あっとらいぶらりー⑭
そぉっと。
そぉ~っと、音を立てない様に。その場を離れ上の階へ向かう。
この文化棟の階段は、建物の中央を貫く二重螺旋の大階段と建物の外壁にある非常階段の二つだけ。
階段の昇りと降りは明確に区別されていて、右回りの階段が昇り階段になっている。階段に描かれた矢印に従って歩いていけば、自然と最上階を経由して一階まで降りて来れるようになっているのね。往路と復路が交わらない構造、つまり一方通行になっているわけ。不思議だと思う?こういう建築物って意外とたくさんあってさ、有名な所だと『会津さざえ堂』とか『曹源寺 栄螺堂』『西新井大師 總持寺三匝堂』っていうのがある。みんな200年以上前に造られた建物なんだって。
全部お寺さんっていうのが、参拝者がすれ違わずに済む様にと考えられた構造だって事を物語っているね。
閑話休題。
誰かが降りてくるって事は、下り階段を昇らなきゃいけないわけだけれど…なんかさ、こういうのって気持ち悪くない?
厳然と存在するル-ルを破るとか自分のポリシーに反する行為とか…
いやまぁ、今回に限ってはグッと我慢して降り階段を昇るけれどね。昇りますよ、今回だけね、今回だけ。
降り階段を逆行し、半分程も登ったあたりで降って来る人の姿が確認出来た。濃い茶系の制服…高等部のお姉さまだ。
「お姉さま、失礼致します!」
なるべく小さな声で、響かないように。
床も壁も天井も吸音材が貼られているんだから、余程の大声でなければ満さん達まで届く訳はないのだけれど…一応ね、一応。
慌てていて失念していた訳じゃないよ?ホントだよ?
「え?あら、双子ちゃんじゃない。どうしたの?」
「貴女達、こちらを昇って来ちゃダメよ?教わらなかったの?」
「はい、あ。いえ、存じております。」
おぉっと、お小言頂いちゃいました…当然だけれど。
時間稼ぎの足止めが目的なので特に問題は無い。
降りていらっしゃったのはお二人。
上履きの色から察するに、三年生。遥お姉さまの同級生だね。
さてさて、どうしようか…
寧ろボク達がお小言を頂いてる間に、満さんの告白?が終わってしまえば手っ取り早いのだが…いや、告白が成功だった場合、その余韻に浸る時間ってのも必要でしょ…2人で幸せを噛み締める時間がさ。
そうすると、やはり何らかの理由を付けて待ってもらわないといけないよね?
素直に全部話してしまった方が良いのだろうか?
暈した方が良いのだろうか…?
話したとして、後で遥お姉さまが揶揄われるなんて事態にならなければ良いのだけれど。
「少々訳が御座いまして…降りていらっしゃる方とすれ違いにならない様に、と。」
「規則違反は重々承知の上で昇って参りました。」
どうかご容赦を、と頭を下げる。
「そう。理解っているのなら良いわ。」
お姉さま方もそれ程厳しく言うつもりはない様で、二言三言注意を受けただけで済んだ。というか、済んでしまった。ガッツリお説教してくれるタイプの方だったら、自然と足止め出来たのだけれど…。
良いんだか悪いんだか。
「で?訳ってなぁに?」
ゔ…やっぱり聞きますか。
そうですよね。
流石にそこは気になりますよね。
「え、と…今、一階で大事な話をしてらっしゃるので…その、出来るだけ邪魔をしない様にと思いまして…。」
なづなが逡巡しながらも説明すると、お姉さま方は顔を見合わせ、やがて喜色を浮かべた。
「今一階に居るのって遥ちゃんと満ちゃんよね?!」
「2人だけ?!他に誰かいるの?!」
「え?あ、はい。遥お姉さまと満さんのお二人だけです。」
…なんだなんだ?
なんでこんなに嬉しそうなの?
え、何?どういう事?
「2人なのね!?2人で大事な話をしてるのね?!」
「2人の邪魔にならない様に、双子ちゃんが門番をしているって事でOK?」
ええまぁ、その認識で概ね正解ですが…えぇ?
「それで?!何方に頼まれたの?!遥ちゃん?満ちゃん?!」
あ、あの、お姉さま。少々お声が大きゅう御座います。もう少し抑えて下さいまし。
お姉さま方、2人して慌てて口を押さえてコクコクと頷いた。いわざるみたいなポーズになってて、なんか可愛い。
「…で、で?どっち?」
ヒソヒソ〜…。
いや、あの、そこまで小声にならなくても…。
「私達が勝手にやっているだけで、頼まれたという訳では無いのですが…。」
「行動したのは満さんですね。」
お姉さま方は目配せして『やっぱり』と呟き、ニンマリと笑みを見せた。
…やっぱり、という事は…もしかしなくても図書委員のお姉さま方は、満さんが遥お姉さまを慕っているのを知っていたって事だよね?
「お姉さま方は満さんの気持ちをご存知なのですか?」
きょとん顔のお姉さま方。
ゆっくりと顔を見合わせて…
盛大に吹き出した。
それでも頑張って声を出さない様にしてるみたいで、口を押さえて身体中を震わせて笑いを堪えている。
それはもう、痙攣と言ってもいいレベルで。
「……そりゃあもう、これでもかってくらいに見せつけられたもの。」
「…そうね、あれで気付かないのは…余程他人に興味がない人か、ハーレム物の鈍感主人公くらいのものでしょうよ。」
鈍感主人公?!そんなに?!
え、え?どういう事?
満さん、側から見てもバレバレなくらい遥お姉さまにべったりだったって事?
「そんなに分かり易かったのですか…?」
「満ちゃんなんかときどき、ポロっと『遥ちゃん』って言っちゃうし、遥ちゃんは遥ちゃんで、呼ばれる度にデレッデレだったしねぇ。」
「一応みんなの前では注意してたみたいだけど、まぁザルだったわよ。」
もう完全に周知の事実だったんですか?
そんな状態なのに『仲良くしたいだけ』とか言ってたの?
お付き合いしたい訳じゃないとか宣っていたの!?
…よくもまぁ…知らぬは本人ばかり也…って、使い方が間違ってる気はするけれど、状況だけならしっくりくる言葉だねぇ…。
「あの二人ったら、どう見たって相思相愛なのに何方も踏み込まないから…もうじれったくって、じれったくって…!」
「どっちが先に踏み込むか、って図書委員会みんなで話してたのよ。大方の予想は満ちゃんが先に動くだろうって言われてたんだけど…その通りだったみたいね。随分時間かかったけど。」
なんとまぁ…
「…あの、お姉さま。」
「なにかしら?」
「その、満さんが、遥お姉さまの事を…特別に想っていると周囲が気付いたのは…いつ頃なんですか?」
「…いつ頃だったかしら…?」
「最初からじゃない?遥ちゃんを見る時だけ、眼の色が違ってたもの。」
はぁ……満さん…。
君、ボクが考えてたより、すんごい分かり易かったみたいだよ…。




