ヒロイン、イケメン王子とデートの約束をする
ここからがシリアスパートになります。
「ケッケッケ、やっぱり特攻服はいい。気合が入るってもんだぜ」
グレゴリーの側近になって……もといグレゴリーを舎弟にして一ヶ月が経過した。アレから私はグレゴリーを鍛え上げてそれなりの漢に育て上げた。
推しキャラからは深く感謝され、舎弟からは尊敬を深め。
私の立場は王城でも一目置かれるまでになっていた。
その私にグレゴリーは感謝の証と言って約束の通り特攻服をプレゼントしてくれたのだ。私は貰ったそれに袖を通してご満悦。
ニコニコと笑顔で王城の廊下を我が物顔で歩く。
「これはアネサン様。今後、陛下とグレゴリー殿下の献立について相談させて頂きたいのですか、お時間を調整しても宜しいですか?」
「おう、コックのジジイじゃねえか。いいぜ、適当にやってくれて構わねえぜ。後、私の名前はソロアだかんな」
「心得ておりますとも、アネサン様」
コイツ、全く心得てねえじゃねえか。
王城専属のハゲヅラシェフから献立の相談まで受け持つ事となった。
だけど私は基本的に料理系スキルが壊滅的なヤンキー娘、そんな私の知識が何処まで役に立っているかは甚だ疑問ではあるが。
それでも保存食の概念を広めた事で私は王城に勤める料理の専門家からも相談される立場となった。コックのジジイは去り際に「いつ見ても素敵なお洋服ですね」とお世辞まで口にする。
まあ、私もこの特攻服は気に入っている。
背中には龍の刺繍が刻まれて肩には『本殿武類具』の文字が施されている。素直にカッコいいと思う。
それを褒められる度に私はグレゴリーの感謝の念を抱くのだ。
いい舎弟を持って幸せ者だと。
ここのところ私の生活は穏やかだった。転生前は暴走族だった事で殺伐とした世界で生きてきたが今は平和そのもの。
この平和がずっと続いて欲しいと願うほどに幸福を噛み締めている。
そう考えると私の頬が緩んでいくのが手に取るように分かると言うものだ。私は幸せな時を全身にヒシヒシと感じる事が出来た。
だがそんな心の余裕は逆に事件の匂いを瞬時に嗅ぎ分ける要因にもなる訳で。
ここ一ヶ月感じる事の無かったトラブルの匂いを纏わせたガキが私の目の前に姿を現したのだ。それは言うまでも無く舎弟のグレゴリーだ。
ガキ王子は腕を組んで問題を抱えていると一目で分かる表情のまま廊下を歩いていた。
「んだよ、また筋肉痛にでもなったかよ?」
「あ、姐さん。おはようございます!!」
私が声をかけるとグレゴリーは背筋を伸ばして挨拶をしてきた。私の教育がしっかりと浸透している様で嬉しい限りだ。
「どした、なんか悩んでんのか?」
「え、ええ。ちょっと……」
「ンだよ、歯切れが悪いな。シャキッとしやがれ、悩みがあんなら私が聞いてやんよ」
「……姐さんって卑怯ですよね。普段は厳しいくせにこんな時だけ優しくされたら僕は……」
「あん?」
「いえ、こっちの話です」
良く分からなかった。
だが今は舎弟が悩んでいる事は間違いないらしい。
私が真剣な目で落ち込んでいるグレゴリーの顔を覗き込むと、コイツは諦めた様な顔になってポツポツと抱え込む悩みを口にしてきた。
「実は……ここのところ王都の郊外にドラゴンが出るそうで」
「ドラゴンってアレか? トカゲの親玉だろ? 私が背負うコイツだろ?」
グレゴリーに特攻服に刻まれた龍を見せつけて言葉を口にした。
「姐さんって本当に規格外ですよね」
「私の認識が間違ってっか?」
「いえ、その通りです。それで郊外の村に被害が出ているそうで、そこの住民が父に助けを訴えているのです」
「テメエはどうしたい?」
「無論助けるべきと考えています。ですがドラゴンは強い、討伐隊を結成するにしてもメンバーの無事は確約出来ません」
「要するに部下に命懸けの仕事を押し付けるのが怖えって話か」
表情に影を落とすグレゴリーを目の前にして私は逆に微笑んでしまった。
私の態度に当のグレゴリーは難色を示すが私は純粋に嬉しかったのだ。ガキ王子だと思っていたグレゴリーが成長する姿が単純に微笑ましかった。
少しだけ膨れっ面を見せるグレゴリーの肩に手を置いて私は諭す様に語りかけていった。
「分かってきたじゃねえか。これでちっとはお父様の苦しみを理解出来たんじゃねえのか?」
「父の? ……あ」
「分かったか? いくら隣国が始めた戦争と言っても守るためには軍隊を編成しなくちゃならねえ。それはドラゴンの討伐隊と同じって話だ」
「そうか、そうだったのか。僕はそれに気付かずずっと父を心の何処かで軽蔑していたんですね」
「上に立つべき人間は命令を受ける人間の被害とかそう言うのをどうしたって考えちまう。要は死んでこいって言ってるようなもんだからな」
グレゴリーは言葉を失ったらしく口を紡いでしまう。
別に私は責めたわけではない。ただ上に立つ人間の覚悟を知って欲しくて事実を述べたまでだ。だがその事実を知って「ああ、そうですか」と軽く受け止める様な人間はダメだ。
見込みがねえ。
そう言う人間は人の上に立つべきでは無い。グレゴリーにはそう言う人種になって欲しくないと真剣に願った結果の言葉だった。
グレゴリーは無言のまま私を前にして俯いたままだ。
ギュッと悔しさを押し殺す様に拳を握りしめていた。
ケッケッケ、テメエもちょっとはいい男になったじゃねえか。そう心の中で喜んだ私は俯くグレゴリーの顔の頬に手を添えて視線を上げた。
二人の視線が重なる。
私は顔どう言う訳かを赤らめるグレゴリーに出来る限り優しい声色で声をかけた。テメエには私が付いているぞ、真剣な言葉で伝えた。
「とは言えだ、戦争とドラゴン討伐じゃあ必要戦力が当然違うわな?」
「え、ええ。王国騎士団の精鋭を十人ほど見繕おうかと考えておりまして」
「気付いてっか? テメエは私の特訓で既にそこいらの騎士が束になっても負けねえ実力がある」
「……自負しています。姐さんに自信を貰いましたから」
「いい答えだ。私が精鋭の騎士八人分、テメエは二人分。これで十人分じゃねえか」
「……まさか、姐さん」
「私とテメエでドラゴン討伐のデートと行こうじゃねえか」
こうして私はグレゴリーと一緒にドラゴン討伐に向かうことになるのだった。
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