと釣り合いがとれるのかな。なんて思ったりもした。



 でも、そんなことどうでもいいんだ。


 だって、わたしはこの騒ぎのおかげでツカサと出会えた。



 それだけで、わたしがお姫様だとかそんなこと、どうでもよく思えるんだから……




──マリン──




 大臣に化けたダークロードの計略。ねぇ。


 王子様と副官君からの話を聞いて、私はある程度今回の一件についてのことに納得をした。



 サムライ君一人を倒すために、よくここまで準備したもんだわあのダークロード。あの計略も、最後の一手。最強の模倣以外は見事だったし、感心するけど、私が気になったのはその最後の一手じゃなく、最初の一手。


 そこが、凄く気になった。



 話を聞く限り、あのリオちゃんとサムライ君が出会ったのは偶然でしかない。


 私とサムライ君がプレートを手に入れる直前、サムライ君をカモだと思ってリオちゃんがスリをした。そこに、ダークロードの思惑は欠片も絡んでいない。


 サムライ君と一緒にいるから、リオちゃんが王族としてダークロードの策略に利用された。


 出会いは偶然だから、王位継承者であるはずがない。

 彼等の結論は、そういうことだ。


 でも、それはおかしい。



 リオちゃんがサムライ君についていこうと決めた事件。



 あの時すでに、リオちゃんはエニエスという副官から追っ手をかけられ追われていたはずだ。


 それをサムライ君が助け、旅についていくと言い出したのがこの二人の旅のはじまり。


 となると、サムライ君と一緒にいたからリオちゃんが王族であるということにされたのとつじつまがあわない。

 それってつまり、その時の大臣はまだダークロードに成り代わられていなかったんじゃない? と推測もできる。


 現にダークソードが蔓延しはじめたのも、サムライ君の名が広まってきた時期だ。


 王位継承者のごたごたを利用しようと考えたのは、むしろ逆で、サムライ君と一緒にいたから、これをダークロードが利用しようとしたという、逆の推測も成り立つ。



 となれば、私の見立てどおりあの子はやっぱり……



「ふふっ。面白いわね」


 私は、にんまりと笑った。


 テーブルにつっぷして謝っている王子に向かって、この事実をつきつけてあげようかと思い、動き出そうとしたら、後ろから肩をつかまれた。



「あら? なにかしら?」


「いい趣味とは言えんな。やはり、聞きしに勝る魔女のようだな」

 私の肩をつかんだのは、刀のツバを眼帯にしたリーゼントの青年剣士。マックス君。


「あら、気づいてた?」


「冷静に話を聞ける第三者だったからな。せっかく丸く収まろうとしているところで、引っ掻き回そうとするんじゃない魔女」


「魔女とは失礼ねぇ。ちょっと面白そうだからバラそうと考えただけじゃない」


「まさに魔女の思考ではないか!」


 魔女魔女言うんじゃないの。私だってちょっとは傷つくんだから!



