あっとらいぶらりー⑪
「満さん、お願いがあるんだけれど。」
「わかった。影法師の事は黙っておいた方がいいのね。うん、了解。」
おっと、話が早いですね。
ありがたいです。
因みに現在は三人ともすっかり休憩モードでして、床に座り込んでいます。
図書室の床は吸音マットが敷き詰められているので冷たいとか硬いとかっていうのはないんですよ。けっこう座り心地がよかったりするんだよね。
あんまりお行儀はよくないんだけれど。
まぁ三人しか居ないから大目に見てねって事で。
「菫さんと光さんには?もう知ってるの?」
「ううん、まだ。私達が影法師なんじゃないかって疑念を持ったのが今日…午前中の事だったし、あくまで疑念で確証は無かったから。話してない、よ。」
あ、そうなんだ。
てっきり、なづなが話してると思ってた。
っていうか、なんで光さんと菫さんが出て来たのかな?ここ数日の行動からって言うなら、椿さんだって一緒にいる時間はそこそこ長かったと思うんだけれど?
「う〜ん…光さんと菫さんは、なづなさん達の隣にピシッと収まった感じがするの。パズルのピースみたいに。」
ああ、なんかわかる。
空いていた空間にするりと入ってきた感じはあった。そこに居るのが自然な感覚っていうのかな?最初から君の為の席ですって、用意されてた、みたいな。
「けど椿さんって、う〜ん…言い方は悪いけど、傍観者を気取っている、みたいなところがあったの。一歩引いて眺めてるっていうか…。」
満さんには、そう見えてるのか、へぇ…面白い。
「アリーナ最前列で観たいけど、ステージには上がらないぞ、っていう…関係者席に陣取っている人?」
関係者席!それは面白過ぎる!
あははははは!関係者席!
…やばいツボった…!お腹痛い…!
「ん〜…でも椿さん、私達には一生懸命お手伝いしてくれてる様に思えるんだけど…。」
…ふむ…確かにね。新歓祭の事は積極的に手伝ってくれているし、進んで関わろうとしてくれてる様には感じるなぁ…ぷふっ…関係者席…ふふふ…
「そう!そこなの!」
うわ、びっくりした、どこ!?
「椿さんてね、前は極力目立たないようにしてた傾向があったの。さっきも言ったけど一歩引いて眺めていた感じよね。なのに今は、なづなさん達のお手伝いを進んでやってるじゃない?…突然変わったの。」
「それは最近の話、なの?」
「最近も最近!なづなさん達が椿さんと眼鏡の話をした後よ。」
ホントに最近どころかつい昨日の事だった!
え、そんなに急に?!徐々に変わっていて、周りがそれに気づいていなかったとかじゃなくて?
「その可能性もなくはないけど…でも、う~ん…。無理してるんじゃなければいいけど…。」
おやまぁ。心配してるのか、優しいね。
でも、たぶん心配は要らないと思うよ。
椿さん、今日すごく楽しそうだったもの。
…そういえば、眼鏡の話で思い出したんだけれど…あの時、満さんさ、椿さんの事呼び捨てにしてたのに、今は普通にさん付けだね?別に喧嘩したとかって訳でもないんでしょう?なんか理由があるのかなって。
「あれ!?こっちに飛び火した?!」
「あぁ…そうだったね。『椿、戻ってきな』って言いながらベシベシ叩いてたっけ。かなり気安い仲なんだろうなって思ったんだけど…。」
なづなも叩いたり揺すったりしている情景を思い出したのだろう、クスクスと笑いながら悪戯っぽい視線を満さんに送っている。
「あ、あれは、いや、その…つい癖でというか…。」
「初等部の頃は呼び捨てにしてたんでしょ?なんで改めちゃったの?」
「…なんでって言われても…その、なんでだろう…?馴れ馴れし過ぎるのもあれかな、って?」
…あ、もしかして遥お姉さまのご指導が、無意識の内に悪い方に作用しちゃってるのかな?2人きりの時は昔通りの親しい呼び方でいいけれど、第3者が居る場所では礼儀礼節を守ってという如何にもお嬢様的な指導が。
もちろん悪い訳じゃない。真っ当な指導だと思う。
けれど、今の満さんにとっては少し拙かったかもしれないね。でもこれは…う〜む…。
「そっか、じゃ仕方ないね。」
おや。なづなは口を出さない事にしたのか…?
