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蒼き女神の救世主~世界を滅ぼすラスボスから、世界を救う英雄へ~  作者: 陽山純樹
第二章

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別れと未来

『エルクには話をしていなかったが、我の力は日々失われていた……といってもそれは、平常時であるならごく少量で到底我自身が滅ぶ要因にはなり得なかったが、戦闘を重ねることで……エルクが力を使うことで、滅びに近づいていった』


 そう説明するジャノに、俺は無言となる。


『エルクは力を得たが、我は少しずつ、力を奪われていた……という風に解釈することもできる。しかし、後悔はなかったしいずれ来るであろう滅びも受け入れていた』

「死にたくない、という話をしていたんじゃないか?」


 俺の問い掛けにジャノは『そうだな』と同意しつつ、


『そういう感情もあったが、受け入れていた……エルクには理解できないかもしれないが、な』


 俺は何も言えなかった。人間ですらないジャノの感情を俺が推し量ることはできない。

 相反する感情であっても、受け入れる……道具に付随する人格はそういうものなのかもしれないとさえ、考えてしまう。


『まあともあれ、我が言いたいのはエルクの責任で我が滅ぶという話ではない、ということだ。最後の最後、組織が所持していた漆黒の球体を破壊するために我は力を注いだが、それは我の意思によるものだ。気にする必要はないし、あの場で生きながらえても、いずれこういう結末になっていた、という話だ』

「……ジャノ」


 名を呼ぶ。その間にも、少しずつ漆黒の気配は消えていくのを理解する。

 俺と会話をするための力すら、保てなくなっている……時間がないのは痛いほど理解できた。だから、


「……ありがとう、ジャノ」

『礼はいらない。我は力の扱い方を教えただけだ。それをどう利用するかは全てエルクの決断だ』


 そう言いつつ、ジャノは俺に一つ提言をした。


『それはつまり、エルクがこれから邪神エルクとなる可能性もある、ということでもある……どうやら先の戦いで大きく力を失ってしまったようだが、それでもまだ、世界を滅ぼせるだけの力はあるはずだ』

「……邪神、か」

『今のエルクがそうなる要素はないかもしれない。だが、これから先……考えが変わるような何かがあれば、自らの意思でそうした決断をするかもしれん』

「……そうだな、ジャノの言う通りだ」


 今はそんなことあり得ない、と即答できるレベルだ。けれど、人生というのは何が起こるかわからない……ジャノの言う通り、邪神エルクになる可能性もゼロではない。


「なら、そうならないように……頑張るよ」

『そうか。これで伝えたいことは話した。思い残すことはない』


 ジャノの気配が消えていく……俺はそれに対しもう一度礼を言おうとした。だが、


『じゃあな、エルク』


 先んじてジャノが言う。俺は一瞬口をつぐんだ後、


「……ああ、さようなら、ジャノ」


 その瞬間、気配が完全に消滅。次の瞬間、白い世界が崩壊を始め、俺の意識は浮上した。






 目を開けた時、周りは暗かった。どうやらまだ深夜の時間帯であり、月明かりが窓から降り注いでどうにか部屋の輪郭が見える程度の視界だった。


「……ジャノ」


 俺は呟いた。呼び掛けたわけではなく……本当に滅びたのだと認識し、呆然となった。

 共に組織と戦ったわけだが、相棒というよりは師匠と弟子、という形が近かっただろう。俺は力の制御を始め、様々なことをジャノから教えてもらった。最後の戦いでも、ジャノという意思がなければ増幅と蓄積という二つの技術を使いこなすことはできなかった。


 世界を滅ぼす力がもう世間に出てこないとなれば、ジャノの強力によって成しえた技術は必要ないと思う……が、どうなるかは、わからない。


「……強くならないと、いけないのかもしれないな」


 多くを失ってしまったが、それでも俺の体の中にはジャノから得た力が残っている。いずれ帝国は今回の事件を教訓に、世界を滅ぼす力に対し策を講じるだろう。それまでは、俺が守り手の一人となる……そう心の中で決意する。

 いずれ、ルディン領にセリスがやってくるだろう。俺の考えを伝え、ミーシャとも連携し……役目を終えた時、俺にとって戦いが終わるということになりそうだ。


 その一方で、ジャノの言う通り前世の漫画のように邪神となる可能性だってある。それに対してだって対策を立てる必要があるだろう……これもまたセリスと相談だな、と思いつつ俺は目をつむる。

 剣を振ることだって、やめるつもりはなかった。悲劇を止める守り手として、あり続ける……そう思いながら、再び眠りに就いた。






 ――そして、ルディン領にセリスがやってくる。


 ジャノが消えたことは事前に連絡していた。俺は力を得る前のようにセリスを出迎え、馬車で屋敷へ向かっていく。


「……まだ、ルディン領で暮らすことは難しいかも」


 そうセリスは言う……世界を滅ぼす力について、帝国としては対策を立てなければならない。その戦力としてセリスが必要らしい。


「それに、エルクも帝都に足を運ばないといけなさそう」

「予想はついていたから問題ないよ」

「そっか……まだまだ忙しいかもしれないけれど」


 セリスは笑う。いずれ訪れる未来――このルディン領を故郷にする未来を想像し、


「一緒に、解決していこう」

「ああ」


 見ていてくれ、ジャノ……そんな風に心の中で呟きながら、セリスと笑い合った――


完結となります。お読みいただきありがとうございました。

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