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蒼き女神の救世主~世界を滅ぼすラスボスから、世界を救う英雄へ~  作者: 陽山純樹
第一章

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魔物の核

『結論から言えば、可能ではある……が、相手の魔力量に合わせてエルクも剣に注ぐ魔力を変える必要がある』


 会話と共に公爵が仕掛けてくる。再び拳を放ち、俺はそれを剣を盾にして防いだ。


 ――先ほどとの違いは、公爵が拳にまとわせた魔力量を見計らい、同じくらいの量で受けたこと。今度はどうか。

 激突した瞬間、相手の魔力と自分の魔力が弾け、消えた。黒い炎からは魔力が溢れているが、それが俺の剣を押しのけるような力は持っていない。


 先ほどのような突風も生じなかった。魔力を調整すれば、敵の攻撃を相殺し被害を抑えることができる――


『上手くいったな。しかし、全てを相殺するには相手の攻撃を瞬間的に見極め、対応するだけの集中力と瞬発力が必要だ』


 ジャノが言う。同時に再び公爵が後退する。俺の方は仕掛けなかった……倒すのが目標であることに変わりはないが、無理に攻めて暴走されるのもまずい。

 可能であれば相手の攻撃を相殺しつつ、カウンターで魔力を削っていくのが望ましいか……そう考える間も黒い炎が公爵から噴出。体の中に存在する魔力を燃焼し、力に変えているように思える。


「……あの炎みたいな力を生むために魔力を消費しているみたいだな。その生成プロセスを破壊できれば、再生能力をどうにかできないかな?」

『例えばの話、核となる何かがあるのは間違いないだろう』


 公爵を見据える中、ジャノが解説を加える。


『人で言う心臓のような部分……魔物は魔力を血液のように体内で循環させて生命を維持する。公爵は仕込まれて魔物化してしまったが、黒い炎が湧き上がった時点で体は作り替えられたはずであり、魔力が体内を循環しているはずだ』

「ということは、その循環を行っている核を破壊すれば……」

『だが、それは極めて困難だろう。核を破壊するには公爵の体内に刃を通す必要がある。先ほど、エルクが皇女の強化を受けて放った剣で消滅寸前に至ったわけだが、あの一撃を持ってしても再生したということは、核に剣は届いていなかったということだ』

「俺一人の力では難しい……と」


 公爵が迫る。俺はその動きを見極めながら剣でいなし、長期戦へと持ち込んでいく。


「なら、ミーシャ達が来るのを待つしかないが……」

『このまま相殺を続ければ時間稼ぎはできる。懸念は公爵の動きが変われば状況が変わってしまうことだが――』


 さらに公爵は拳を振りかざす。それをどうにか弾きながら、俺は周囲に被害がないことを確認しながら剣を強く握りしめる。

 かなり神経を使う作業であることは間違いなかった。これまでの戦いとは異なり、加減というよりは力を制御し、公爵に合わせる必要がある。


 公爵の方は俺を執拗に攻撃し、黒い炎が何度も何度もその体を強化する……切り結ぶごとに少しずつ魔力が減っていることは理解できるが、枯渇するには果てしなく遠い。

 だが、少しずつでも魔力を減らしていけば、それだけで勝機は広がるはず……まだ体力に余裕はある。このまま戦い続ければ有利に傾くはずだが――


 公爵がさらに動く。業を煮やしたか、さらに魔力を高め俺へと仕掛ける。だが、こちらとしては問題なかった。公爵が発する力の大きさに、対応できている。

 そこから俺の適応力が発揮され、公爵の動きなども理解できるように……その中で、俺は核となる部分がどこにあるのか、おぼろげだがつかんだ。


 それは心臓と同位置……とはいえ、そこは強固に守られているようであり、刺突で貫けるかと言われれば、わからない。


「ジャノ、核が心臓部分にあるみたいだが……俺の剣で貫けると思うか?」

『確実なことは言えないな。失敗すれば危機的状況に晒される……確実性を求めるのであれば、勝負を決めにいくとしても皇女がミーシャ王女を呼んで援護がある状態が望ましい』

「……だよな」


 会話をしながら剣で拳を弾く――刻々と時間が経過しているが、セリスがミーシャを呼んでくるまではまだ遠いか。

 屋敷にいる者達は、なおも戦い続いている状況であるためか顔を出すようなことはない……なぜ俺が戦っているのか、という疑問もあるだろう。だが彼らは指示に従ってくれている。


 幾度となく剣と拳がぶつかり、魔力が相殺する。公爵も少しずつだがやり方を変えている。俺を倒すために黒い炎を噴出し、その魔力の練り上げ方に変化がある。

 だが、それに対し俺は全て応じて公爵の魔力を相殺し続けた……そんなやりとりが恐ろしいほど続いた。体の内側に疲労が生まれつつも、俺は魔力で体を強化し集中力が途切れないよう努める。


 そして――決着をつけるための声が、俺へ向け届いた。


「エルク!」


 セリスの声だった。一瞬だけ首を向けると、ミーシャを引き連れ彼女が戻ってきた。


「……ジャノ、核を狙って仕留める」

『わかった。公爵を完全に停止させるには、それしかなさそうだ』


 直後、公爵も人間が増えたため黒い炎が全身から噴出。決着をつける――俺は決意と共に、剣を構え直した。


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