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大学病院

 ニュースの内容が気になり、大学病院の正式な名前を調べていく。


 早朝から調べだした斉藤が大学病院の名を見つけるのに時間は掛からなかった。


 ネットの普及が偽りの情報を流しながらも真実も其処に染み出していたからだ。


 大学病院は斉藤が勤務していた最初の病院であり、院長とは斉藤の知る人物だった。


 複雑な表情を浮かべる斉藤。


 ──あの院長は確かに、食えない奴だったが……金に対しては絶対に不正しないと思っていたんだがな。


 院長の性格を知る斉藤はそう考えていた。


 しかし、既に世間では大学病院の偽りの情報と心無い風評が駆け巡り、患者達は一斉に病院への足が遠退いていく。


 大学病院内では、問い合わせの電話が鳴り響き、心無い言葉が浴びせられる。


 他の病院は院長が居ないことを良いことに腕の良い医師の引き抜きを開始する。


 医師の中には大学病院に残る道を選択する者と高額な報酬と契約金を手に引き抜きに応じる者が現れ出す。


 そんな、普通じゃない早朝の大学病院内で男性医師がナイフで刺される事件が起こる。


 医師を刺したのは20代の女性であり、精神が不安定な状態であり、大学病院内の精神科に通院していた患者であった。


 刺された男性医師は傷口を何度も刺され、病院内であったにも関わらず、大量出血によるショック状態となり、死亡が確認された。


 殺人が起きた病院……直ぐに目撃者により、ネットへと拡散されると既に情報を知って駆けつけたテレビ局の人間に混じり、怖いもの見たさの者達が面白半分に訪れ写真を撮影しに現れたのだ。


 警備員達もなんとか侵入を阻止しようと必死になるが、本当の患者と悪ふざけを目的とした者達を区別することは難しく、結果は多くの写真が世間に晒される事となった。


 その日、事件が起きた午前から大学病院は封鎖となり、警察の鑑識が入る。


 大学病院は横領に加え、院長の失踪と殺人事件の現場と言う最悪の場所になっていたのだ。


 そんなニュースがテレビの速報で報じられる。医師を刺した容疑者の女性は警察車両に乗り込む際に大声で奇声をあげる。


「あんな強姦野郎! 死んで当然だッ! この病院の院長も医者達も皆、死んじまえ!」


 その一言が大学病院を完全に世間の敵に変える切っ掛けとなり、警察は治療の際にそう言った事実があったかを捜査しなければならない立場に追いやられる。


 殺人を犯した女性はその日の晩のニュースに大きく取り上げられ、テレビ番組の司会やゲスト達は面白半分、本気半分と言ったトークの餌になる。


 世間が【強姦病院】や【横領病院】と大学病院を好きに書き込む最中、マンション八階の部屋の1つに明かりが灯る。


「大変な騒ぎですね……ふふ、本当に人間は1つの種火を大きくするのが好きなんだから……本当に素敵だわ」


 沖野 恵……八階の部屋でテレビだけが置かれた室内で楽しそうに笑みを浮かべる。


「さて、何日持つかな……次の話題が生まれる頃まで、持つといいんだけどなぁ……」


 スマホを取り出すと独り言を口にする。


「あ、どうも……今ですが、今は少し……」と他者と通話をしているように装う沖野 恵。


 その瞬間……「だ、だずけてぐれッ!」と室内に声が響く。


「人は微かな希望に理性を失い、リスクを恐れず愚かな道を選ぶ……残念ね、通話はしてないんですよ?」


「…………う、うう……ぅぅ……」


 声の主が絶望に言葉を失う中、沖野 恵は部屋を後にする。無情な音を放ち、玄関の扉が閉められると室内に更に叫ばれる断末魔、しかし……その声が室外に漏れる事はない。


 不敵に笑みを浮かべたまま、斉藤のもとに向かうと普段と変わらぬ態度で料理を作り、斉藤とまったりとした時間を過ごすのであった。

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