あっとらいぶらりー⑩
「…っなんっ…じゃ、こりゃあぁー!!?」
「せり、言葉遣い!」
あ、ごめんなさい!
いや、でもね?これ叫びたくもなるよ?!
言葉も荒くなろうってものですよ?!
なにこれ?!『伝説とも言える偉業』って何?!
え?どういう事?!
その、成した偉業については書いてないの!?
「…えっと、どうだろ?考察のところには書いてない…みたいだけど…。ちょっと待って?」
満さんは、文字を指でなぞりながら注意深く読んでいった。
「あ~…これかな?…なになに?『あまり知られていないが、制服、体操服、指定水着等のデザイン変更、視聴覚室機器の導入、正面ロータリー整備事業、送迎バスの民間会社への事業委託、冷房の設置、校則の改定等々、これらは全て生徒会執行部の発案、主導において成された事である。今日我々が快適に学院生活を送れるのは…』え、すごい。こんな事やったんだ。」
…なんっじゃこりゃあ!?!
あ、すいません二回目ですね!いえいえ声には出してませんよ?思っただけです。いや、でも、え~…嘘でしょぉ…
これ全部、影法師に逢った人がやった事だっていうの?…”楽しい”とか”充実した”っていうのは、こういう事かぁ!全部、学校史に記載されるものばかりだもの、なるほどこれだけの事を成したのなら、それは充実していただろうね!
平穏ではないんだろうけれどっ!
しかしそうか…これを読む限り影法師っていうのは、もしかすると預言者の様なものなのかもしれないなぁ。何か大きな事をするであろう生徒の前に現れるとか、あるいは姿が見えた者だけが何かを成す可能性を秘めているのか…。
逆に記録に残っているのが何かを成した人物だけで、出会っていても何もしなかった人だっていたのかもしれない。成さなかった人は記録に残っていないだけ…いや、それなら体験談くらいは残っているはずか?う~ん?
…じゃあ、やっぱり前者の方が正解なのだろうか?
どっちが正解であったにせよ所詮は推測に過ぎないし、ただの偶然って線もない訳じゃない。
…が、偶然にしては出来過ぎている。
だとすれば、だ。
「…このレベルの事をやらなきゃならないのかぁ… 」
「これに比肩するのはキツそう、だねぇ… 」
なづなと二人、がっくりと肩を落とす。そりゃ肩も落ちようってものですよ、執行部に所属して学校側を動かして、生徒が心地よく学院生活を送れるような、そんな改革?…をしなきゃいけないって言われたも同然なんだから。
……何をすれば良いんだろうね?ボク達に出来る事なんてあるの?
「ね、ねえ二人とも…?」
ん?なぁに満さん?
彼女に預けていた身体を起こして左右から顔を覗き込むと、ボク達の顔を交互に見て、驚いた様な困惑したような、そんな顔をしておずおずと口を開いた。
「間違ってたらごめんね…?」
はい、大丈夫ですよ。何でしょう?
「もしかして、その…影法師、見たの?」
…おや、どうしてそう思ったのかな?
「だって、今『このレベルの事をやらなきゃならない』って言ったよね…?そんなの影法師を見たのでもない限り口にしないでしょう…?」
まぁ別に隠すつもりはないのだけれど…吹聴して回るつもりもないだけで。
そうだよ。ボク達は影法師に遭遇しました。そりゃあもう、がっつりと。
「ど、どんなだったの?!」
あ、そっちに興味あるのね。
んとねぇ…誰の姿だったのか、というのはナイショ。
けど、本人と並んでもどっちが影法師かっていうのは判別出来ないんじゃないかな?少なくともボク達はそう感じたよ。…実際は、本当に似ていたのかどうか、すごく怪しいんだけれどね。だってボク達がそう感じたというだけで、後で思い出そうとしたら服装も何もかもが曖昧でさ、全然はっきりとした事がわからなかったんだもん。
…これもナイショだけれど、その場にいたのに柚ちゃんには見えてなかったッポイからね。ボク達の認識なんて当てにならないよ。
「そうなんだ…怖くはなかった?」
「そう、だね。目の前にいる時は本人だと思っていたからね。怖いとかは思わなかった、かな。」
「はぁ~、そうなんだね。じゃ、じゃあ、影法師だって分かった後は、やっぱり…?」
「そりゃぁもう、ガタガタ震えちゃったよぅ。映画やお化け屋敷なんて目じゃないくらい怖かったんだから…せりなんて失神しちゃったくらいだよ?」
ちょ…!
なにもバラさなくたっていいのに!?
いや事実だし否定するつもりもないけれど!
なんか情けない奴とか思われたりしない?
実際情けない姿を見せたんだから、思われてもしょうがないんだけれども!
「せりさん、気絶しちゃったの?!そんなに?!」
うう…そうなんです。
スイッチが切れるみたいにストンと…。
気が付いた時は保健室で寝てました。
でもね、言い訳みたいに聞こえるかもしれないけれどアレは耐えられないよ。視覚や聴覚に来る刺激じゃなく精神に直接訴えかけてくる、いわば精神攻撃だったんだから!そう、肉体的恐怖ではなく精神的恐怖!第三者には何の影響もない、当事者のみが感じる恐怖感!
人類の最大の特徴である「想像力」がマイナス方向へ働いた場合に発生する恐怖感!それがボクを襲ったんだ!
「なんか難しそうに言っているけど、要は、凄く怖かった、って事だからね。」
要約されるとしょぼい!?
「そっか…せりさんでも、そんなに怖がったりするんだね。ちょっと意外かも。」
う~…ボクって、そんなに動じない様な人だと思われてるんですね?
確かに今回は無性に恐ろしかった。この間も考えていたけれど、やっぱり『本物』だから、未知のモノだったから特別恐ろしく感じたんだと思う。
「そりゃあねぇ、ボク達だって怖いものは怖いさ。」
「他にも怖い物ってあったりするの?」
他に?
他にねぇ…。
…饅頭?
「落語じゃん。」




