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流転の大戦記  作者: どらごんますたぁ
第1章 日米開戦への道1941
30/34

第5話 地獄の蓋1

1941年6月12日

英仏海峡



ドーバー砲撃より2時間。

至近弾はあったものの、ほぼ損害を受ける事なく、ドーバー海峡の重砲群の射界を抜けたビスマルク。

ティルピッツも砲撃に参加したが、その砲撃は照準、速度ともに練度不足は明らかだった。少なくとも、後3ヶ月は慣熟訓練の期間を経てからの実戦参加が通常なのだから、こうなるのもやむを得ない事。

結局、砲台の撃破まではならず、その周囲に砲弾をばらまいて、ホワイトウォールの一部を崩壊させた程度に留まった。


この間に、英偵察機・メリーランド他複数機が飛来し、接触された事によって、艦隊は完全に動向を把握される。

これらは全て攻撃が始まる前の先触れとなるのだ。乗員達にとってみても、攻撃がまだ始まらないとはいえ穏やかなものではない。

他にも、砲撃による衝撃が原因の、射撃制御レーダーの破損が発覚する。わずか数回の砲撃で壊れるようでは用を成さない。

更に問題となったのは、対空射撃の訓練不足もこの偵察機攻撃で露呈する。


双発の図太い胴体の、いかにも鈍重な見てくれのメリーランドが、上空を大きく旋回し飛び回っているが、周囲に対空砲火による黒煙が疎らに広がる。

不用意に近付く機がなかったとはいえ、対空射撃で撃墜した機が、低速な偵察機のはずなのに1機もないことだ。

これでは、後、半日近く海峡内を通過する上であまりにも痛手だ。


リンデマンは目眩を覚えた。この有り様でどうせよと?

天候の状況から、高空からの水平爆撃と急降下爆撃はできないと予測できるが、致命打となり得る雷撃は、自由に回避行動もとることができない以上、これでは防ぎようがない。

「間もなく英空軍も動き出すでしょう」

空を見上げるリンデマン。

諦感故であろうせいか、リュッチェンスはいつもの無表情を決め込んでいる。

英空軍が、もしも持ち得る全攻撃機を投入してくれば、2000機は下らない数が殺到し、その一方的な攻撃に曝される。

いくら強靭な耐久力を誇るビスマルクと言えども、撃沈は必至。

勿論、このような暴挙に等しい内容、軍事的な視点のみで見れば、まず廃案にしなければならない。

しかし、ヒトラーはその事を否定する。

「体面を重んじる英国が迅速に対応できる訳がない。ましてや海軍出身のチャーチルが、このような恥辱に堪えられまい。必ずや海軍同士での決着を望むであろう」

人の心理面を読む事に長けたヒトラーの、はっきり否定しきれない断言に突き動かされている。

だが、根拠の無い妄言に等しいこの発言に、リンデマンらの認識とは裏腹に、敵であるイギリスの中枢部が陥っていた。




イギリス

ロンドン・ウェストミンスター



国防相。

夜明け以降、非常招集をかけられた職員と関係者の登庁によって、庁舎内部は雑然としていた。

タワーブリッジとトラファルガー広場を眺望できる国防相会議室へ向かう廊下の一角。

夜明けとともに、側近に叩き起こされ、まるで茹で蛸のように赤い顔をしていたチャーチルの姿がそこにあった。

ドイツ艦隊のドーバー砲撃によって、陸海空軍統合参謀長会議が緊急招集されるが、事があらぬ方向へと転がっていく。

「もう集まっているようだな」

「首相閣下」

チャーチルの入室したのを見ると、室内の全員が起立して迎える。

「では、早速報告してくれ。奴らは今どこにいるのだ?」

そう言って席につきながら、責任者から報告を求めた。

全員が席につき、空軍関係者が現在把握している事の報告を始める。

「敵艦隊は戦艦2隻、重巡或は巡洋戦艦が1隻からなり、現在英仏海峡を西へと移動中であります」

「その後の被害は?」

「特にありません」

ダンッとチャーチルは会議室の大机を叩く。

「何故、ドーバーに入るまでに気付かなかった!?」

チャーチルの怒気に驚き、報告した担当官は答えに窮する。

癇癪の発作的怒りの発露。ごく稀にチャーチルが見せる行動。

チャーチルは明らかに責任の所在を求めていた。


イギリス国内ではドーバー砲撃を、民間放送BBCやタイムズなどのメディアは、センセーショナルな内容として速報で伝えた。

砲撃がドーバー要塞区画に限定されていたこと、英仏海峡を通過するパフォーマンス的な挑発行動。

不安を煽りながらも、実害を与えない事によって、大衆の心理に揺さぶりをかけるヒトラーが最も得意とする精神操作。

より影響を大きくするべくドーバー海峡通過を、ヒトラーは誇大な表現を用いた声明をイギリス、特に英海軍に向けて発した。


「我が勇敢なる艦隊はドーバーを突破した。圧倒的と言われた英海軍は無為に時を過ごし、為す術を失う愚鈍の極みである。イギリスが海を支配した時代は過去の栄光であり、遺物でしかない。親愛なる英国首相に申し上げる。目の前のドーバーすら護れぬ海軍など、既に形骸でしかないのだ」

