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片耳とクイズ

 黒目は残した食事をトレーに移すと、紙皿だけを何もない部屋の片隅に並べていくと言う、行動を取っていた。


 紙皿を何度、回収しても同様の行動をする黒目に医師は質問を口にした。


「黒目 恵さん、なぜ? 紙皿を集めるのかな? よかったら教えてくれないかい」


 その質問に対して、黒目は悩む事なく口を開く。


「何も無いなんて、つまらないから、私の見たい景色を見る為に集めてるんです」


 医師は黒目と話し合った後、黒目に使用する紙皿を更に薄い物にし、危険性を極力無くす事にする。

 普通ならば有り得ないが、黒目 恵に自殺衝動は無く、紙皿にしても、ただ、重ねて眺めているだけであり、危険性は無いだろうと言う結論に至ったのだ。


 衛生面の配慮を目的に、黒目の食後に、新品の紙皿と食事に使った紙皿を交換する事が決まり、黒目は紙皿を部屋に並べ笑みを浮かべていた。


 食事に関しては、ゆっくりと摂取量が増え、黒目 恵は問題を起こす事なく、病院内での生活に馴染んでいた。


 そんな、ある日の夜中、突如として、黒目が自室で嘔吐し痙攣を起こしたように全身を震わせる。


 見回りを行っていた二人の看護士が異変に気づき、慌てて室内に入る。


 黒目の脈を確めようとした看護士の指に突如、焼けるような痛みが襲う。

 看護士の人指し指と中指に、噛みつく黒目、そして、叫び声が室内に響く、看護士の指が二本、黒目の口中にちぎられ、床に吐き出される。


「ギャアァァーー指がッ!」


 片手を押さえ、両膝を付き、悶絶する看護士、もう一人の看護士が、慌てて室外に移動しようとする。


 しかし、黒目は動揺し走り出した看護士に対して勢いよく飛び掛かると、後ろから耳を掴み、後ろ向きに思い切り引っ張る。


 “ブヂッ”と、艶かしい音が看護士の耳の内部に響き渡ると同時に激しい痛みが看護士を襲う。


 大の男二人を前に、黒目 恵は、堂々と立ち、指を食いちぎられた看護士の持っていた警棒を奪うと、顔面と股間部分を何度も叩きつける。


 指の無い看護士に対して、顔面が、ぐにゃぐにゃになるまで殴り続け、更に股からは、男性器が潰れ、大量の出血で白い制服のズボンを真っ赤に染めた。


 耳をちぎられた看護士は、言葉を失い、恐怖で身を震わせた。


 普段ならば、非常用の無線を装備する規則であったが、二人の看護士は無線を装備する事を普段から怠っていた。


 夜勤は四人一組であり、本来は異常があれば、待機している残りの二人に無線で連絡がいく筈だった。


 黒目 恵は待っていたのだ……二人の看護士の夜勤を、そして、それに間に合うように計画を実行に移したのであった。


 計画はシンプルな物であった。しかし、それを可能にしたのは、室内に置かれた大量の紙皿であった。


 黒目は、大量の紙皿を数枚重ねて、室内の窓側の壁に並べていた。


 計画を実行する二日前から、少量の食事を紙皿と紙皿の間に入れ、看護士達の目から隠していた。


 そして、看護士達が通り掛かるのを見計らい、腐り始めた食材を口に運び、一気に吐き出したのだ。


 当然、晩御飯の食事も一緒に吐き出される。


 大量の嘔吐があれば、気道を確保して、窒息を防がねばならない。


 無線の無い二人は、警戒しながらも、慌てて側まで近づくだろう、無線を持っていれば、直ぐに連絡するだろう、どちらにしても、看護士の動きを見てから行動に移れる事でリスクを最小限にした計画であった。


 そして、看護士達は黒目の考えた通りの行動を取っていた。


 既に息をしてるかすら、危うい同僚を前に頭が破裂してしまいそうな程、混乱した片耳のちぎれた看護士。


 黒目はまるで、クイズを口にするように、笑いながら囁いた。


「はい、一回しか言いません、この服を着た、ぐにゃぐにゃは……人間ですか? それとも、人間じゃないですか?」


 座り込んだ状態の片耳の看護士は驚いた表情を浮かべ、黒目を一瞬、見上げた。


「へ……」と、口を開いた看護士に対して、更に笑みを浮かべ、語り続ける黒目。


「正解なら、いかします……ハズレなら潰します……確りと選んでください……ふふ……」


 管理する側と、される側だった立場は、質問をする側とされる側になり、狭い病室は、小さくも絶望に満ち溢れた地獄へと変わっていた。

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