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優等生令嬢の憂鬱~絶望の未来から~【書籍化】  作者: こる


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END そして、幸せに暮らしました

 結婚が決まってからの日々は、怒濤の如く、だった。


 まず、一代男爵であるユリングス家では、隣国の王弟であり大公位を持つエイシェン殿下に嫁ぐ事はできないので、コーラル・エルゲス――ヴィゼル先生のお父様の養女にしていただいた。

 男爵令嬢であれば問題ない作法も王族に嫁ぐには足りずに学び直し、併せて、隣国の歴史文化そして政治や経済も、教職を辞したヴィゼル……お兄様に、みっちりと教えていただいた。

 あちらの国では、女性でもこれだけ政治的な事を理解しているのだと。国によって、教育や文化に差が出るのだと感心した私に、ヴィゼルお兄様は優しく微笑み、息抜きに他国の文化や風習等を教えてくれた。

 ダンスやマナー等は、それぞれ専門の先生が来て下さり。勉強と訓練漬けの毎日は大変だけれど、充実して楽しいものだった。

 時々、私に付き合って一緒に学んでくれる、侯爵令嬢として多忙なカティールさんや、彼女の護衛兼侍女見習いとして頑張っているリコルさん、そして魔術師として宮廷に勤めるレイランさんの存在も大きかった。


 エルゲス家に来て半年程経った頃、ゲイツから謝罪文と共に近況を報告する手紙が送られてきた。

 卒業試合のあの日、数日分の記憶を失うことになったゲイツは、ジャンクルーズ殿下直々に詳細を聞かされ、その後、王宮の中でも精鋭が揃う過激な集団に、放り込むように配属され、日々厳しい訓練を受けているらしい。

 ジャンクルーズ殿下は国内の視察を中心に、カンドリック様と共に各地を訪れて、抜き打ちの監査等を行っている――ということを、カティールさんから聞いた。


 殿下とカティールさんが許嫁同士で。数年後、結婚したあかつきには、殿下と共に各地を巡るのだと、ふんわりと微笑みながら楽しそうに教えてくれた彼女は、いつも以上に綺麗だった。




 そして一年の準備期間を経て。


 国に戻り、丸く収めると約束したシロウネ草のことを、国際問題に発展させること無く解決してくださったエイシェン殿下が、直々に迎えに来て下さった。


 これから隣国へ渡り、もう半年掛けて、婚姻披露の準備を行い、結婚の運びとなる。


 先日久しぶりにユリングス家に帰り、使用人のみんなやお父様とお別れをして、本日エルゲス公爵家の前に付けられた馬車の前で、ヴィゼルお兄様やエルゲス公爵、そして見送りに来てくれた友人達と別れの挨拶をした。