明らかにチャーチルを名指しした上での挑戦。グレートブリテンの守護者と自他共に認める海軍をこき下ろされたチャーチルは、無い髪を逆立てるかのように憤怒を顕にしていた。

軍事的に見れば何かに被害が出ている訳ではない。乗らなければ、全くの無意味な行動でしかない。いや、無事に通してしまえば、それはそれで問題はあるのだが。

だが、国家を運営する立場となれば、その様相は変化してくる。安易な挑発に乗ってはならないが、それを無視しても悪影響が及ぶ場合がある。


空軍関係者に目配せし、着席させた上で席を立ったのは第一海軍卿ダドリー・パウンド海軍元帥。

「この事態を招いた責任は、全て我が海軍にあります。言い訳は致しますまい」

議場にどよめきが起こる。

「その理由と訳は?」

その理由を問いただそうとするチャーチル。

「言い訳はせぬ、と申し上げました首相閣下」

覚悟を決めている様子で、パウンドは答える。再びどよめきが起こる。

「……では、問いを変えよう。海軍はどのように責任を取るつもりなのだ?」

苛立つチャーチルは憤怒の表情で、言葉だけは落ち着かせてパウンドに聞く。

「海軍によるドイツ艦隊全艦の撃沈。これだけは最低条件。その上であらゆる責任を取るつもりでおります」

パウンドは恐れるものはないと言わんばかりに簡潔に答えた。




英仏海峡



時刻は昼を迎える。

プリンツオイゲンを先頭とするドイツ戦艦戦隊は、英仏海峡をただひたすら西へとその足を進めていた。

懸念していた空からの攻撃も始まらないうちに、先にドイツ空軍第3航空艦隊所属のメッサーシュミット4個中隊16機が護衛に飛来。

第3航空艦隊もバルバロッサ作戦に向けて戦力を引き抜かれ続けて、決して戦闘機の数に余裕がある訳ではなかったが、ゲーリングを通じたヒトラーにはっぱをかけられた事で急いで戦闘機を派遣した。

空軍側も、今日の朝になるまで艦隊の行動を知らなかったのだから、本当の緊急発進(スクランブル)だった。


「間に合った!」

それでも護衛を受けられる事になった艦隊の安堵感はひとしおだった。

監視飛行中だった英偵察機は、このメッサーシュミット編隊の攻撃によって、全機撃墜され、空のエスコートができあがった。

ドイツ艦隊にしてみれば、まさに救済に舞い降りた天使であった。


「これで英空軍機が大挙して押し寄せても、かなりの時間を稼ぐ事ができます!」

英偵察機を撃墜し、速度を落としながら旋回飛行に入ったメッサーシュミットの編隊を見上げ、リンデマンはリュッチェンスに話しかけた。

「うむ」とだけ短く返事をするリュッチェンス。

これで後はシェルブール沖を通過すれば、機雷原からも抜け出し自由に海を走り回れる。

後はブレストに逃げ込めば……

そうすれば、本来の目的でもある通商破壊戦を展開できると、内心でリンデマンは喜んでいた。

そして、このような下らぬ任務から解き放たれる事を願っていたのだ。

その後も何故か知らないが、結局英空軍による攻撃は起こらなかった。認めたくないが、ヒトラーの予言は的中した。


この時、パウンドは本国艦隊とH部隊の全てを投入した追撃開始を命じていた。どのみち空軍の沿岸航空軍団では、有効な打撃足り得ず、責任を転嫁できる立場になってほしくないと、海軍の矜持を理由に空軍の協力を拒んだ。

空軍側からも、雷撃機の不足と対艦艇攻撃の経験不足から、否定しきれない面があったため引き下がった。何せブレストに投錨中のシャルンホルスト、グナイゼナウの両艦にですら、撃沈に至る有効な打撃を与えられていない事がその証左となっているのを指摘されての事だ。

