ほわいどんちゅーだんす⑪
「う〜ん…じゃあさ、ちょっと私と踊ってみない? 」
「なづなさんと?!え、でも私、まだ先生としか踊った事ないんですけど… 」
「大丈夫、大丈夫。先生ほどじゃないけど、ちゃんとリードするから。」
ほら早く早くと、立ち上がって凛蘭さんの手を引く。
まぁ、なづなが相手であれば足を踏まれる事は無いし、踏んでしまう事もほぼ無いだろうが…実はこれ、善し悪しなんだよね。
相手が上手に避けてくれる事に慣れちゃうと、独りよがりなステップになっちゃうかも知れないっていう弊害がね、あったりするんだよなぁ…。
そういう意味ではバンバン足を踏み踏まれる繰り返して、適切なステップを身体に覚えさせるのが一番なのだろうが…これも人によるんだ。
優しい子だと“相手に痛い思いをさせない様に”と萎縮してステップが小さくなっちゃったり、踏んじゃう事そのものを恐れてしまったり、逆に踏まれる事を怖がり過ぎたり。
で、余計に思い切れなくなっちゃう。
凛蘭さんなんかは特にね、優しくて少し内向的な面がある子だから。
足を踏んじゃうかも知れないって思うと、ついつい足元を気にしがちになるし、気にし過ぎると腰も引けてステップもバラバラになる。
そう理解していても…思い切って踏み込むなんてなかなか出来るモノじゃない。踏んじゃうのは怖いもんねぇ…もしかしたら足首を痛めちゃったりするかもしれないんだからさ。
これはボク達にも経験があるから理解らなくもない。
実際ボク達も最初の頃に『 こればかりは慣れるしかないよ 』って言われたくらいだから、社交ダンスをやる人であれば誰もが通る道って事だ。
いわゆる通過儀礼的な?
…ん? 使い方間違ってる?
…え? あ、そうなの? ふむ、後で正しい意味を調べておこう…。
ま、まぁ、ボクの場合はパートナー兼リーダーが なづなだったから、そのあたりのハードルも難なく…は言い過ぎか…えっと、比較的楽に? かな? クリア出来たのだけれど。
ほらボク達双子だし、身体的な数値は超似てるからさ、歩幅とかもほとんど同じなんだよ。だから擦り合わせが必要だったのは動きの速さだけだったって訳。
…今はそれが災いして、二人して変な癖が着いちゃっているんだけれど…。
…っと、やっぱり脱線しかけたな。
ボクの事は置いといて今は凛蘭さんのステップの話ね。
「先ずはステップを小さくしてやってみようか。」
「小さく、ですか。」
「うん、フォークダンスくらいのつもりで。」
『 このくらいかな 』とステップを踏んで見せる。
…っていうかそのステップはまんまフォークダンスのステップじゃないか。ほら、あれだよ、なんだっけ…えっと…あ!思い出した!オクラホマミキサー!
体育祭か林間学校のキャンプファイヤーでしか踊る機会がないのにも関わらず、全国の小中学校全校生徒が須らく踊れるという…盆踊りよりも浸透している疑惑さえある伝説のダンスステップ!
誇大表現? いやいや、そんな事はないでしょう!? …や、伝説は言い過ぎか…?
…で、でもさ!これ、みんな踊れるよね?!
…いや、フォークダンスの事はいいんだよ…今は。そうじゃなくてね、ステップの幅の話ね。うん。
「そうそう、そのくらいなら楽でしょう? それでちょっとやってみよう? 」
「は、はい、じゃあ… 」
スッと構えた なづなの前に凛蘭さんが遠慮がちに立つ。
ああ凛蘭さん、それじゃ駄目だよ。
リーダーはね、パートナーの全てを受け止めるためにどっしりと待つものなんだ。だから凛蘭さんの方から なづなの腕の中に収まる様にしないと。
とはいえ、ボク達と凛蘭さんだと、少し身長差があるからなぁ…けっこう組み難いかも…
「さ、凛蘭さん。お手をどうぞ。」
なづな の手に自分の手を重ね、ホールドの形を作る。
…う〜ん? ちょっと硬いかな? もっと肩を下げて肘を…あぁ、そうそう、そんな感じ。
「せり、ついでだから私の姿勢も直してくれる? 」
え? あ、うん、わかった。
それなら…え〜と、お腹を引っ込めて、腰を心持ち突き出す様なつもりで…もう少しゆったり構えた方が大きく見えるんじゃないかな…? 凛蘭さんはもうちょい背を反らせると…そうそう、おぉ良い感じ良い感じ。
これで大丈夫じゃないかな?
「ん、ありがとう。それじゃ凛蘭さん。」
「はい。」
「さん、し、」
合図と共に二人が身体を揺らす様な小さなステップで踊り始める。