「また、半年後。結婚式に出席させて貰うから、それまで体に気をつけてね」

 宮廷魔術師の制服を着たレイランさんに抱きしめられ、驚いて彼女を見つめる。


「貴方がいたから、わたしはわたしで居られたの。愛してるわ、コーラル。幸せになってね」


 涙を溜めた彼女を私もしっかりと抱きしめ返す。


「レイランも、幸せにならなくては駄目よ? 私も、愛してるわ」

「ええ。わたし、この世界で幸せになるわ」

 決意を込めた彼女の言葉に嬉しくなり、私も泣き笑いの顔を返していると、エイシェン殿下とお話ししていたヴィゼルお兄様に呼び寄せられた。

「コーラル、もう時間だ。エイシェン、私の妹を、大切にしろ。コーラル、こいつに愛想が尽きたらいつでも家に帰って来なさい」

「まぁ、お兄様ったら。冗談でもそんなことは言ってはいけませんわ」

 ずっと妹が欲しかったというヴィゼル先生は、お屋敷で一緒に暮らす内に、私……妹を甘やかす事が大好きなお兄様になってしまった。

「冗談ではないのだがな」

「冗談にしておけ。それよりも、公爵家なら他にもあっただろうに、よりにもよってお前――」

「なにか文句でもあるのか? 義弟おとうとよ」

 煽るように口の端を上げるヴィゼル先生に、エイシェン殿下は口の端を引き攣らせる。

「お、お兄様、それくらいになさってください。エイシェン殿下も、もう、行きますよっ」


 険悪な雰囲気になりかけた二人を引き離すために、彼の腕を引いて馬車に乗り込んだ。




 外に御者は居るものの、二頭立ての馬車の中には私とエイシェン殿下だけ。

 メイドや従者はもう一台の馬車に乗り、護衛の方々は騎馬にて周囲を守って下さっている。

 馬車が動き出してから車内に二人っきりであることに気付き、気恥ずかしく膝の上に揃えた手を見ていると、正面に座っていた彼が隣へと移動してくると、膝の上にあった手を彼の大きな手のひらに包まれた。

「コーラル、やっと二人きりになれたな」

「そうですね。屋敷では、ヴィゼルお兄様も、お義父とう様も私達の事を構って下さるから、中々二人きりにはなれませんでしたものね」

 彼は数日前から滞在していたのに、ゆっくりと話をする時間も無かったことを思い出す。

「構う、というか。――まぁ、仕方ない。それよりも、ヴィゼルから聞いたが、この一年、随分と頑張って勉強したそうじゃないか。教えれば教えるだけ吸収する、優秀な生徒だと奴が手放しで褒めていたぞ」

「まぁ! 後から後から、どんどん教えて下さるから。てっきり、先生の望む水準に到達できていないものだとばかり思っていましたわ」

 でも、優秀だと言って貰えるくらいには、学べていてよかった。

 はにかむ私の頭を、微笑んで撫でてくれる彼に、嬉しくなる。

「我が国でも勉強する時間をとろうと思っていたのだが、ヴィゼルの話を聞くと、その必要ないようだから。もしかしたら、婚姻を早めることができるかも知れないな」


 そう言われて、ハッと思い出した。


「あの……ひとつだけ、まだ教わっていない事があるのですけれど」

 彼から視線を外し、ドキドキしながらそう申告する。

「教わってないこと?」

「ええ。あの、ヴィゼルお兄様からは、あなたから学びなさいと言われていて」

「私から?」

 不思議そうに尋ねてくる彼に、言い出しにくくてもじもじしてしまう。

 だけど、言い出しにくいこと程早く片付けた方がいいのだもの。

 顔を上げて意を決して――だと伝えれば、色気たっぷりの笑みに射すくめられた。


「そうだな、それは私が教えるべき事だな。流石は我が旧知の友だ、よく理解している」

 そう言いながら、彼の腕が私の肩にまわり体を引き寄せる。

 エイシェンとお兄様はそんなに仲が良かったのね。喧嘩するほど仲がいいと言いますし、そういえばリコルさんとレイランさんもそんな感じだわ。

「折角時間があることだし、期待を裏切らぬように、頑張らねばな」

 顎先を捕らえ、私を見下ろす彼に動揺して、目が泳ぐ。

「え、あの、エイシェン? まだ、日も高いですし。馬車のな――んんっ!」

 近づいてきた彼の唇に、言葉が吸い取られる。

 彼の情熱的な口づけに意識がぼうっとした頃、彼の手のひらが私のスカートを割り内側へ潜り込んできた。

 そんな……まさか、ここで?

「ん! ん! んんっ!」

 口づけられたまま慌てると、馬車の天井からコココココッとノックのような音が、車内に響き、彼が一瞬手を止める。

 え? 空耳、かしら? 天井からノックなんてあるはず無いものね?

 だけど、彼が手を止めたのは一瞬で、すぐに太ももを直に触り、口づけも深める。

「んんんんっ!」

 ココココココココッ!

