おやすみ お姉ちゃん⑥
お風呂上がります
「もうすぐ出来るけど、そろそろ上がる〜?」
アコーディオンドアの向こうからママが声をかけて来た。もうそんなに経っちゃったのか。
そりゃそうか、ボクは兎も角すずな姉ちゃんは身体洗うの丁寧だし、髪も洗ってるし、なにより3人でイチャイチャしてたからね。楽しかったから時間なんて気にしてなかったもん。
「は〜い。もう上がりまぁ〜す。」
「はいは〜い。」
パタパタと去っていく足音が聞こえ…
「ところで。」
うわぁ!?
突然ドアが開いてママが顔を突っ込んで来た!?
「麦茶が良い?それとも牛乳?」
「ぎゅ…牛乳。」
「私…も。」
「…ボクも牛乳で…。」
「ん。わかった。」
パタパタパタ。
3人で浴室のドアを凝視して暫く固まってた。また唐突にドアが開くんじゃないかって警戒していたんだけれど…今度は本当にキッチンへ戻ったらしい。
なんでわざわざ足音の偽装までするかな?!
足音を立てない様に近付いてくるとかなら、まぁ理解出来るよ?けど、離れて行くフリまでする意味って何?!脅かす為に決まってるんだけどさ!
ママってば、たま〜にこういう悪戯するよね?ホント偶にだから丁度忘れた頃に来るんでタチが悪い。
あーびっくりした…。
「久々にやられたわね…油断してたわ…。」
「うん…全然くると思ってなかった…。」
取り敢えず、そろそろ上がらないとね、と、意見が一致しているので巻きでいきましょう。
後は髪を濯いで、少し温まって、上がった後に髪を乾かす時間も必要か。もうちょいかかっちゃうかな?
ちょっとのんびりし過ぎたかも。
「すずな姉ちゃん。髪やったげるから、お風呂の中で寛いでて良いよ。」
「お〜サービス良いね。」
「今日は特別奉仕日間なの。」
「え〜…今日だけなのぉ?」
「明日は超奉仕日間。」
「明後日は偉大なる奉仕日間。」
「明明後日は…えーと…。」
「日替わりで奉仕日間なので。大丈夫、だよ。」
「…毎日サービスデーなら、月替わりにすれば名前も12個で済むんじゃない?」
…おっしゃる通りですね。あ、いや、そうじゃなくてね?毎日が特別なんだよって意味であってですね、名前が少なくて済むから月単位に纏めちゃおうという発想が既に趣旨から逸脱してるんですよ。
めんどくさい?
いいのいいのボク達の気持ちの問題だから。
「一年三百六十五日、何時でもご奉仕致しますので、お気軽にお申し付け下さいませ、お姉様。」
「ふふ、またお願いするわね。」
「じゃ、先ずはこちらへどうぞ。」
浴槽の縁にバスピローをセットして湯船に仰向けに寝転がってもらえば、簡易ヘッドスパの完成ですよ。
たっぷりと塗り込まれたコンディショナーをシャワーと指で丁寧に洗い流しながら、軽い頭皮マッサージのついでに根元から毛先まで優しく梳いてゆく。
指で梳いてみれば、途中で引っ掛かる事もなく毛先までするりと通る程に滑らかで、しなやかな黒髪。
烏の濡れ羽色という例えがあるけれど、すずな姉ちゃんの髪の色は正にそれだろう。黒髪なのだけれど真っ黒なんじゃなくて、光の加減で赤や緑がチラチラと混ざるんだ。シャボン玉の表面みたいなって言ったら想像し易いかな?
ボクの髪も指通りは良い方だけれど、すずな姉ちゃんは更に一段上、奇跡のキューティクルヘアだよ。
濯ぎ終わったらぎゅーって絞るんだけれど、これ自分のは平気なのに人のを絞る時ってなんか緊張するんだよね。ぶちぶちーって切れちゃうんじゃないかって。美容師の人って躊躇なく雑巾みたいに絞ったりするけど、アレやってて怖くないのかなぁ?まぁボクと違ってプロだし、そのあたりの力加減とかは身に付いているんだろうけれど。
絞り終えたらドライタオルで軽く拭いて、乾いたタオルキャップで包んで一旦終了。
後はお風呂上がってからドライヤーでブォ〜だね。
「はいお終い。すずな姉ちゃん、もういいいよ。」
「ん〜ありがと。人にやってもらうのって楽でイイわね〜。増してや可愛い妹二人にやって貰えるとか、ここは天国ですか?」
あっはっは、それはまたお安い天国だねぇ。
お互いの身体を拭っこしてて、ちょっと思ったんだけれど、すずな姉ちゃんの肌の凄さよ。
肌の上の水滴が全部玉状なの。信じられる?水分が纏わりつかないんだよ?肌が水を弾いてるの!ボク達より弾いてるんじゃないかな?下手をすると、ぶんって腕を振ったら水滴全部飛んでっちゃうんじゃないの?ってレベルだよ?
タオルで拭くんじゃなくて、ちょっと押さえるだけで水滴が取れるんだもん。凄くない?
