あいがっと れくちゃー ばい まいてぃーちゃー
渡り廊下を渡ってミルクホールのある“生徒館”へ向かう。
この生徒館、結構凄い建物でね。所謂、学生食堂であるミルクホールの他にレクリエーションルームとか合宿用の宿泊施設、大浴場まであるんだって。
運動部の子達は使った事があるらしいんだけど、ホテルみたいだって言ってたよ。
一度入ってみたいよね?
機会があると良いなぁ。
ミルクホールにはウチのクラスの子達以外はほとんど人は居ない様だった。せいぜい数人、5〜6人というところか。
なんでわかるかって?そんなの見ればわかるでしょクラスの子の顔くらい。2日も見てるんだから。
みんな固まっているけれど、まだマキ先生は来ていないみたいだね?どうしようか?あの集団に混ざるのはダメだよね?あの子達は…賭けの勝者みたいな、感じなんでしょ?
「入口あたりで待ってようか…?」
「そう、だね。そうしよう。」
なづなと2人、ミルクホールの入口近くの二人席に陣取って、マキ先生を待つ事にした。
実はボク達、ミルクホールってほとんど来た事がなかったんだ。中等部は給食出るし、必要ならママが作ってくれるし、校門出て直ぐの所にコンビニあるし。
でも、こうして改めて見ると結構広いね。どんな感じかっていうと、そうだねぇ1番近いのは高速道路のSAにあるフードコートかな?キッチンカウンターがあって、広々とした横長のスペースに机と椅子が配置されてる、みたいな。
自販機もいくつかあって、かなり充実してると思う。
あ、缶の飲み物はないんだよね。紙パックがほとんどで、ペットボトルがちょっとだけある。
「何か、飲む?」
「いちごみるく〜」
「いちごオレ?」
「うん。」
オレとラテの違いは知ってるけど、いちごミルクといちごオレって何が違うんだろうね?牛乳の比率?
なづなが自販機の前で首を傾げてる。
なんか変な飲み物があったのかな?
「はい、いちごオレ。」
「ありがとー。」
なづなは抹茶オレだ。好きだよね、抹茶。
「変な飲み物あった?」
「変な飲み物?」
「首傾げてたから、なんかあったのかなって。」
「ああ、変な物じゃなくて。意味がわからなかったの。」
…意味がわからない飲み物って何?
「抹茶ラテってなんだろうって。」
…抹茶をエスプレッソしてミルクを注いだ飲み物…
ん?抹茶ってエスプレッソ出来るの?
溶けちゃうんだから結局は抹茶だよね?
濃いか薄いかの違い?エスプレッソ関係なくない?
え?なんだろう?
2人で首を捻っていたら、いつの間にかマキ先生がミルクホールに入って来てるじゃない!うわ、考え事に集中し過ぎた。
…みんなの用が済んでからでいいか。
別に急がないし。
…あ、あれ?
もしかして職員室に持って行けば良かったんじゃない?別にミルクホールで渡す必要なくない?
…なんで気付かなかった?
うあ〜 “ミルクホール” に思考持っていかれてたよ…。
なづなに言ったら、やっぱり頭抱えてたもん。
何故か2人して “ミルクホールに行く” のが当然になってた。思い込みって怖いねぇ。
そんな事を考えながらみんなを見てたら、マキ先生が一人一人に何かを渡しているのが見えた。なんだろ?紙?あ、ドリンクチケットかな?購買で売ってる綴り食券の。
今回の賞品はアレか。
みんな嬉しそうだね。
ジュースくらいで喜んじゃってまぁ。若いねぇ。
イヤ、ボク達だって若いんだけれども。
こうやって、はしゃいでいるクラスメイトを外側から見てると微笑ましいというか、可愛いなぁって思っちゃうんだよね。みんな笑顔が素敵だよ。
「鈴代。」
「はい!?」
マキ先生!いつの間に!?