海軍としても手負いの敵を沈めたなどと言われれば、それこそ目も当てられない事になるのだ。

両国の思惑と条件の一致が、この奇妙な状況を産み出した。



そして、英独両海軍にとって第二次大戦始まって以来の最大の艦隊戦が、英仏海峡の出口シェルブール沖にて展開される事になる。



13:28

戦艦ビスマルク


「前方より機影!単発戦闘機、おそらくハリケーン!他に複葉機、機種はソードフィッシュと認む!」

最初に発見したのは、先頭をゆくプリンツ・オイゲンであった。

直ちに発光信号にてビスマルクに伝えられる。


「前方より……?空母が近海に?」

「そのようだな」

想定外の事態だった。海峡の出口に有力な艦隊がいる事は考えられていなかった。

英本国艦隊の主力は、スカパ・フローにいると思われていたのだから、別の艦隊がいる事を示している。しかも空母を含むと言う事は、かなり強力な部隊である可能性がある。

「護衛のメッサーシュミットが向かいます!」

「空は彼らに任せる」

「リュッチェンス司令。艦隊陣形の変更を具申します」

リンデマンは海峡通過を終えた今ならば、と自身の見解を具申する。

「よかろう」

「本艦が前に出ます」

天候不順な北大西洋ではなく、大陸沿岸では誤認のメリットよりも艦隊行動におけるメリットを優先する。強靭さではプリンツ・オイゲンとビスマルクでは比較にならない。

間違いなく戦艦が前にいると確信するリンデマン。


シェルブール沖海戦の第一幕は空の戦いから始まった。


ドイツ空軍

メッサーシュミットBf109F×16


イギリス海軍

空母アークロイヤル機

ホーカー・ハリケーン×10

フェアリー・ソードフィッシュ×8


海峡上空にて両軍機は13:32より戦闘開始。

初撃にてソードフィッシュが3機撃墜。ハリケーンが1機撃墜。メッサーシュミットもハリケーンにより2機撃墜。


13:37

ソードフィッシュの残りはそのまま艦隊へ向け直進。

ハリケーン4機がこれに続き、5機がメッサーシュミットと戦闘を継続。メッサーシュミット、ハリケーンとの戦闘によりそれぞれ2機ずつ撃墜。


13:41

攻撃隊を追撃した4機がソードフィッシュを2機撃墜し、メッサーシュミットが1機撃墜。

護衛のハリケーンと追撃中のメッサーシュミットの戦闘により、ハリケーン2機、メッサーシュミット1機が撃墜。


13:45時点の残機

メッサーシュミット×10

ハリケーン×5

ソードフィッシュ×3


13:52

艦隊に向かったソードフィッシュはビスマルクに雷撃するも、全弾回避。

最終的にソードフィッシュは全滅し、ハリケーンの残存は2機となり、攻撃隊をほぼ壊滅に追い込んだ。

この間にメッサーシュミットも2機撃墜され、8機と半減状態となる。


残ったハリケーンが離脱し戦闘は13:58に終了。


メッサーシュミット編隊、燃料不足により14:02に離脱。

艦隊の上空直掩(エアカバー)喪失。


ハリケーンですら既に、初期の落とし易かった機体とは異なり変貌を遂げ始め、明確なアドバンテージを失い始めていた。


この戦闘中、アイルランド南方沖を移動中のジェームズ・サマヴィル海軍中将指揮下のH部隊は、旗艦・巡洋戦艦レナウンを中心とする高速部隊と戦艦ネルソン、ロドニーの低速部隊へと分離。

