すくーるらいふ⑦
「も〜、せりってば…ああいう事はちゃんと打ち合わせしてからじゃないと…ぶっつけで演るものじゃないでしょ?」
ハイ仰る通りです。
「だいたい、体育館入る時は目立たない様にしてたクセに、出る時にはなんであんなに派手な事するの?」
うぐぅ…!
そ、それは、その…気分?…としか…答え様が…。
「そもそも、先生方がいる前で補助もなく、あんな大技披露するなんて…下手したら職員室呼び出しコース、だよ?」
あ、いや、でもあの程度で失敗なんてしないし…。
「せりが失敗しないのはわかってるけど、先生方はそう思わないんだよ?生徒が危ない事してる、注意しなきゃって考えるんじゃない?」
あうあうあう…
「それに、あんな激しい動きをスカートでやるなんて…。」
え?!もしかして見えてた?!
何がとは言わないけれど!
「幸にしてカメラにはほとんど映ってなかったけど、最初のロンダードの時なんか私にはバッチリだったんだからね?」
おぉぅ…跳んだ時は捲れない様に姿勢に気をつけたし、着地の時はなるべくギリギリまで回り切らない様にしたつもりだったけれど…そうか、跳ぶ前か。
ってか、バッチリだったんですか?!
「確かにね?結果としては良い素材が手に入ったと言えるんだけど、あれをこの学校の普通だって思われちゃったらどうするの?!」
そ、そんな事思う子、いないでしょ…たぶん。
「バク宙が、って意味じゃないよ。スカートをバッサバッサさせて、跳んだり跳ねたり…そういうお転婆さんばっかりになっちゃったら、って言ってるの。」
ぐぬぬ…
「せりは もうお姉さまって呼ばれてるんだから、ちゃんと一年生のお手本にならないといけないんだよ?」
…それはほら、反面教師っていうのも、あったりしますから、こういう事しちゃダメだよー的な?
「そういうのは『人の振り見て我が振り直せ』って言葉通り、ダメな人を見て自分を律するって意味なんだよ!自分がダメの見本になってどうするの!」
はい!全くもってその通りです!
「全部が全部ダメだって言ってるわけじゃないの。TPOを弁えて、その場に相応しい行動を取らなきゃねって言ってるだけで。そもそも、せりは…… 」
こんにちは。鈴代せり です。
ボクは今2年1組の教室の自分の席、その椅子の上に正座して、我が双子の姉である鈴代なづな のお説教を受けております。
渾々と。滔々と。
いやね、確かにちょ〜っとはしゃぎ過ぎたかな?とは思ったりもするのですが、映像作品を制作するに当たって、良い素材を提供しようと考えた結果あのアクションだったというだけでですね。決して悪気があった訳でも、周囲の注目を浴びたい訳でもなく、唯々良かれと思った行動をですね、半衝動的に取ってしまった、と。そんな感じでして、はい。
まぁそれがですね、淑女らしからぬ行動だと言われる
かもしれぬ、せめて人目のない場所でやるべきだったのではないか、と。そう諭されている真っ最中なのですよ。
もうね、いちいち尤もなんですよ。
至極真っ当なお叱りなんです。
だから真摯に受け止めなきゃいけない事だと理解していますし、真剣に受け止めますよ。
でもねぇ、こうして叱られているのも悪くないなぁ…なんて思ってる自分も居たりするんだよね。
なづなが ボクを叱るのは、僕の為を思ってだもん。
そんな風に考えたら、なんかね、嬉しくなっちゃってさ。ついつい頬が緩んじゃう。
「ちゃんと聞いてる?」
はい、聞いてます!
「その割には顔が緩い…はぁ…いや、何を考えてるかは大体わかるけど…。」
む。また思考を読まれているらしい。
ボクそんなに分かり易いかな?
「兎に角!今後ああいう事をする時は、場所を弁える事!あと事前に言っておいて。せりについて行くのだって、アドリブだと結構難しいんだよ?」
「うん。わかった。ごめんね?」
何かを言おうとした なづなが うぐって詰まった後、顳顬を鷲掴む様にして天を仰ぎ、そのままフラフラと自分の席に戻ってしまった。
え?なになに?ボクなんかした?
ちゃんと話も聞いてたよね?
…ちゃんと謝ったよね?
前の席で菫さんが、その横で椿さんが。その他にも数人のクラスメイトが、ボクに背を向けて肩を震わせているんだけれど…笑ってる?なんで?
え?えぇ?
