最初で最後の糸口
斉藤を探し始めた浅野と同僚の刑事である尾田は車を走らせる。向かった先は斉藤が最後に正式な依頼でオペを行った病院であった。
車内で斉藤に対して、集められるだけ集めた資料に目を通す浅野。
「浅野? 今回の斉藤さんも被害者になるのかね?」
「さぁな、だが、連続惨殺事件の被害者が皆、斉藤と言う男性医師である以上、否定できんな」
「だよな? なんで、斉藤なんかな? 余程の恨みがあるのか、犯人がルールを決めているのか、厄介極まりないなぁ?」
車内で語られた連続惨殺事件の被害者の一致している点は少なくとも4つ存在する。
1つ、男性であること。
2つ、医師であること。
3つ、30代であること。
4つ、苗字が斉藤であること。
しかし、この事実が明らかに為ったのはつい先日の事であり、志乃 彩音が惨殺死体に残された僅かな指紋の残りから辿り着いた言わば、最初で最後の被害者を特定する糸口となった物に他ならない。
その他の惨殺事件の被害者達は指が無く、顎が砕かれており、歯は無理矢理抜かれた痕跡があり、今回の身元が判明した被害者は自身の指の皮を噛みちぎり、小さな袋ごと飲み込んでいた為、臓器内から発見する事が出来たのであった。
その事実から、犯人は被害者を自由にした状態で時間を過ごしていた可能性が浮上していた。
浅野は志乃と言う優秀な人材が捜査から外された事実を踏まえ、行動しており、機密保護の為、新たに浮上した斉藤の事を伝えられない事にむず痒さを感じていた。
そんな時、資料の一文を見て、慌てる浅野。
「尾田、車を止めてくれ! 今すぐに志乃さんに話を聞きに行くぞ!」
行きなりの事に慌てる尾田刑事。
「おいおい、何を、駄目にきまってるだろ?」
「普通ならな、だが、斉藤のオペを行った病院のリストの中にあるんだよ。志乃さんが警視庁に来る前に勤めてた病院がな、急いで行くぞ!」
「ああもう、後で始末書になるぞ、絶対に後悔するからな、はあ、仕方ないな……なら、志乃さんの家に向かうぞ……此処からじゃ一時間は掛かるぞ……」
「そう、ぼやくなよ。犯人逮捕の時には何でも好きなもんを御馳走するから」
「いらねぇよ、それよりも斉藤の資料をまだ読んでないんだ、内容を声に出して読んでくれ、眠くならない程度で頼むわ」
尾田刑事はそう言うと車をUターンさせ、志乃の自宅へと車を走らせる。一時間の間に資料が浅野により読まれていく。
志乃の家に到着すると浅野の表情が強張り、拳銃の弾数を確認するような素振りを見せる。
「お、おい、なに危ないことやってんだよ!」
尾田の言葉に浅野は表情とは裏腹に冷静な口調で返答する。
「警備の警官の姿がないんだよ……未だに志乃さんは重要人物扱いで二十四時間警護対象だ。気を抜くなよ、尾田」
そう言うと浅野刑事は車をおり、玄関へと慎重に進んでいく。