自身は高速部隊を直卒し、ドイツ艦隊の行動を止めるべく全速で東へと向かっていた。



14:27

低速部隊より後方より空母アークロイヤルより第二次攻撃隊発艦。

空母アークロイヤル機

ホーカー・ハリケーン×5機

フェアリー・ソードフィッシュ×7機


15:48

アークロイヤル第二次攻撃隊、ドイツ艦隊への攻撃開始。


「対空戦闘用意!」

「来たぞ!低速のバスケット位は落としてくれよ!」

祈るような気持ちでリンデマンは対空戦闘を下命した。

せめて何機かでも落とせれば御の字……

対空射撃制御があれほど早くダメになるとは思っていなかった。結局は光学標準、目測射撃に頼らざるをえないが、乗員にそこまで訓練をする余裕まではなかった。

しかも、英空母機はその思いを嘲笑うような行動をとる。


攻撃は先頭を進むビスマルクに集中した。

アークロイヤル機は、足留めのみを目的にビスマルク前方方向から雷撃を実行した。命中しやすい艦の側面を狙うセオリーを無視した行動。

対空射撃の死角、どちらに舵を切っても命中するコースで突入してきた。

「舵このまま!」

「艦長!?」

「直進し、攻撃を本艦が受け止めます!下手に避けて、後続艦に命中しても問題がありますので!」

リンデマンははっきりと言いはなった。どのみち当たるのだ。

ソードフィッシュから魚雷が切り離されるのがはっきりと確認できた。

「敵機、魚雷投下ーッ!!数7!」

「来るぞ!応急部員は艦首部へ配置急げ!衝撃に備え!」


航跡を描き、ビスマルク艦首方向より直進するMark6魚雷。

魚雷を投下したソードフィッシュが、艦の上を通過していく。

魚雷はビスマルクの艦首付近に2発命中した。

弾頭をひしゃげさせながら命中したうちの1本の信管が起動し、ビスマルクの艦首に巨大な水柱が立ち上がる。1本は不発だった。

残りはビスマルクの脇を通りすぎ、後続艦に命中する事なく海底へ沈んでいった。


15:52

戦艦ビスマルク被雷1


「状況報告!」

「艦首被弾により浸水発生!」

「破口拡大による浸水増大により速力低下!25kt!」

ここまでは予想通り。行き足さえ止まらなければ。

「応急処置急げ!」

浸水拡大を止めなければ。破口は艦首部では塞ぎようがない。

「速度低下はやむを得ませんが、空母は恐らく単艦。第3波もあり得るかもしれませんが、日没近くになるかと」

「そうか。奴ら足留めを狙ったな。ここで止められたら、包囲される」

「恐らくは。本国艦隊も全力で追いかけて来ているはずですが」


この時、本国艦隊はスカパ・フローを出撃し、艦隊を空母と戦艦の二手に別れ、グレートブリテンの東西を挟むように移動していた。

高速戦艦部隊は東側ドーバー海峡へ。空母イラストリアスは西側アイリッシュ海へと向かっていた。


やはり護衛無しでの対航空機戦闘は、相当不利である事を痛感する一同。だが、ここまでくれば目的地ブレストまでおよそ100kmまで到達していた。

だが、ここまで順調に来れた事そのものが奇跡的な状況だった。


だが、安堵の時はまだまだ訪れなかった。



17:42

戦艦ビスマルク


「……!?艦影多数視認!数…5!方位2-8-5、距離36000!」

聞きたくなかった見張員の報告に、艦内は色めき立った。

「馬鹿な、こんな場所でか!?」

双眼鏡で確認するリンデマン。双眼鏡の中に映ったのは、オレンジ色に変わりつつ水平線に、多数のマストとその排煙。

「敵艦隊視認!全艦対水上戦闘用意!」

「対水上戦闘用意!」

副長が復唱し、戦闘用意を告げるブザーの音が鳴り響く。

後続のティルピッツ、プリンツ・オイゲンにもこの情報は伝えられる。

「もう我々を逃がす気はないようだな」

「ええ、ここで奴らを始末しないことには!」

あれだけの事をしでかして、挑発したのだ。無事に帰らせてくれるはずがないと、リンデマンもリュッチェンスもここで覚悟を決める。


17:43

巡洋戦艦レナウン


イギリスが保有する3隻の巡洋戦艦のうちで、唯一近代化改装を施された。他の巡洋戦艦とは違いマストが剥き出しになっておらず、近代的なビルディングを思わせる前部構造物が特徴となった。

その名は「高名」を意味し、ノルウェー沖では唯一の戦艦として無双の存在として暴れまわり、グナイゼナウ、イタリア戦艦ヴィットリオ・ヴェネトの最新鋭艦とも渡り合ってきた歴戦の艦。


「奴らの足さえ止めれば今は十分だ。本艦が前に出れば奴らは必ず食い付いてくる。ただし、無理だけは決してさせぬように」

「サー!アドミラル!」

レナウン司令塔内部。

司令官ジェームズ・サマヴィル海軍中将は、敵艦隊が強力であることを見越した上で、極めて冷静に状況を分析し、そう厳命していた。

所詮は前時代的思考の「速度は最良の防御」を体現する艦であるがゆえに、絶対に攻撃が命中してはならない事を知っている。

「この艦は婆さんなんだから、若者相手に無理をさせてはいけない」と冗談めいて重ねて言っていた。


状況としてはかなり分の悪い勝負を挑んでいる。

改装されたとはいえ、前大戦時の旧式艦で最近竣工した最新鋭、最強の戦艦を2隻も相手にするなど、質的に4倍以上の敵を相手取ってる事に等しい。

(やらねばならない。苦難が私を読んでいるのだ)