 またあの音がしたけれど、今度は止まらずに口づけを続ける彼。

 ガコンッ! 殴りつけるような音の後に、なんだかわからない威圧感が馬車の上から放たれ、エイシェンがガバッと私から離れ、今まで彼の居た場所に、太い釘のようなものが刺さっていた。


「あんたねぇ、あと半年あるのをお忘れですか。折角ここまで準備して、半年後の結婚式を台無しにするつもりじゃぁ、ねぇよな? あぁ?」


 ドスの利いた声に、彼の表情がふくれっ面になる。

「半年も禁欲などできるわけがないだろう」

「できない、で済むわきゃねぇだろう。いいか、それ以上、御令嬢に近づいてみろ。全て記録して、兄君あにぎみ達に渡すぞ」

 ポンポンと飛び交う声だけのやり取りのなかで、気になる言葉があった。記録? そういえば、どこかで一度そんなことを……。あ、そうよ、図書館だわ、あの時、エイシェンが、記憶は記録してあるから大丈夫だと、そんな不思議なことを言っていたわよね。ということは、記録する魔法なのかしら? はじめて聞く魔法だわ。

「やめろ、私はいいが、彼女の沽券に関わる」

「そうされたくなければ、暴走すんな馬鹿。いいか、大人しく座ってろよ!」

 怒鳴りつけた声は、気配と共に消え失せた。

「エイシェン? もしかして、彼。以前、町でお会いした方かしら?」

 声質と彼に対して物怖じしない言いようにピンときて尋ねれば、驚いたように見つめられた。

「ああ、そうだ。私の乳兄弟だ、後で紹介する」

「はい。あの……もしかして、ずっとこの上に?」

 恐る恐る尋ねると。

「護衛だからな」

「な……っ!」

 あっさりと返事をされたけれど、さっきのやり取りを聞かれていた恥ずかしさと、知っていて仕掛けてきた彼の無神経な行動に――

「コーラル、ちょっと待ってくれ、火の粉が出てる、出てるっ」

「大丈夫ですよ、火の扱いには慣れておりますから」

 にっこりと笑い、それから次の休憩まで馬車の中でしっかりとお話し合いをして、馬車の中での接触は手を握るところまでということで合意に至った。

 その後の生活でも、つい怒りが一定レベルを超えると、火花や火の粉が出るようになってしまったのだけど、氷の魔法の覚醒者であるエイシェンがフォローしてくれて、私は――


 ――いえ、私達は対極の覚醒魔法を持つ公爵夫婦として、生涯幸せに暮らしました。

 


END




■□■あとがき■□■


 最後までお付き合いいただいた皆様、本当に、心から、ありがとうございます!


 ちょっと、今、寝落ちしながら書き上げたので、時間が零時に間に合わなかったりしてしまいました。最後の最後で締まらない……っ。


 さて、この作品は、ほんの軽い気持ちで書き始めた作品で(前作もそんなこと言ってた気がする)

 悪役令嬢が今流行の「ざまぁ」する話を書きたいな、なんて。本当に軽い気持ちでした。(目の辺りに黒い線&ボイスチェンジャー使用)


 実際に蓋を開けてみれば、なんか、重い。

 その上、途中で迷走したり。

 結局ざまぁしなかったり。

 ざまぁが無かったのは、ハッピーエンドが大好物なので。大団円になってしまうのは、逃れられない宿命といいますか。なんといいますか。ごにょごにょ。

 初投稿が 2015.7.8 で実に約1年半っ!! そんなに長いこと書いてたんですね。さっくり終わる予定だったn……げふんげふん。

 本当に、ここまで付き合って下さった皆様に、感謝しかないです。

 ありがとうございました!!

2016.8.7 こる.


追伸

11月2日『優等生令嬢の憂鬱』が書籍化されます!

しっかりと改稿させて頂きまして、だらだらしたあの部分を削ったり。かみ合わなかったところを、辻褄が合うようああしたりこうしたり。あの人がちょっと格好良くなったりしております。

そして本編にまるっきり出番のなかった彼女が、ほんの少しですが、その姿を見せておりましたり。

なによりアピールしたいのはイラストです! 是非書店でピンナップを見て頂きたい!

イメージにぴったりなイラストなのです!

あと、10月20日に一迅社文庫アイリスより『双剣の乙女』という書き下ろし作品も出ますこと、お知らせいたしマッスル。(マッチョも出ます)

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― 新着の感想 ―
[良い点] これもとても面白かったです・・はずれませんね・・
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