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蒼き女神の救世主~世界を滅ぼすラスボスから、世界を救う英雄へ~  作者: 陽山純樹
第二章

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漆黒の提案

『先ほど、皇女の報告書で知っていると語ったが、それはエルクの知識についてもか?』


 ジャノの問いに皇帝陛下は少し沈黙を置いて、頷いた。


「エルク君の前世について、だな?」

『いかにも。漫画という概念についても理解しているか?』

「正直、信じられない内容ではあったが、信用する他なかった……ラドルのことを含め、色々と腑に落ちた部分もあったからな」

『公爵の?』


 ジャノが聞き返すと今度は皇帝陛下が話し始める。


「何やら帝宮に知られないよう行動していた……まさか反乱を起こすためだったとは驚いたが、エルク君の前世に関する情報を知り、こちらで把握していた帝国の内情……それと整合してもいたからな」


 ……帝宮側で反乱が起きるかもしれない、という予兆があったのか。で、俺が思わぬ形で情報を提供した結果、納得したと。


「エルク君のことについては、私達三人了承し、理解している」

『いいだろう。では本題に入ろうか』


 と、ここで漆黒の球体が揺らめき、


『――この中に組織構成員がいる可能性はないのか?』


 お、おいおいおい……! まさかの問い掛けに俺は目を見開いた。だが、構わずジャノは続ける。


『我が保有する皇族に関する情報は、エルクとほぼ同等だ。漫画に皇族の描写はほとんどなく、ここについては実情を把握していない。故に、尋ねておかねばならない。この中に、敵はいないのか?』

「……その質問に答える前に、こちらから問おう。貴殿がそう尋ねる意図は何だ?」

『単純な話だ。我が宿主であるエルクは帝宮の一室に押し込められている。情報が秘匿されているというのは事実かもしれないが、露見した場合……あるいは、この中に組織構成員がいた場合は、エルクの身が危うくなろう。宿主であるエルクのことを考え、警戒するのは当然ではないか?』

「ふむ……エルク君がもし倒れ伏してしまったら、貴殿も消えるのか?」

『そうだな。我自身も無駄死にはしたくない。エルクや皇女はこんな質問をすることもないだろうから、我が質問させてもらった』


 ……だ、大丈夫か? これ? 確かにジャノの言い分も理解できなくはないけど……。


「……あなたの言い方だと」


 ここで口を開いたのはスレイ皇子。


「単純に自分の身に危険が迫っている……だから警戒しているという風にも聞こえるし、あるいは彼のことを守ろうと考えているようにも思えるな」

『意味合いとして両方だ。我はエルクの記憶を基に、彼が読んでいた漫画とは異なる人格を有している。ラドル公爵によって無理矢理引き合わされたとはいえ、共に戦ってきたのだ。道具に備わっていたオマケの自我だが、多少なりとも情くらい湧く』


 ……驚いた。まさかジャノの口から情、なんて言葉が出るとは。

 それが真意なのかどうか、俺にはわからない……が、少なくともそんな言葉を引き合いに出したのだから、この話し合いに並々ならぬ思いを抱いている、というのは事実なのだろう。


 ジャノの言葉を皇帝陛下達はどう受け取ったのか……こちらが沈黙していると、皇帝陛下が口を開いた。


「そちらの意見は理解した。しかし、現状貴殿が完全に信用できる説明をすることは、不可能ではないか?」

『証明のしようがないからな』

「それがわかった上で引き合いに出すということは、何かしら考えがあるようだな」

『いかにも』


 皇帝陛下の言葉にジャノはそう応じる。


『先に言っておくと、現在時点でエルクが滞在している部屋に仕込みは行った。我と同質の力を用いた手法であるため、例えセリスの師匠が来てもわかる』

「つまり、情報が漏れていてもエルク君が脅かされる危険性は減った、と」

『そういうことだ……その上で提案だ。どういう話し合いの結果であれ、調査を主導するのはエルクになるだろう?』


 その問い掛けに全員が一時黙した。ただ、雰囲気的にジャノの発言を肯定しているように感じられる。


『人手が足りないということは明白だろう。秘密裏にやるというのであれば、それも仕方のない話であり、それに加えて敵対組織は強大な力を持っている。率先して動くことになるのはエルクで確定……間違いないな?』

「……どのような話し合いが行われるにしろ、方向性がそうなることは確実だな」


 皇帝陛下は認めた……ここで俺は、


「自分の力が活用されるのであれば、率先して動くことは問題ありません」

「エルク……」


 セリスが名を呼ぶ。そこで俺は彼女に首を向け、


「状況は逼迫している。誰かが無茶をやらないといけないのも事実だろ?」

「そうかもしれないけれど……」

『我はエルクの考えを尊重する気ではいるため、その決断に口を挟む気はない』


 ここで再びジャノが口を開いた。


『だが、我が懸念している可能性を考慮すれば、それがどれほど危険なのかは理解できるだろう?』


 ジャノが問う……事実だけど、皇族をまず疑わないといけない、という点についてはちょっと抵抗が……。


『故に、我は一つ提案する』


 俺が考える間に、ジャノは皇帝陛下へと告げた。


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