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蒼き女神の救世主~世界を滅ぼすラスボスから、世界を救う英雄へ~  作者: 陽山純樹
第二章

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組織の長

 組織かの本陣から気配が生まれたその瞬間、今度は轟音が戦場に轟いた。

 何事か、と注視すると組織側本陣が突如爆発音が――騎士達もまたそちらへ視線を注いだ直後、さらに轟音が聞こえた。


 加えて、組織側本陣から煙が……魔法か何かを使用した、ということみたいだが、これは一体――


『仲間割れでもしているのか?』


 そんな疑問がジャノからもたらされた……確かに、同士討ちをしているのなら、先ほどの音は理解できるが――


「現状、戦局が非常に悪いため、誰かに罪をなすりつけているとか?」

『あり得ない話ではないが……別の可能性が高そうだな』

「別の?」


 聞き返すとジャノは少し間を置いて、


『例えば……組織の人間を始末し、その力を取り込む、などだ』


 ……なるほど、そういう可能性もあるのか。


「仲間割れは確かだが、ジャノの言う通りなら厄介だな」

『例えばエイテルが独断で他者を取り込み始めた、というケース……この場合、敵の数は減るが一個人に力を集中すれば、いかに帝国の力と言えど、辛いかもしれん』

「……そこで俺の出番になる、か?」

『うむ』


 ……覚悟はしておかなければならないだろうな。


 そんな風に胸中で考える間に、さらに爆音が戦場に響く。ここで騎士達はどうすべきか議論を始めた。セリスの周囲に騎士達が近寄り、どう動くか指示を待つ構えだ。

 現在、魔物を含め敵側はまったく動いていない……魔人は組織本陣の命令で動いていたと考えると、爆発が原因で指揮系統が麻痺している。攻め込むのであれば絶好の機会のはずだが――


 やがてセリスが決議する。このまま予定通り歩を進める……性急に動きはしない、罠を警戒しながら敵本陣へ向かうと。


「敵の本陣が仲間割れや暴走を始めたにしても、私達が近づくことで迎撃はしてくるはず。指揮系統が整っていない状況下での戦闘はこちらに有利です。足場を固めつつ、進みます」


 騎士達はセリスの言葉を承諾し、慎重に進んでいく。魔物や構成員に動きはなく、どういう事情であれ命令系統は完全に機能を停止している。

 ここでさらに爆発音。さらに言えば、何か言い争っているような声に加えて、爆発ほどではないにしろ、何か音が鳴っている……やはり、本陣内で戦闘が起きている。


「ジャノの見解が正解かもしれないな……」

『全容は目で確認すべきではあるが……とはいえ、組織の軍勢がもはや軍の体を成さなくなったのは明白だろう。立て直すのは極めて困難だとは思うのだが……』

「魔人がやられたのをきっかけに、一部の人間が暴挙に出た、とかなのか?」


 さらに爆発音。まさか組織側は仲間割れを始めるとは思わなかったが……よくよく考えれば、組織の人間は組織自体に忠誠心などあるはずもなく、利害関係のみで繋がっているのだろう。組織の構成員はこの戦場に集結し、望むままに力を得ているわけだが、互いに背中を守ろう、などと考えているはずもなければ、むしろ自分が組織の中で上り詰めるためにこいつは邪魔だな、とか考えていてもおかしくない。


 帝国との戦いが優勢であれば、内輪もめなんてものは起きなかっただろうが……騎士達が少しずつ進んでいく中で、さらに爆発音。ここで俺はあることに気付く。

 明らかに戦闘をしている音に加え、魔力も生じ組織本陣が混沌としているのだが、俺が戦場に到達した時点で感じていた禍々しい気配は消えていない。むしろ、その気配は少しずつ濃くなっているとさえ思えてくる。


「……ジャノ、組織の本陣から感じられる凶悪な気配。そこについては変化がないな?」

『多少の揺らぎはあるが、気配そのものに大きな変化はなさそうだな』

「これはエイテルなのか? それとも――」

『もしかすると、組織の長かもしれん』


 組織の――胸中で呟いていると、ジャノから説明が入る。


『といっても、組織の長が他の幹部を束ねるような存在だとすれば、現状のような事態には陥っていないだろう。感じられる気配からしても、そうした人物がいれば相当な力を所持している。どれだけ戦局が傾こうとも、この力でひっくり返せる……そんな風に話せば仲間割れという事態は避けられたはずだ』

「組織の長は象徴的な存在とか? 無茶苦茶な事態になっても禍々しい魔力だけはほとんど変化がない。組織内としては他の構成員から信奉されている……いや、だとしたら仲間割れをすることはないか」

『うむ、ならばもう一つの可能性……組織の長は人間ではない』

「人間では……ない?」


 聞き返すとジャノは『そうだ』と返事をした。


『凶悪な力を持つのは間違いないが、言わば力を宿した器……魔物なのか、それとも動物なのかは不明だが、強大な力を持つ何かを組織の長と定め、幹部達が連携をとっていた』

「仮にそういった存在がいるのだとすれば、それを滅ぼせば俺達の勝ちか?」

『どうだろうな……とはいえ、禍々しい気配の根源は進めばわかることだ。まずは組織本陣が何をしているのか。それをつかむところから始めねばならないな――』


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