おやすみ お姉ちゃん③
お風呂回
「ママ〜手伝う事ある?」
対面式のキッチンで忙しなく動いてるママに声をかけながらリビングに入る。いつもならここで “ない!座ってろ!” 的な事を言われるんだけれど。
「あるよ〜。」
お、珍しくこの時間に手伝う事があるのね?はいはい、お手伝い致しますよ〜、なんなりとお申し付け下さいませママ上様。
「お風呂、お湯張って置いて〜。」
お風呂?この時間にってのは普段あまりないんだけれど。ホントに珍しいね?
「パパ、今日は早いの?」
「ううん、パパはいつも通りだと思うわよ?」
あれ?違うんだ?
「すずな がね、今日は汗かいたから先にお風呂入りたいんだって。さっき電話があった。」
へぇ、これも珍しいね。
すずな姉ちゃん寝る少し前にお風呂入るのが好きなんだけれど、それまで耐えられない程汗をかいたのか。
…なんかあったのかな?
ウチのお風呂は浴槽が大きいので、全開で注水しても結構時間がかかる。給湯にすると更にかかる。
そこで秘技!温めで給湯然る後追い焚き砲!砲に意味は無い。語呂の問題。なので気にしないでくれると有難い。
水道代が大変じゃないかって?
ところが、そうでもないらしいよ?
ウチのお風呂は地下水使ってるんだって。この街は何処も彼処も掘れば水が出るくらい地下水が豊富らしくてね、許可さえ取れば結構自由に利用出来るんだってさ。パパが言ってた。
それがあったからこそ、お風呂があんな風になったんだけれど。
そういえば、何年か前にもすぐ近くにある陸橋…保線橋っていうんだっけ?線路を越えるおっきな道路があるんだけれど、その橋脚の所から水が湧いちゃって騒ぎになってたっけ。
…また話が逸れちゃった。
追い焚きの方は設定温度で勝手に止まるんで、ほっといても平気なんだけれど、給湯の方は見てないとダメだね。タイマーかけて時間で見に行けば良いって?勿論そうしてるよ?
ボクが浴槽の準備をしている間に、なづなはバスタオルや、すずな姉ちゃんの寝間着の用意をしてた。
寝間着はルームワンピースっていう、う〜んと…超長いロングTシャツみたいなの。
ボク個人としては浴衣着て欲しいんだけれど…。
起きてるときは良いけど寝る時はヤなんだって。
なんで?って聞いたら “寝相が良くないから脱げる” だってさ。いいじゃんそれくらい。
寝てる間に脱いじゃったり、そもそも最初から着てない子だっているんだからさ。
なづなの事だとは言ってないよ?
替えの下着と寝間着にバスタオル、通称お風呂上がりセットをキャスターバスケットの上に置いて準備完了
と、思ったら、なづながまだ何かやってた。
素焼きの小皿? あ、アロマオイルか。
湯船に垂らすんじゃなくて、蒸気で少しづつ揮発する様にね。なるほど。
20分ほどでお風呂も溜まったので、温度設定を保温にして今度こそ終了!
「ママ、お風呂終わったよ〜。」
「ご苦労さま。お茶飲む?」
「いただきます。」
「冷たいの?あったかいの?」
「暖かいの。」
「はーい。」
ママ、ずっとキッチンに立っているけれど、何を作ってるんだろう?ハンバーグはもうタネは出来ているはずだし、炊飯器から蒸気出てるからご飯は炊いてる最中。あの小さめの寸胴の中身はなんぞ?
カレー…の匂いはしないし、シチューとか?
くぅ、換気扇がハイパワー過ぎて匂いも漂って来ないのか!
まぁ、すぐわかるから別に良いんだけれど。
特にする事も無いので、なんとなくTVをつけてみる。
この時間だと、まだニュース番組ばっかりだね。
ニュースも終わって天気予報とかのコーナーになってるけれど。どの局も似た様なもので変わり映えしない。ケーブルテレビの方がずっとマシ。
と言っても、さして観たい番組がある訳でもないので、少し観てはチャンネルを変えるを繰り返し、結局ニュースチャンネルに落ち着いた。
ママの出してくれたお茶を啜りながら、またしてもマッタリタイムに突入ですよ。
すると、ちょんと肩を突かれたので、なづなの方に顔を向けたら、耳掻きを左右に振りながら自分の膝をポンポンと叩いた。
…耳掃除させろ、と。
先日やったばかりなので綺麗だと思うんだけど…やりたいというならやってもらおっと。
膝枕の体勢で、いわゆる耳掻きをしてもらっている訳なのだけれど、前回やってから間もない所為であまり汚れてはいないらしく、なづなが つまらなそうだ。
え〜…そんな顔されても…
「ん、じゃあ反対側。」
指示通り、今度はなづなの方を向く。
なづなの方と言っても、目の前にあるのはロングTシャツのお腹の部分な訳で。それほど面白いという訳でもない。相手が他の子なら、ね。
なづなの膝の上で少しずつ頭をお腹にくっつく様に移動させる。
「も〜…せり、それじゃ見えないよぅ。」
「せめて、もう少し上を…そっちじゃなくて。」
こっちね、と自分の顔を示すので、ぐりんと首を回してなづなの顔を見たら…物っ凄い胡散臭い笑顔で頭を鷲掴みにされて、強引に首の位置を調整された。
いだだだだだ!ちょ?!骨凹む!握力強くない?!
鷲掴みにされたまま耳掃除された所為で、お腹と膝枕の感触を堪能する隙が全く無かったよ!
