あっとらいぶらりー⑯
満さん、ちゃんと伝えられたかなぁ?
「気になる?」
そりゃあ気になりますよ。階下に降りた時は見学する気満々だったんだもの。おあずけ喰らったみたいなモノだからね。どうなったのか気になっても仕方ないでしょう?
「覗く気、ね。」くすくす。
見学!見学だってば。
そりゃあね“見学”の前に、『こっそり』とか『内緒で』って付いちゃうんだけれど。そこは目を瞑って貰ってですね、綺麗な言葉で通しましょうよ。
「内容は同じだと思うけどなぁ。」
えぇ…印象が段違いじゃない。
“覗き”って言うとさ、悪い事してるみたいじゃない?気分的にも、あまりよろしくないんですよぅ。
「言い換える事で、自分は悪い事してないって自己暗示?」
うわぁ…ますます印象悪い!
いや、だから、その、あの、え〜っと…
「私は“こっそり見学してた”なんて取り繕われるよりも、『覗いてた、ごめん。』って素直に言われる方がいいな。」
む…そう言われるとボクも後者の方が良い…かも。
「変にカッコつけなくたって、せりは元々素直で格好いいんだからさ。素のままで居れば良いんだよ。」
…え!?え〜?!
今、凄い褒められたんじゃない?!
格好良いんだって!なづなが!ボクの事カッコイイって!え〜、ホントにぃ?えへへ〜。
なづなが、こんな風に褒めてくれたの久しぶりじゃない?なになに、どうしたの突然?
「そうかなぁ?2人の時はわりと褒めてると思う、けど?」
あれ、そうだっけ…?
「最近は周りに誰かいる事が多かったし、皆んなの前では、その…私が恥ずかしがっちゃってたから……」
なづながモジモジしながら、小走りで先へ進む。
あ、照れてる照れてる。
思い出し照れだろうか?耳が赤い。
いやんカワイイ。
その照れ隠しの様にどんどん歩いていって、さっきボク達が作業していた場所、部誌が出しっぱなしになっている書架の前まで行ったと思ったら、ペタンと床に座った。
あらま、珍しい。
なづなが制服のまま自分から床に座るのなんて滅多に見ないよ?たぶん、なづなの中では床に座るというのは、お行儀が悪い行為なんだと思う。勿論、靴を脱いで上がる床はその限りではないけれど。
まぁ、行儀が悪いというのは広義的に所謂地べたに座るという行為の事ね。
で、その状態で、てしてしと自分の左隣の床を叩く。
此処に座れ、と。
言われんでも座りますけどね。
いつもの様に横座りで。
腰を落とし、なづなの隣に座ろ…うとした時、床に着く直前の手を払われた
。スパンっと。
体重の半分を支えようとしていたのだから、体は簡単にバランスを失ってしまう。柔道で言うところの”出足払い”みたいな感じ?
『あ、転ぶ。』って思った瞬間に腕か肩か…背中の方かもしれない…その辺りをクイッっと引かれてね、ころんって転がっちゃった。
突然の事だった上、完全に気を抜いていたので、何が起こったのか自分の体がどっちを向いているのかすら理解からなくなっていてさ、ちょっと呆然としてた。
え~…と?
天井が見える。あぁ、仰向けに転がったんだ。
なるほど?
…いや、まってまって?
なんでボク転がってるの?
…それは当然、転ばされたからだ。
理由はわからないけれど。
誰に?
なづなに決まってる。
なんで?
知らないよぅ。
…うん。よくわからん。
しかしまぁ上手に転がされたものだ。
身体中どこもぶつけていない。綺麗に、それこそボールみたいにコロンって転がったみたい。
ボクもなづなも、柔道って体育の授業でしかやった事ないけれど、そのなづなが出来てるんだもの、もしかして柔道の有段者って皆んなこんな事出来るのかな?
…怖っ!凄っ!
「せり?どこかぶつけた?」
ふと見ると、なづなが上から覗き込んでいた。
上から?
仰向けになっているボクを、天井側から…
あ。これ、膝枕されてるのか。
転がされた驚きで思考が変な方向に吹っ飛んでいたけれど、冷静になれば頭の下に柔らかな感触が存在しているのがわかる。
昨夜、耳掃除してもらった時と同じ感触だ。
端的に言えば、なづなの太腿の。
ふひひ♡
「む〜、なんかえっちな事考えてるでしょ?」
え?!いや、えっちな事は考えてない!はず。
ちょっと頭の下にある太腿の感触が素敵だな〜って思ってただけで、決して撫で回したいとか頬擦りしたいとかは考えてませんでしたよ?!ホントだよ?!
今考えてないかと問われると、答えに窮するけれど!
