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覚悟の瞳

 沖野 恵として、斉藤 学に近づき、最後は一人で死んでいった黒目 恵、全ての真相は、彼女しか知らない。


 ───黒目 恵───


 幼い頃から、両親の虐待に耐えてきた少女は、誰もが暴力と理不尽な環境により、精神が歪むのだと、幼いながらに理解していた。


 父親の大きな手がもの凄いスピードで少女の頬に当たり、吹き飛ばされようと、それは環境による物だと自身に言い聞かせて生きていくのだと。


 母親は、少女が助けを求めるように、視線を一瞬でも向けると姿を消すような弱い女性であり、父親を心から恐れていたからに他ならない。


 暴力だけが支配する世界で何度も死にかけては、治され、再度壊される。次第に麻痺する少女の感情、しかし、希望と言う、輝きは少女を見捨てていなかった。


 斉藤との出会いは、少女の心に小さな小窓を作り、微かな光で心の闇を照したのだ。


 偶然の出会いは、少女に生きる喜びを与え、未来を見たいとすら感じさせる。小さな笑みが生まれた。


 しかし、病室に斉藤が訪れる光景を見ていた母親は、少女に気づかれぬように、父親にその事実を告げる。


 父親は激怒し、少女を別の病院へと移動させた。


 少女は希望の存在を忘れられず、今まで我慢していた理不尽な暴力に対して怒りを覚えるようになっていく。


 そして、父親の乗る車に細工をする事となる。


 普段は運転手がおり、車の扉に鍵を掛ける癖のない父親。


 少女は車の扉に手を伸ばす。


 “もしも、鍵が閉められていたら”


 “もしも、父親がいきなり現れたら”


 刻み込まれた恐怖が少女の動きを封じ、それでも、踏み出した足には、まるで釘の上を歩かされているような激痛が襲い掛かる。


 全てが幻覚であり、実在しないと理解していても、(あらが)えぬ程に刻まれた痛みは、心の中から全身に激痛を与えていく。


 そして、父親のガレージまで、少女は辿り着く、無数に並ぶ、車を目にした途端、全身を激痛が襲う。


 恐怖が暴走する。


 震える少女は、その場にしゃがみ、血が出るほど、親指を噛み締める。


 そんな少女の背後から一人の男性がゆっくりと近づき、小さな声で少女に語りかける。


「恵お嬢様、何を迷っておいでですか?」


「ひっ」と、裏返ったような声をあげる少女。


 振り向いた先には、運転手を勤めている男性が立っていた。


 男性の名は、中島、少女の父親に雇われている古株の一人であり、運転手でありながら、他の使用人に対して発言力を持つ人物の一人であった。


「な、中島……さん、あ、あの……」


 全てが終わったと、理解する少女、しかし、中島は優しく笑みを浮かべる。


「何をするおつもりですか?」


 少女は何も言えなかった。父親を殺そうと考えているなど、言える訳がなかった。


「私は、ずっと、お嬢様を見てきました。そして、お嬢様が自ら旦那様のガレージに足を運ぶ姿は初めて目にしております……」


 中島の言葉に服を掴みつつ、拳を握る少女。


「中島さん、私はお父さんが好きじゃないの……でも、我慢してきたの……でもね、でもね……もう、駄目なの……」


 恐怖で震えていた少女は、涙を流しながら、決意の瞳を露にする。


「決意の瞳、いや、変わろうとする瞳……と言うべきでしょうか、覚悟が本気でしたら、私は止めません」


「え、今なんて……」


 中島の言葉に耳を疑う少女。


「私は、お嬢様の笑顔を長く見れておりません。旦那様は……人として、大切な物を失いすぎてしまったように見えます」


 そう言うと中島は、一台の車を指差し、その場を後にした。


 中島も、その時は考えもしなかっただろう、この行動が少女の未来を大きく歪める事になる。


 次の日、車を確かめる中島、車体に傷などは無く、少女は車への悪戯をやめたのだと安堵する。


 その日の晩、少女の父親と母親は事故により、帰らぬ人となる。


 中島は、少女に対して質問をする。


「お、お嬢様……旦那様と奥様が、お亡くなりになりました……いったい、何をなさったのですか……」


 少女は楽しそうに笑みを浮かべる。


「ボール、ブレーキを使えなくしたの、本当に死んじゃうなんて思わなかったけど、ふふ、中島さんのお陰だよ。私は、覚悟出来たの、ありがとう中島さん」


 自身の言葉がこの結果を招いた事実をしり、中島は肩を落とす。


 しかし、少女は中島に、指示を口にする。


「中島さん、今から私の使用人になって欲しいの、お願い」


「私に選択権はありません、娘も二人いますし、今更、再就職も見込めません。恵様、中島とお呼びください」


 この瞬間、中島は生涯を黒目 恵に捧げる事となる。


 黒目 恵は、中島以外の使用人を全て解雇する。


 そして、財産を相続すると、中島に命じて、屋敷を売り払い、父親の有していた不動産の殆んどを売り払った。


 中島に一生苦労しない額を支払い、残した不動産の一部を拠点として、新たな生活をスタートする。


 管理人として、中島を自身の手元に置き、娘、二人の学費を全て負担する。


 娘達は黒目を慕い、黒目も姉妹を唯一の友とした。


 姉妹は、後に情報屋と解体屋と呼ばれる事になる。


 姉は、コンピューターに集中する日々を送り、情報処理を楽しく感じるようになり、ハッキングを得意としたサイバー攻撃をゲームのように楽しむようになっていく。


 妹は、消防士を目指していたが、爆破による解体を知り、爆発物を使う解体を独学で学ぶことになる。


 黒目 恵は、名前を変え、心理学を学ぶ事となり、姉妹と共に人間を対象とした、リアルゲームを開始する。

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