ほわいどんちゅーだんす㉒
「え、なに? せり、あちらの方とお知り合い…あ、さっき休憩中に話してたのか。」
そのとおり。
なづなが向こうに居た時にね
ちょっとお話してたんだよ。
「何を話してたの…? 」
なにを…と言われても…。
普通に世間話…じゃないな。
学校の事とか?
あぁ、そういえばあちらのお姉様、明之星の卒業生なんだって。ボク達と入れ替わるくらいの時期に在籍されていたそうだよ?
「あ、そうなんだ…って、ホントにそれだけ? 」
うん?
う~ん、他には取り立てて珍しい話はしていないと思うけれど…?
変な事気にするね? なんで?
「いや…だってお姉様、なかなか凄いお顔をしてるから…。」
凄いお顔?
…なにそれ?
『ほら、あれ… 』と、歩いてくるお姉様の方へと視線を向ける なづなに倣ってボクも視線を移す。
どれどれ、どんな表情を…って、うわ?
なんか…目を剝いて鼻の穴を膨らませている、というのだろうか?
鼻息荒く、若干興奮しておられる様子だ。
漫画的表現に例えるならば“ふんっふんっ”とか“フンス、フンス”みたいなオノマトペが付いてそうな…そんなお顔である。それでのしのしと歩いてくるのだから、ちょっと恐い。
…っていうか何事ですか? いったい?
「せりちゃん!」
は、はい!
「あ、なずなちゃん、こんにちは!」
「え、あ。はい、ごきげんよう、お姉様。」
ボクの前に立ち止まったかと思えば、グリンっと首だけを回して なづなと挨拶を交わし、再びボクに向き直る。
一瞬のご挨拶であったが、お姉様の勢いというか…圧力になづなも引き気味だ。
が、まぁそれは良いです。
それよりもですね、お姉様?
近い近い、お顔が近いのですけれど!?
そりゃぁまぁ嫌な訳ではありませんが、そんな風に間近で見詰められるとですね、照れちゃうのです…。
あれ? なんかさっきもこんな事あったな?
「…もしかして…いや、どうだろう…。」
ふいっと顔を離して、今度は なづなとボクを交互に見ている。
んん?
なんだなんだ?
「二人に聞きたい事があります。」
はい? なんでしょう?
「お姉さんは二人と似てるの? 」
「姉と、ですか? ん〜…並んでいれば『似てる』と言われますが…別々に見たらわからないかもしれませんね。」
「そっか…似てるのかぁ 」
そう言って再びボク達を見比べながらうんうんと唸り出すお姉様。なづなは訳が分からなくて首を傾げているし。
「…ね、せり? 」
ん? なぁに?
なづなが ボクに耳打ちをする様に、こそりと話しかけてくる。
「お姉様、何を疑問に思ってるの? “お姉さん”って、すずな姉ちゃんの事だよね? 似てるかどうか、って…? 」
あぁそれはねぇ。
…斯々然々…という感じで、事の経緯を掻い摘んで話す。
「…ははぁなるほど。それで思い出そうと頑張ってらっしゃる、と。」
そ。そんなところ。
…って言ったら、なづなは若干苦笑ぎみにククっと声を漏らし、『素直に教えてあげれば良いのに。』と呟いた。
いやまぁ、そうなんだろうけれど…
先程話していた時には すずな姉ちゃんの名前を出す前に会話が中断しちゃったからねぇ。意図していた訳じゃ無いにせよ、期せずして“クイズを出しっぱなしにした”みたいになっちゃった訳なんですよ。
…うん、それに関しては大変申し訳ないのですが、お姉様も普通に聞いて下さればお答えしますのに…とか、当て頂ければお答えするのは吝かでは御座いませんのに。
…などと言ってみても、お姉様自身が教えを乞わずに考え始めちゃったし、なんか思い出せそうな感じだし。何より喉まで出かかっている答えを教わるというのは非常に悔しいってのも理解るんだよ。途中で答えを言われると、なんか負けた気分になっちゃうんだよね。
…“何に”負けるのかは…知らないけれども。
まぁそんな訳でさ、お姉様が降参とかギブアップとかって仰る迄は すずな姉ちゃんの名前は出さないでおこうかなぁと、思ったりしているのです。
…別にイジワルしてるんじゃないからね?
そんなつもりは無いんだからね?!
ホントだよ?!
なにその眼?!
ジト目で見ないで?!
いや可愛いけれどさ?!
なづなは、ちょっとの間ジットリとした目でボクを見ていたが、『ふむ… 』とひとつ息を吐いてお姉様へと視線を移す。
「…まぁ、せり がそんな意地悪をするとは思ってないけど。」
でしょう?!
なのになんで今ボクは疑いの目を向けられたのかな?!
「ん〜…もしかしたら、万が一、無いとは思うけど、稀に? ちょっとした出来心で? そういう悪戯をしない事も無い事も無い事も無い事も無いかな…って。」
ええぇ…なにそれ?
あ、いや、ちょ、ちょっと待って?
あるの? ないの? どっちなの?!
もう何がなんだか訳が分からないよ?!
…あ、目が笑ってる…
ぬぅ。さては揶揄ったな。
なづなは くすりと小さく声を漏らし、視線をお姉様に向けたまま少しだけ頭をボクに寄せて『それに…』と続ける。
「あちらのお姉様、なんかちょっと…そういうのを許してくれそうって雰囲気がね、ある気がする。」
そういうの?
そういうのって…あぁ、ボクが意地悪していたとしても、って事か。
ふむ。なるほど確かに。
あくまで印象ではあるけれど、そんな気はするね。
“おおらかな心で全てを赦す”とかじゃなく、ノリと勢いで笑ってくれそうな、そんな感じ。年の功というモノだろうか?
ん? …ちょっと違うか?
ま、まぁいいや。
なんかコレ、口に出したら叱られそうな気がするし。
静かな場所に居ると耳鳴りが気になります…
まぁ、治らないらしいので仕方ないのですが。




