八階の部屋
連続惨殺事件の被害者の繋がりが明らかになり、医療関係者である事実に一瞬、戸惑う斉藤、その瞬間、スマホの着信音が鳴る。
ビクッと身を震わせるとスマホを手に取り、画面を確認する。
【沖野 恵】と表示された画面に安堵の表情を浮かべると電話にでる。
『はい、斉藤です』
『先生……ニュースを見ましたか? 見てないなら、直ぐに見てください』
『ニュースなら見てるよ。連続惨殺事件の繋がりについて語っていたね』
斉藤は心配して掛けてきたであろう、沖野 恵の電話に感謝の気持ちを露にする。
そんな斉藤の気持ちとは裏腹にモニターをじっと見つめ、舐め回すような淫靡で艶かしい表情を浮かべていた。
『先生……先生は大丈夫ですから、私がずっと側で見ていますから……突然電話をしてしまい、すみませんでした。おやすみなさい』
『嗚呼、心配してくれて感謝するよ、恵さん……恵さんも気をつけてくれよ、何かあったら、俺は』
『俺は? ……何ですか? 先生……』
言いたい言葉が喉まで出る、しかし……斉藤はその答えを言わぬまま『いや、おやすみなさい、恵さん』と挨拶を済ませると電話を静かに切った。
スマホをソファーに軽く放り投げると、斉藤もソファーへと、もたれ掛かる。
そんな様子に満足したように笑みを浮かべると沖野 恵はエレベーターに向かい、エレベーター内の八階のボタンを押しながら、ポケットから取り出した鍵を差し込み回す。
静かに動き出したエレベーターが八階に止まり、ゆっくりと扉が開く。
八階の部屋に光は無く、真っ暗な通路が奥に続いている。
外側のエレベーターのボタンの下にある鍵穴に沖野 恵が鍵を差し込む。
確認するように頷き、軽く笑みを浮かべた。
「さて、何日で騒ぎ出すかしら……それに、何日もつかしら、凄く楽しみだわ」
そう言いながら、沖野 恵は八階の一番奥の部屋へと姿を消していく。
後日、ネットニュースに不可解なニュースがランキングの上位に上がっていく。
“〇〇大学病院の院長、横領疑惑……行方不明?”と言うような内容が世間に公開される。
警察が院長の行方を捜査する中、警視庁死体検査室、監察医……志乃 彩音が検査室での立場を失う事となる。
決定に異議を申し立てるも却下される。
しかし、此れは大学病院の院長が行方不明となった事実があった為、検討が曖昧になってしまっていた事と沖野 恵の精神鑑定があった結果による物であった。




