浅野と尾田
緊張に包まれる住宅街。浅野が先行し玄関前に向かい、後方から尾田が支援する。
玄関前には二人の警官が倒れており、浅野が駆け寄る。
二人の脈は確りあり、生存が確認される。
「浅野、二人を車に運ぶ。援護を頼む」
尾田が警官二人を車に運び終わると、浅野は玄関の扉に手を掛ける。
鍵が掛かっていない事実に、浅野の額からはイヤな汗が頬を流れる。
ゆっくりと開かれた扉、室内からは微かにガスの臭いが漏れだしていた。
「クソッ! 志乃さん!」
浅野がリビングに向かって駆け出していく。
倒れた志乃の姿に慌てる浅野、頭を必死にクリアにするとキッチンに向かい、ガス栓をしめる。
志乃の口にハンカチをあて、慌てて外に向かう。
玄関で尾田に志乃を託すと室内に戻り窓を開ける。
室内に充満したガスを外に逃がし、室内を調べる浅野、その間に尾田が救急車を呼び、浅野と共に室内を全て調べていく。
「浅野、残りの部屋は俺が調べる。車に戻って志乃さん達を見ててくれ、救急車が直ぐに到着する筈だからな、頼んだ」
「わかった、だが、まだガスが残ってるんだ、気を付けろよ」
「なんかあった時の為に無線で応援を呼んどいてくれ、頼むぜ浅野」
浅野はうなずき、車に向かう。車内で眠る三人の状態を確かめ、無線を使い応援を呼ぼうとした、一瞬の出来事であった。
無線が繋がった瞬間に“カチっ”と言う音が鳴り、車体が爆音と共に吹き飛ぶ。
それと同時に志乃の自宅から外に流れていたガスに引火し、家の一階部分が爆発する。
吹き飛ばされ、血だらけの状態でアスファルトに叩きつけられた浅野は途切れそうな意識の中で声を聞く。
「後悔しただろ? 始末書は俺が書いといてやるから、安心して行きなよ。浅野」
視界が霞み、耳は爆発の影響で途切れ途切れにしか聞こえない。
浅野は何も出来ぬまま、二度と這い上がる事の出来ない暗闇の渦に意識を沈めていく事となる。
その後、救急車と警察車両、消防車が到着する。
生存者は二名であり、浅野と警護にあたっていた警官二人の死亡が確認される。
奇跡的に志乃 彩音は一命を取り留める。しかし……意識不明の重体であり、意識が回復しても後遺症は免れないだろうと診断される。