みんなに気を取られていたとはいえ、これ程容易に接近されるとは…! 何時もの事ですね。ええ。ボク達、結構抜けてますから。
「ほれ。」
と、ドリンクチケットを二枚渡された。
「え…?これは?」
「ドリンクチケットと言って、ミルクホールにおいて好きな飲み物と交換できる、ありがたい食券だ。」
知らんか?って。
それは存じております。
そういう事ではなく。
「今回はお前達を人柱にしてしまったからなぁ。お供えしておこうと思ってな。」
くくく、と笑いながら拝むポーズをとってみせる。
人柱にお供えね。
それじゃ、ありがたく頂きましょう。
「ありがとうございます。」
「頂きます。」
わーいもらっちゃった。へへ、ラッキー。
うん、と頷きながらポンポンと頭を撫でて、ボク達の向かいに座る。
「まぁ実のところ、お前達に話を振れば断らないだろうとは思っていたんだ。みんなの為なら、と考える子だからな。」
買い被りです、先生。
「いいや、そういう子なんだよ。お前達はな。」
「断って意見が割れるより、受けて纏まった方が楽だと考えただろう?」
む…似た事は考えましたね。
「そこが美点でもあり、欠点でもある。」
欠点、ですか。
「ああ。自分が頑張れば、と、考えるところがな。」
……あ。
「特に、せり。お前はその傾向が強い。」
「…そうだそうだって顔してるが、お前もだからな、なづな。」
「は、はい!」
声が裏返ってますよ、お姉様。
「ま、今回は皆も巻き込んで苦労させようとした様だし、なかなか面白かった。」
おぉ。高評価。
「だがー程々にな。仕上がらんのでは本末転倒だ。」
「はい。でも大丈夫です。みんななら、きっと出来ると信じてます、から。」
出た。なづなの絶対的信頼。これやられると、なんかやらなきゃいけない気になっちゃうんだよ。
マキ先生も一瞬目を丸くしてから、声をあげて笑い出した。
「はははっ。なるほどコイツは大変だ。」
くっくっくっと笑いを噛み殺しながら
「せりも意外と苦労してるんだなぁ。」
毎回こうなんだろう?とボクを撫でてくれる。
そうなんです!わかって頂けますか!
ほんの少しでも共感してくれる人が居るって素晴らしい!!マキ先生愛してる!!
なづなは全然何の事か理解ってないみたいだけれど、良いんだよ。わからなくても。
そのままハテナマーク飛ばしてて。
「さぁて、私はそろそろ戻るとしよう。あまり無理はせん様にな。」
なづな、あれ、渡さないと。
目配せすると、今思い出した様に封筒を取り出して
「マキ先生、これ先程渡しそびれてしまいまして… 」
差し出された封筒を受け取りながら少し怪訝な顔をして、封筒の中を改めて眉間に皺を寄せた。
「コレは誰から…?」
…受け取ったのか、という質問だろうか?
「マリー先生…黄瀬先生からお預かりしま…した。」
「…う、む。」
「在室証明だと言われたのですけれど…。」
「何か不備、が…?」
顎に手を当てて、食い入る様に見つめているマキ先生の顔は、疑念の色を浮かべている。
あれ?在室証明書ではない…?
いや、そんなはずは…渡された時覗き込んで何が書いてあるのか見たはずだ。
署名と印鑑は確かに押してあった。確か所見の様なものも書いてあった、はず、だけれど…?
「いや、大丈夫だ。問題ない。」
在室証明をたたみ、封筒に戻してスーツの内ポケットに仕舞う。
「では、また明日な。あまり遅くならない内に帰りなさい。皆にもそう伝えておいてくれ。」
そう言ってボク達の頭を撫でるマキ先生の表情は、やはり優れない。
あの封筒…在室証明書。何かおかしなところがあっただろうか?ボクが見た範囲では、特に問題がある様には見えなかった。
印鑑もマリー先生のものだったと思う。
マキ先生が疑問に思うほど何かがおかしかったのだとしても、書類そのものを見ていないボク達では解るはずもない。
マキ先生も問題はないと言っていたのだし、一旦保留でいいんじゃないかな?
本当に何かあるなら、ちゃんて教えてくれると思う。
きっとそう。
「なづな。皆のところに行かない?」
ちょっとリフレッシュしたし、少しくらいHRの続きをしても良いんじゃないかな?まぁ全員はいないから、ここで決めちゃうのは問題だけど。
意見を出し合っておくのは良い事だと思うんだよね。
「うん、マキ先生の伝言も伝えておかなきゃだもんね。」
みんなはみんなで、HRの続きをしていたり、普通の雑談をしていたり、思い思いに過ごしている様だ。
お。お誂え向きに菫さんに光さん、委員長と副委員長。椿さんも同じテーブルに着いているじゃない。これは好都合ですね。
「お邪魔してもいい?」
「待ってました。」
菫さんがニッと笑って、委員長に視線を向ける。
「では、ミルクホール会議、はじめましょうか。」




