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優等生令嬢の憂鬱~絶望の未来から~【書籍化】  作者: こる


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46.魔法

※短いです



 すぐに運動できる服装に着替え、休んだ分を取り戻すように訓練が開始された。

 いくら鍛えても、足りない。

 カティールさんの言葉は焦りに満ちていて。私の制限時間が近いように、彼女……いえ、彼等が目しているその時も近いのだと、わかった。

「限界を超えれば、その向こう側へ行くまでが近づきますわ。だから、吐いたくらいじゃ、やめませんわよ」

 厳しい指導に、歯を食いしばってついて行った。

 吐いても、続いた。


 そして日が落ちると、魔法の練習に入る。

「魔法の精度を上げることです。魔力を繊細に操ることが重要なの。繊細さが無ければ出来ない魔法は、本当に沢山あるんですよ。学校で習うのは本当に魔法の初歩ですから」

 学校で習うのが、初歩?

 驚いて彼女を見る。

「本当に“使える”魔法は、必要な現場にその身を置いたときに、教えられるのです」

「使える、魔法ですか?」

 問い返せば、カティールさんが頷く。

「ええ。魔法学校は素地を作るため場所よ。魔法学校を出て、魔法に関係しない……たとえば、どこかに嫁いだりするのならば、それ以上の知識は得られない」

 テーブルの上に広げていた教科書を、撫でて言葉を続ける。

「だけど、魔法に関係する場所に身を置いてはじめて必要な、使える魔法を教えられるのですよ。たとえば――“来い”」

 彼女が指を向けた先の本棚から、一冊の本が手元に飛んで来て、彼女の手の上に乗った。

 初めて見るその魔法に胸がドキドキする。

 物を動かす魔法なのかしら? 引き寄せる? 凄いわ、魔法でこんなことが出来るなんて。

 重厚な装丁のその本にタイトルは無く。カティールさんはテーブルにあった教科書を退けると、その本を開いて置いた。

「今使ったのは、この魔法。対象物を手元に引き寄せる魔法です。魔力の量と精度によって、引き寄せる物の大きさや距離が変わりますわ」

 彼女の説明に、真剣に頷く。

「魔法の精度は集中力に等しいものです。コーラルさんは元々集中力がありますから、すぐにコツを掴めるでしょう。いま見せたこの魔法を、明日までに習得して来てくださいませ」

 緩く微笑んだ彼女を、リコルさんが目を丸くして見たけれど結局なにも言わずに口を引き結んだ。

 覚えればいいのね。カティールさんが言うのでしたら、きっと私にもできるのでしょう。

「わかりました」

 そう答えた私に、彼女は頷き返した。

 私は彼女の部屋を後にして、部屋に戻ると早速彼女が出した課題に取り組んだ。



 精度が集中力、あとは魔力の量。

 魔力の量に心配は無いから、あとは集中力だけね。

 精神統一するために、部屋を暗くして、ゆったりと椅子に腰掛け、両手を胸の前に水をすくう形にして、その中に炎を生み出す。

 ほんの小さな炎を灯し、その色を橙色から徐々に青く変えていく。青く燃える炎を球体にし、二つに分け、一つを消し。残った一つの光量を上げる。

 熱は抑え、一度ぎゅっと収縮させた炎を花火のように、細かく弾けさせて消した。

 火は私を温め、その上、明るく周囲を照らしてくれる。


 火を消した暗い部屋の中。一つ深呼吸して、机の上に積んである教科書へ指先を向けた。

「“ここへ”」

 一番上にある魔法史の本を呼び寄せる。

 カタンと小さく動いたけれど、来るというにはほど遠い。

「“ここへ、来なさい”」

 もう一度、カタリと動く本。

 ゆっくり一つ呼吸をして、柔らかく唱える。

「“おいで”」

 ゆっくりとそう唱えると。本は机を離れ、椅子に座る私の膝の上に落ちた。

 ぽかんと、膝の上の本を見て、そっとそれを両手で取り上げる。

「できちゃった……」

 あ、いや、もしかしたら、まぐれかもしれないわ。

 もう一度机に指先を向けて、今度は積んである三冊の本へ意識を向けて声を掛ける。

「“おいで”」

 乱れる事無く、三冊の本は重なった状態のままで私の膝の上に乗った。

 ……うん。カティールさんの言ったとおりだったわね。

 四冊の本を手のひらに乗せて、唱える。

「“お戻り”」

 するりと手の上を滑り、机の上にパタンと小さな音を立てて納まった。

「……便利ね」


 ちゃんと出来たことに安堵して、ひとまずベッドに潜り込んだ。


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