ほわいどんちゅーだんす㉓
加筆しての再投稿です。
「はい!次!パートナー交代!」
ボーっとしているのも手持ち無沙汰であったため、腕を組んでウンウンと唸っている お姉様を眺めつつ なづなと2人でストレッチをしていると、奥さん先生からパートナー交代の声がかかる。
…と言ってもパートナー側の方が人数が多い上に、今はリーダーの男性2人が集中特訓中である為、どちらに入るにせよボク達に順番が回って来るのはもう暫く先である。
…そのはず、だ。
順番的にいえば今現在ボク達の目の前で唸ってらっしゃるお姉様が交代する番、だと思うのだけれど…考え事に集中しちゃってますね。
もしかすると…先生の声、聞こえてないかもしれないなぁ…。
そろそろじゃないですかって言ってあげた方が良いかな? イヤ、でも、考え事してるのを邪魔するのも悪い様な気も…いやいや、しかし、このままだと奥さん先生のカミナリが落ちるかもしれないじゃないか。
…うん、やはり教えて差し上げた方が良いね。
え、と、
「「あの、お姉様? 」」
おお?
どうやら なづなも同じ事を考えていたらしく、ボクと同じタイミングで遠慮気味に口を開いた。
ボク達にとっては声が揃うなんていうのはよくある事、それこそ日常茶飯事なのだけれど、お姉様にしてみれば珍しいのだろう。『発条仕掛けか!? 』というくらい勢いよく顔を上げてボク達を凝視してくる。
「いや待って!言わないで!もうちょっとだから!」
はい?
…あ。これ、もしかして、ボク達が答えをバラすんじゃないかって勘違いしているパターン?
ち、ちがいます、違いますから。
違いますよ、お姉様!
誤解です!
たぶん!
「お、お姉様? そうではなくてですね… 」
「わかってる!大丈夫、思い出すから!もうちょっと待って!」
や、ですから、違うんですってば。
ちょっと?!聞いて下さいます!?
交代、お姉様の番なんじゃないですか?!
って言ってるんですけれど!
あダメだ、聞いてない。
「お姉様、そろそろ交代に行った方が良いかと。」
ボクが如何したものかと逡巡していると、少し強めの口調で なづなが発言した。
おぉ…確かに、言うべき時はハッキリと言う、これは大事だね。うん。見習おう。
「…え? 」
『えっ』て。
そんな『ナニイッテンノ? 』みたいなきょとんとした顔で見られましても困っちゃうのですけれど…ええと、つまりですね…交代の順番…お姉様の番がそろそろではないか? と、思うわけでして。
…って、全然はっきり言えてないじゃないかボク?!
「その、先程から先生がこちらを見てらっしゃいますので…たぶん。」
そう言いながらお姉様の背後…ボク達から見ると正面やや左前方、フロアの中央付近にいる奥さん先生へ視線を移すと……ああ!見てる!こっち見てる!結構な笑顔で!笑ってはいない笑顔で!ヤダこわいっ!
…こういう考え方は如何にも薄情な気がするのだけれど、このままお姉様と一緒に居ると流れ弾が飛んで来そうな感じなんだよね!とばっちりを食らうとも言う!かと言って“そっと離れる”という選択肢は既に失した…奥さん先生にバッチリ見られているからね!この上は、お姉様が速やかにフロアへと合流して下さるしか…!
「……あ。」
ボク達の視線を追って振り向いたお姉様が、若干上擦った声を上げ硬直する。
うん、あの顔を見たらそうもなろう。
「ちょ…ちょっと行ってくる… 」
お姉様は小声でそう呟くと、引き攣った笑いを浮かべながらふらりとフロアの真ん中へと向かって歩き出した。
…まぁ、あの貼り付いた様な笑顔を見たら固まりもするし萎縮もするよなぁ…なんというか無言の圧みたいなモノがね、凄いんですよ。実際に鉄拳制裁があるとか、そういうんじゃないのだけれど。その手の“怖さ”みたいなモノが滲み出してる…って言えばわかる、かな…?
