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目覚め

 斉藤と志乃が接触してから3日、志乃の病室で涙を流す南の姿があった。


「こんな事が……本当に」と取り乱すように声を出す南の目の前には、ベッドから必死に起き上がろうとする志乃の姿があった。


 体力が落ちた、肉体はバランスの取れた体型である、志乃自身の体重を起き上がらせる事すら叶わないまでに衰弱していた。


 何よりも南を驚かせたのは、意識が戻ってすぐに志乃がいきなり、自身の体で行動を開始しようとしている事実であった。


「し、志乃さん……」


 南の声に即座に反応を示す志乃、しかし、それは予想だにしない返答であった。


「殺さ……る、沖野……恵に殺される! ウワァァァッ!」


 突然、叫びだした志乃を看護師と共に押さえる南。


鎮静剤(ちんせいざい)を! 早く!」


 看護師が慌てて走り出す。異変に気づいた見張りの警官も加わり南達は、必死に志乃を押さえつける。


 他の医師と共に看護師が、志乃の病室に駆け込み、鎮静剤が投与される。


 意識が戻った束の間の安心と、志乃の異常な態度に混乱する南……そんな状況の中、看護師が南に対して質問を口にする。


「南先生、患者さんの叫んでたのって」


「患者の前でやめろ! 後にしてくれ、それより、バイタルを計るんだ、あと直ぐに検査室に連絡、脳波の検査を急がせる」


 冷静に指示を出す南、しかし、看護師同様に、志乃が口にした“沖野 恵に殺される”と言う、言葉が耳にこだまし、脳に焼きついていた。


 一通りの検査が始まる。本来ならば、看護師が付き添うが、南は自身の勤務が半日勤務であった事から、志乃 彩音の検査に付き添うと口にする。


 看護師側からすれば、患者の知人である医師が付き添いならば、問題ないという結論になる。


 志乃の検査が始まる。一人、検査室前のベンチに腰掛ける南。


「はぁ……いったいどうなってるんだ……あの慌てようは、只事じゃなかった……沖野 恵って、やっぱり……斉藤の連れの女なのか、連絡するべきなんだろうが……」


 南は悩みながらも、斉藤に連絡しない事に決めたのだ。


「斉藤とあの女のことを調べないとな、探偵を雇う……なんて、現実的じゃないな? 取り敢えず、今は志乃の回復を一番に考えないとな」


 斉藤に伝えないという選択をすると、南の元に見張りを勤めていた警官が姿を現す。


「先生、志乃 彩音の様子はどうですか?」


「今は何とも言えませんね。ただ、普通の会話が出来るようになれば、状況が変わりますが……」


 警官がうなづき、その場を後にする。


 志乃の意識が戻った事実が警官から、本部に伝えられる。


 しかし、それは最悪の状況での報告であった。


 警視庁に仕事で、偶然にも、その場に居合わせた沖野 恵の耳に志乃の意識復活の話が舞い込んだのだ。


 警視庁での、仕事を早々に終わらせると、車に乗り込む沖野 恵。


 車は病院に向かって加速する。


 そんな、沖野 恵とは別に、病院へと向かう一台の車があった。車内には斉藤の姿があり、車内には造花の花束が置かれている。


 見舞いの花は菌の持ち込みに繋がる為、造花の花束を頼み、夕方前に出来たという連絡があり、斉藤は受け取った足で病院へと向かっていたのだ。


 検査が終わり、病室に戻った志乃。


 しかし、病室の前には既に見張りの警官の姿は存在しない。


 沖野 恵が病院に急いで向かった理由の1つに、病院側の夜間に対する警官の配置に対する抗議が以前からあり、警視庁は、志乃 彩音の意識回復を条件に夜間の見張りの縮小を約束していたのだ。無論、病院側には、病室に対する夜間の見回りの強化が条件にあげられていた。


 そして、志乃が目覚めた今、病院内部の警官は、全て院外にて、待機となる。


 沖野はその事実を確める目的も含め、病院へと向かっていたのだった。

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