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02

 壊滅的な一連の出来事の発端というものは、始まりが判然としない。ほんのささいなことが積み重なり、やがてわずかにでも全体像が目に留まるようになった時でさえも、人々は見えてきたものに対し様々な防衛機制が働くのだろうか、敢えて正視しようとする者はまれだった。


 まだ、国内にSNSの類が空気のように存在し、自由に言いたいことを言い合っていた時ですら、その関連性についてはあまり大っぴらに取り沙汰されることはなかった。真面目に考えようとする者たちの意見は、受け手によって恐怖のみが拡大され、ある時は茶化されたり煽られたりという複製の劣化により、逆に都市伝説のごとき扱いに貶められてしまった。

 作為的な歪曲があったのでは、と本能的に感じる者はいたかもしれない。事態がのっぴきならないところまで深みにはまってからは、全体像を正く認識できる人間もいたにはいただろう……もし、彼らにそれだけの心の余裕があったのならば。



 意思無き襲撃、そのような名前で呼ばれるようになる災厄がニュースで大きく取り上げられたのはまず中国からだった。


 ある初夏の夜、四川省のどこか小さな村が、六十四人の村人とともに忽然と消えてしまった。朝、近隣の人びとがみたのは、村のあった場所に拡がる黒く煮融けたような地面のみ、なだらかな山の斜面に沿って、あり得ない程の黒い色をしたじゅうたんが地を覆っていた。

 もちろん草も木も一本たりとも残されていない。建物のあったようすもない。村で一軒だけあったはずの二階建てのコンクリート製の建造物でさえ、完全に消えていた。

 村があったという証拠は、どこにも残っていなかった。


 中国政府は、原因については調査中、という短いコメントを発表したのみだった。



 日本でまず目をひいたことがら、それは中国の事件に先立つこと二か月前、高速道路のトンネル事故だった。


 新東名高速道路上り線、磯川ジャンクション東側の五頭山ごとうやまトンネル出口付近で、急に停止したワンボックスカーに後続の車が次々と衝突。タンクローリーが追突した直後に爆発が起こり、死者四名、重軽傷者八名を出す惨事となった。

 事故自体が大きく、火災も発生したため二日間は完全な通行止めが続き、その間にもその後にも徹底した事故調査が行われた。


 急に停止した車では、運転手の男性と助手席に乗っていた女性の双方とも死亡、後ろの席にいた子ども二人は幸いにも軽傷だった。小学校にあがったばかりの上の子が、病院で警察にこう答えていた。


 どうろに穴がある、とパパが言ったの、黒くて大きな穴。みたよ、ぼくも。どうろからかべのほうにまだ穴がつながってた、水たまりだったかもしれない、光っていたから。赤い光もみえた。パパはどなって、ふせろバカ、座席の下に、って。でもシートベルトがはずれなかったんだ。それからちょっと思い出せないけど、だれかがシートベルトを切ってくれて、外にひっぱってくれた時には、穴はもう見えなかった。気のせいだったのかな?


 穴を避けようと、運転者はハンドルを切りながらブレーキを思い切り踏んだらしい。運の悪い事にたまたま道は少し混んでいた。後続の車はそれをよけきれず、次々とぶつかっていった。しかし

「道路に穴? 気がつきませんでした」すぐ後ろからぶつかったビジネスマンは、ムチうちのカラーも痛々しい姿ではあったが、はっきりとそう証言した。

「路面は綺麗でしたよ、私が見ていた限りでは。前のセレナがいきなりまん中の車線から大きく左車線にカーブしながら突っ込んで来たんです、急ブレーキで」


 その時は、ただの事故だと思われていた。


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