腹を括るサマヴィル。

逆にこの艦隊を今撃滅できれば、ドイツの海上戦力は半減以下となる。自身の采配によって状況が一気にひっくり返せる場面にいることに、サマヴィルはうち震えている。

(ダンケルクに始まり、メルセルケビールに今回に続く、か。つくづく因果な物だ……)

困難、不名誉と来て、また困難な任務に身を投じる事に運命めいた物を感じてしまうサマヴィル。


両艦隊は反航するために急速に接近し、その距離を縮めていく。



17:48


距離20000において、両艦隊は砲火を交える。


ドイツ海軍

戦艦ビスマルク

戦艦ティルピッツ

重巡洋艦プリンツ・オイゲン


イギリス海軍

巡洋戦艦レナウン

重巡洋艦カンバーランド・コーンウォール

軽巡洋艦バーミンガム・シェフィールド


西へと直進するドイツ艦隊に対して、西北西よりイギリス艦隊が反航する形で交戦を開始。

イギリス艦隊は面舵を切り、ドイツ艦隊の進路を閉塞する艦隊行動を取る。レナウンのみは早い段階で南へと転針。

ドイツ艦隊はT字になること嫌い、やや北よりに進路を変える。


やはりと言うべきか、ドイツ艦隊の攻撃はレナウンに集中した。

現段階で戦場にある唯一の英戦艦であるから当然だ。

レナウンの15in主砲Mk1では、ビスマルクに対して超遠距離か超至近距離からの砲撃以外、有効な打撃を与えられない性能しか有していないので、実質的に勝ち目はほとんどない。

その事からレナウンは、可能な限り回避に専念しながらも付かず離れずの、非常に判断に困る行動を取り続けていた。

ビスマルクとしても、十分攻撃に耐えられるとは言え、レナウンが最大の脅威であるため事は疑いがない。そのため、レナウンの撃破を最優先とした。

だが、練度不足とレーダー標準の故障が重なり、ビスマルクとティルピッツは、不可解な行動を取り続けるレナウンに、挟叉すら出すことができずに砲弾を消耗していた。

苛立ちばかりを募らせるリンデマンら、ドイツ側の司令部。


対してレナウンの装甲は薄弱であるため、ビスマルク級の主砲弾一発ですら、主要区画装甲、最厚部の砲塔であってさえ抜かれて轟沈に至る可能性がある。

サマヴィルはその事を把握しながらも、逃げずさりとて戦わず、進路を閉塞する積極さを装いながら逃げる素振りも見せ、敵であるリンデマンらの目には退避する消極的行動にも見え、急に方向を変え砲撃を加えてくる積極的にも見える、微妙な采配を取り続けて翻弄した。端から見れば何をしたいのか、よく分からない操艦。

レナウンの護衛の巡洋艦群も、サマヴィルは巧みに活用してドイツ艦隊突破阻止を図った。自身はレナウン自体を餌に逃げていると心理的な誤認を与え、撃沈できると錯覚を誘発させてレナウンを狙わせて巡洋艦へ攻撃が時間を稼ぐ。

英海軍の火消し人と言われた、苦労人サマヴィルの真骨頂。


ここでドイツ側の判断に迷うのが、レナウンを無視してブレストに直行する判断だ。だが、その判断を躊躇わせるのが取り巻きの巡洋艦群だった。

一旦、南へ方向を変えた後、巡洋艦戦隊は再度転針。今度は北西方向へドイツ艦隊と同航戦の様相へと遷移。この間にビスマルクの速度低下はより深刻さを増し、巡洋艦戦隊の先行を許していた。

レナウンがしっかり囮の役割を演じ、英巡洋艦は速度の違いを利用して同航戦からしっかりドイツ艦隊の進路を南東方向から閉塞する、やや歪な形のT字の陣形が出来上がっていた。


18:32

戦艦ビスマルク


「ティルピッツとプリンツ・オイゲンを切り離す!各艦独自に戦闘指揮を執りブレストを目指せ!」

リュッチェンスはビスマルクの速度低下が、艦隊行動を阻害している事から、ティルピッツとプリンツ・オイゲンの自由行動を認め、ビスマルクは単独で戦う事を命じる。

艦首に穿たれた穴は、拡大の一途を辿り、速度は22ktまで低下していた。


日本海海戦の例に代表される丁字戦法。例え戦艦でなくとも、魚雷と言う対戦艦の切り札を持つ横一文字に並ぶ巡洋艦の群れに真っ正面から突っ込む形になっているのは、非常に不味い状況。

