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蒼き女神の救世主~世界を滅ぼすラスボスから、世界を救う英雄へ~  作者: 陽山純樹
第二章

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仕込まれたもの

「……エルク」

「ああ、何だ?」


 俺が聞き返すと彼女は視線を重ね、


「ちょっとだけ、今ここで魔法を使うんだけど、いい?」

「魔法?」


 眉をひそめる。とはいえそれは今までの会話と関係している様子だったので、


「ああ、別に構わないけど。何かあるのか?」

「自分に対して魔法を使う。発動している間は、止めないで欲しい」


 どこか鬼気迫るような表情だった。俺はその雰囲気に飲まれそうになりつつ、小さく頷いた。

 俺の返答を確認してから、セリスは一度深呼吸をした。次いで自身の胸に手を当てた。


 さらに詠唱を始める。どこか、決意を秘めたような表情を見せる彼女に俺は何も言えないまま、ただ事の推移を見守るしかない。

 直後、彼女の胸元で光が生まれた。自分自身に魔法を使っている……まぶしい白い光が馬車内を満たし、反射的に目をつむる。


 それと共に、魔力もまた馬車内を駆け巡り……数秒後には光が消え、セリスは何も変わらぬ姿を見せた。


「……どうしましたか?」


 そこで御者台の方から声が。突然魔力を発したため、御者が声を掛けてきた。


「すみません、ちょっと試したいことがあったので」


 セリスが返答。それで御者は納得したのか「わかりました」と応じ、追求することはなかった。

 俺はセリスと目を合わせる。何をやったのか……疑問に思っていると、彼女は申し訳なさそうな顔をした。


「その、ごめんなさい」

「いや、別に構わないけど……いや、それは魔法を使ったことに対する謝罪ではない?」

「そう、だね。実を言うと、ミーシャに力を付与されて以降、気付いたことがあって」

「気付いたこと?」

「うん……私、ね。どうやら師匠から色々と魔法を仕込まれていたみたい」


 ――驚愕の告白だった。それはもしや、


「あ、違うの。魔物化するとかそういうのではないよ。それに、魔法が仕込まれていたのは私が魔法を学び始めた直後くらいの話みたいだし」

「……何を、されたんだ?」


 セリスの師匠は、彼女にとって才覚を引き出してくれた恩人であることは間違いない。けれど、何かしら彼女にしていた。


「記憶とか、私の考えとか……そういうものを、強制的に誘導する、と言えばいいのかな?」

「誘導……?」

「私は、師匠から魔法を学ぶ時、なぜと聞かれたことがあった。何一つ不自由がないのに、どうして魔法を学ぼうと思ったのか……私は、正直に答えた。すると師匠は、私に魔法を使った」

「それは……理由が気に入らなかった、ってことか?」

「というより、私が語る理由で教えても、出世に役立たないかも、って思ったんだと思う」


 それはどういうことだ……? 疑問に思う間に、セリスは語る。


「師匠は私の才覚をすぐに理解し、帝国の繁栄……その一助になるよう指導しようと考えた。そして、私が活躍すればそれだけ師匠の名も上がる……」

「むしろそれが目的だったんだろうな。でもセリスが語った本来の理由だと、そうならない可能性があった、ということか?」

「うん」


 頷くセリス。


「そこで、師匠は私の理由を変えた……というより、思考を誘導する魔法を使った。本来の理由ではなく、帝国の人々の役に立つために……私自身、そういう思いがあったのは事実だけど、一番じゃなかった。でも師匠はその理由が一番になるよう、思考を誘導した」

「……才覚を持つセリスなら、理由を誘導するだけで活躍できると考えたのか」

「そういうことだと思う」

「どうした今、それに気付いた……いや、これは尋ねる必要もないか。ジャノと同質の力……それをミーシャに付与されたため、か」


 俺の指摘にセリスは再度頷いた。


「他者の力が入ったことで、自分の力と師匠の魔法の区別がつくようになった……私がまだ魔法を学び始まる前の段階で仕込んだ魔法であったため、私は気付くことができなかった。でも、ミーシャのおかげでわかった」

「それで、さっきの魔法はその力を打ち消したのか?」

「魔法の効果はまだ続いているけど、私が魔法で干渉して効果をなくしている……師匠が仕込んだ魔法である以上、この魔法のことを観測している可能性があるから」


 迂闊に解除するのも危険、というわけか……。


「そして最初の時点で理由を歪められたことで……最悪の事態を招くきっかけを作ってしまった」

「最悪の事態……今回の騒動か?」

「少し違うかな。エルクの前世……漫画、と呼ばれるものの中にあった出来事」


 ――俺が力を得ようと動き、邪神エルクが生まれてしまったこと、か。


「もし師匠の魔法に気付けていたのなら、騒動は起きなかったとは言わないけれど、エルクを巻き込むことはなかったかも、しれない」

「俺が……?」


 聞き返した時、セリスは俺のことを見据えた。いよいよ、彼女の口から語られる――そして今度はセリスの方が、意を決するように語り始めた。


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