そうだよなぁ、下手な事言ったら、遥お姉さまの意見を否定されたって取られちゃうかもしれないもんなぁ…ボクにその気がなくてもね。
「でも…。」
ん?
「私だったら…少し寂しく感じる、かな?」
あぁ、言われた側からの意見か。
遥お姉さまの言葉を否定せずに助言する恰好だね?
確かに、いきなり距離を取られたみたいで寂しいなって思うかもね。流石はなづな、やっぱり寂しがり屋さんじゃん。
「え…?寂しい?」
「うん。私だったらって話だから、椿さんがどう思ってるのかは分からないけどね。」
うんうん。
例えば久しぶりに会った仲良くしてた友達がさ、凄く畏まった話し方に変わってたら、距離を感じたりするんじゃない?前はあんなに仲良くしてたのに〜って。
そりゃあね、礼儀礼節、言葉遣いはとても大事だと思うけれど、何時も何時でもキッチリしてなきゃいけない訳じゃない。と、思うんだ。
当然これも、ボクの個人的意見。
ボク達なんてその境目が超はっきりしてるんじゃないかな?小さい頃から、すずな姉ちゃんを真似て慇懃であるように心掛けていたから、目上の人達に対しては丁寧な口調や仕草が染み付いているんだけれど、クラスメイトや親しいお友達には砕けた態度で接している、つもりなんだけれど…。
ただ、別に同じ様にしなきゃいけないって事はないし、満さんの考え方ってのもあると思うし…あ、いかん、だんだん何言ってんのかわかんなくなってきた。
ごめん、ボクの話、破綻してない?大丈夫?
「今のところは。」
苦笑しながら、なづなが答えてくれた。
感情やノリに任せて喋ると、とっ散らかっちゃって何喋っているのか分からなくなっちゃうんだよね。
ホント悪い癖だ。
「せりは、もうちょっと整理してから話す様にしようか。」
はい。すいません。
リアルお姉様のご指導、頂きました。
「…本当になづなさん達って、仲が良いのね。」
そりゃ双子だし、生まれてこの方片時も離れず同じ時を過ごして来たんだもん。なづな以外で、なづなの事を一番知っているのはボクだって断言できるくらいには仲良いと思う。
「またそういう事を恥ずかしげもなく… 」
え?あ、ごめん。でも、そんな照れなくたっていいじゃない。
いつも言ってる事と大差ないでしょ?
「昨日の今日なんだから、ちょっとは手加減してよ…。」
昨日の今日って…まだ引きずってるって訳でもないでしょうに。
あ~、でも真っ赤になって照れてる なづなは可愛かったなぁ…いや、可愛かったけれど中々に面倒臭かったかな?…ん~あの面倒臭さに耐えて照れなづなを鑑賞するというのも…アリっちゃアリかもしれいだだだだだ!
ちょ!おしり!おしり抓らないで!痛ぁ!!
「せ、せりさん?!どうしたの?!大丈夫!?」
なづなのピンチ・ザ・バットから解放されて、正座の恰好のまま前のめりに倒れ、プルプル震えているボクを満さんが心配してくれる。ありがとう大丈夫…大丈夫だよね?千切れてないよね?
「もう、いつも大袈裟なんだから。」
いやいやいやホントに痛かったんだって!
「ふ、ふふふ。いいなぁ、そういう気の置けない仲って。…やっぱり年の差って大きいのかなぁ…。」
小さな声でポツリと漏らしたそれは、もしかしなくても遥お姉さまの事だよね。
そうか、年の差が壁になってると感じていたのか。
…そう思っている事こそが壁だというのに…。
まぁ、まだわかる訳ないか…。
「なぁんだ…やっぱり遥お姉さまともっと仲良くなりたいんだね。」
「…あ!いや、それは…!」
うんうん、大丈夫。言いふらしたりしないから。
さっきも言ったじゃん。相談に乗るくらいはするって。
それほど画期的なアドバイスとか出来るわけじゃないけれど、一人で鬱々としているよりは随分とマシだと思うよ?
どう?