ただでさえビスマルクは浸水を生じている。そこに再び魚雷を受ければ手の施しようがなくなる。


18:45

戦艦ビスマルク


「目標変更!敵レナウン級からカウンティ級巡洋艦へ!取舵いっぱい!」

近付けば離れ、離れれば近付き、照準を合わせてもすぐ避けるせいで修正が追い付かず、見越し射撃をしてもまるで違う動きを見せるレナウンの行動に業を煮やしたリンデマンは、その矛先を進路を閉塞している巡洋艦へと変える。

重巡の8in砲は致命的な打撃とはならないが、構造物や非装甲帯へのダメージは無視できない。

進路を塞がれつつある今、反転しなければ英本土と巡洋艦に挟み込まれて身動きが取れなくなることを危惧するリンデマン。

英仏海峡の出口の狭い海域で、両艦隊は複雑な動きを見せながら戦闘を継続していた。


30分もあれば旧式巡洋戦艦など撃沈できると踏んでいたが、レナウンに時間をかけすぎた。これが不用意に接近していれば、撃沈していた可能性もあったが、ドイツ側の思惑をよそにサマヴィルは冒険を避けた。

それよりも直近に迫る巡洋艦を撃破した方が、作戦目的地ブレストへの突破の為には必要不可欠となった。


ビスマルクから離れ、それぞれ単独行動となったティルピッツとプリンツ・オイゲンは、敵に囲まれ始めているビスマルクを援護するべく、西へと向かいながら、4隻で単縦陣を成す最後尾の軽巡シェフィールドに砲撃を集中させた。


18:54

英軽巡シェフィールド


タウン級軽巡洋艦の第1グループに属するサウサンプトン級の1隻。日本の軽巡時代の最上級に対抗して建造された最新鋭軽巡。

「周囲に敵戦艦及び巡洋艦より砲撃弾着!狙われています!」

自身が戦艦から集中砲火を浴びせられるなど、全く想定していなかったシェフィールドの艦内では動揺が走った。

「すぐに回避を!」

副長の進言に壮年の艦長はノー!と答える。

「待て待て。本艦がすぐに逃げ出したら次はバーミンガムが狙われる。せっかくここまでの陣形を作ったんなら、逃げる前に一発位かまさなきゃならんだろ?」

決して余裕がある訳ではない。だが、このまま引き下がったのでは癪に障ると言うものだ、と艦長は単独での攻撃を決断する。

「面舵いっぱい!MkⅥの用意は?」

「準備できております」

「よろしい。では機関一杯で突っ込むぞ!」

シェフィールドは南へ転針しつつあるビスマルクへ向かうべく、面舵をきり、最大速度の32ktで接近を始め、ビスマルクとシェフィールドは南を向いた同航戦の形になる。

このシェフィールドの行動に、ビスマルクも魚雷発射の意図を読み取る。


19:01

戦艦ビスマルク


「接近しつつある英巡洋艦へ照準修正!主砲及び副砲は射撃準備急げ!」

リンデマンの怒号が響く。

魚雷発射の前に動きを止めるか、沈めなければ!

主砲に先立ち右舷側の副砲群が一斉に火を噴く。

「砲術長!よく狙えよ、接近してくる絶好の相手だ!一撃で仕留めるんだ!」

「ハ!」

ビスマルクの8門の34年式38cm主砲が、シェフィールドに標準を合わせる。

「フォイアァ・フラァアイ!!」

初撃からの全門斉発。距離5000の近距離にてビスマルクから放たれた8発の砲弾は、シェフィールドの周囲に弾着し挟叉した。


「もう十分だ、魚雷発射!面舵いっぱい!」

ビスマルクの斉射が至近に着弾挟叉し、次弾命中の公算が大と判断したシェフィールド艦長はここで魚雷を発射し、回避行動に移る。

放たれたMkⅥ魚雷3本はビスマルクへ向けて海中を疾駆する。

だが、回避行動に移るには遅かった。

至近距離からの戦艦の砲撃は水平射撃に近く、ビスマルクの2射目の一弾はシェフィールドの艦尾側から船体に侵入し、後部主砲塔弾薬庫の装甲を貫通して内部で、遅発信管が作動し炸裂。

ビスマルクの放つ軽量高初速弾の至近射撃に、軽巡の装甲が耐えられるはずもなく、シェフィールドの艦後部は15.2cm3連装主砲塔2基を空中高く跳ね上げて、爆炎と共に跡形もなく吹き飛んだ。

