運命を変える出会い
二人の背後から、引かれた引き金、“タンッ!”と言う音と共にコンクリートの壁から粉塵が舞い散る。
斉藤の頬をスレスレで通り抜けていった一発の弾丸に額から汗が流れ出す。
更に数回、“カチャ、カチャ”と鈍い音が駐車場内を駆け巡る。
「弾切れね……まだ、いける……先生……あと少しだから……」
エレベーターまでの最後の難関である階段を薄れる意識の斉藤に肩を貸しながら、確実に降りていく。
二人の後ろからは、あらぬ方向に片足が曲がった状態の男性が足を引きずりながら、次第に距離を縮めていた、
「待ちやがれ……止まれッ! クソォ!」
暴言と叫び声が背後から次第に二人に迫る中、斉藤と沖野 恵は最後の階段を降り、エレベーターの前に辿り着く。
沖野 恵はポケットの裏から鍵の束を取り出すと到着したエレベーターに乗り込み直ぐに鍵穴に差し込む。
一番したの階である地下一階、しかし、エレベーターの矢印は下を向いている。
ゆっくりと扉が閉まり、エレベーターは地下二階と言う隠された数字を表示する。
地下一階部分から二層程、潜った地下二階、実際は地下三階と言える深さまで、エレベーターは降りていた。
エレベーターの扉が開く。斉藤と沖野 恵はエレベーターから降り、エレベーターの稼働を停止させる。
「すみません……先生……私のせいですね……」
涙を浮かべる沖野 恵に対して斉藤は、必死に優しく微笑んで見せる。
「泣くな……大丈夫、だから……花束、汚れちゃったな……」
斉藤は沖野 恵が欲しがっていた花束を見て呟いた。
「先生……」
「恵さん、訳を聞かせて欲しい……頼むよ」
沖野 恵は、覚悟を決めるとゆっくりと喋り始める。
……………………
………………
…………
……
沖野 恵【黒目 恵】、当時8歳。
斉藤と初めてであったのは、病院の救急外来であった。
酷い打撲と全身に痣を刻んだ幼い少女が血を吐いた状態で緊急搬送されて来たのだ。
高難度のオペの依頼を済ませ、帰宅しようとしていた斉藤の目に入ってきた幼い命、斉藤は“助けたい”と強く願い、病院に掛け合い、緊急オペに参加する。
参加に条件を伴う特殊な手術であり、参加条件は三つ。
●外部に一切、口外をしない。
●一切の詮索をしない。
●手術に関して、全ての出来事は存在しない事とする。
手術、その物は行うが、手術が行われた事実は存在しない事とし、一切の患者に関する詮索をせず、外部に事実を口外しないことを条件として、病院は斉藤に参加するか否かを決めさせたのである。
斉藤は条件を受け入れ、緊急オペを速やかに行い、報酬を受け取る事になる。
報酬は振込ではなく、手渡しとされ、斉藤の元に代理人が足を運ぶ。
医療保険を使わぬ医療費は、斉藤への報酬を一気にあげる結果となった。
斉藤と沖野(黒目)が繋がった瞬間であり、その後の流れが斉藤の運命を変えることになる出会いでもあったのだ。




