あっとらいぶらりー⑤
サブタイトルを変更しました。
目指すは図書室。
実は明之星中等部には図書室というのは存在しない。もちろん図書室はあるのだけれど、”中等部の“ というわけじゃないんだ。
軽く説明するとね、今ボク達が通っている明之星女子学院という学校は幼稚舎、初等部、中等部、高等部、大学に分かれてはいるけれど、幼稚舎に入ってしまえば後はほとんどエスカレーターで進学できちゃう。
当然、途中で入って来る子も出て行く子もいるのだけれど、まぁ稀だよね。
で、その内の中等部と高等部がボク達のいる此処。
同じ敷地の中に二つの学校があるわけ。
その所為で、かなりの施設が共用になっているんだ。体育館、武道館、講堂、書道室や美術室。理科室に被服室、視聴覚室とか天文台なんてのもあるんだよ。
図書室もその一つ。
場所は生徒館の北隣にある円柱状の建物。
ミルクホールの隣って言った方が分かり易いかな?
ここには文化棟という名前が付いてるけれど、建物内は全部図書室なので、最早図書館と言ってもいい気がする。
フロアぶち抜きのひっろい図書室でね、司書さんも複数人常駐しているんだ。ボクなんかは偶にしか行かないけれど、本好きの人には堪らないんじゃないかな。
生徒館を経由して文化棟へ。
と、ここ迄来ておいて今更なんだけれど、今日図書室開いてるのかな?
「ホントに今更だよ!?」
ごめんて。いや、だって、今気が付いたんだもん。
まぁ、あと数メートル進めば図書室の入り口が見えるんだし、怒らない怒らない。
「怒ってはないけど…てっきり知ってるものだと思ってたからビックリしたんだよぅ… 」
あっはっはっ、なづなが知らないのにはボクが知ってる訳ないじゃん。あ、いて、いたたた、ごめんてば、脇腹突かないで?いたいいたい、地味にイタイ。
ほ、ほら、図書室、着くから、ね?
ぷぅと頬を膨らませたままズンズンと図書室に向かって行っちゃった。あらら、揶揄ったつもりはなかったんだけれど、ちょい拗ねしちゃってるよ。
ねー、ごめんって。なづなぁ、ごめんってばぁ。
先に図書室前に着いていたなづなが、何か逡巡する様に扉に手を掛けたまま固まっている。
ん?閉まってるの?いやでも、閉館の看板とかなかったよね?開いて無ければ生徒館との接続通路に『閉館』って立て看板があったはず…。
「あれ…?もしかして本当に開いてないの?」
「…鍵はかかってないんだけど…人の気配がない…。」
見える範囲に人がいないって事?どれどれ?
両開きの扉の窓から中を覗いてみる。
扉に付いている大きな丸窓はステンドグラス調になっていて、透明な部分は半分程しかないのだけれど充分に中を見通せるんだ。
ふぅむ…確かに此処から見える範囲には人影はないねぇ。
でも死角になっている部分もあるんだし、其処にいるかもしれないじゃない?
けど、そうか。なづなは人の気配がないって言ったっけ。
なら誰もいないのかな?…開けっ放しで?そんなことある?
「とりあえず、開いてるんだから入って声かけてみよう?」
そうだよねぇ。もしかしたら上の階に居るのかもしれないし…入ってみようか。
「「失礼しまーす。」」
返事がない。やっぱり誰も居ないんだろうか?
普段なら入口の脇にあるカウンターに貸し出しや返却対応の人員が居るはずなんだけれど、空の椅子が何脚かあるだけで人は見えない。
え~、これ入っちゃまずかったかなぁ…?
「すいませーん、どなたかいらっしゃいませんかー。」
うお、びっくりしたぁ!
なづなが、建物の中央にある階段に向かって呼びかけた声だ。
大きな声だったんでちょっと驚いちゃった。けど…う~ん、やっぱり返事がないねぇ。扉が開いてるんだから誰もいないって事はないと思うんだけどなぁ。
「すいませーーーん。」
「はいはーい!!」
おおぅ!?
予想外の方向から返事が返ってきて、ボクとなずなは思わず声の方に向き直った。
声が返ってきたのはボク達の背後、ミルクホールとの接続通路の方からだったから。そして声の主を見てまた驚いたんだよ。
「あれれ?なづなさん、せりさん?どうしたの?」
満さん?なんで満さんが此処に?
「なんでって、図書委員だから?」
え?
あ!
そうだった!満さん図書委員に立候補してたじゃん!
いやいや覚えてましたよ!?
ちょっと意外とか失礼な感想持ったのが心苦しくて、記憶の片隅に追い遣っていたとかそういう事じゃないからね?ホントだよ?