「そぅ。」
短く応えると、そっとボクの前髪を左右に分けて額に手を置いた。
あ。やっべ。これ、アイアンクローの体勢じゃない?
なづなの指に、ほんの少し力が籠るのを感じてギュッっと眼を閉じる。覚悟完了!さぁこい!
…
……
………
………あれ?来ないな?
恐る恐る薄目を開けて、なづなの顔を見る。
「なぁに?また頭掴まれてメキメキ〜ってされると思った?」
え?いや、うん。そうなんだけれど…あれ?
そう応えると、くすりと笑ってボクのおでこをペシペシと叩き、次いで髪を撫で始めた。
え、なに?
どしたの?
「ん〜…特に何も…。」
ええ…?
「ごめん、嘘。ちょっとだけ理由がある。」
ほう。
して、その理由とは如何なるものなのでしょうや?
「さっき、2階でお姉さま方と話していた時にさ、せり、言ったじゃない?『なづなはボクんだ。誰にも渡さないぞ』って。」
うぎっ……はい。言いましたね。
「…私、その時せりの事叩いちゃたじゃない?」
ん?あぁ、そうだね。何時もの反応だから、照れてる照れてるとしか思わなかったけれど。それ以外になんかあったの…かな?
「ううん。恥ずかしかっただけ、だよ。」
なぁんだ。じゃあいつも通りだね。
んで?何を気にしてるの?
「お姉さま方とお話ししててね、考えちゃったんだよ。私、ちゃんと最後まで自分の気持ちを伝えたっけ?…って。中途半端じゃなかったかなってね。」
うん…うん?…んん?…なんだか話の繋がりがわからないぞ?
「私ね、せり以外の人が居る時にね、好きとか言われるとね…恥ずかしさの方が先に立っちゃって、ちゃんと好意を返せてないの。いつもいつも、せりに言って貰うだけで私は返事を返してなかった。」
「俯いちゃったり止まっちゃったり、照れ隠しに叩いたり突いたりするだけで…。」
「それってさ、ちゃんと覚悟が出来てなかったんじゃないかな、って。」
「満さんみたいに、ちゃんと決めて、しっかり伝えて、自分の中に覚悟と決意を植えて根付かせる。」
「だから、改めて決意表明しておこうと思います。」
…そうか。思い返せばあの時、ボクがなづなに告白した朝。
ボクの告白に対しては確かに応えてくれた。
でも、最後の最後。お互いの気持ちを最終確認しようとした最後の瞬間、すずな姉ちゃんとママに見られていた事に気付いてしまった…。
なるほど、あの一件で覚悟と決意が決まり切らなかった…と、なづなは思っているのか。いや…そういう事にして、もう一度やり直して気持ちに区切りをつけようって事なんだろう。
言ってみれば“気持ちを切り替える為の儀式”みたいなものだ。
それなら、ちゃんと聞かないとね。
ボクは、なづなの膝枕から起き上がって、彼女の正面に座りなおす。
膝を揃え、姿勢を正して。
なづなも正座して、ちょっとだけ緊張した顔でボクと向き合った。
大きく息を吸って、
「じゃ、いきます。」
はい、どうぞ。
「…“なずな”って植物があるでしょ?」
…うん、春の七草だね。ボクも、すずな姉ちゃんの名前も同じ七草だもん。
そりゃあ知ってるよ。
何、突然?
決意表明は?…っと話の枕か。ボクが慌ててどうする。
「そう、その“なづな”。じゃあ花言葉は知ってる?」
花言葉。…そういや知らないね?
って言うか野草にも花言葉ってあるんだ?へぇ、それも知らなかった。
“せり”にもあるのかな?…あるとしたらどんな花言葉なんだろうね?怖い意味じゃないといいなぁ…復讐 報復 冷酷 不信感 呪い…なんてのもあったなぁ…。
いや、逆になかったらどうしよう?
「…なづなの花言葉はね、『あなたに私の全てを捧げます』なんだよ。」
はい……?!!
そんな一途な意味の花言葉なんだ…!
ふわぁ…。
「だからね。私の全部は、せりの、だよ。…あ、これはこの前言ったっけ?…まぁいいや。」
なづなは、少し目を閉じて、すっと息を吸って
「あなたに、私の全てを捧げます。ずっと一緒に…傍にいてくれますか?」
この前はせりが言ってくれたから、今度は私からね、と言って微笑む。
…嬉しい。嬉しい嬉しい嬉しい!!
もちろんです!
当然です!
嫌だって言っても離れません!
あれ?!これ前にも言った気がする?!
でも良いや!何度だって言っちゃうもんね!
そして、ボクの答えは決まっている。
ボクの告白に応えてくれた、なづなと同じ言葉。
「よろこんで。」