シェフィールドは直後に、消し飛んだ艦尾側へと吸い込まれるように沈んだ。


19:03

英軽巡シェフィールド爆沈


だがシェフィールドの放った魚雷は、ビスマルクへ向けて航走し、2本の水柱を立ててビスマルクに命中する。

一発は右舷前部の非装甲帯。もう一本は艦尾、舵付近に命中し、操舵不能となる。


19:05

ビスマルク被雷2、操舵不能


しかし、英巡洋艦戦隊もシェフィールド爆沈の様子を目の当たりにし、ビスマルクとティルピッツと距離を置こう消極的になる。

この間に、ティルピッツとプリンツ・オイゲンはレナウンと戦闘を継続しながらも、間隙を縫って西へと離脱を開始する。


19:15

巡洋戦艦レナウン


「敵戦艦及び巡洋艦、西へと向かいます!」

「よし、もうよかろう。この2艦を追撃する!」

サマヴィルは追撃開始を命じる。

今まで囮の役に徹していたレナウンが、遂に動き出す。

護衛の無い裸の状態だが、ビスマルクを行動不能に追い込み、他艦が離脱に走った事で囮となる必要性がなくなったのだ。

それに受け取った命令は、ドイツ艦隊全艦の撃沈。

ただで逃がす訳にはいかない。


レナウンの標的とされたのは、ティルピッツの後ろを航行するプリンツ・オイゲンだった。

巡洋戦艦が弱いと言うのは、戦艦に対してだけの表現であり、戦艦が相手でなければ無敵の存在に変わる。

背後からレナウンの執拗な攻撃を受けるプリンツ・オイゲンは後部主砲を撃ち続けるが、15in砲と8in砲ではまるで話しにならず、ほぼ一方的に打撃を受け続ける事になった。

プリンツ・オイゲンがレナウンに攻撃を受けているのを見たティルピッツは、レナウンを攻撃するべく、後部主砲の照準をレナウンに合わせようとした。

だが、ここでドイツ側にとって最悪とも言える相手が戦場に現れる。


19:32

英戦艦ネルソン、ロドニーがシェルブール沖に到着。

西へと離脱中のティルピッツに対して砲撃を開始。


英海軍(H部隊低速部隊・増援)

戦艦ネルソン

戦艦ロドニー

駆逐艦トライバル・シーク・ジャッカル・ジュピター


世界に知れ渡ったビッグセブンの内の2隻。英海軍最強にして欧州唯一の16in(40.6cm)砲搭載艦。

新たな増援の登場に、ティルピッツは戦闘を継続困難と判断。

ティルピッツは砲撃を行いながらも、全速で英戦艦から距離を離す選択をし、プリンツ・オイゲンもこれに倣った。

攻防において英戦艦最強を誇るネルソン級の2隻だが、ワシントン海軍軍縮条約の制約によって速度が犠牲とされた事により、追撃は叶わなかった。

レナウンのみはなおも追撃を続行したが、プリンツ・オイゲンを大破させるに留まった。


20:02

ティルピッツ及びプリンツ・オイゲン、ブレストへ離脱。

ティルピッツ小破、プリンツ・オイゲン大破。

レナウン中破。


20:20

戦艦ビスマルク


「ティルピッツより入電です!ティルピッツ、及びプリンツ・オイゲン、敵追撃を振り切りブレストへの脱出成功です!敵艦隊に増援あり。貴艦の援護に感謝しつつ、健闘を祈る。以上です!」