まだ掴まれたとこがズキズキ痛いんだけど!?
「…なづな、握力何Kgくらいあるの?」
「え?知らない。」
去年、体力テストで計った時はどのくらいだったっけ?数値はボクと大差なかったはずだけれど…。
この一年で体型も随分変わったし、筋力が増しててもおかしくはないのかな?その割には身長はそれ程伸びないんだよなぁ…。
あ、いや、伸びないって言ってもね?平均よりちょっと低いだけだしね?ちょっとだよ、ちょっと。聞いた話だと、パパなんて中学3年生の夏まで130cmくらいしかなかったらしいし?そこから年末までに40cm近く伸びたって言ってたからね?ボク達だってこれから、これから。
「体力測定って…いつだっけ?」
「…新歓祭の前後くらいじゃなかった、かな?」
むう。新学期早々イベント事が目白押しだね。
「どうしたの、いきなり。」
「なづなのアイアンクローがゴリぃだだだだだだ!」
ちょちょっ!割れちゃう割れちゃう!
「大袈裟だなぁ…。」
いや、ホント、痛いんだって!
「そんなに力入れてるつもりないんだけどな…?」
「…成長期だからね…力も強くなってるんじゃない?」
掴まれていたところを摩りながら抗議の視線を送ってみると、苦笑いしながら、ごめんごめん痛いの痛いの飛んでけ〜って言って、掴んだ場所を撫でてくれる。えへへ〜、大丈夫です。飛んで行きました。
…ふぅ、痛かった。
いやまぁ、なづなの筋力が高いのはわかるんだ。
なづなの身体ってね、すンごい張りがあるのに柔らかくて、しっかり筋肉が詰まっているのがわかるんだ。
その高密度の筋肉の上に薄く脂肪を貼り付けた感じ。固いのに柔らかくて、不思議な感触なんだよね。まぁ質の良い筋肉はマシュマロみたいだっていうし、アスリート的な身体って言えばいいのかな?
なのにちゃんと女の子の体型なの。
例えるなら…そうだなぁ、猫科の野生動物?
ジャガーとかピューマとかチーターみたいな。
綺麗でカッコイイの。
これがボクのお姉ちゃんなんだぜ、って自慢したくなるくらいだよ。もう一人のお姉ちゃんも綺麗でカッコイイんだけど、こちらはまた違うカッコ良さなんだよねぇ〜。
閑話休題
そのもう一人のお姉ちゃん。
なかなか帰って来ないね?
電話があったって聞いてから、かれこれ3〜40分経ってるんじゃない?
今日は車で行っているんだから、出発前に連絡入れたならもうとっくに着いているはず。渋滞とか、寄り道してるとかならいいけれど、何かあったんじゃないだろうね?……やばい、心配になってきた。
「あ、すずな姉ちゃん帰ってきたみたい。」
あ、そうですか。
耳を澄ませば、確かにガレージの方から車のエンジン音がする。どれどれ、お出迎え致しましょう。
なづなと二人連れ立って、お出迎えの為に玄関へ。
「ただいま〜。」
「「おかえり〜。」」
「お、せり珍しくアップにしてるじゃん。」
「どう?偶には良いでしょ?」
「うん、似合う。」
まぁ、すずな姉ちゃんは大抵の髪型は褒めてくれちゃうので、本当に似合っているかは微妙なんだけれど。
「それはそうと、結構遅かったね?ちょっと心配しちゃった、よ?」
「あ〜…帰り際にね、マキ先生とちょっと話をね。」
「マキ先生?」
「え、まさかボク達の事?何かしたっけ?」
そう言った途端すずな姉ちゃんが真面目な顔になって
、まじまじとボク達を交互に見つめた。
な、なんだろう?え?怒られる様な事はしていないと思うのだけれど…?
ふっ、と息を吐いて表情を緩め
「別にお叱りを受けた訳じゃないわよ。」
あ、そうなんだ。
なら、なんだろ?
「別に大した事じゃないわ。ただ『ちょっと大変かもしれんが期待してる、頑張れ』って言ってたわね。」
大変かもしれない…?期待してる…?
新歓祭の事…だろうか?
「…なんだろうね?」
「わかんない、けど…マキ先生は私達が大変になる…苦労すると思ってるっていう事、だよね。」
そうだろうね…。
えぇ…なんか怖いんだけれど。
「ま、そのうちわかるかもしれないし、わからないままかも知れない。わからなくても問題はないわよ、きっとね。」
う〜〜ん…。
「ところで、お風呂、沸いてる?」
「あ、ごめんなさい。もうお湯張ってあるから何時でも入れるよ?」
「あぁ、それはありがたい。」
ようやく廊下に上がり、歩きながらシャツのボタンを外していく。一刻も早く脱ぎたいって感じだね?そんなに汗かいたのかな?
両側から腕を組み引っ付いてみる。
「ちょ!?っと、今、汗くさいから、やめなって。」
そうかなぁ?反対側に居る なづなに視線を向けると、ふるふると首を振っている。
やっぱり臭くなんてないじゃん。
すずな姉ちゃんは何時も通りいい匂いだよ?
「大丈夫ですよお姉様。」
「ええ、お姉様は良い香りしかしませんわ。」
「もし、お気になさるなら… 」
「我が家自慢の大浴場にご案内いたします。」
すずな姉ちゃんはクックって笑って
「まぁ素敵。是非案内してくださる?」
「「かしこまりました。」」
うふふ、あはは、って笑いあって。
「「では、こちらへどうぞ。お姉様。」」
お風呂…回…?