 それにどうせ国を真っ二つになる戦いになったところで、サムライ君のいる方が勝つんだから、ある意味わかりやすい戦いよ。



「だから、いいじゃない!」


「なにがいいのかわかわからんが、絶対にいいはずがない」


「なにがよー。けちー」


「けちではない!」


 なんて口論していたら、むこうは丸く収まってしまった。


 ちえ。これで蒸し返したらヒンシュク買って私が全員から責められることになるわ。さすがの私も、サムライ君とは敵対したくないから、これ以上はパスね。残念。



 真相は、このまま闇の中ね。



 さっき思い浮かべたのは、あくまで可能性。真相を知る大臣は間違いなくもうこの世にはいないだろうし、策を進めていたダークロードもすでにいない。


 あとは王様に直接たずねるしかないけど、それやったら間違いなく地下牢へご招待で一生日の目が見れなくなるのが目に見えてるわ。



 さすがにそれは、私もカンベン。




────




『ああそうだ王子さん』

「なんですかオーマ殿?」


 話がひと段落つき、オーマがゲオルグに声をかけた。



『おれっち達は西の果てにあるダークシップに行きてえんだけど、あのへんに入るのって許可が必要なんだって?』



「はい。あの地はかつて邪壊王の城があった地であり、大変危険なところですから、王の許可なくしてあの領域に足を踏み入れることはできません」


 ちなみにだが、王都キングソウラとは、その地を見張るため作られたのがきっかけであると言われている。


『なら、今回の侘びとしてその許可をもらってきてはもらえねーか?』


「わかりました。とはいえ、許可証は王に謁見し直接手渡されなければなりませんから、代表者が王都へ来てもらわねばならなりませんが」


『そうなのか。まあ、それなら相棒が行けばいいから、問題はねーか』


「そうなりますね」


 うなずいたゲオルグは、一瞬リオを見た。



 ダークシップの墜落した地へ行くには王の許可証が必要となる。となれば、その謁見にてリオと王が邂逅する可能性がある。



 それを恐れたゲオルグ派の者達は、それはまずいと考え、今動き出したのだ。


 サムライがその地へむかうと謁見を求めれば、王とて拒絶はできないだろうと考えていたからだ。


 しかしその心配もなくなったので、ゲオルグは快くそれを了承した。



「父との謁見と許可の準備を整えておきますので、王都へ到着したらお迎えにあがります」

 ゲオルグとエニエスがぺこりと頭を下げた。



『他に、なにか聞くことはあるか?』

「拙者はござらん」

「おいらももうないね」


 聞くべきこと、確認すべきことも終わり、ゲオルグとエニエスが立ち上がった。



「では、我々はこれにて」

「はい」

 二人は立ち上がると、今度は宿の二階へと向かって歩き出した。


「ちょっ、ちょっと待てよ。なんで二階にあがろうとするんだ」


 二人が歩き出したところで、リオがその背中をとめた。



 てっきり自分達の領地へ戻るのかと思ったら、なぜか二階にあがろうとしているのだから当然だろう。



「なぜって、今からサムライ殿へ謝罪へ向かおうと思ったのだよ」

「はい」


 二人は真顔でリオに答えを返した。


 今回の元凶はダークロードであるが、その謀略が見抜けずツカサに大きな負担をかけたゆえ、頭を床にこすりつけて謝罪しようと思っていたのだ。


「いやいや、そんな必要ないよ。むしろツカサは今寝ているんだからそっとしておけって」


「ですが……」


『気がすまねえってんならそれは思い違いだぜ。相棒なら最初からそんなの気にしてねーんだからよ。相棒がそんな小せえ器だったら、最初からあんた等の命なんてねぇ。どうしても謝りたいってんなら、おれっち達が王都についてから改めて謝りにきな。もっともその頃には相棒すっかり忘れているだろうがよ』


