決戦場
そして、俺は戦場に到達した。既に戦端は切り開かれており、多数の騎士と魔物が交戦を開始していた。
俺は戦場を一瞥する。場所は南北に広がった平原であり、北側に組織の軍勢、南側に帝国騎士団が存在していた。俺がいる位置としては平原西側の中央付近。西側には起伏のある森が存在しているのだが、その中でも特に高い場所、崖の上から戦場を確認する。
両軍は既に布陣を整え、まずは様子見とばかりに魔物と騎士が戦っている。状況的には拮抗しており、数そのものは魔物の方が多い様子。
だが、騎士達が奮戦し魔物の数を減らしている……距離が遠いため詳細は確認できないが、おそらく戦っている騎士達はミーシャから何かしら力を貰っている、というわけだろう。
「ジャノ、騎士達は……」
『僅かながらミーシャ王女の力が付与されているようだ』
と、俺の予想通りの見解をジャノは示す。
『付与された魔力量はごく僅かだが、魔物を迎撃できている……魔物側も組織が持つ力が付与されているのは間違いないが、どうやら騎士達の方が力の総量としては上のようだ。まあ差としては微々たるものかもしれないが』
「ミーシャはだいぶ頑張ったのか」
『そのようだ……とはいえ、帝国側は前衛にいる騎士達だけに力を付与したわけではないだろう』
そうジャノは告げ、さらに解説を進める。
「組織の内情をある程度把握した上で、組織側の兵士に相当する魔物の能力を推察、倒せるだけの力を騎士達に与えたということだ……魔力を用いるため、一般兵では荷が重い故に、騎士達が戦っている」
戦場で馬を駆る騎士が槍で一体の魔物を貫くのを目にする……本来騎士というのは騎乗し多数の兵士を率いる存在だ。しかしこの決戦場にいる大半の騎士は、徒歩だ。
その理由を、ジャノはさらに語っていく。
『ふむ、騎乗する騎士の馬からも魔力を感じ取れるな』
「馬にもミーシャの力を……?」
『人間以外にも、というわけだがさすがに騎士全員が騎乗するほどの数は用意できなかった……馬に付与しても普通なら魔力を有効利用できないだろう。王女の力はあくまで強化である以上、付与された存在が自発的に利用しなければ効果を発揮しない』
「馬に魔力を制御しろというのは無茶な話だからな……」
『うむ。よって馬が魔力を制御できるような処置を施した……そんな作業を行う以上、数は用意できなかったと推測する』
「そこは当たりだろうな……」
『そしてミーシャ王女の魔力は、これだけでは終わらないはずだ』
ジャノは確信を持って俺へ語っていく。
『帝国としても、調べ上げた組織の情報が完璧と言えないことはわかっているはず。よって、いざという場合に備え力を別に用意している』
「俺達が習得した蓄積の技術みたいなものか」
ミーシャの力は他者に付与することに特化しているため、道具などに温存とかは容易なのかもしれない……俺はここで組織側を観察する。
最前線にいる魔物を生み出している人員が魔物達のやや後方にいた。黒いローブを着込んでフードまで被っている人物が複数人。顔立ちなどは確認できないが、あれは組織で研究をしていた者達だろうか?
「ジャノ、魔物を生み出している存在は……」
『気配を察する限り、魔物化に近しい能力を与えられた人間だろう。おそらく既に人を捨てている存在……この戦いのために駆り出された組織の末端構成員、あるいは研究者といったところか』
「能力はそれほど高くない……か?」
『ラドル公爵ほどの力はないだろう。あれほどの力を付与する時間がなかったのか、それとも戦闘能力などが元から低かったため、付与したら体が崩壊でもしてしまうのか……研究が完成する前に魔物化したため、もう魔力を付与できないのか……どういう理由があるにせよ、前線で戦う騎士達ならば瞬殺できるくらいの能力に違いない』
「戦闘能力はない、と……」
俺はさらに組織側を観察。平原は南から北に駆けて少しずつ上り坂となっており、帝国側の本陣と組織側の本陣とでは組織本陣の方が高い位置にある。帝国騎士は緩やかに傾斜する坂を進む必要があり、敵本人を狙うとなるとかなり大変そうだ。
そして戦場から一番北に位置する組織本陣。そこには天幕がいくつも張られ、そのどれからも禍々しい魔力が遠目から見てもわかるくらい漂っている。
「あれはヤバそうだな……」
『エイテルもあの付近にいると考えてよさそうだな』
ジャノの言葉に俺は首肯し、
「研究によって、魔物化せずともラドル公爵と同等以上の力を得ることができている……天幕から漂う気配はそれだ……あの場に奇襲を仕掛けたら成功するかな?」
『さすがに無謀だろう。戦場の様子を見るに、組織側も性急に動き出すつもりはない……帝国側がどれほど力を持っているのかを推し量っているのだ。よって、少しばかり様子を見るべきだな』
「わかった……周囲に敵がいないか警戒しつつ、まずは観察といこう――」




