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心優しき狼よ、曠野を行け  作者: 柿ノ木コジロー
第一章 ― 1 ― 
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03 スクールバスを待つ。

 スクールバスの停留所のひとつに指定されている地域交流センターの駐車場は、今日はかなり空いていた。


 カケルは目立たないような奥の方に車を進め、センター内に入ってくるバスが見えるように車を前に向けて停めた。


 少しだけ背もたれを寝かし、はあ、と両腕を頭の後ろに組んでもたれかかった。


 バスが来るまでにまだ15分ほど時間がある。


 ここで乗り降りしている小中学生の子どもは全部で8人、親の顔もだいたい分るが、まだ誰もいる様子はない。毎日のことなので皆けっこう時間ギリギリだ。


 以前は、カケルも5分前には他の親たちと同じようにちゃんとバスの停まる玄関前に立って待ったのだが、そうすると何かと話しかけられて、何と答えていいか分からなくなってきて、非常に気まずい感じになる。


 あら、たっくんのオジサンなの? わか~い、おいくつなんですか? え、30過ぎ? 見えない~。お仕事はぁ? 一緒に住んでるんですか?


 警察の尋問じゃあないんだから、いい加減にしてくれよ、といつもカケルは叫びたくなる。それでも持ち前の性格から、常に温和な笑みを浮かべてはい、はいと適当な相槌をうってしまうのはどうしようもない。そんなことも度重なって、自分が送迎をする時にはギリギリまで車の中で粘るというのが習慣になってしまった。


 スクールバスは、琢己(たくみ)が通う特別支援学校専用送迎車のうちの一台だった。


 利用している子どもは知的、または身体的に障害をもつ小中学生。琢己もここの小学部に入学してからスクールバスの利用が続いているので今年で7年目になる。もちろん自力で通えるわけではないので、学校のある日は毎朝保護者がスクールバス停まで送り、午後3時頃にはまた同じ場所まで迎えに行く。


 失業して実家に戻って居候の身となってからは、カケルもこの送迎にちょくちょく使われるようになっていた。


 その前にひとり暮らししていた頃からも、たまに実家に帰ると姉からお使いを頼まれたり、子どもらの送迎をさせられたりだったので特に苦にもならない仕事ではあったが、この一番気を遣う琢己の送迎がほぼ、日課のようになってからは、かれこれ1年近くになっていた。


 琢己は重度の自閉症で、現在中学部の1年生だった。付き添いなしではとうてい表は歩けない。自宅にいても、何をするか分らないのでいつも誰かがさりげなく見張っている必要があった。


 このバスを利用している子どもはみな、多かれ少なかれ同じような状態だった。


 いや、とカケルは目をつぶったまま子どもらの顔を順繰りに思い浮かべる。


 中でも琢己は、障害が重い方かもしれない。


 今日もお昼ご飯いっしょか、カップ麺でもいいよな、あっ、熱いとひっくり返すと危ないか、でも言えば分かるよな、いや、どうだろう。


「言って解ればタクミじゃない」なんてメグも言うからな、ひどい親だ。


 コンビニでおむすびでも買って行こうか、いやいや、アイツを連れてコンビニなんて入れないだろうな。車の中にひとりきりで待たせて置くなんてことも無理だ、じゃあドライブスルーだな。


 ああ、先に何か買っておけばよかった。


 昼ごはんのことをとりとめもなく考えているうちに、先日殺した人間のことがふと、頭に浮かんだ。



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