 オーマが意地悪そうに笑った。


「そういうことだよ」


「確かに、寝ているのを起すというのも逆に失礼ですね。王子、ここは素直に従いましょう」


「そうだな」

 しぶしぶとだが、エニエスの言葉にゲオルグはうなずいた。


「では、またの機会に必ず」

 エニエスは頭を下げ、彼等は宿から去っていった。


 一応、リオとマックスはオーマを持ち、彼等を見送った。



 ゲオルグ王子達王栄騎士団は王へダークカイザーの復活が近いことを報告するため王都へとむかい、他の騎士団は自分達の領へと戻っていく。



 こうして、テルミア村の平原において突如巻き起こったダークロードとの決戦は終わりを告げた。


 ダークロードを退けた彼等の旅は、ついに王都キングソウラへと到着する。



 そこを通過すれば、残るはオーマが目指すと言った西の果て。かつてこの地に絶望をふりまいたダークシップの墜落した地。



 通称ダークポイントであった。



 彼の旅も、そろそろ終わる。


 そしてそれは、彼と彼女達の別れが迫っていることを意味していた……




──ツカサ──




『ツカサ、ツカサ……!』

「ん?」


 ふわふわ浮かんでいるような気がした中、ソウシに呼ばれている気がした。


 目を開けると、なんかよくわからない空間に俺は浮かんでいた。


 周囲にはなにもなく、乳白色の背景だけが広がっているような空間だ。



 あ、これは夢だ。



 すぐにそれが理解できた。根拠はない。ただの直感だ。でも、確信できた。


『ツカサー!』


 耳元でソウシが叫んだ。



 耳から俺の名前が頭の中を突き抜けていったような気がするけど、痛みはなかった。



「な、なんなんだいったい……」


『あはは。ごめんごめん。でもさ、お別れを言いにきたんだ』


「は?」


『いきなりなことだとは思うけど、僕はもうこの世に未練がなくなったからね。それもこれも、君のおかげだ』


「おかげって、俺なにもしていないけど?」


 出会って一方的にとりつかれて、あげく気分が悪くなって寝ていただけだってのに、それでいったいなぜお礼を言われなければならない。



『なにもしていなかったからいいんだ。君がなにかしていたらきっと僕は満足できなかった。だから、君のおかげなんだ!』



 ……意味がわからない。



 でも、とっても嬉しそうに笑っているからそれでいいだろう。



 空。というか頭の上から光が降り注ぐ。スポットライトのような光が、ソウシを包みこんだ。



『どうやら、これでお別れみたいだ。僕はもう逝くよ。君といた時間はほんの少しだったけど、とても楽しかったよ』


「……ほんの少しだったけど、俺も楽しかったよ」


『あははっ。お世辞でも嬉しいよ。それじゃ、またあの世で会おうね!』


「いや、あの世ってそれ別れの挨拶としてはどうなの!?」


『あはははは。あはははははー』

 楽しそうに笑いながら、ソウシを包むスポットライトのような光が広がってゆく。



『それじゃ、さようならだよ。本当に、ありがとう』



 光に包まれ、その姿が完全に見えなくなった瞬間、落ち着いた声が俺の耳に響いた。


 おふざけの欠片もない、感謝の言葉。



 それが、俺の耳に、届いた……




 ……はっ。




 目が、覚めた。


 寝た時と同じ天井が広がっている。



「ツカサ!」

「ツカサ殿!」


 視線を動かすと、俺を心配するようにのぞきこむリオとマックスがいて、その後ろにいるはずのソウシの姿はなかった。


 夢だと気づいた時と同じく、理解する。



 あの子は、もういなくなったのだと……



 俺はもう一度目を瞑り、小さく息を吐いた。


 人が寝ている間に勝手に満足して成仏するとか、ホントに勝手な幽霊だ。



 体を持ち上げ、さらに周囲を見回すとベッドの隣にいるリオとマックスのうしろ。部屋の隅の方になにやらたくさんの物が所狭しと並んでいるのが見えた。


 例えるならば、そう、お見舞いの品のような感じだ。


 ついでにその品物から果物を取り出し、もぐもぐ食べているあの魔法使いのおねーさんもいる。



「なに、あれ?」

 俺は思わず、そこを指差した。


「ああ、これ? 村の人達からのさしいれよ。サムライ君がここで寝ているって聞いてみんな持ってきてくれたんだって」


 魔法使いのおねーさんが答えてくれた。


 その答えはとってもありがたかったけど、望んだ答えとはなんか違う気がする。


「というか、なんでこんなに……」

 お見舞いの品だとしても多すぎだろ。


「なんでって、そりゃあなたがサムライだからじゃない」

「おぉう」


 おねーさんの言葉にリオとマックスがうなずき、それに対して俺は思わず嘆いてしまった。



 サムライが来て寝こんだというだけでこんなに物がもらえるなんて、なんてところだ。



 確かにここはサムライが住んでいたというくらいなのだから、この村の人がサムライに恩を感じていても不思議ではない。


 でも俺は、サムライでもなんでもなくオーマを持っているだけの単なる高校生なんだから、感謝されてもそれはお門違いってヤツだよ。


「返してきてもらえないかな?」

「いいけど、もうだいぶ食べちゃったわよ」

 食べちゃったじゃありませんよおねーさん!


「あと、みんな置いて行ったあとなんだからもうしょうがないと思うぜツカサ。今更逆につきかえされた方が迷惑だろうし」


「あー」


 リオに言われ、俺は納得した声を上げた。確かに善意でくれたというのなら、その方が失礼か。



「だから、素直に受け取っておこうよ。おいら達なら、あの袋に入れればもっていけるしさ」


「そうだな」

 リオの説得を受けて、俺は納得することにした。



 せっかくの善意なんだから、受け取っておこう。



「さて。サムライ君も目を覚ましたことだし」


 りんごを食べ終わり、ぱんぱんと手を叩いた魔法使いのおねーさん。確か名前はマリンといったかな。マリンさんがこっちに近寄ってきた。


「というか、ずっと疑問だったんだけど、なんでいるんです?」


「あら、ずいぶんね。ちょっと前に挨拶したじゃない」


「え?」


 疑問に首をひねったら、むこうにも首をひねられてしまった。



 ちょっと前って、俺の記憶にあるのは武闘大会の時になっちゃいますよ。まさかそれがちょっと前? いや、この言い方だとこのちょっと前はホントにちょっと前だ。


 となると考えられるのは、熱出して朦朧としている間に挨拶したということか。


 俺の鋭い推理が冴え渡り、見事な答えが浮かび上がった。そうならば、俺に記憶がないのも納得がいく。



「すみません。熱を出している間に挨拶したのなら覚えてません。ホントに」



「ならしかたがないわね。じゃあ改めて。ひさしぶりね。ツカサ君」


「はい。ひさしぶりです」

 どうやら熱を出して覚えていないという理由に納得してくれたようで、マリンさんもあっさり改めて挨拶をしてくれた。



(やっぱり、私のことをオバなんとかと言ったあの時は熱で朦朧としていたのね。なら、許してやりますか)



 なんか呆れたようにため息をつかれたような気がするけど、気のせいだろうか。



「ともかく、ツカサ君はこれから王都へ行くんでしょ?」

「え? そうですね」


 帰るために行かなきゃいけない場所に入るためには許可を得なきゃならなくて、その許可は王都じゃないととれないみたいだから、そこは避けて通れないハズだからだ。


 それを聞き、マリンさんはにっこりと笑った。


「ならちょうどいいわ。私も王都へ行く用事があるから、一緒に行きましょう。はい、けってーい!」


「は?」


「ええっ!?」

「えええー!?」

『はあぁぁぁぁ!?』


 いきなりのことに唖然とする俺と、突然の決定に驚きの声をあげるリオ、マックス、オーマであった。


 マリンさんは俺達の反応を見て、とっても楽しそうに笑ってウインクを飛ばす。



 彼女の中では完全に確定した事態のようである。




 なんだかよくわからないけど、唐突に仲間が一人増えました。




 おしまい

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