少しは明るい話題がもたらされた事に、胸を撫で下ろすリンデマンら一同。

「目的の半分は成功、と言ったところかな?」

リュッチェンスは制帽をかぶり直してそう言った。

「ですが本艦の離脱は、非常に困難かと……」

この時ビスマルクは、舵損傷と艦首付近の浸水増大によって、まともな行動を取れずにいた。舵損傷によって何もせずにいれば、円運動をしてしまう状態。

操舵不能はリンデマンの機転で、スクリューの軸回転のバランスで辛うじて航行できるが、その速度はおよそ10ktまで低下していた。

「もはやブレストへの脱出は、増援が来た以上は絶望的。ならば……」

リュッチェンスの判断に、司令部要員全員の視線が注がれる。

「来た道を戻る事になるが、シェルブールに向かおう。本艦も無事では済まないが、撃沈だけは免れるかもしれない」

現在も英巡洋艦戦隊と交戦中で、主砲の発砲が続いている。

「わかりました。ここからならば十分可能かもしれません」

リンデマンもその決定に同意する。

距離的に約25km。現実的に到達可能な場所だった。

方針が決定し、ビスマルクは東北東へとその針路を変える。

フランス・ノルマンディー地方の突端部。

ビスマルクは舵と速度こそダメになったが、その戦闘力は健在だった。

英巡洋艦戦隊も積極的に近付いて来ることもあるが、主砲と副砲による弾幕を展開してどうにか追い散らしている。

だが、それもいつまでも続くものではなく、更に魚雷の追い討ちを受ければ本当に動きが取れなくなる。

ゆっくりとした動きでビスマルクはシェルブールへ向けて移動を開始した。


その動きを英巡洋艦が見逃すはずもなく、3隻は魚雷を合計11本をビスマルクの背後から放った。

回避もままならず内、魚雷2本が艦尾に命中。内1本は不発。

3隻の内、不用意に近付き過ぎたカンバーランドに主砲弾を叩き込み艦後部構造物を破壊して中破。

これが、英巡洋艦戦隊による実質的に最後の攻撃となった。


21:14

ビスマルク被雷1、中破

カンバーランド中破、コーンウォール小破、バーミンガム小破


21:35

度重なる英巡洋艦の襲撃に耐え抜き、ビスマルクはシェルブールの港湾内に静かに入った。

戦闘力は健在だが、中口径砲は相当数命中しており、艦上構造物はめちゃくちゃにされている状態。加えて魚雷4本の命中により艦の前部と後部に深刻な浸水を発生させ、その浸水量は5000tを超過していた。満身創痍と言ってもおかしくない。

「これで撃沈だけは免れたか……」

脱力感、安堵感からか、リュッチェンスは力なく言った。

4基の主砲塔は戦闘可能ではあるが、実質的に大破。


だが、このシェルブールはビスマルク終焉の地となった。

ビスマルクがシェルブールに入った3時間後。


6月13日1:00

ドーバーを通過した本国艦隊戦艦戦隊とH部隊戦艦戦隊が集結。

日付が変わり、英海軍からシェルブール市街の避難命令を出した1時間後。


イギリス海軍

本国艦隊

戦艦KGⅤ・POW

巡洋戦艦フッド・レパルス


H部隊

戦艦ネルソン・ロドニー

巡洋戦艦レナウン


ドイツ海軍

戦艦ビスマルク


「徹底的に破壊せよ!砲撃始めッ!」

「オープン・ファイアッ!」

本国艦隊司令長官ジョン・トーヴィー海軍大将の怒りを込めた命令の下、横一文字に並んだ戦艦7隻の砲口が吠える。


「ふふっ。普通ここまでやるかね?」

「まともではありませんな。砲塔要員以外は全て退避させました」

リュッチェンスとリンデマンは、英戦艦の砲口から発する発砲炎を眺めていた。

艦内要員の退避のため不必要な攻撃を控えていたが、これまでと悟っていた。

「我らが偉大なる宰相閣下の最後の戦いだ」

「ハ!全主砲、フォイアァ・フラァアイ!!」

ビスマルクも英戦艦の砲撃に応え、最後の咆哮を上げた。


 最新鋭とは言え戦艦1隻に対して戦艦7隻を投入し、身動きの取れないビスマルクに対して、合計で数千発におよぶ14~16in主砲弾を叩き込んだ。

 ビスマルクも最後の抵抗と、旗艦KGⅤに対して反撃し大破させるも、主砲に多数の命中弾を受け沈黙。

 ビスマルクはリュッチェンスとリンデマンの二人と共に炎に包まれた。だが、恐るべき強靭さでビスマルクは沈まなかった。艦上は燃え上がる瓦礫に覆われた。

 人員がいなくなった事による浸水拡大により、ビスマルクはシェルブール港内に着底し、夜明けを迎える4時間後に戦闘は終結。



 結果的にドイツ側はティルピッツとプリンツ・オイゲンは作戦目的を達成し、ビスマルクを喪失。

 イギリス側は軽巡シェフィールドが撃沈、KGⅤ大破、レナウン中破と少なくない損害を生じたが、イギリス政府は影響の拡大を恐れ、被害が限定的だったことを幸いとドイツ艦隊のドーバー海峡通過を些細な出来事として発表し、無謀な戦艦を血祭りに上げ他艦はブレストに封じ込めたとして握り潰す事に終始する事となった。

 一番問題となったのは、フランスの対英感情が悪化したと言う副次的な影響があったのみであった。

 作戦を主導したヒトラーはドーバー海峡突破の成果を認めつつも、来るべき大戦に向けて注意が注がれていた。

 バルバロッサ作戦開始のわずか10日前の出来事だった。


 この時、ドイツの鉄道網、自動車専用道路アウトバーンは東部へ移動する輸送車両で埋め尽くされており、ベルリン駐在外交官は独ソ衝突勃発の危機を伝えていたのだった。


トミーは頭がおかしい

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