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解毒

 生きていると実感するような温もりを沖野 恵が斉藤に与える。


 全てを包み込み、体内に精を搾り取るように受け止める。


「先生……ご飯にしましょう、確りと食べないと……此からの事もありますから、ねぇ?」


「ああ、そう……だな……」


 片手で頭を軽く押さえる斉藤。


 ──俺は何をしているんだ……わからない……頭がまわらない……


 ふとした瞬間、部屋に置かれた鏡に写る自信の顔、その表情はまるで生気を失った病人のようにすら感じさせる。


「此れは……」

「先生、顔色が優れないようですし、確りと食べて下さいね。野菜を多めにしましたので、嫌いな野菜が入ってないといいんですが」


 軽く温められた料理がテーブルへと並べられる。


 疲れているだけだと、言わんばかりに作られた料理は鮮やかな緑色と橙色(だいだいいろ)の野菜炒め、酢の物、蒸し鶏のしそ和えであった。


「随分と沢山作られましたね。どれも美味しそうですね」


「ありがとうございます。お野菜をいっぱい使ったので体にいいメニューにさせて貰いました」


 軽い会話が終わると食事が始まり、一時間程で終わる。


 その後は何事もなく、沖野 恵は片付けを済ませると笑顔を浮かべて部屋を後にした。一人残された斉藤は睡魔に襲われる意識の中で、多く並べられた医学書から一冊の書物を手に取る。


 【薬品】の文字が記された書物を開き、今の症状と自身の体調に重なる副作用を引き起こす物がないかを探していく。


 ──考えすぎか、まあ、睡眠薬を乱用すれば、怠さも説明がつくか……頭がまわらないな……


 斉藤は自身が服用している睡眠薬を手に取り、ウイスキーの入ったグラスを手に一気に飲み干す。


「癖がつくと抜けられないと言うが……流石に酒と睡眠薬を合わせるのはやめた方がいいかも知れないな……」


 ソファーに腰掛けたまま、眠る姿をモニター越しに眺める沖野 恵。


「本当ですよ先生……御飯に解毒作用の強い野菜を入れてますけど……体が心配で仕方ないわ……やっぱり、先生の過去を精算しないと……」


 徐にスマホを手に取り、電話を掛け始める。


『あ、沖野です。明日のお話ですが。是非、御一緒させて頂きたいと思いまして……はい、では、楽しみにしております』


 通話が終わると獲物を見つけたハンターのように瞳を輝かせる沖野 恵の姿があった。


 着ていく衣装を楽しそうに選ぶ姿はまるでクリスマス前の子供のようにすら見えるだろう。


「あはは、上手くやれば、先生が私を褒めてくれるかも知れない。明日は頑張らないと」

 

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