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あっとらいぶらりー

あとは帰るだけ……のはず。




P.S.サブタイトルを変更しました。

「な…づな、なづなぁ…。」


「だ、大丈夫だよ、お、お姉ちゃんがついてるからね…!」


「なづな、か、身体が言う事きかない…勝手に、震えちゃって、と…止まんない…。」

「わ、私も…怖いのは(おさま)ってるのに、震えが…。」


ボク達は今、2人揃って絶賛腰抜かし中です。

最後の最後に手書きのメモ紙を残していくとか、気配りなのか嫌がらせなのか、とても判断に困ります影法師(ドッペルゲンガー)さん。

マリー先生の説明で“悪いものではない”という認識には至ったものの、人体消失を目の当たり(まのあたり)にした衝撃と驚愕、先程迄とは明らかに筆跡の違うメモを残していったという事実は、ボク達の膝と腰を砕くには充分過ぎる破壊力だったよ。

マリー先生が真剣な顔をしているところを見ると、今回の“メモを残す”という行動もレアケース、若しくは初のケースなのだろうと思う。


取り敢えず、精神の方は少しずつ立て直せているけれど、身体の方がなかなか立ち直ってくれないんだよね。立とうとすると膝が震えて、腰に力が入らない…。

なんだろうねコレ…。人知の及ばない存在という根源的な恐怖に、精神ではなく身体の方が参ってしまっているのかもしれない。

…わかんないから適当言ってみただけなんだけれど、なんかそれっポイな。考えなしに発した言葉が正鵠を射ていたなんてよくある話だし、もしかしたら正解なのかも。


まぁ正解だったとしても、身体が動かない事には変わりはないんだけれど。

なづなも気力は充分なのに身体が付いて来ないのは同じ様で、手と脚だけが小刻みに震えている。


どうしよう…これ落ち着かないと下校も出来ないよう…。


「これだけ立て続けに怪奇現象に見舞われたらねぇ~。」


そうなんですけれど、なんか軽くないですか?!

っていうかマリー先生は全然動じていないんですね?

メモ紙見つけた時は表情がなくなるくらい驚いていたのに、今は動揺の『ど』の字も感じられないんですけれど、平気なんでしょうか?


「私はこういうの好きだからね~。」

好きで済ませて良いレベルじゃなかったと思いますよ今日のは。

いつも落ち着いているマキ先生があれだけ取り乱して、ホラー耐性のあるボクの腰が抜ける程の出来事だったんですけれど?それを『好きだから』で済ませますか。


「まぁまぁ。今お茶を入れるから、ちょっとまっててね~。」

あ。ありがとうございます。いただきます。


お茶を頂くにしても、このまま床にへたり込んでいるままじゃ不味かろうという事で、ちょっと頑張って席まで移動しようと、なづなと2人でお互いを支え合って立ち上がったんだけれど、相変わらず膝が笑っていて真面(まとも)に歩けない。

マキ先生に手を貸して引っ張り上げるにも一苦労だよ。ヨタヨタしちゃってさ。

いやこれホント厄介だね。

もしかして身体が(すく)むって、こういう事?

意識は前に行こうとしてるのに足が出ない、みたいなやつ。

あ。もしかしてゲームとかで、ラスボスの魔神とか邪竜の前に立った主人公パーティが『こんな奴に勝てるの…?』みたいな台詞を言う時って、こんな感じになってるのかな?やらなきゃ…!でも身体が動かない…!的な。

