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金槌と眼球

 エレベーターが二人を八階へと運び、扉がゆっくりと開かれる。


 沖野 恵が八階の一番奥の部屋へと向かって歩き、その後ろを尾田がついていく。


 尾田は太金が手に入ると確信したのか、緊張のほぐれたような表情を浮かべながら、うっすらと笑みを浮かべていた。


 沖野 恵と尾田が一番奥にある部屋の前まで到着する。ゆっくりと鍵が開けられる扉。


 後ろを振り向き、尾田を見る沖野 恵。


「通帳と印鑑を取ってくるから、外で待ってて」


 そう声に出す沖野 恵に対して、尾田は首を軽く左右に振る。


「沖野さん、貴女を一人にすると何をするか、わからないからな、部屋の中で待たせてもらうよ」


 会話が終わり、扉が開かれる。


 尾田の脳裏に嫌な直感が流れ出す。絡み付くような威圧感が充満した室内、玄関に足を踏み入れた瞬間から悪寒が襲い掛かった状態になる。


 只ならぬ恐怖を全身に感じる尾田、その表情を玄関に置かれた鏡越しにそっと、見つめる沖野 恵。


 尾田が一瞬、視線を逸らした瞬間、玄関に置かれた金槌を手に取りると、ポケットへと入れる。


「尾田さん、通帳と印鑑はタンスの中にしまってあるの、取ってくるから待ってて貰えるかしら、流石に散らかってる部屋を見られたくないの」


 その言葉に尾田は「俺も着いていく、アンタは信用ならないからな」と即答する。


 奥の部屋へと進む。暗闇に包まれた室内は雨戸が確りと閉じられ、外からの光は一切入って来ない。


「眼鏡が無いと、どの通帳か分からないわね」と口にすると眼鏡ケースから眼鏡を取り出し通帳と印鑑を取り出し、尾田に渡す。


 その瞬間、壁に設置されている電気のボタンが押される。


 普通では有り得ない程の電気の輝きが暗闇になれた尾田の眼を襲った。次の瞬間、“ドゴッ!”と言う鈍い音が頭に響き、尾田の後頭部に凄まじい激痛が襲い掛かる。


「ウギャアァァッ! テメェ……!」


 声を上げた尾田の眼球目掛け、金槌が振り下ろされる。顔面が砕かれ、眼球が潰れる音が脳内に直接響き渡る。


 流れ出した片目を必死に両手で押さえる尾田の目に最後に刻まれたのは、まるで発情したように、火照り、快感に身を震わせる沖野 恵の姿であった。


 其処からは悲惨という他ない程の惨劇が尾田の肉体を襲う。両方の掌を粉々に砕かれ、足の指を一本、一本、確実に打ち砕かれていく。


 意識が飛ぶ度に気付け薬で強制的に意識を戻され、激痛で意識を再度失い起こされる。悪夢のような時間が終わりを迎えた。  


 尾田の心拍が失くなり、生きることを諦めた為である。


「その通帳は差し上げます。たいした額は入ってませんが、三途の川の渡り賃にでもしてください」


 沖野 恵は金槌を放り投げると、その場に座り込み、楽しそうに笑った。


「嗚呼、先生……私は先生の為に頑張ります……あはは」


 斉藤への思いを語りながら、狂ったように笑い、尾田の死体を眺めながら、沖野 恵は部屋を後にした。

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