あっとらいぶらりー㉒
「満さん、よかったねぇ。」
「うん、ありがとう。これでみんなの前でも“遥ちゃん”って呼べるよ。」
そうなんだ。満さんは今回の件で、大手を振って遥お姉さまを“遥ちゃん”と呼んでも問題なくなった。それはつまり、周囲的には二人は極親しいパートナー…有体に言えばカップルだと認識される事になったという事だ。
恋愛シミュレーションに例えるならグッドエンドってところだろうか?
え?トゥルーエンドじゃないのかって?いやぁトゥルーエンドはもうちょっと先に有るんじゃないのかなぁ?
「それでそれで?他にもお話したんでしょう?どんな事を話したのかな?」
なづなってば、余程さっきの恰好を気にしてるみたいだね。兎に角話題を振って自分に矛先を向けない様にしてるみたい。ま、実際はそこまで考えてる訳じゃなく反射行動的にそうしているだけなんだろうけれど。
ボクも満さんの話は気になるから、なづなへの突込みはスルーの方向で。
「うん。いっぱい話す事があるけど、それはあとでゆっくり…っていわれたんだ。」
なんですって…?
「でもね、これだけは聞きたかったの。」
「なんで遥ちゃんって呼ぶ度に、駄目だって言われてたのか…注意されてたのか、って。」
…え?呼んじゃダメって言われてたのは『お付き合いしている訳じゃないから』上級生下級生という関係上、節度を持って…って意味じゃないの?
「私も最初はそう思ってたんだけど…。」
「…違ったの?」
「うん、違った。もっと、ずっと私の事を考えてくれてた…。」
『私も、満ちゃんには“遥ちゃん”って呼んで欲しい。でも、私が満ちゃんと一緒に居られるのは今年だけ…一年しかないの。でも満ちゃんはその後も明之星に通うのよ?もしかすると…私なんかよりずっとずっと素敵な相手に出会うかも知れない…。その時に私とお付き合いしてたって事実が足枷になるかもしれないの。素敵なお姉さまと出会って、その人とお付き合いする事になった時にね、その人がなんとも思わなくっても…周りはそう見ないかもしれない。逆に不義理な子だって言われちゃうかもしれない。だから、上級生と下級生の関係を崩すつもりはなかったの…。満ちゃんの“枷”にはなりたくなかったから…。』
「…って。」
なんと…。
なんという。
…思ってたよりずっと深い話だった。
満さんが、ちゃんと納得していれば。
そう。納得していれば、なのだ。
遥お姉さまがその意図を最初に伝えていたのなら、もしかすると素直に意に沿っていたかもしれない。逆に、それでも前みたいに親しくしたいって気持ちが固まったかもしれない。
正直、何も言わずに察しろというのは酷な話じゃないかなぁ…幼馴染で近しい相手とはいえ、たかだか12〜13歳の子供だもん。
……あぁそうか。
たかだか12〜13歳の子供なんだった。
上から言われたら反発して頑なになっちゃうなんて事だってありそうだ。一時の感情で行動して後で後悔する事にならない様に…そう考えたのなら、説明しなかったのも理解出来るなぁ…うぅ〜む…。
「それでも私は…一緒にお出掛けしたり部屋で本読んだりだけじゃなくて、学校でだって私の遥ちゃんでいてほしい。一緒にいて欲しいって思うもん…。だから遥ちゃんって呼ばせて、って言ったの。」
その気持ちもわかる。わかるんだよぅ。
ボクだってなづなに「学校では手を繋ぐのやめよう。」とか「ベタベタしないで。」とか言われたら泣いて転げ回って学校でもいつも通りが良いって主張するもの!
ある意味独占欲丸出しなのだけれど、そこはその、こう、なんだ、え〜と…ねぇ?!わかるよね?!
「私のお姉さまは遥ちゃんだけだよって。」
うわお。
満さんって結構独り占めしたいタイプなのかしらん?
あ、でも改めて言葉にしたら恥ずかしくなったらしい。頬っぺた押さえてクネクネしてる。
思春期真っ盛りの女子中学生みたいだ。
… 思春期真っ盛りの女子中学生だった。ごめん。
結局のところ何方が正解だったのかは判らないけれど、今現在、満さんが嬉しそうなんだから結果オーライなのかな?
まぁ、あと一年。思う存分イチャイチャすれば良いんじゃないかな?周囲がウンザリしない程度にね。
「そうそう!夏休みにね、コミックの祭典に連れてってくれるって!お泊まりで!凄く楽しみ!」
あらまあ。もうお泊まりでお出掛けする予定まであるんですか。そうですか。
そうだなぁ…老婆心ながら一つだけアドバイス…と言うか忠告、かな?していいかな?