ボクの所為で笑いが起きてるんだよね?
ボク何もしてなくない?
なんで笑われてるの?
小刻みに肩を揺らしていた菫さんが、俯いたまま此方に向き直って、机越しに両手でボクの両肩を掴んだ。
…そのままプルプルしてる。
相変わらず俯いたままだけれど。
暫くプルプルした後、はぁ〜…ふぅ〜…って大きく深呼吸して
「いいの。貴女はそのままで良いのよ。」
え?はい、ありがとう?
…何が?
えーと、ところで…なんで顔を見ようとしないんでしょうか?なんか顔についてる…訳はないよね?
「あの…菫さん?」
「…な、何かしら?」
「ボク、何か変な事した?」
「……いいえ、何も変な事はしていないわ。」
ふむ?
「なんか、みんなに目を逸らされるんだけれど…?」
「それは…そんな事はないわよ。」
ばっと顔を上げてボクの顔を、見てないじゃん!
眼ぇ逸らしてるじゃん!思いっきり目が泳いでるんですけれど?!
「…菫さん?」
目を泳がせていた菫さんが、意を決した様にクッと唇を引き結んでボクと眼を合わせた。
と、思ったら両手を顔の前で交差させて
「ごめん!今は無理!」
がーん
結構ショック…。
なんなの〜?ね〜?
笑われるとかは別に良いんだけどさ。
顔見ると笑っちゃうってくらい可笑しな事したんでしょ?なら、その理由は知りたいと思わない?
なづなが、席に戻った時の感じからすると、あの辺り…直前の会話くらいの行動が原因なんだろうけれど…わからない。
え〜…なんか笑われる様な事…う〜ん?
「よーし、全員席に着けー。」
マキ先生が戻って来て授業…と言ってもHRなのだけれど…の再開だ。
「全員揃っているか?…大丈夫そうだな。」
教室をぐるりと見回して、うん、と頷く。
「よろしい。では…と、その前に。」
「鈴代なづな、せり姉妹。」
「「はい。」」
呼ばれて思わず立ち上がる。
「お前ら後で説教な。」
うぇええぇ?!
な、なんで…いや、なんでも何も原因はアレしかないよね!?うぁ〜、なづなの言った通りだったかぁ。
職員室呼び出しじゃないぶんマシだったかもしれないけれど…。
いやまぁ確かに?思い付きとノリでやった事だけれど、やったのは事実だし、自分の事だし、それについて叱責を受けるのは仕方ない。
なづなを巻き込んだ形になったのは不本意だけれど。
…後でもう一回謝っておこう。ホントごめん。
その後は配布された教科書及び副読本の確認、まぁ乱丁等がないかって事の確認だね。
と言っても、隅から隅まで確認出来る訳ではないので、ざっと目を通してって感じだけれど。
確認がてら氏名を記入してゆく。これは習慣…と言うか、ほとんど癖みたいなものだ。
初等部の教科書には、クラス氏名の記入欄が裏表紙にあったのだけれど、中等部の教科書には記入欄がなくてね。でもなんか書かないのも気持ち悪くて…。
裏表紙の内側の空白のページに書く事にしたんだ。
勿論、二年生の教科書も同様の場所に名前を書いた。
これから一年間お世話になる教科書だからね。
続いて副読本の説明も一通りされたけれど、まぁ去年も同じ説明を受けているので、再確認って感じ。
こうして教科書を手にすると、いよいよ新しい学年が始まるんだなぁって実感するね。
「そろそろ時間だな。委員長、号令を。」
先生がそう言った時、丁度チャイムが鳴った。
「起立!気を付け!礼!」
「ありがとうございました。」
「よし、では鈴代姉妹。説教部屋へ行くぞ。」
「「……はい。」」
説教部屋というのは、生徒指導室と言う所謂小会議室なのだけれど…大抵の場合、何かしでかした生徒が先生にお説教を食らう場所として使用される為、説教部屋と呼ばれている。
学校内で、出来れば入りたくない場所、堂々のNo1である。
説教部屋…もとい、生徒指導室は各階にあるので、それ程移動距離は無い。が、教室のすぐ近くに有るので誰が入ったかバレバレなんだよね。
指導室に入ると、マキ先生は椅子に腰掛け、ボク達にも座る様にと言った。
「さて、お前達を呼んだのは、コレの事を確かめたかったからだ。」
そう言って、一枚の紙を机の上に置いた。
これは…保健室の在室証明書?
ん?どういう事…?




