63.準備室
朝食をとった私達は制服には着替えずに、動きやすい服装のまま、ヴィゼル先生を尋ねて準備室のドアをノックすると、中から疲れた顔をした先生が出てきた。
「……顔ぶれが不吉だな」
「なにを言ってるんですか、ヴィゼル先生」
溜め息交じりに呟いた先生の言葉に、すかさずリコルさんが言葉を返す。
リコルさん……ヴィゼル先生は、先生だけれど、公爵でもあるんですよ? あまり、失礼な物言いはやめた方が――
「ああ、少し寝不足でな、つい本音が出てしまった。まぁ入れ」
リコルさんの言葉を意に介さず、いつもよりずっと荒っぽい口調の先生に部屋に通される。
「コーラル・ユリングス、茶を頼む」
「はい」
部屋に入って早々に、机の椅子に腰掛けた先生の頼みに頷いて、低い棚の前を陣取って人数分のお茶を用意する。
「それで、何の用だ? 卒業試合の組み分けは教えられんぞ」
「そんなんじゃないです」
疲れたような先生の声に、リコルさんが口を尖らせる。
もしかすると、卒業試合の準備でお疲れなのかしら?
ポットに魔法でお水を満たし、覚醒魔法で丁度いい温度まで加熱して、お茶を淹れた。
「ああ、悪いな」
ぐったりと椅子に体を預けて、私から受け取ったお茶を啜った先生は、満足げな溜め息をついてからカップを机に置いて、私達の方に向き合った。
「それで、用件はなんだ」
「ヴィゼル先生、精神系の魔法を解く術を教えて下さいませんか」
単刀直入に聞いたカティールさんの質問に、先生は私達三人を見て、授業でするようにゆっくりと言葉を紡いだ。
「精神系の魔法を防ぐ術は、前に授業でも教えたな? リコル、覚えているか」
「はい、気合いです!」
先生から投げられた問いに、リコルさんは元気に答える。
正しくは、相手の精神に負けない意識を持つ事ね。
「……大筋では正解だ。解く方法も、それに準じる。掛けられた本人の意識を強くする事が重要だ、そして外側からも、掛けられた魔力を時間を掛けて解いてゆく――気の長い作業だぞ、アレが掛けられた魔法は一朝一夕では解けまい。理由はわかるな」
ヴィゼル先生の強い視線が私を射貫くけれど、私は視線を逸らさない。
先生も彼女に魔法が掛けられているのを知っているのね。
「それに。君達のような、尻に殻のついた雛鳥に、精神魔法の解除はまず無理だ。迂闊な事をすれば、対象者を精神崩壊させるだろう。だが、宮廷魔術師ならば――」
先生は言葉を途中で止めて、小さく溜め息をついた。
「まだ内密な話だが、今回は国王観覧の御前試合になる、優勝すれば願いを一つ叶えられるだろう」
願いを、叶えられる――
希望の光のような言葉に、私は自分の成すべき事を知った。