「え~ひっどい。意外ってなに!?」
ご、ごめんなさい!
「せりはねぇ、満さんは趣味を優先するタイプだって言ってたんだよ。だから委員会活動を率先してやってるのが意外に思ったんだって。」
いや、その通りなんですけれど、ばらさないで?!
「あ~なるほど。けど図書委員も趣味の一環だからね、別に意外って程じゃないと思うんだけどな。」
図書委員が趣味の一環なの?
…まさか図書委員で居続けて影響力を増し、数年かけて漫画コーナーを設置しようとか、そういう遠大な計画を企てているとか?!満さん、おそろしい子!
「おお!そんな手があったんだ!試してみようかな?」
あれ…?違うのか。
ちょっと、なづな!?なんでそんな残念なモノを見るような目で僕を見るかな!?…え?今のアイデアそんな間抜けっぽいアイデアだった?噓でしょ?!
「…そんな事しなくても購入企画書にお目当てのマンガを載せておいて、許可が取れる様な理由を添付すれば良いだけなんだから、何年も図書委員続けなくたって出来るんだよ。」
「その許可を取るのが難しいんだけどね。」
確かに漫画を予算で購入するための理由づけって難しそうだなぁ。
満さんが言うには、中等部ではそこまで厳しくはないけれど、学校の予算を使う以上、ちゃんとした文章で企画書を通さなければいけないらしい。
しっかりした書式でなければ、読んですらもらえないんだって。
そういうものなんだ…学校の委員会といえどお金を扱うんだから、当たり前といえば当たり前なのか。
「ところで満さん。今日は図書室、開いてるのかな?」
「あ、うん。開いてるよ~。」
どうぞどうぞと中に迎え入れてくれた。
でも、満さん一人しかいなくて大丈夫なのかな?
「他にもいるよ。声が聞こえなかっただけじゃないかな?」
四階の閉架書庫に入ってたら、まず聞こえないんだって。
閉架書庫なんていうのもあるんだ…結構知らない設備って多いんだねぇ。
知っちゃうと入ってみたくなるよね?生徒館のお風呂とか宿泊所もそうだったし。
「満さんはどこにいたの?」
「生徒館のお手洗いにね。文化棟にはないから。」
え、文化棟にお手洗いなかったっけ?
「うん。ここは水気と火の元はないんだって。」
へぇ~…ん?あれ?消火設備はあるんじゃないないの?スプリンクラーとか
付いてないわけないよね?
天井を見上げれば、数メートル置きに金属の蓋みたいな物や、小さなメガホンの様な物、マイクの頭を半分に切った様な形状の…なんだアレ?…まぁそんな物が、ポツポツと付いているのが見える。
あのどれかがスプリンクラーなんだろう。
蓋みたいなヤツがそうかな?カシャって下がってブシャー、みたいな感じで。
「ああ、それなら水を使わない…なんとかいう…なんだっけ?」
「不活性ガス消火設備?」
「そうそれ!」
あらハズレ…。スプリンクラーじゃないんだって。
不活性ガスっていうと二酸化炭素とか窒素?電子機器とかに影響しないように水や泡を使わない消火設備が存在するっていうのは知ってたけれど、まさか学校にあるとは…。まぁ本だから水に濡れたらおじゃんだもんね。理には適っているのか。
てか、なづなよく知ってるなぁ。
「それはそうと、二人はどうして図書室に?」
「実は… 」
ボク達は、影法師に出会ってしまったという部分は伏せて、七不思議の事を調べたければ文芸部の部誌に詳しく載っていると教えてもらった事、部誌があるとすれば文芸部の部室か図書室ではないかと予想して、まず図書室をあたってみる事にしたと説明した。
「なるほど、文芸部の部誌ね。それなら…たぶん3階じゃないかな。」
ちょっとまってて案内するから、と言ってカウンターの中に入ってゆく満さん。はて?入口開けっ放しでいなくなっちゃっていいんだろうか?
…そういえばさっきは誰もいなかったね。
「もうちょっとしたら一人降りてくるから。そしたら一緒に三階行こう。」
…あ、どうやら交代要員を呼んだらしい…。
そうだよねー。流石にカウンターほったらかしにはしないよねー。
満さんを見たら、ちょっとバツが悪そうに口に指をあてて
「お手洗い行ってたの、ナイショ、ね。」
だってさ。
うふふふ。
口止め料は何にしようかな?
満さん再登場。
桂ちゃん、椿さんに並んで勝手に動いてくれる子なので、諌めるのが大変です。
放っておくと本筋からどんどん外れて行きそうで…