どんだけ健康な肌なんだか。
でも、髪の毛を乾かすのだけは時間かかっちゃうね。
なづな なんかは、わしゃわしゃ〜って拭いて温風を1〜2分程度当ててればすっかり乾いちゃうんだけれど、すずな姉ちゃんの髪は長いので大変だ。
2人掛りでドライヤー当てまくって、でも熱を加え過ぎない様に気をつけて、完全に乾くまでに7〜8分はゆうにかかっちゃったよ。ボク、髪洗わないで正解だったかも。
それでも、もう上がるって言ってから20分近く経ってるし…ママごめんなさい。
「お先に頂きました。」
「遅くなってごめんなさい。」
「お待たせしました。」
3人揃ってリビングへと入って行くと、真ん中に据えられた大きめのローテーブルには既に夕食が並べられていた。
「おー、nice timing!」
ぬぐ!わざわざネイティブな発音してるな?!
ママがキッチンの中から顔を覗かせて、キッチンカウンターに置いてある3本の瓶を指し示し
「牛乳、出しといたよー。」
「あ、ありがとう。」
「せりー、ご飯、よそってくれるー?」
「はーい。えっと、御茶碗?お皿?」
「あ〜…御茶碗でよくない?」
「了解。じゃ御茶碗で。」
「すずな姉ちゃん、なづな、座ってて。」
「わかった〜。」
「じゃあよろしく。」
はいよ。お任せ。
お盆を用意し、それぞれのお茶碗にご飯をよそっていく。すずな姉ちゃんだけ大盛りで。すずな姉ちゃんって盛れば盛っただけ食べるんだよね。逆に少なく盛ってもおかわりしないの。おかわりいる?って聞けばおかわりする事もあるんだけれど、聞かないと一杯で食べ切る様に調節するんだよね。別にこだわりがある訳でもないらしくて、いつの間にか、なんとなくそうなったんだってさ。
ボク?ボクは少なめに盛っておかわりする派。
なづなは、まちまち。と言うかその時々で変わるから、よくわからない。本人曰く “気分” なんだそうな。
ご飯を配ったところで、ママがキッチンからサラダボウルを持って出て来た。
「はーいお待たせ〜。」
お寛ぎモードだったすずな姉ちゃんも座り直し、ママも着席したところでお夕飯の開始である。ん〜良い匂い。リクエストしたハンバーグは煮込みハンバーグに化けていたけれど。
「「「いただきます。」」」
「はい、召し上がれ。」
おぉ美味しい!
てかこれ、コンソメの煮込みハンバーグだ!
キャベツと一緒に煮込んであるので肉の旨味と野菜の甘みが凄い!
…あ!
もしかしてあの寸胴コンソメスープ?
まさか…このコンソメ自家製?!
「ママってば、また一から作ったの?」
「流石すずな。よくわかったわね。」
「そりゃあね。市販の味じゃないもの。」
「やっぱり薄かった?」
「ううん充分美味しい。ちょっと野菜味が強いかなって思うけど。」
「よっしゃ。まずまず成功って事ね。」
んっふっふ、って笑いながら食事を再開してる。
凄いなママ。コンソメって、えらく手間と時間がかかるんじゃなかったっけ?煮込んでアクを取って、煮込んで灰汁を取って、付きっきりで面倒みなきゃいけない料理だよね。
よくやるなぁ…いや待てよ?そういえば前にカレーをスパイスから自作した事があったような…。
などと考えていたのもホンの最初だけ。
段々と、いつも通りに会話を楽しみながら、ゆっくりと時間をかけて食事をする様になってゆく。
ママとはさっき色々と話したからね、今日はすずな姉ちゃんのお仕事中の事がオカズの一品になってたね。
そりゃもう、根掘り葉掘り聞き出してましたよ。
ママが。
「あ〜…美味しかったぁ… 」
「お腹いっぱいぃ〜… 」
「…食べ過ぎたぁ… 」
「ふっふっ。作った甲斐があるってものね。」
「「「こちそうさまでした〜 」」」
「はいお粗末様でした。」
このまま横になってたら寝てしまいそう…
食べて直ぐ横になると牛になるっていうじゃない…?
あれって、太るって意味じゃないんだってね。
牛みたいに胃から食べ物が逆流しちゃいますよ〜って事らしいよ?
逆流すると牛と違って病気になっちゃうんだってさ。
だから、食べて直ぐに横にならない方がいいよーって
ってのがホントのとこなんだそうだ。
パパの受け売りだけれど。
「ママ。食器洗う、よ?」
「お、手伝ってくれるの?」
「ボクも手伝うよ?」
「せりは 座ってていいよ?片付けは任せて。」
ん〜、じゃあお任せします。
でも、こうしていると、やばい。眠くなりそう。
「せり。」
んあ?すずな姉ちゃん?
手招きされたので、のたのたと四つん這いですずな姉ちゃんの所まで移動したら、足の間をポンポンと叩いて此処の来いと。
誘われるまま姉ちゃんの脚に挟まれる様な格好で座ると、後ろからそっと抱きしめられた。
…なんだろう?
何か大事な話があるんだろうか?
マキ先生となんか話してたって言ってたし…
「ちょっと抱き枕になってね〜。」
あ、牛にならない対策でしたか。




