73.卒業試合 決勝2
振り下ろされる剣……永い一瞬――
そして突然、視界に入る漆黒の背中。
ギィン……ッ!
剣同士がぶつかる、鈍い金属音。
「小僧、貴様が彼女を断じようなどと、思い上がりにも程がある。ケリの付いた勝負で、足掻くのは無様だぞ」
彼の剣を、剣で易々と受け止めた彼を呆然と見上げる。
髪を後ろに撫でつけ、いつもよりももっと凜々しい彼が、私にほんの一瞬柔らかな視線をくれた。
たったそれだけで、剣を恐れた私の心が強さを取り戻す。
「……あなたは、隣国の。我々の戦いに、口出しはしないでいただきましょうか」
距離を取って剣を構え直したゲイツが呻き、エイシェン殿下を睨み付ける。
「決着は着いているだろう。既にこれは試合ではない」
「婚約者として、彼女を正しい道に導いているだけです。どうぞ、お引き取りを」
正式に婚約を解消していないから、ゲイツが私を婚約者と呼んでも仕方ないのに……エイシェン殿下にその事を知られ、泣きたくなる程に胸が苦しくなる。
「君に彼女は勿体ない。彼女は私がもらい受ける」
はっきりと言い切る彼の言葉に、苦しかった胸が、今度はどきどきと脈を打つ。
「なにを馬鹿な事を。貴方の身分と、その女……彼女の身分にどれほどの隔たりがあるか、わかっているのでしょう。ああ、下女として欲しいというならわかりますがね。小器用な彼女は下女仕事に最適でしょうよ」
真面目な顔のままそんなことを言われ、私の周囲に小さな火花がはじける。
エイシェン殿下がぎょっとした顔で私を振り向き、素早く前を空けてくれる。
「そんなこと……あなたに言われる迄もなく」
溢れ出しそうな炎を押しとどめ、剣を構え直すゲイツを見据えて一歩前に出る。
「自分の身の程くらい、充分にわかっておりますわ」
言い切ると同時に、彼の前で炎が破裂する。勿論、彼に当たらないように加減はしている。
「ぐぅっ! 本性を現したか」
「本性? 私の性を見たいなら見せてあげるわ」
右足を開きながら少し後ろに引き、魔力ゆっくりと解放してゆく。
多少の炎の魔法ならば、わざわざ意識して魔力を放出する必要はないけれど――この、魔法だけはそうはいかない。
練り上げた魔力を、頭上へと放出する。
観客席がどよめき、皆、目を見張る。
「炎の……龍……っ!」
ゲイツも呆然として、私の頭上高くに現れた、龍を見上げる。
貴賓席の宮廷魔道師達が動き、観客席の防御魔法を強くし、更に貴賓席に二重三重の防御の魔法を掛ける。
ゲイツを睨み付けていた私の肩を、近づいたエイシェン殿下が抱く。
はっとして彼を見上げれば、彼の深い青味が掛かった緑の瞳が、いたずらっぽい光を宿して私を見下ろしていた。
「フォローは任せてくれ」
「――いいの?」
力強く請け負ってくれた彼に思わず笑みを返し、顔をゲイツに向けた。
肩にかかるエイシェン殿下の大きな手のひらを心強く感じながら、魔力を操作しやすいように大きく両腕を開く。
炎の龍が咆哮するように顎を大きく開け大きく体を震わせ、ゲイツを見下ろすように頭をゆっくりと下げた。
龍へ向かって剣を構えるゲイツ。
そんなもので、私の炎龍を倒せる筈が無いのに。
彼を掠めるように、龍を飛翔させ数度からかうように火の粉を散らす。
そして逃げ惑う彼の近くへ炎龍を叩き落とした。
炎を纏った爆風が飛び散る一瞬前に、私の後ろから逞しい腕が前へ伸び、魔法を放つ。
――飛び散った炎が、氷に包まれ、キラキラと闘技場に降り注ぐ。
その幻想的な光景に、私の炎龍に恐れおののいていた観客席が心を奪われた。