……ん〜、なんか違う…。


しかしマリー先生。ほんわかした癒し系の女性(ひと)だと思っていたんだけれど、意外や意外オカルト系大好きなんですね。外見とのギャップが凄いです。

お茶を淹れているマリー先生の後ろ姿を眺めていていて、ふと思い出した。

さっき柚ちゃんが来た時の事だ。


「ねぇ、なづな。ちょっと思い出したんだけれど… 」


「うん?」


「大した事じゃないし、どうでもいいんだけれど。」


「うん。」


(ゆず)ちゃんが来た時さ、お茶が出てきたらビックリしちゃうって言ってたの… 覚えてる?」


「…うん。」

「よく保健室に出入りしてる(ゆず)ちゃんがさ、保健室にティーセットがあるの、知らないと思う?」


「思わない…。」


「だよねぇ…(ゆず)ちゃんね、あの時『なづなちゃんも一緒なんだ』って言ってたんだ。マリー先生に挨拶もせずに。」

だから変だなって。


「…せりは、つまり、あの時の(ゆず)ちゃんにはマリー先生の影法師(ドッペルゲンガー)が見えてなかったんじゃないか、って思ってるんだね…?」


「あ、凄い。よくわかったね!?」


「なるほど…確かに…それで?」


「…?ううん、それだけ。」


…ちょっと!なんでそんなに『呆れた…』みたいな顔するの!?本当にちょっと気になっただけで、特に意味はなかったんだってば!仕方ないでしょ?!

だって、なんか考えてないと怖いのがぶり返しちゃいそうなんだもん…。それに突き詰めたって、どうせ(わか)りっこないじゃん?


「…まぁ、ねぇ。マリー先生に聞いても『詳しくは部誌をどうぞ』って言われそうだし、ね…。」


でしょう?

確かにね、話のネタとしては面白い経験だったよね。

もう一回したいかと言われたら二度と御免ですと答えるけれど。


「は〜い、お待たせ〜。」


コトリと置かれたマグカップからふわりと香るリンゴのような少し甘い香り。

良い匂い。ハーブティーかな?


「カモミールティーよ~。リラックス効果があるからお薦めなの。」


リラックス効果!今のボク達にはぴったりだネ!

まぁボクに限って言えば、心の方は兎も角、身体をリラックスさせたいのだけれど…あ~~~おいしい~…ホッとする味だねぇ…。


「ゆっくり香りを吸い込みながら、少しづつ口に含むと良いわよ~。」


なるほど、香りの方にも鎮静効果があるのか。

マキ先生もちょと落ち着いたみたいで何よりだ。

さっきまで随分と表情が硬かったもんなぁ…。


「マキ先生も~、落ち着きましたか~?」


「ああ…。お陰でなんとかな。」


マシになったとはいえ、まだまだ表情は優れない。やはりあんなオカルト体験を連続して喰らっちゃうと精神的にきついですよねぇ…。


「いやぁ…腰を抜かすとか、みっともないところを見られてしまったなぁ…。」


いやいや、そんなことありません!

それを言ったらボクなんて一回目の話題の時に失神、二回目は絶叫してへたり込み、三回目も腰を抜かして涙目でしたが?

それに二回目の消失事件の時のマキ先生、凄くカッコよかったですよ?

ボク達二人を抱えて、守るような形に身体の位置を入れ替えて。

咄嗟にああいう事が出来るのって、普段から意識しているからこそだと思うんですよね。どれだけ生徒の事を大事に想ってくれているのか…凄くよくわかりました。

より一層尊敬の気持ちが深くなりこそすれ、みっともないなどと思う様な事なんてありません!断言します。


「そ、そうか…そこまで言われると少々(くすぐ)ったいな…。」


あ、照れた。

照れてるマキ先生、カワイイ。


その後ボク達は、お茶を楽しみながらお話ししていたんだけれど、影法師(ドッペルゲンガー)の話題は出なかった。流石に四度目は無いと思うけれど…たぶん皆、口にしたら現実になりそうで(イヤ)だったんじゃないかな?

まぁ、ボクとしては出てくるのは別に構わないんだけれど…目の前で消えたりしなければ…。

そんなこんなで小一時間。

話しているうちに体の震えも収まったし、マキ先生とマリー先生もお仕事しなきゃいけないしって事で解散と相成りました。

そうだよね。ボクとなづなは帰るだけだけれど、先生方は、生徒が帰った後もお仕事してるんだよね…。

う~ん…巻き込んじゃって、時間を使わせてしまって申し訳なかったなぁ…。


「…うん…。お互い大丈夫そうだな。二人とも、気を付けて帰るんだぞ?」


「はい。ありがとうございます。」


「お時間取らせてしまいまして、申し訳ございませんでした。」


「なぁに、貴重な体験ではあったからな。何度もは御免被りたいところだが。」


そう言ってマキ先生は柔らかく微笑んだ。












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