医療関係者
夜が終り、静かな朝がやってくる。当たり前の時間が流れていく。
目覚めた斉藤は水を飲みにキッチンへ向かう。
時刻は朝、10時を過ぎようとしていた。
テーブルに置かれた一枚のメモに気づく。
──昨日の夜のうちに置いていったのか、最近は片付けなんかも任せきりだったからな……
メモにはその日の日付が記されていた。
“夜は用事があり、行けません。御飯は冷蔵庫に入れて置きます。帰宅したら一度顔を出しますので”と書かれていた。
軽く納得すると煙草を吸いながら、数日間の出来事を振り返る。
時間がゆっくりと流れ、次第に太陽が傾いていく。
窓から外を見た瞬間、真っ赤なドレスに身を包んだ沖野 恵が男性にエスコートされ、高級車に乗り込んでいく姿が目に入る。
「……恵……さん……そうか……俺は何処かで、恵さんを本気で愛していたんだな……」
走り出した車を見つめ、そう呟くと斉藤は夕暮れの街に向かって歩き出していく。
普段と違うのはキャリーバッグはなく、麻酔も持ち歩いていない。
単なる散歩と言うべきだろう。
誰も、斉藤 学と言うことで人間が人を拐い、殺めた事実を知らない。隣を通り過ぎる仲睦まじいカップル。
斉藤の中で苛立ちが募る。
一瞬過る殺意に自身の意識を必死に押さえる。
「何を考えているんだか……」
そんな事を考え始めた自身の思考に悩みながら、来た道を戻っていく。
その日の夜は静かに過ぎていく……沖野 恵が斉藤の部屋を訪ねて来たのは深夜0時を回ろうとした時であった。
真っ赤なドレスに微かな香水の香りと酒の香りに包まれた沖野 恵が室内に足を踏み入れる。
普段と違う香りに斉藤は僅かな嫉妬にも似た感情が沸き上がっていく。
「恵さん……」
「起きてらしたんですね、先生……それとも、待ってて下さったんですか?」
言葉遊びをするようにしっとりとした口調で斉藤へと近づいていく。
「ねぇ、先生……私は先生が好きなんです、本当なら、今日も先生と一緒に行きたかったんですよ……」
耳元でそう呟くとシャワーを貸して欲しいと言い、沖野 恵はバスルームへと入って行った。
しかし、斉藤は沖野 恵から微かに漂う無数の香りの中に存在する嗅ぎなれた臭いに気づいていた。
──血のにおい……恵さんは何をしてきたんだ……
シャワー室から沖野 恵が申し訳なさそうに顔を出す。
「あの……先生……すみません、ナプキンを取り忘れてしまって……お酒が少し抜けて、冷静になりました……今日はこのまま、服を着替えに部屋に戻りますね……明日、また来ます」
酔いと照れからなのか、真っ赤な顔を浮かべながら、エレベーター前で別れる二人。
斉藤は考えすぎだと改めて感じていた。
そんな時、テレビに流れたニュースに斉藤は耳を疑った。
ニュースに流れた連続惨殺事件の被害者達の身元が明らかになったと言う内容であり、名前は非公開であったが医療関係者である事実が明らかになったのだった。