「アドバイス…?うん、聞かせて。」
じゃあひとつだけ。
『相手の事を想ってよく考えて、そして考え過ぎない事』
簡単な様で意外と難しいんだよ?
「よく考えて…考え過ぎない?」
満さん復唱して首を傾げちゃった。
あ、あれ?
要点をついた良いアドバイスだと思うんだけれど?
なづなを見ると、苦笑気味に笑ってちょっと解り辛いかもね、と呟いた。
「せりが言ってるのは『過干渉にならない様に相手の事を思いやる事。けど過干渉になって嫌がられるのをを恐れて遠慮し過ぎない様に注意してね。』って意味だと思うよ、たぶん。…合ってる?」
なづながボクに視線を移し、確認を求めてくる。
そう!それ!流石なづな!
「じゃあ私は同じ言葉で別の解 釈のアドバイス、かな。」
「別の解釈?」
「相手の為にって考えて、考え過ぎて、相手の気持ちを置き去りにしない様に、気をつけてね。」
ああ、今回の遥お姉さまの事か。
満さんの為と考えて取った行動が満さんに寂しい思いをさせてしまった。先を思えば間違ってはいないけれど、結果、満さんの気持ちは置き去りになってしまったのだから、考え過ぎて独りよがりになっちゃった…って事だもんね。
なるほど、要点だけ言えば『相手の事を想ってよく考えて、そして考え過ぎない事』になるね。
「………。」
あら?
どしたの満さん?
そんなポカンとして。
「なづなさんと せりさんって…私と同い年よね?」
え?あ、うん、そうだと思うけれど…?
え、と。ボクとなづなは満13歳なので、満さんの誕生日がまだならば同い年のはずですが…?なんで?
「…なんか、委員会の…高等部のお姉さまと話してるみたい…。」
は?!え、言う事が年齢にそぐわないって事かしら?
「ん~…意見が大人っぽいと言うか、子供らしくないというか…。」
…あぁ、それは仕方ない。ボクには今世で生まれてからの経験の他に以前の経験が上乗せされているからね、同い年の子と比べたら若干老成していると思うよ?まぁ以前の経験っていっても大したモノじゃないんだけれど…。
何にしろそんな事、誰にも話すつもりはない。例え、なづな相手でも。
だから、こういう時用の答えは用意してある。
「ボクの場合だいたいママやパパ、すずな姉ちゃんの受け売りなんだけれどね。あとは、そうだなぁ…読んだ小説の引用かなぁ?」
「うん。私もそんな感じ、かな?今回の件に限っては、せりとの体験談って側面もあるから聞いといて損はないと思う、よ?」
満さんが感心したように頷いて
「なるほどぉ…そっか体験談かぁ。なづなさん達にもそういう経験があったんだねぇ。」
まぁね、小さい頃は現世と以前の記憶の境界が曖昧で、姉妹とどう接していいのか分からなくなっちゃたりしたから…色々と考えたよ。
勿論これも、ボクだけの秘密ってヤツだけれど、ね。
「そうなんだよ。せりって昔、一歩引いてたっていうか…なにか遠慮してた時期があってさ、どうしたら普通に接してくれるんだろうって凄く悩んでね。」
なづなっ!その話はっ…!
「なぁに?恥ずかしい?」
恥ずかし…!…い、です。だから、やめて?
「え?なんか気になるんだけど!?やめちゃうの?」
…満さんも聞かないで!
「ふふ、ごめんね満さん。なんか知られたくないみたいだから、この話はナシって事で。」
「え~…残念。」
…ふぅ。助かった…。
…ホントは人に知られても大した話じゃない。ないのだけれど、なんとなく知られたくないんだよぅ。たぶん聞いたら『へぇ~… 』とか『そうなんだ 』とか『子供らしいよね』程度の反応しか返ってこないんじゃないかな?
それでもね?それでもやっぱり、恥ずかしいものは恥ずかしいんだよぅ…。
だから、この話はお終い!終了!はい!
それより満さんの話でしょ!
あ~でも…大事な部分は概ね聞いちゃったか?
きゅうって抱きしめてくれたっていう部分をほじくり返しても良いのだけれど…まぁもしかしたら満さんにとって大事な思い出なのかもしれないし…そのうち、かな?
「ところで、せり?」
はい?
「満さんが戻ったら、上に知らせに行かなきゃいけないんじゃなかったっけ?」
………あ。
少々加筆しました。




