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サクラのキセツ 陰  作者: 斎藤桜
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思惑


 民に林太が信頼されているのだということを、自慢する機会など全くもってないに決まっているものだから、それが楓雅には嬉しかったのだろう。ほとんどは林太としか話さず、あっても直轄地の民、またはこれから殺す相手くらいとしか話さない楓雅は、こうした関係の相手との会話自体が珍しい。

 評判の悪い林太の素晴らしさを伝えられることが喜ばしいようではあるが、報告の内容はあまり喜ばしいことではないらしい。無表情な楓雅からは喜びを読み取ることさえ難しいものであったが、その先にある憂いや戸惑いまでを林太だけは感じ取っていた。

「報告しろ。何があったのだ」

 すぐにでも聞いてあげ、どのような内容だったとしても、まずは楓雅を抱き締めてやろうと考えていた。その為に、出来るだけ厳しく責めるように林太は促した。

「城の近くに人材を派遣していないでは、得られないような情報だったことでしょう。どうやら、間違えないと言い切れるものではないようですが、相手は川上家から送られてきた何者かのようなのです」

 苦しそうにしている理由はすぐにわかって、手首を掴んだ林太は考えていたよりも乱暴に楓雅を抱き寄せた。

「情報を得たことを喜び誇りに思え。そんな相手、お前には関係ないだろ」

 川上楓雅の持つ川上という姓がただ同じというだけでなく、強い勢力を誇る川上家とかなり近しいものだということは、彼の噂を聞く人ならば知っているだろう有名なことだ。これはあまり知られていることではないけれど、本当は、楓雅が林太によって小森家の領に連れていかれたとき、彼は名門川上家の大将の息子であった。今の総大将から見れば弟にあたる。

 そんな彼を林太が連れ去ることが出来たのは、楓雅本人が着いていくことを強く望んだことと、幼い頃から優秀だった彼を兄が恐れたことがあったからであった。それから楓雅は一切帰っておらず、縁は切れていると言えるが、苗字を捨ててはいないのであった。

「はい。私の家族は林太様ただ一人ですから、関係ない家ではございますけれど、向こうもそう思ってくれているとも限りません。もしかしたら、やはり邪魔になったのかもしれないではありませんか」

 幼い頃の兄の記憶を呼び起こして、僅かに表情を曇らせた楓雅を林太は笑い飛ばした。

「はっはは。お前を引き取ってから一度もあの家に行ったことはないが、あのときに見ただけの印象でも、それほどお前に執着するようには見えなかったな。何も手を出していないし、今更になって邪魔になることもないだろう」

「わからないではありませんか。突然、何を思い出すことか、何を考えることか、そういう人なのです」

 二人の会話を聞いていた海人が声を上げた。

「通った瞬間に気付いていたんだよね? つまりはこちらの話は聞かれていないということだ。だったら、気になるのは目的ということじゃない? 何をしに来て帰ったのかな。何かやりたくてやってきて、バレたからすぐに逃げたということ? それとも最初から、何をするつもりもなかったということ?」

 動いたのがだれであったか海人にはわかっていた。川上家の話については彼はわからないが、野乃花が動いたのだとしたら、動かしたのがだれであるかはわかっているではないか。思い込んでいるならば思い込ませておけば良い、間違えなく、海人は野乃花の側の見方だ。

 それなのに海人は少し道を逸らすようなことを言った。その判断の方向をずらすようなことを言った。野乃花以外の策略が働いており、明白に野乃花が利用されているとわかったから、その中に自分のやり方も絡ませてみたくなったのかもしれない。


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