あ、でも、お尻叩かれるくらいはされるか?それこそ最初の頃の話だけれど、ボク達も1〜2度くらいは叩かれた事あったっけ…ペシーン!って。
「あ、そうだ。後でまたお話ししましょ? いい? 」
足取りの重かったお姉様が、ほんの二〜三歩進んだところで振り向き、歩きながら『絶対思い出すから』と宣言した。
あ、はい。もちろん。
…って、それはよろしいのですけれど、前……
スパーーーン!!!
「っぎゃあ!」
「ほら!さっさと入る!」
「〜っ!はい!すいません!」
…うわぁいい音…じゃなくて!
むぅ、ちょっと注意するのが遅かったか…いや、お姉様には申し訳ない事をしてしまった。
ちなみに今の音はご想像通り、お姉様がお尻を叩かれた音である。こちらを向いたままフロア中央に進んでいたお姉様が奥さん先生の横を通る瞬間、フルスイングの平手が振り抜かれたのだ。
実際のところは音が大きくともそれほど痛くはないのだが、音と衝撃でついつい声を上げてしまう。ボクもそうだったからね。
…どんな声を上げたのかは覚えていないけれど。
ふむ? そういえば、なづな も叱られた時、お尻叩かれて悲鳴を上げてなかったっけ?
…うん、あげてた。確かに悲鳴上げてた。
あぁそうだ、思い出してきたぞ。
確か『ひゃうん!』とか『ぃひゃい!』みたいな感じだった気がするのだけれど… うん、そうだったそうだった。普段なら発しない様な矢鱈と甘い声だったので、ちょっと驚いた様な記憶が…微妙にある…気がする。…たぶん…おそらく…ひょっとすると……ちょっと自信ない。
いや声を上げていたのは確かなんだ…確かなのだけれど、どんな悲鳴だったか迄は…不明瞭なんだよねぇ。『ひゃうん!』と似た様な悲鳴だった様な気はするんだけれど…いやぁ違ったかなぁ? 可愛かったのは間違いないんだけれどなぁ。
「…くふっ。」
そんな事を考えながら、お尻をさすりつつ交代に向かうお姉様を見送っていると、不意に隣に居る なづなが小さく息を漏らした。
何事かと思って見てみれば、口を押さえて小刻みに肩を揺らしているではないか。
んん? これは…笑って、いる?
なに なづな、なんか可笑しい?
いや確かにさっきのお姉様は大層キュートであったけれども、そんなに笑うほど?
「あ、違う違う。お姉様の事じゃなくて。これ、は、思い出し笑い…ふ…ふふ…。」
ほう。
思い出し笑い。
微妙にツボに入っている様だけれど、いったい何を思い出したの?
「ん〜、私達も叱られたなぁ、って。」
あ。やっぱり。
ボクも丁度同じ事を思ってたよ。
…って、笑う程おもしろかった?
ボクが?
なづな は可愛かったけど。
「…私は兎も角…せり は可愛かったよ? 『ぴゃあ!』とか言っちゃって。」
へ? 『ぴゃあ』?
え?
ボ、ボクそんな声を上げたっけ!?
「そうだよ〜。ぶりっ子みたいなポーズでさ、叩かれた瞬間ピョンって飛び上がって…ふふふ、可愛いかったなぁ。」
えぇぇ〜…ぶりっ子って…えぇ…
いやね、最近とんと聞かない言葉だけれど、どんなポーズかは想像出来る。
こう胸の前で両腕をキュッと縮めた…ピーカブースタイルみたいな。え? 違う? そう? 似てない? あれ?
…ま、まぁいいや。
と、兎に角。あのポーズだよね、うん。
左手がおかしい…
腱鞘炎?
テニス肘?
握ると痛いのですが…なんなのでしょう…?
病院やってないし…どうしよう…?




